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ミストリア王国編10

珍しくヒイラギが自室で机に座り書類を眺めていた。

目の前には、その書類、報告書を作った商会を実質任せている支配人のベッツと、その補佐を務める娘のメリルが立ってヒイラギの言葉を待っている。



「正直想定以上で、何も問題ないですね」



そうヒイラギが呟くと、2人に安堵の表情が浮かんだ。

実際2人は商会運営に関してかなり優秀な人材であり、ヒイラギの指示を的確にこなし、潤沢な資金もあって商会の運営を早々と軌道に乗せていた。

商会に務める従業員は、鉱山で働く作業員を含めると既に1000人を超え、全ての事業を合わせると、その売り上げは月間で6億ジニー、当初予想していた2億ジニーの3倍にも上ものだった。


カザリアのルクス支部を壊滅させてから1か月と少し、その間にカザリア本部から派遣された諜報部隊や暗殺者の類の襲撃は数度あったが、全て襲撃前に提携したカナメの諜報組織月光によって撃退または捕縛している。


また商会運営以外にも、今回カザリアのルクス支部を潰し手に入れた報酬は、ハンターとしてのヒイラギ個人の報酬になるが、その総額は80億ジニー近くになる。

報酬からカナメの月光に20億ジニーを分配して当初の取り分からかなり減らしたのだが、実は後からサラサ・アイギーストよりハンターギルドを介して特別報酬が追加されたからだ。

更にルクスを治めるサラサ、商業ギルド、ハンターギルドとかなりのコネクションを作れた事も大きい。



「とりあえず商会の運営費に20億ジニーを追加するので、引き続き商会運営に必要な優秀な人材の確保や奴隷の購入、リストにある鉱山の追加購入、孤児院や施設の買収や支援、それらにベッツさんの裁量で構わないので使って下さい」



そう言ってベッツに書類を手渡す。

その書類には追加で視察した鉱山や、商業ギルドよりもたらされたカザリアの施設などの売却情報などが記載されている。



「あ、それと、以前に行なっていたアラベス商会の業務の展開、拡大、拡販も構いません」


「畏まりました」


「ベッツさん達からは他に何かありますか?」


「いえ、今はありません。ただ、1つだけ言わせて頂ければ、ヒイラギ様のお身体が心配なので、ご無理をなさらずに、と」


「体力だけには自信があるんですけど、心配させてすみません。出来るだけ気を付けます」



ベッツとメリルの表情に本当に心配している気配を感じて、苦笑を浮かべながらヒイラギは言葉を返した。





☆☆☆☆☆☆☆





ベッツとメリルの報告を受け昼食を済ませてヒイラギが部屋に戻ると、すでにソファにはカナメが座っていた。



「お邪魔してます、ヒイラギさん」


「来たのか?」



仮面を被ってないカナメがそう言って入ってきたヒイラギに笑顔を向けと、無断で侵入していた事を咎める訳でも無く、カナメもまた聞き返した。



「はい、あと数時間で着く距離まで」


「で、相手は?」


「行商に扮した一団で、数は300ほど。カザリアの精鋭部隊でその中の2割が元リアルワールドプレイヤーです」


「せっかくなんだから、真っ当に新しい世界を楽しめばいいのに馬鹿野郎達だな」


「大部分のプレイヤーは平穏な生活を望みそれぞれ普通に生活していますけど、そういった奴らの根っこはどの世界に行こうが変わりませんよ。それに今回その中に数人幹部になった実力者も含まれてますよ」


「まぁ勝手に向こうから来て、どんどん戦力削っていけば本部を潰すの楽になるし、報酬も出るし、美味しいだけなんだけどな」


「あの、カザリア相手に美味しいとか言うのってヒイラギさんくらいですからね?」



ヒイラギのその発言に、さすがのカナメも顔を引き攣らせる。

突然ルクス支部からの連絡が途絶えたカザリア本部が、状況把握も含めてルクスに差し向けた諜報員や戦闘員は全て殲滅または捕縛している為に、カザリアがその状況を把握するには至っていない。

さすがにカザリア側も剛を煮やしてそろそろ本腰を入れて戦力を投入する頃だろうと、ヒイラギがカナメに監視の強化を指示し、その数日後が今だった。



「確かルクスから少し離れた所に開けた場所があったから、そこで待って殲滅しちゃおう」


「軽く言いますね。20人程後処理に付いて来させますから、とりあえず行きましょうか」



カナメもカナメで、すでにヒイラギの行動には慣れているので行動を促して立ち上がった。





☆☆☆☆☆☆☆





この世界で魔物と言われるモンスター達は、各地に点在するダンジョンか魔力濃度の濃い場所にしか基本は存在しない。

これは「リアルワールド」内でも同じで、魔力の瘴気から生まれる魔物は魔力濃度の少ない所では例え捕食したとしても長くは生きれないからである。


長く生きれないと言っても数日で死ぬ訳ではないので、街や都市を襲ったり、モンスターの氾濫という事も稀にある。

竜騎士やテイマーなどは、主人との繋がりにより魔力濃度の薄い場所でも生活できる例外も存在する。


なので、今ヒイラギの目の前には何もなく、魔物もいない広大な草原が広がっており、そこにアイテムボックスからテーブルと椅子を取り出して、座ってお菓子を美味そうに食べているヒイラギの図が出来上がった訳だ。



「全く緊張感がないですね」


「緊張する程の相手でもないだろ?」



出されたお菓子を口に運びながらカナメが言うと、ヒイラギもまたお菓子を口に運びながら言葉を返した。



「この世界でも名の通った裏組織ですよ?その精鋭部隊が300、しかも元リアルワールドプレイヤーの幹部を数名含まれているとなると、ウチが全戦力投下して良くて相打ちですよ」


「いやいや、カナメくん3桁上位だったんだから1人でいけるでしょ?」



3桁上位とは、リアルワールド内の総合ランキングの順位を指す。

純粋な戦闘力だけでは無く、それぞれの職業やイベントにおける貢献値なども含まれるランキングだが、カナメは元総合ランキングで321位まで上り詰めた上位ランカーである。



「いや私はヒイラギさんと違って、諜報系なんで純粋な戦闘力で言えばそこまで高くはないですよ。まぁ弱くもないし、この世界で言えばSランクのハンター程度には実力はあると思いますけど」


「2年間一生懸命やってずっと8桁の40万位台だった俺からすれば、カナメくんなんて遥か高みだったんだけどね。まぁその長い下積み時代と理不尽を散々受けてきたからこそ、今の俺があるんだけど、こっちの世界だと実際どうなんだろうね?」


「私からすればヒイラギさんが2年もの期間8桁ランカーだったなんて信じられないですけどね。ランキングが全てでは無いので、あくまで単純に言えばになりますけど、元リアルワールドの総合ランキングで3桁ランカーは、こっちの世界基準でSランクのハンターレベル、2桁ランカーでSⅡ、1桁ランカーでSⅢと言われてます」


「こっちの世界にはこっちの世界の強者もいるんだろうね。まだ会ってないけど」


「そうですね、私は何度かSⅡ以上のハンターと会った事がありますけど、なかなかの化け物でしたよ、ヒイラギさんには及びませんけど」


「カナメくんがそう言ってくれるなら何とか依頼者のお願い達成して、まったり生活できるかなぁ」


「私も全ての国を見た訳でも、全ての強者に会った訳でもないので話し半分くらいで聞いといて下さい。それにこの世界より多少基礎能力が高いと言っても大部分の元リアルワールドプレイヤーはハンターランクD〜C程度なので、こっちに反映された資産やアイテムも精々1、2年暮らせる程度の蓄えにしかならないので、一般住民として溶け込んで暮らしている人達がほとんどなんですよ」


「それもそうか、あの40万位時代で俺がこっちの世界に来ていたら、多分反映される資産は10万ジニーも無かった気がする。考えると結構恐ろしいな」


「私だって月光の運営でそこまで資金も無かったので、ヒイラギさんに会って援助して貰わなかったら大変でしたよ」


「ヒイラギくんさ、今後元リアルワールドプレイヤーで大変な人や困ってる人がいたらさ、ウチの商会を教えてあげてよ。衣食住の補償付きで、出来る限り商会で採用するからさ」


「それは助かります。私も諜報員に採用したり、伝手を使って仕事を斡旋してたりしたんですけど、さすがに多くて限界が近かったので」



元警察官だったカナメは正義感が強く、なかなかこの世界に馴染めない元リアルワールドプレイヤー達を雇用する為に月光を立ち上げた側面があった。


真面目さが滲み出るカナメを見ていた視線を、ヒイラギが少しだけズラす。



「さて、やっと馬鹿野郎達がご到着みたいだ」



その視線の先、まだ豆粒ほどの大きさだが、確かに何かの集団がこちらに近付いてくる砂塵が上がっていた。


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