プロローグ1
できれば水曜と土曜の週2回更新をと思っていますが、仕事が忙しい時は不定期になります。マイペースにコツコツ載せていこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
約4年前に発売された【リアルワールド】は、既存のVRMMORPGを根底から覆すほどの内容で、その自由度や世界観は世界中のゲーマーだけではなく、ゲームに見向きもしなかった層にまで波及し、全世界でアクティブユーザーが今も5千万人はいるとも言われているモンスターゲームだ。
当時大学卒業後に勤めた会社がブラック企業だった為に7年間何とか耐えて耐えて働いていたが、結局精神を病むより身体が先に耐えられなくなり会社を辞めて失業保険と僅かな貯金を切り崩し生活をしている状況だった。
そんなどん底の時に【リアルワールド】は発売され、俺は依存と言っていい程に、そこからどっぷりと【リアルワールド】に嵌る事になる。
生活に余裕が無かった為に課金など出来ず、1日約20時間プレイし、ゲーム内のアイテムを売ってコツコツとリアルマネー取引で現金を稼ぎ、何とかギリギリの生活を保ってプレイを続けていたが、2年ほど経ったある日に転機が訪れた。
レア度が最高ランクであるランクⅦ、隠しジョブ【魔力士】を取得したからだ。
当時1億人近いプレイヤーがプレイをして最高レアリティのジョブがランクⅤだった事を考えると凄まじいレア職であり、実を言えば今も【魔力士】以外のランクⅦのジョブは発見されていなかった。
そもそもこのジョブの取得条件が異常過ぎるのだが、初期レベルの装備状態で一切課金せず、特殊なレアスキルまたはレアアイテムも一切使用しないその状況下で決められた膨大なプレイ時間と膨大なモンスター数を討伐すると言う到底不可能な内容だった。
生活を切り詰めてプレイしていた俺はひたすら無課金で低レベル帯のモンスターを狩り、見つけたアイテムなど売れる物は全て売却、ジョブは剣士だったがレベルを上げても低レベルのモンスターを延々と狩っていた為に、2年プレイしても狙っていた職のジョブチェンジレベルまでは到達していなかったのだ。
他の人から見れば、とんでもない縛りプレイに思えるかも知れないが、ゲームの世界に居続ける為には生活費を稼がなきゃいけなかったし、ゲーム内で稼いで生活が出来るなら最低限の生活でも満足で、何よりそれでも俺は楽しかったからこそ、辿り着けたのかも知れない。
【魔力士】このジョブの内容は、既存魔力を10倍に補正し、魔力を自由自在に操れると言う至極単純なもので、その反面ジョブチェンジ不可、魔法使用不可、スキルやレア武器使用不可と言う制限が課せられてあった。
ただし、そんな制限など全く気にする必要が無い程の可能性が【魔力士】にある事は、ジョブチェンジをしてすぐに気付く事になる。
ジョブチェンジで魔力の少ない【剣士】から【魔力士】にチェンジした事で基礎魔力は2倍になり、それが更に補正で10倍になり、その魔力をレベルによる熟練度は必要だが自由自在に操る事で武器に魔力を纏わせレア武器を超える武器にする事も、身体に纏う事で強固な鎧にする事も、魔法は使えなくても魔法のように魔力の塊を放つ事も可能で、その可能性を追求する事で半年後には世界ランキング100位に入り、1年後には1位に上り詰めた。
そのおかげで生活環境が激変し、制限で使う事の出来ない入手したレア武器や大量に取得した貴重なアイテムはそれまでとは比べ物にならない高額な金額でリアルマネー取引によって売却し、その資金でセキュリティが万全のタワーマンションに引っ越して生活のほとんどをネット購入と宅配で済ませ、幸せなゲーム三昧の日々を1年ほど過ごしていた、今日までは。
そう、今日12月10日、日本時間0時41分までは。
【リアルワールド】における原因不明の電磁不具合により、プレイしていた人々が脳死する歴史上類をみない大規模事故が発生し、世界中に衝撃的なニュースが流れた。
死亡者の数は少なくても数十万人とも数百万人とも言われ、その正確な被害状況すら把握は困難を極めた。
そして俺の人生もその時を持って終わりを迎えた。
地球の歴史上類を見ない世紀の大規模事故に衝撃を受けたのは、実は俗に言う神々もまた同じであった。
正確には神々よりは管理者と表現した方が近いだろうが、輪廻を司る管理者はこの地球で発生した予定外の大規模事故に緊急処置の管理者権限を使用した。
自分が管理する輪廻の予定にこんな想定外の人数が加わってしまうと管理する数多の星々に影響が出るのは避けられず、その魂を元の世界に戻す処置をしたのだが、ここで更なる予定外のアクシデントが発生してしまった。
この管理者が元の世界と設定したのは「地球」ではなく【リアルワールド】であり、【リアルワールド】はゲームの世界であって現実的にはそんな世界は無く、結果的に地球とは全く関係もない【リアルワールド】に似た世界へ戻される事になったのだ。
ようするに神々と呼ばれる管理者による壮大な勘違いである。
「ここどこだ!?」
結果的に、俺こと蒼井柊の第一声はこんな風になった。
見渡す限りの大草原が目の前には広がっており、遥か向こうに森林が見える。
身に付けた軽装とフード付きのローブは変わらないがデザインは多少変化しており、見た感じ見た目や肉体的には【リアルワールド】時と変わっていなそうである。
そもそも「リアルワールド」は種族や身体的な多少の調整はできるが、年齢や容姿の過大なキャラメイクは出来なくなっていた。
それはゲーム内とは言え、リアルな仮の世界である【リアルワールド】内では、制限はあるが性行為、結婚、侵略、PK等が可能で、性犯罪や違法行為の抑止の為に本来の自分を投影するのが基本ルールとして設けられていた為だった。
「ステータスオープン」
ステータス
名前 ヒイラギ・アオイ
年齢 32
性別 男性
種族 人族・超越者
職業 魔力士Ⅶ・ハンターランクC(仮)
レベル 154
体力 B・41
筋力 D・23
魔力 A・57(571)
知力 B・41
俊敏 D・27
スキル 神眼Ⅶ
備考 転職不可・神眼以外のスキル使用不可・レア武器使用不可・魔法使用不可
一応何かしらの不具合かな?と思いつつも【リアルワールド】プレイ中と思い、ステータスを確認するとステータス画面がやはり表示されたが、いつもの画面とは少し変わっていた。
ステータスが可視化されるのは同じだが、表示や内容も微妙に変わっていれば、サイズもかなり小さい。
また、以前は無かったスキルの神眼Ⅶ?と考えていると「蒼井柊、君にお願いがある」と突然隣から話し掛けられ、驚いて声の方に目を向けると10代半ばぐらいの芸術作品のように美しい顔をした少女が立ってこちらを真剣な表情で見ていた。
「君は誰?」
「正確には管理者だが、君の認識で分かりやすく言えば神になる」
ヒイラギの思考が追い付かず、一瞬静寂が訪れるが管理者と名乗る少女は構わず言葉を続ける。
「地球で言う2033年12月10日、君の祖国日本時間で0時41分に【リアルワールド】にて大規模電磁事故が発生して当時ログインしていたプレイヤー2761万人が被害に遭い、その中で君を含む176万人のプレイヤーが脳死したんだ」
確かに、冷静になって考えると突然ブラックアウトしたような気がする。
「私が輪廻を管理する星々の世界において、それだけ大規模な事故による魂の輪廻は予定外であり、管理する星々に多大な影響が出る事を避ける為に私は創造の管理者から許可を受け、その管理者権限で今回犠牲になった魂を元の世界に戻したのだ」
「待ってくれ、俺達は【リアルワールド】をプレイ中に事故に巻き込まれて死んだが、とりあえずは君が生き返らせてくれたって事でいいの?」
「端的に言えばその通りだ」
「元の世界って、ここ絶対地球じゃないよね?」
「端的に言えばその通りだ」
「いやいや意味が分からないんだけど!?」
「私は咄嗟の事で、地球ではなく【リアルワールド】を君達の元の世界、地球だと思い込み権限を行使してしまったのだ。その結果【リアルワールド】と言う現実世界はない為に【リアルワールド】に似たこの世界が元の世界と認証されてしまったのだ、本当に申し訳ない」
非常に微妙な静寂が場を覆う。
ただ、そう言った世界観や展開には多少なりとも触れていたせいか、驚いた割には思考は結構冷静だった。
「怖いくらいに理解した…生き返らせて貰ったのはありがたいけど、生き返った世界が手違いによって正規の地球でも無ければリアルワールドでも無く、【リアルワールド】に似た別世界だったと」
「端的に言えばその通りだ」
「あー【リアルワールド】ではなく、それに似た世界だから基準は現実世界だった地球の自分ではなく【リアルワールド】の自分で、ステータスや服装とか色々な事がその基準をベースにこの世界に合わせて微妙に調整でもされてる感じ?」
「端的に言えばその通りだ。君は理解が非常に早くて助かる」
心底申し訳なさそうに美しい顔を悲痛に歪ませながら話す少女に同情こそあれ怒りはない。
ヒイラギに取って煩わしい二重生活が無くなり、【リアルワールド】に似た現実世界で新たな人生を送れるなら文句など無かった。
だからこそ、初めは流石に驚いたものの少女の話しを冷静に聞き、受け入れる事ができた。