龍穴と鬼
「依頼人が住んでるのはこの家か……」
拓がそう言って、古いけれど大きくて立派な家を仰ぎ見た。
周囲は新しい小さな家が建ち並ぶ中で、その家は繁栄の兆しがあった。
「龍脈ね……」
「何それ?」
「力が流れる道。その真上にこの家は建っているのよ」
私達を出迎えた家主は、年の割に若々しく、気力にみちていた。
「実は、龍穴を捜しに行きたいんですよ」
家主は龍脈のことは知っている様子だった。
「龍穴を捜してどうなさるんですか?」
「病気の祖父を少しでも良くしたくてね」
案内された部屋には、車椅子にひからびたような老人が座っていた。
「先祖からの言い伝えじゃ。まだわしは死ねんからのう」
「失礼ですが、お年はおいくつですか?」
私は表情を隠して聞いた。しかし、彼らはそれには答えなかった。
「龍穴捜しを依頼してあんたらがやってきた。それだけだ」
家主が運転する紺色のライトバンに私達は乗り込んだ。龍脈をたどっていくと、富士樹海にたどり着いた。
「ここからは車では行けません」
「兄ちゃん、すまんがわしを背負ってくれ」
拓はしぶしぶ老人を背負って歩くことになった。木々が行く手を阻んでも決して戻るとは言わない。
「方位磁石が……」
家主が持っていた地図と磁石は役に立たなくなった。
私が龍脈をたどるのを家主と老人を背負った拓がついてくる。
「おお!力がみなぎってくるぞ!近いな!」
私も、力を感じて目を細めた。ちょっとこれは強すぎるかもしれない。
老人が拓の背中から降りて自力で歩き始めた。
老人はおよそ30代くらいに若返っていた。
「この先には行かないほうがいいです」
「なぜかね?じょうちゃん、龍穴はまだ先だろう?」
「危険です」
私の忠告に耳を貸さず、彼は力が吹き出している龍穴に向かって一直線に走り出した。
「止めて!」
「じいちゃん!」
家主が追いかける。私は前にこれ以上進めない。拓が私のそばについていてくれる。
うるるるうがあああ!!!
老人は鬼に変化した。追いかけた家主を捕まえてこれを喰らう。
「星花!」
拓に呼ばれて我に返る。
呪文をたどたどしく唱えると、鬼は龍穴の中に飛び込んだ。力を吸収し続けて、やがて彼は破裂した。
「戻ろう」
拓が私を抱えて来た道を戻った。
富士樹海の切れ目まで逃げると、軽い地震が起きた。
「龍脈が移動したわ」
おそらく、あの大きな古い家は近いうちに没落するだろう。
「ライトバンどうする?」
「そのままにしておいて。本山に連絡して事後処理を頼むわ」
「あの龍穴に誰かが近づいたらどうする?」
「土地勘が狂う場所だから多分大丈夫」
「星花」
拓がぎゅっと私を抱きしめた。抗おうとして、諦めてすっぽり拓の腕の中に収まる。こんなこと、慣れちゃったよ?拓。