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第二話『現実=NewGame』


ここは月の裏側。そんな地球から最も近く、最も離れた場所に聳え立つ黒い城。

その城は今からたった数日前に建てられたものだ、古の魔女によって……


「まさか、あれ程だったとはねぇ……」


城の玉座にて黄昏る少女。

その少女こそ古の魔女、パンドゥラである。

パンドゥラは数日前の事を振り返っていた。

かつて以上に敵に為す術無く一方的に屠られた屈辱の記憶が蘇るのだ。

パンドゥラがかつて封印された時、人類はまだ存在しなかった。

当時彼女が戦っていたのは地球に残った神々と恐竜だった。

神々は悪魔の魔術を恐れ、恐竜は火を嫌った。

だから炎の魔術はパンドゥラの使う最大の攻撃であり防御だった。

神々にもそれぞれ不得意な魔術があったがパンドゥラにはそれがなかった。

神々の不得手を見抜き、その急所を的確に突いて勝ってきた。


だがこの前の相手は違った。

火などまるで恐れず、パンドゥラと同じく不得意な魔術が存在しない。

更に悪魔と違い、光を恐れないどころか神々の力を巧みに使う。

神と悪魔その二つが均等に混じり合ったパンドゥラからしたら出会ったことの無い不気味な敵。


その正体には検討が付いていた……


創世記の地球。神が自分達に似た生物を作る為にある生命体の遺伝子を組み替えた。

その遺伝子は長い年月をかけて生物を変質、進化させていき最後には神の姿とそっくりの生物を誕生させるものだった。

悪魔はそれを許せなかった。

それはこの地球という星は神と悪魔が共に作り上げた多目的の水槽の様なものだったからだ。

その中の生物を愛で、時にそこにいる生物を喰らい、いずれ自分達が不要と思えば去る。

だがその水槽は、我々神と悪魔が手を付けずとも自然と壊れるまで永劫に続く生態系を生み出す。

だからこそ、この水槽が安定するまでは我々は手を取り争いを止めよう。

その様な契約をし、手を取り作り上げたものだった。

悪魔は神が起こした身勝手な生命体への介入は契約の内容に違反していると思ったのだ。

悪魔は急ぎ自分達の知識を授ける遺伝子を作り上げ神々の作る生命体に組み入れた。

これによって神の写し身となる生命体は、進化の過程で悪魔の様な豊富な発想を思いつく知識を得れる様になった。

この過程で神と悪魔の対立は増したが、今はその話をする時ではない。


この時、生まれる事が確定した生命体こそが人間なのだ。

パンドゥラは見た。自分達の封印を解いた存在を……

パンドゥラは見た。その存在達の文明を、その姿を……

間違いない、それは人間だ。だから調べなくてはいけないと思った、失われた数億年を……

そんな時、見覚えのある鎧を纏う不気味な敵が舞い降りた。

それがなんなのか見抜く間もなくパンドゥラは負け、情けをかけられた。

だが、予想は付いた。いや、あの敵と出会った時に初めて自分が敵に言った言葉を思い返せば自分はわかっていたのかもしれない。

地球上に増えたその数、封印を解かれてから見たもの、二足歩行の敵とその言葉の意味、それらを合わせれば……


「まさか、人間にあの力を与えるなんてね……」


答えは出た、あれは人間に恐竜の力を持たせたものだ。


「パンドゥラ様」


パンドゥラの前にヤギの顔を持つ怪物が現れる。


「おぉ、レプリカン」


パンドゥラがその怪物の名を呼ぶ。


「調べた結果、やはりこの1億年で人間は魔術の事を知ったようです」

「そうか……だから奴は私の魔術を恐れる事無く牙をむいてきたのか」

「しかしながら、多くの人間は魔術を空想の物と考えているそうです」

「それは本当か?」

「……はい。人間は科学という、自分達が見つけたこの星付近の基本法則を信じています」

「なるほど、魔力の法則を解明……いや、発見してすらいないから、全て迷信と捉えているわけか……」

「逆に我々はこの前人間から得た知識を使い、彼らの科学を用いたゲームを魔力を使い、本物以上に再現できたと言えます」

「それはつまり……」

「はい、完成いたしました。我々のゲームが……」


レプリカンのその言葉を待っていたかの様にパンドゥラは笑う。


「ふふふ、トリル。あなたが恐竜と人間を合わせた駒を用意したなら……私は魔術と人間の技術を合わせた盤を用意しましょう」

「パンドゥラ様、こちらを」


レプリカンはパンドゥラに小さいな杖の様な物を差し出す。


「これは?」

「ゲームを始める為の道具。人間の言うところのゲーム機であります」

「どう使うの?」


パンドゥラの問いにレプリカンは答え始める。

レプリカンが渡した物は『試作魔道ゲーム機・ポムボン』

地上の何処かに投げ入れる事で、地上の魔力を元に成長し、その周囲をゲームエリアに変える。

ゲームエリアはゲーム機の魔力に応じて次第に大きくなり、いずれは地球全てをゲームエリアにする。


「なるほどね、生贄の確保をして魔力の供給を永続的に行い、その規模を徐々に拡大していく……」

「しかしまだ一つの作品を動かすだけですね。人間の記憶から得たようにハードとソフトに分けて、ゲームを変えると言った様には出来ません」

「構わないわ。今はこのゲームでどれだけ出来るかが大事、必要なのは失敗を恐れない事よレプリカン」

「そのお言葉、謹んでお受け取り致します」


パンドゥラはポムボムを受け取る。


「貴方は私が召喚した怪物一のクリエイター、これから忙しくなるわ」


パンドゥラはレプリカンを労いながら玉座を立ち、地球の見える展望台へと向かう。


「行きなさい、試作魔道ゲーム機・ポムボン。地球をゲームの盤面に変えなさい!」


パンドゥラは狙いを定め、ポムボンを地球めがけてダーツの様に投げ入れた。


____________________________________________________________


同じ日、東京都内。


数日前に知り合った友達との待ち合わせ場所でスマホで動画を見ながら待っているマキの姿があった。


「それで、本当に大変だったんですが来てくれたんですよ!本物の正義のヒーローが!」


マキの見ている動画は数日前のクーが投稿したものだった。

その内容は自分があの日目の当たりにした事実を話したものだったが、中にはそれを信じる人はいなかった。

それはあまりにも、非現実的内容で、未だにたった数日前のたった数時間の間の出来事だったからだ。

当事者や、周囲にいた人達は確かに真実だと言う。

だが、まるで証拠が無い。あの時建った城も現れた怪物達の痕跡は何一つ無いのだ。

世間では歴史的な壺が壊れたから、それを隠すために大騒ぎして有耶無耶にしようとしていると言う扱いだった。

そこにいなかった有識者は言った、D-Tuber達の集団発掘規格の最中に既に壺は壊れていて、それを隠すために大掛かりな編集をして動画化したのだと……

これは映画の宣伝だと……根も葉もないそれらしい理屈をつけて……


マキの見る動画にもそんな悪評判を鵜吞みにしたコメントが上がっている。

それを見るたびにマキは頬を膨らませる。

そんな時にマキの待ち合わせ相手が現れた。


「よう」


気さくな挨拶と共に茜がマキの前に現れる。


「茜ちゃん」


マキもスマホをしまって茜に近づく。


「今日はありがとね」


マキは茜に頼んで今日、会う約束をしていたのだ。


「あぁ、まぁいいよ別に……暇だし」


茜はそういうが、実はマキはベータから茜が毎日の様に葵と一緒にトリルの基地に行ってはトレーニングをしていると言う事を聞いていた。

その理由を聞きたかったのも今日会う予定に入っているが一番は……


「あの日以来、会ってなかったからね」

「まぁお互い予定とかあったしなぁ」


マキは茜と葵、二人の仲間と仲良くなりたかったのだ。

それで彼女たちがどんな暮らしをしているのか気になって今日は一緒に買い物でもと思ったのだ。


「茜ちゃんは普段何してるの?」


マキは茜と買い物をしつつ質問から会話を始める。


「ん~、まぁゲームかな」

「どんなゲーム?」

「格ゲーってやつだよ」

「格ゲー……」

「大体1対1の対人ゲームだよ」

「そーなんだ」

「後は他のアクションもやるなぁ……」

「ふ~ん……」

「そういうお前はどういうゲームやんだっけ?」

「あっ、うん」


マキはあまり自分からゲームを選んでプレイをしない。

SNS等のネット上で話題になったゲームを動画を見て、面白そうだと思ったら買うくらいだ。

だからよく話題にならないゲームについては余りよく知らないので、茜の返しの質問に答えるのは少し時間がかかった。


「クーさんとかのD-Tuberが良く実況しているやつかな」

「ふぅん、じゃあこの前聞いた様にどうクラとかフォートクラフトか……」


茜はマキの答えに少し残念そうな口振りをする。


「面白いよ?」

「いや、面白いのは知ってるよ。私もやってるし……ただな~……」

「ただ?」

「いや、悪くは無いんだけど入ってきた理由がミーハーだなぁって……」

「え?」


マキは驚く。


「私の友達みんなクーさんの動画見て面白そうだから始めたよ?」

「私は話題になってるの知って、公式サイトや評判調べて、面白そうだと思ったから手を出したよ」

「そうなんだー」

「そうなんだよマキ、お前自分から選んでゲーム買ったって事ないんじゃない?」


マキは茜の問いに答える為に昔を思い返す。


「うん、無いかな」


その答えがマキが思い返して至った答えだった。


「そっかー」


やっぱり残念そうな返事をして茜はある所へマキを連れていく。


「ここって?」

「TATUYA」


茜がマキを連れて来た所、そこはTATUYAと言う所謂ゲームショップだ。

映画や漫画、CD等のレンタルや販売もしているので、そこまでゲームをしないマキも名前は知っている店だ。

二人は入ると茜がゲームコーナーに向かった。


「選んでみろよ」


茜はマキにそう言う。


「えっ?」

「ゲームだよ。やりたいの一つ選びな」

「なんで?」

「お前を試したいから」


茜は即答で率直に思っていたことを話す。


「試す……って?」

「お前と会って今日で二回目なんだが、ちょっと確かめたい事があってな」

「ふ~ん」


マキは適当にゲームを取る。


「これ、クーさんがやってた」


マキはゲーム手に取って茜の方を振り向く。


「そうか……じゃあ誰も実況してなさそうな面白そうなの選んでみろよ」

「え~、難しいよ~」


マキは茜の言う通りにゲームを戻して他のを探す。

しかし、ゲームを自分で選んだ事の無いマキは判断に困る。


「タイトルとジャンル、パッケージ裏面の内容とかを見ると良いぜ」


そっと茜はマキにアドバイスする。


「え~っと、前にクーさんが実況してたのに似てるのとかじゃダメかな?」

「……まぁそのままじゃなきゃいいよ」

「じゃあ、これにする」


マキは自分で選んだゲームを手に取る。

そのゲームは茜もあまり知らないゲームだった。

そして二人はそのままレジへ進み、購入して店を出る。

その後茜はマキの買い物に付き合い、色々な服を見る。


「茜ちゃんはいつもどんな服着るの?」


マキは茜にさり気なく聞く。


「……ジャージ」


マキはその茜の即答にポカンとする。


「今着てるの結構カッコイイ系だけど、どこで買ったの?」

「兄貴のお下がりだよ」


更に目を丸くするマキ。


「もしかして茜ちゃん……服にそこまで興味ない?」

「ないな~」

「……そっか~」


マキは残念そうにする。


「なぁ」

「なっなに?」

「マキが店選んでくれねぇか?」

「なっ……なんで私が!?」

「いやさ、さっきは私主導でマキにゲーム選ばせたから今度はな」


茜は笑顔でそう言う。


「なんか合いそうなの売ってる店選んでくれよ」

「えっ……うん」

「ゲームってのは大体専門店にしか売ってねぇけど、服ってのはそうじゃないんだろ?」

「そうだね~、店ごとに結構違ったりするもん」

「それ。私そんなわかんねぇからさ、教えてくれよ」

「うん、いいよ」


マキは茜に笑顔を向けて、店を探し歩いた。

それから数時間、マキの選んだ店で茜は自分で服を選ぶ。


「こんなんでいいか?」


茜は赤のパーカーにデニムパンツを試着する。


「うん、いいんじゃないかな。かっこいいよ」

「じゃあこれにすっかな」


茜は試着していた服を買うと別な服を選ぶ。

それは茜が今着ているカッコイイ感じのじゃなく、紺を主とした暗い色の可愛い感じの服だ。


「まだ買うの?」

「あぁ、これは葵の」


茜はサラッとそう言うと選んだ服も買う。


「じゃあ、私の家来るだろ?」


買い物が終わる頃に茜がそう言う。


「う、うん。行ってもいいなら」

「いいよ別に。今日は親父も兄貴もいないから」


マキは茜の先導に付いていき、茜の家へ向かった。


____________________________________________________________


茜の家へ着くまでの間、マキは茜に聞きたいことを聞き始める。


「茜ちゃんの家ってお金持ちなの?」

「なんでそう思った?」

「え~、だってこの前も今日も私に買ってくれたから……」

「あ~……まぁ、お金持ちっちゃあ、お金持ちだな……」

「ほんと!?」

「あぁ、うん」


茜はマキの何処かぎこちなく答える。


「へ~、茜ちゃんの家ってお金持ちなんだ~」

「まぁ、そうだな。その話は家に着いたら話すわ」

「ん~、そうだね」

「着いたぞ」


そんな話をしているうちに茜の家に着いた。


「はへ~、結構おっきい……」


マキが家の外観の大きさに驚く。


「まぁ、大きいわね」


マキの後ろから突然葵が現れる。


「ぴゃあッ!!」


マキは驚く。


「何してたの?」


葵は茜に聞く。


「買い物」


茜は葵にそう返すと家に入り、二人を迎え入れる。


「いいよ上がってって」

「お、お邪魔します」


そっと頭を下げながらよそよそしく入っていくマキに対して、そそくさとまるで自分の家の様に入っていく葵。


「じゃあ、あの部屋行ってるから」


葵はそう言うとスタスタと二階へ行った。


「あの部屋って?」

「……後で教えるよ。それより荷物置いて買ってきたゲームしようぜ」


茜とマキはリビングに荷物を置く。


「家族の人は?」


マキは茜に聞く。


「仕事だよ」


茜はゲーム機をセッティングしながらマキの質問に答える。


「お仕事何してるの?」

「ん~とな、ショップ経営だよ。ネットと店舗両立してるとこ」

「……もしかして、社長さんだったりする?」

「そうだよ」


茜の軽い返答の内容にマキは驚く。


「じゃあ、やっぱりお金持ちなんだ……」

「まぁ人と比べればそうだろうな~」


茜はゲーム機のセッティングを終える。


「出来た。マキ、買ってきたゲーム貸してくれ」


マキがゲームを渡すと茜は箱の封を切ってソフトをゲーム機に入れる。


「一緒に出来る奴か、これ……」


マキが選んだゲームはモンスターを狩る所謂ハンティングゲームでも結構マイナーな物だった。

1つのゲームで画面を分割して協力プレイが出来るものだ。


「やろうか?」


茜の言葉にマキは頷き、コントローラーを手に取った。


____________________________________________________________


その頃トリルの基地。


「あの三人をどう見る?」


トリルは誰かにそう聞く。


「既に地球を離れた私には意見を言う資格は無い」


トリルの聞いた相手はそう答える。


「相変わらずだな」

「地球は既に我々の物ではない。今この瞬間をその中で生きる者だ」

「故に決断も」

「私が託したあの三人に任せると言う事か……」

「そう言う事だ。それに君が乗るかは君次第だよトリル」

「……わかった。ありがとう」


トリルはその相手との会話を切る。


「どなたと話していたんですか?」


ベータがトリルに聞く。


「昔の友人だ。既にこの星を離れ、別の星にいるな……」

「そうなのですか」

「私が選んだ三人、彼女たちがもしもの事があったと考えた時に助けになると思ってな」

「助けとは?」

「友のいる星にも戦士がいる。もしもの時は彼女たちの力も借りたいと思ったのさ」

「なるほど……しかしまだこの星には彼らもいますが?」

「中国にいる五聖獣か、彼らは動かないだろうな」

「なぜです?」

「パンドゥラの封印は私達の問題だ。彼らが動くようなら、裏にあの女が関わっている」

「ローゼットとゴマノ一族ですね?」

「そうだ、我々は自分の問題は自分達の力で解決するのがルールだ」

「そのルールが破られるのは」

「この星が崩壊する時だけだ」

「それは……」

「今は私が選んだ三人が上手くやる事を祈るだけだ」


____________________________________________________________


数時間後、茜の家。

葵がリビングに来ると茜とマキがゲームで遊んでいる。


「なによ、そのゲーム」


葵は茜に聞く。


「マキが買ってきたんだよ。割と面白いぞ」

「葵ちゃんもやる?」


マキが微笑みながら葵に聞く。


「やらない」


葵は真顔で答え、マキがちょっと傷つく。


「あおい~」

「なによ」

「お前ちょっとキツイぞ」

「悪かったわね」


茜に軽く怒られた葵は飲み物を飲むと二階に戻る。


それからしばらくして……


「茜ちゃんがサクッとお金払うのって社長の子だったからなんだね」


ゲームの休憩中、茜から飲み物を渡されたマキはそう言う。


「ちげーよ」


マキに言われた事を否定する茜。


「教えてやろうか?」


そして少し微笑んで茜はそう言い、マキは頷く。


「じゃあ一旦ゲーム止めるぞ」

「わかった」


二人は休憩後に二階へ向かった。

その際、茜は買ってきた服を持っていく。


____________________________________________________________


マキと茜は二階に上がった。

茜が階段前の扉を開けると、マキはそこにある三つの大きなディスプレイと冷蔵庫の様に大きいサーバーが目に付くコンピューターに目が行く。


「なに?あのでっかい機械……」

「これが私らが金を持ってる秘密だよ」

「茜ちゃん……なに、やってるの?」

「ん~……それを知りたかったらマキ、誰にも言わないって約束しな」


茜の強い言葉に少し怯えて頷くマキ。


「見せちゃうんだ」


茜の後ろから葵が呟く。


「いいだろ別に」

「私、グループ以外の人には見せたくないんだけど」

「……そう言われると弱いなぁ」

「そうでしょ?大佐とかどう思うかしら」


葵と茜の会話の意味が分からず呆然とするマキ。


「後で何とか言うよ」

「そうね」


葵がマキの方を向く。


「マキさん」

「ふぁ……ふぁい!」

「もしこれから話すことを他言したら後ろから撃つわよ」

「ふぁっ!?ふぁかりましゅた!」


マキがビビりなが答える。


「じゃあ葵」

「なによ……」


茜が葵の肩に手をかける。


「話す前に服脱げ」

「……はぁ!?」


葵は茜に突然言われた事に驚く間もなく茜に服を脱がされ始める。


「ちょっ!いきなり何すんのよ!!」


服を掴んで抵抗する葵。


「破けるぞ」

「そうじゃなくて!そうじゃなくてよ!」

「服買ってきたんだよ」

「思ったわよ!今じゃないでしょ!」

「マキ、そこの袋投げてくれ!」


マキは頷いて茜に服の入った袋を投げる。

茜は袋を掴むと自分のそばに置いて葵の上着を脱がす。


「うわっ!こいつ大人向けのブラなんかつけてやがる」

「しょうがないじゃない!私のサイズの合うの大人用のしかないんだから」

「自慢かこいつ……」


茜は急に真顔になって葵のスカートを脱がし始める。


「いいから!自分出来るからやめなさいよ!」


葵は必死茜を止めながらもパンツが見え始める。


「……あっ」


その様子を見ていたマキが何かを察する。


「茜ちゃんおっぱい無いね」


マキが咄嗟に出た言葉は茜の耳に届いた。


「お前も脱がしてやろうか?」


茜は少し低い声で葵のスカートを持ちながらマキの方を向いてそう言った。

その隙に葵は茜の近くにあった袋から服を取り出し急いで着始める。


「なによ……この服……」


着終わった葵はその服の見た目に驚く。

その紺色のワンピースは葵の大きな胸のサイズに合わず、胸元が大きくはだけている。


「……ぷっ」


その服を着た葵を見て思わず笑いそうになる茜。


「なによ……」

「いや、思った通りになったと思ってな」

「……は?」


葵は怒りを隠せない。


「良かったじゃねぇか、涼しくなって……ぐほぉ!」


茜のヘラヘラした顔にムカついた葵は茜の腹に一発パンチを放つ。

その後、蹲る茜をよそにPCを起動させる。


「見せてあげるわよ、私達の収入源」


葵はマキに話しかけ、マキは葵のそばによる。


「これって……」

「Virtual_D-Tuber・ALO(ヴァーチャルディーチューバー・アロ)


葵の言ったALO、そしてVirtual_D-Tuber(ヴァーチャルディーチューバー)とは……

その元は自分の素顔の代わりにCGやイラストのキャラクターを使って自身の動画に登場するD-Tuberの事だった。

だが人工知能やプログラミング技術が進展した現在、ネットに流れる無料アップローダーでソフトを手にし、どんな人でもちょっとした知識さえあれば一昔前の高度技術並みの物を作れるようになった。

それに目を付けたのがこのALOだ。

ALOとは複数のチームがそれぞれの分野で人工知能や動画、音声データ等を作り、それらに合わせて動くCGキャラクターのD-Tuberである。

つまり、ALOは多くの人間が一つのプロジェクト内で動きを作り、ALO本人はいない本物のヴァーチャルの存在なのだ。


「私達はALOのゲーム実況、ゲームプレイのAIを開発しているグループなのよ」

「……は、え?はっぁ!!?」


突然の事にビックリするマキ。


「ALOのゲーム実況、見たことある?」

「あ、うん……なんか見た目や言動と違って凄く理屈っぽくて計算的でちょっと怖い感じだったかな……」

「そう……」


葵が少し不満そうにそう言う。


「ALOは元々対ゲーム実況者、ゲーマー用に企画されたVirtual_D-Tuberなんだよ」


茜が後ろから説明を始める。


「茜ちゃん、大丈夫?」

「……まぁな」

「自業自得よ」


葵はALOの作業を始める。


「今日は何なんだ」


葵が始める作業について聞く茜。


「TPS、高野行動に対するプログラミングよ」


TPS高野行動とは、1人又は複数人の1チームでゲームスタートと同時にプレイヤーキャラは無装備でヘリに乗せられ、マップ上空を飛ぶ。

飛んでいる間にプレイヤーキャラはヘリから降下し、マップに降り立つ。

そしてマップに落ちている装備を拾い、他のプレイヤーと最後の1人、又は1チームになるまで戦い続ける。

そう言うゲームだ。

茜と葵の二人もこのゲームをプレイしている。


「この前のプレイでまだ気になる点があったからね」


葵はそう呟いて作業を始める。

カタカタとキーボードの押す音が響き始める。


「次のプレイまでには、序盤で上位陣を確実に仕留められる様にするわよ」

「ほぅ……どうやって?」


葵は茜にパソコンの画面を見せる。


「……はぁん、なるほどね」


茜がその画面を見て納得する。

葵の作っているのはいくつもの対戦画面をAIに見せて学習させる方法。

そして、葵が見せているのは高野行動の上位プレイヤーのプレイ動画、そして……


「こいつは……」

「運のいい事にレジェンド武器を手に入れたプレイ動画と、上位プレイヤーに初めにキルされた人のプレイ動画が手に入ったからね」


その殆どがbluebird、tictacとかのSNS産だ。

だが葵はそのどれでも自分から集めてはいない、ALOを運営する他のグループが集めた物を手に入れたのだ。


「なるほどね~。レジェンド武器が出現しやすい位置、そして上手いプレイヤーが集まる位置を覚えさせてるのか」

「そうよ、これがあれば強い武器が出る確率が高い場所、そして上手いプレイヤーと序盤に戦える場所を覚えさせられる」

「そしてプレイヤーのプレイ動画で動き方の対策か……」

「ええ。プレイ動画でわかる多くのプレイヤーの癖を覚えさせることで、それがプレイングとして必要な物か、単なる人間としての癖なのかを判別させるのよ」

「人としての癖なら、こっちはその癖を修正しつつ相手のその癖につけ込むプレイングを覚えさせればいい」

「その人と確実に戦うならね。基本的には人としての癖を修正して機械的に効率の良いプレイングを学習させるだけよ」

「……なるほどね~」


茜と葵が会話を始める。


(どうしよう……二人の話、難しくてわかんない)


マキはその間、そんなことを思いつつポカンとしていた。


「マキ、ちょっと来いよ」


茜がマキを呼ぶ。


「なに?」

「ちょっとこっちの話してたがこれが私達の収入の一つだ」

「ALOに……その、ゲームのプレイを覚えさせるのが?」

「そうだ。AIはゲームを覚えさせれば覚えさせるほど学習して強くなる」

「それでお金稼ぎ出来るの?」

「まぁな」


茜は微笑む。


「私達が覚えさせた知能、AIは今度は高校生の先輩ん所に行く」

「行くって?」

「転送させんだよ」

「ふーん……」

「そしてゲームを動かすロボットアームにそのAIが行く事でALOはゲームをプレイする事が出来る」

「え~と、つまり……あれ?」


マキは茜から聞いたことを纏めようとするが上手くできなかった。


「私達がやってるのはALOがゲームをプレイしようって頭で考えてる事」


葵が割って説明する。


「で実際にゲームをする体を作ってるのがデジ研の先輩たちよ」

「デジ研?」

「茜が言ってた高校生の先輩達よ」

「デジタル研究会、ロボット技術やAIまで作る学生の集まりだよ」


茜がデジ研について話す。


「デジ研と私達はALOのプロジェクトで知り合ったんだよ」

「へぇー」

「デジ研の人達がALOにゲームを実機でやらせようって企画持ってプロジェクトに入ってきたんだ」

「じゃあ、茜ちゃん達の方がALOのプロジェクトメンバーとしては先輩なんだ」

「まぁな。ALOのゲーム実況の動画の収益は経理を通じてデジ研がメインに貰って、私達はあくまで小遣いって事でそこから貰ってる」

「……直接じゃないんだ」

「高校生未満は働いちゃダメだって事は知ってるよな?」

「うん」


ついでとばかりに茜は自分達の収益についても話し始める。


「D-Tuber、動画配信者がまともな仕事として認められた事で国際的に未成年者の配信者は収入を得られなくなった」

「……なんか小学生の頃に説明会あったね」

「そこで経営に必要な難しい事は会社と同じように総務グループに任せて、関わった人間全員に相応の報酬を与える配信者プロジェクトが始まったんだ」

「そうなんだ」

「まぁ、法律的にはグレーゾーンな収入源だな」

「いっ……いまいち理解できないけど、うん……」


マキは茜が言ったことをよく理解できなかったが最後の説明でちょっと悪い儲け方をしているんだと理解した。

その後、葵が作業をして茜が間違いを指摘している間、マキはずっと二人の様子を見ていた。


「茜さん!葵さん!マキさん!聞こえていますか!?」


そこに頭から直接ベータの呼びかけが三人に届く。


「どうした?そんなに慌てて」


茜がベータの呼びかけに答える。


「大変です!再びパンドゥラが動き始めました、場所は……」

「悪いんだけど今、用事があるから」


葵は作業を続けようとする。


「ですが!既に被害が出ていて……」

「茜ちゃん!行こうよ!」


マキが茜の服の裾を引っ張る。


「それで場所は?」


茜がベータに聞く。


「東京都、都心部です」

「……マキ、行くぞ」


場所を聞いた瞬間、茜は直ぐに部屋を出ようとした。


「あかね!」


葵が呼び止める。


「葵、お前は出来る限りやってろ。場所が東京ならデジ研の先輩たちや知り合いにも被害が出てるかもしれねぇ」

「……そうね、お願いするわ」


葵は再び作業を続け、茜とマキは一階に駆け降りる。


____________________________________________________________


茜の家、一階の寝室。

そこは遮光カーテンで光をさえぎられて外から中は誰にも見られない密室の空間だ。


「マキ、ここで変身するぞ」

「どういうこと?」

「私達がダイノゲーマーズである事をバレないようにする為だ」

「あっ、なるほど」

「じゃあ行くぜ、とその前にベータ」

「はい」

「私の家に他人にわからないようにあの移動用の玉、持ってこれるか?」

「はい、可能です」

「今から10秒以内で送れるか?」

「出来ます!」


茜はベータの確認が取れるとマキの方を向く。


「OK!行くぞマキ!」

「う、うん!」


そして茜とマキはほぼ同時に変身アイテム、ダイノコインを手に取る。


「ダイノ、プレイング!」


二人は掛け声と共にコインを宙へと投げる。

コインは茜のティラノのコインは赤い光に、マキのプテラのコインは黄色い光となって彼女たちの姿を戦士に変える。

そしてすかさずベータから移動用の光の玉が寝室に転送される。


「……本当に誰にもバレて無いんだろうな?」

「だっ……大丈夫ですよ~」

「わかった、今は信用する」


茜は再度ベータに確認すると光の玉に入る。


「茜ちゃん慎重だね」

「自分の家で変身してるんだ、正体をバレないようにする為には慎重にもなるだろ」


マキも茜に続くように光の玉に入ると光の玉は目的地に光速で移動を始めた。


____________________________________________________________


時は少し戻り東京都、都心部。

突如として空から降ってきた杖が地面へと突き刺さると、その杖は形を変えて消え去ってしまう。


「……なに、今の?」


丁度買い物をしていたD-Tuberのクーことユカリはその現象を目撃すると共にハンディカメラを手に取る。


「この辺りに落ちたと思ったけど……」


ユカリはカメラをムービーモードにしながらその杖を探す。

その瞬間だ。


「レディースア~ンドジェントルメ~ン!!」


突如として蝙蝠の怪物が現れ、大声でそう叫ぶ。


「きゃっ!」


ユカリは驚いてカメラを落とす。

そう、その怪物はこの前自分を襲った怪物達の仲間だからだ。

しかしユカリはカメラを手に取り再び怪物の姿を映す。


「おめでとう、この場の皆様はこれより我々パンドゥラファミリーのゲームプレイヤーとなりました!」


蝙蝠の怪物はそう言い放つ。

しかし、ほとんどの人が我関せずと過ぎ去る。

『おかしな人がいる』そう誰もが思っているだけだった。


「ゲームは簡単、このゲームの大本となる本体を見つけ出し破壊すれば皆様の勝利です!」

「おい君、なにをやっているんだ」


近くにいた警備員、警察官等が蝙蝠の怪物に近づく。


「これは申し遅れました。私、パンドゥラ様の使いで名をトークバットと申します」

「はぁ……君ねぇ、トークバットだかトートバッグだが知らないけど人の迷惑……」


警察官が話を始めた瞬間、だった。

彼の後ろから白い球が突如として彼の頭に衝突した。

その衝撃で彼の頭は吹き飛び、体諸共バラバラになって消滅した。


「おやおや……まだ話の途中でしたのに、ゲームを始めますか」


トークバットは人一人が消滅したのがまるで当たり前のように冷静にそう言う。

パニックになったり、呆然とし始めたのは、周りの人だけだ。


警察官を消滅させた白い球は変形し始めて、鎧騎士の様な姿の怪物となる。


「ドッラタイタス。ポムボンより召喚完了」


鎧騎士の様な怪物はそう呟く。


「おお、ドッラタイタス。その様子だともうゲームを始めても良いのだな?」

「……御意」

「それではゲームスタートです!このドッラタイタスの消滅玉に当たった人は先程の人の様に消滅いたします!皆様気を付けてお遊びください」


トークバットがそう言い放つと、人々はパニックになり、街は混乱に陥った。


ドッラタイタスは自身の頭から白い球、消滅玉を発射する。

消滅玉は一直線に進み当たった物を、人をまるでゲームのオブジェクトを消去するように消していく。

ドッラタイタスの両腕に付いた白い板が外れ、自由に飛び回る。

その板に消滅玉が当たる事で消滅玉は方向を変えて色んな方向に飛び回る。

ドッラタイタスがコントロールするこの板がある限り、消滅玉から逃げる術は無かった。


逃げ回る人の中にある事に気付いた人がいた。

見えない壁がある。

その内に入った人は外に出れない。

しかし、外から壁の内に入る事はできる。

壁は徐々に広がり、逃げる範囲を広げている……

いや、そうではなかった。

壁の端にいた人に消滅玉がぶつかると玉は当たった人を消し去ると同時に壁に跳ね返り、内側へと戻っていく。

消滅玉は壁の外へは行かなかった。


そう、玉や怪物が人や町を襲うのはこの壁の中だけなのだ。

それが広がるという事は、被害が出る場所が広がるという事だ。

逃げ場は無くなるのか?それとも広くなる事で助かるのか?

それは壁の内に入ってしまったものの運と実力だけが知っていた。


突如として始まったデスゲームは次第に多くの人々に広まる。

その渦中の中心にいるユカリは急遽として動画を生放送し始める。


「皆さん見ていますか!?現実です!これが現実です!こんなことが今、目の前で起こっているんですよ!」


ユカリは付近の凄惨な光景を動画に映してそう叫ぶ。

見たことの無いような、いや、まるでゲームのドットオブジェクトの様に断片的にギザギザに壊された建物。

そして白い球に当たり、まるでゲームのキャラクターの様に消えていく人々。

その玉は、ユカリの目の前に迫ってきた……


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少し前東京都、都心部。


「こりゃあひでぇな」


光の玉の中で空からその凄惨な光景を目の当たりにして茜は呟く。


「……ねぇ茜ちゃん」


マキは茜に話しかけようとする。


「マキ……」

「なに?」

「降りたら私の事は頼むから名前で呼ばないでくれ」

「……なんで?……あっそうか」

「そうだ、私もマキの事は名前で呼ばない」

「じゃあ、何て呼び合うの?」

「私はティラノ、マキはプテラでいいだろ」

「あぁ、コインの恐竜ね」

「そういうこったな」

「じゃあ葵ちゃんはトリケラトプス?」

「トリケラでいいだろ」


そんな会話をしている所で茜はドッラタイタスが放つ消滅玉を見つける。


「……なるほどね、よくもまぁあいつらはこういう方法を思いつくよ」


茜は空から見て何となく予想を付けた。

それは魔女パンドゥラの言い訳だ。

彼女と最初に会って、逃がした時に茜は彼女に言った。

「互いに死人が出るような危険な行動するようなら、お前を容赦なく潰す」

という言葉を……

茜も普通の中学生、そこまで気を太くは持っていない。

その言葉は自分が自分の遊びの為に見逃した悪党の仕業で被害が起きたら、自責の念で潰れそうなのを軽減するために言ったものだ。

正義の味方の様な事を口にした理由の大本は自分の私利私欲の為だ、決して他人の為ではない。

だが結果的に茜が言ったその言葉は、茜が他人を助ける口実にもなる。

茜はこの非現実的な光景を見て、自分の言葉を聞いたパンドゥラが自分に言う言葉を考えていた。


「茜ちゃん何か言った?」

「いや、なんでもない……」

「私、もう行くね」


マキは光の玉から出ようとする。


「待てよ」


茜は引き止める。


「どうして?もうこんなに被害が出てるのに」

「だからだ」

「なんで?」

「マキ、敵が何処にいるかわかるか?」


茜の問いにマキは首を横に振る。

その仕草を見て茜はある場所を指さす。


「なに、あれ?」


その先にはドッラタイタスの姿と彼が放つ消滅玉があった。


「あれが敵で、あれが敵の攻撃方法だ」

「な……なるほど……」

「気付いて言ってたのかと思った」


茜の吐き捨てる様な言葉にシュンとするマキ。


「この位置は情報アドバンテージの塊だ」

「……どういうこと?」

「敵を見下ろして一方的に観察できるって事だよ」


マキはその言葉に納得する。


「あの敵はまだこっちに気付いて無いだろ?」

「うん」

「そしてこっちはあいつに気付いている」

「うん」

「そういう意味では、今こっちが有利だろう?」

「そうだね」

「だから今こっちからそれを手放すのは惜しいって言ったんだ」

「……なるほどぉ」

「他にも色々見渡せる。例えば逃げている人の状況とか、被害の出かたとか今なら考えながら観察できる」

「うん」

「戦ってる最中には恐らくまじまじと見てそれを考える時間は無いぜ」


マキは茜の言ったことに納得して頷く。


「つまり、タイミングを見計らって」

「一番いい状況で行くって事だね」


お互いに気の合った時、茜は正に今消滅玉が人に向かって迫っている所を目撃する。


「それが今ってわけだ!」


そして間髪入れずに茜は光の玉から下りて、そこへ向かった。


「えっ?……エェッ!!?」


マキはその突然の出来事に驚き、光の玉から下りれなかった。


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ユカリの前に迫る消滅玉。

ユカリはそれが何なのか知っている。

触れた物の命やそのものを消し去り奪う悪夢の玉。

爆弾、銃弾、凶弾とは勢い良く迫る狂気の塊。物は違えどその本質は全く同じだ。

当たればどうなるのか、想像はついている。

しかし、体は動かない。

想像出来ているからこそ、怖気づいてしまう。

その恐怖は全身を支配して体が震わせ、身動きを取れなくしてしまう。

刹那の判断が生死を左右するその瞬間、ユカリの体は死と言う選択を間違いなく選んでしまっていたのだ。

只々自分に迫る運命にユカリは強く目をつぶる……


「ゲームインポート!ライメイレブン!!」


ユカリの耳に響くその叫びと共にユカリの前に強い閃光が煌めき、消滅玉はユカリの前から弾き飛ばされる。

閃光が晴れ、自分の目の前に人がいるのがわかる。

ユカリに迫っていた運命はその人物によって一蹴された。

逆光によってその姿はそこまでわからないが、ユカリには恐竜の様な顔、尻尾を持ちながら人の様に立っている様に見える。

ユカリは知っている、この姿をした人を……


「ダイノゲーマーズ……」


ユカリのその小さい声を聞いてその人物がユカリの方を振り向く。


「大丈夫そうだな」


人物はユカリの姿を確認するとその場から去っていった。

少しして、ユカリの体はやっと動き出す。

ユカリは立ち上がるとカメラを探し、見つけ出すと自分を助けた人物を探し始めた。


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閃光と共に弾かれた消滅玉はドッラタイタスにも確認された。


「なに!?俺の玉が弾かれただと!?」


ドッラタイタスは消滅玉が向かう先に両腕に付いた白い板を飛ばし向かわせる。

板にぶつかった消滅玉は跳ね返り、再び弾かれた先へと向かっていく。


「フレイムトルネードだぁ!オラァ!!」


その叫び声と共に消滅玉の向かう先から火球が現れ、またも消滅玉はドッラタイタスの方へと弾き飛ばされる。

消滅玉と火球はドッラタイタスの周囲に着弾し、瓦礫と土煙を巻き上げる。

ドッラタイタスが舞い上がった瓦礫を振り払うと目の前に現れたのは……


「よう、怪人」


ダイノゲーマーズ、ティラノのコインで変身した茜の姿だった。


「貴様は?」

「名乗るもんじゃぁねぇよ!」


茜は速攻を仕掛ける。即座にドッラタイタスの前に突進し肉薄する。


「ゲームインポートォ!ギルティブルー!」


茜の掛け声と共に茜とドッラタイタスは見えない壁のリングに閉じ込められる。

瞬間、茜の突きをドッラタイタスは両腕でガードする。


「ぬうぅぅッ!」

「やるじゃねぇかよッ!」


茜は回転して尻尾を振るいドッラタイタスを吹き飛ばす。


「試してやる!ゲームインポート重ね掛け!ライメイレブン!」


吹き飛ばされたドッラタイタスが体制を整える間に茜はそう発する。

その声と共に茜の目の前にサッカーボールが現れる。


「それはッ!?」


ドッラタイタスは咄嗟に構える。


「そうだ、さっきからてめぇの玉をはじき返してる火の玉の正体だよ!」


茜はサッカーボールをティラノの足爪で掴み、炎を纏わせる。


「好き勝手にブロック崩ししやがって、こっからは私のターンだ!」


茜は火球をドッラタイタスに向けて蹴り飛ばす。

火球はドッラタイタスを直撃するも、茜の方へと跳ね返ってくる。

茜は躱すが、躱した先から火球は茜めがけて跳ね返ってくる。


「どうなってるんだ!?」

「はっはっはっ!このドッラタイタスの玉の扱いに右に出るものはない!」


誇らしげにそう言うドッラタイタスにイラつきながらも茜は突破口を探す。

それは一瞬にして見つかる。

だが、茜はそれをどう対処するかまで考えが纏まらなかった。

今も尚、茜は自らが放った火球に追われている……


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茜に続いて、マキも現場に降り立った。


「茜ちゃん……じゃなかった、ティラノは何処に行ったのかな~?」


マキは誰も周りにいない中でそんな独り言をぼやく。


「それにしても……これが、都心?」


マキは茜を探しながら周りの様子を見渡す。

いつも見るような人の気配はなく、一昔前のゲームのドットの様にジャギジャギに壊れた街並み。

異質、としか言いようのない光景にマキはゾクッと身震いがする。


「あのぉ~」


突如としてマキに話しかける声。


「うひゃあッ!」


驚いて思わず飛び上がってしまうマキ。

しかし、声の主を目にして直ぐに冷静さを取り戻す。


「……クーさんじゃないですか!」


クーさん、つまりマキに話しかけたのはユカリだった。


「はい、この前はありがとうございました」

「いえ……こちらこそ」


マキは少し照れる。


「また、怪物が現れたんですね」

「うん、ベータ……仲間が教えてくれたんだ」

「そうなんですか。あ、そうだ怪物が現れた時に何か言ってたのを撮ってあるんです」


ユカリはマキに撮っていたムービーを見せる。


「ゲームの大本?本体?それを見つければ、勝ちって事?」


マキは映っている蝙蝠の怪物が言っている事をなんとなく理解する。

そして茜に脳波通信を行う。


「茜ちゃん、聞こえてる?」

「今それどころじゃねぇ!」


茜にそう言われて切られる。


「どうかしたんですか?」


ポカンとしているマキにユカリは心配そうに話しかける。


「ひゃい!大丈夫です!」

「じゃあ、私達でゲームの本体って言うのを探しましょうか?」

「は、はい!そうしましょう!」

「その……もしよければこの前の約束通り動画にしてもいいですか?」

「はい!もちろんです!」


マキは茜に承諾を得ず、勝手にユカリに動画を撮らせながらゲームの本体と言うのを探し始めた。


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自分の攻撃が自分に跳ね返ってくる。

そんな状況に茜は今陥っている。

跳ね返ってきた攻撃を同じ攻撃をして相殺させて凌いでいるがそこに……


「そぉら!」


そんな掛け声と共にドッラタイタスの消滅玉が茜に迫る。


「クソが!」


茜も思わずそんな言葉が出る位には切羽詰まっている。

二重の攻撃に考える時間がない。

被弾は何が起こるのかわからないから避けたい。

突破口がわかっていても、それに自分の技能や状態がついていけていないのなら無意味であるという事を痛烈に実感している。


「あいつのあの白い板さえ何とか出来ればな……」


ドッラタイタスの操る自由自在の玉の軌道、それは玉の進む先に先回りして置かれる白い板が玉にぶつかる事で玉を反射させているのが真実だ。

だがそれを破壊する手段を茜は持っていない。

解答がわかっていてもそれを答えられない状況は冷静さを失う、束縛のストレス。

そして何かに迫られている人間は咄嗟の判断能力を欠くことがある。


放たれた玉を躱しながらその板に攻撃を当てるのが出来ないのだ。

尻尾を振るっても板はその振りを躱し、ドッラタイタス本体にも当たらない。

茜は今それが出ている、優先すべき対象物は自身に迫ってくる玉。

だから疎かになる、他への攻撃が当たらないと冷静な対処が出来ない。


この二つ要因が重なって茜は本来の力を発揮できない。

運良く板か本体に当たればそれは覆るがそれは確立、運に過ぎない。

いや、ドッラタイタスが冷静であるならそれは殆ど有り得ない。

格闘とは不規則なターン制ゲームである。

防御側は攻撃側の攻撃の対処に頭のリソース、つまり考える時間を使う。

その間、攻撃側は自分の次の攻撃、相手の動きを見る時間を得る事が出来る。

故に冷静。

茜が防御側に回っている今、攻撃側のドッラタイタスは冷静に茜の動きを見れる。

板の配置は茜の攻撃が当たる場所を避け、自分の場所は茜の動きが当たらない場所に動けばいい。

そして次の攻撃が当たる場所を探して板を設置し、消滅玉を発射する。

玉は直線に飛び茜がそれを躱しても、板が玉の動きに先回りして様な場所に置かれて板と玉がぶつかり合って反射、再び玉は茜に迫る。

勝敗を決するのは、防御側が冷静さを取り戻すかどうかだが今の茜には……


「はっはっは!最初の威勢はどうした」

「悪かったな!」


茜がドッラタイタスの言葉にキレる。

キレるってのは冷静さを欠いたという事、それは……


「ぐわっ!」


しかし突如として起こる茜とは別方向からの爆炎、それにドッラタイタスは悲鳴をあげる。


「何やってんのよ、茜……」


爆炎の起こした土煙の中で茜を呼ぶ声。


「……葵」


茜は土煙を払いその声の主を見る。

その主は葵、変身してバズーカ砲を抱えて茜の方へと歩み寄ってくる。


「ほんっと何してんのよ!」


葵は立ち上がろうとするドッラタイタスに向けてバズーカ砲を発射する。


「ぐふあっ!!」


再び起こる爆炎と土煙、ドッラタイタスの叫び。

ドッラタイタスの体はボロボロになって立ち上がるまでに時間をかけている。

先程までの立場は葵の登場によって完全に逆転した。


「助かったよ」

「何であんたこんな攻撃も避けられないのよ」

「いやぁ、ゲームでやるのと実際やるのとじゃあ結構違うぜ?」

「そうみたいね」


葵はバズーカ砲を捨て、拳銃を手に取り構える。


「お前はなんでそんなに銃火器を持ってんだよ」

「メタルガジェットソルジャーよ」


メタルガジェットソルジャー、通称MGSは主人公が様々な銃火器を駆使して潜入任務や破壊工作を遂行するゲームである。

葵はそのゲームをインポート、ダイノゲーマーズの能力によって具現化した事によって大量の火器を出し入れしているのだ。

このゲームにはクリア後の特典として弾薬を無限、無制限にするアイテムがある。

インポートした現実ではクリア後という条件を無視してそのアイテムを具現化できる。

つまり今、葵が放つ銃火器は全て弾薬が切れる事は無い。


「これはこの前の借りを返しただけよ」

「借りってなんだよ」

「……ウサギの、ぬいぐるみ取ってくれたじゃない……」


葵は少し照れながら小声でそう言う。


「そしてこれが服を買ってくれたお礼よ」


さっきまでの照れのある声とは裏腹にしれっとそう言うと葵は茜に黒い塊を渡す。


「なんだよこれ……って手榴弾じゃねぇか!!」


茜は渡された手榴弾をドッラタイタスの方へと投げる。


「ぐわっはっ!!」


ドッラタイタスは再び爆風に晒され吹き飛ぶ。


「喜んでくれて何よりだわ」


ほくそ笑む葵。


「……殺す気か、お前?」


静かにキレる茜。


「殺す気なんてあるわけないじゃない」

「噓つけすぐにでも爆発するようなもん渡しといてよぉ」

「言ったでしょ、服を買ってくれた……いえ、勝手に着せてくれたお礼だって」

「……わかったよ、悪かったな。草食恐竜」

「……なんですって?」

「トリケラトプス。名実ともにお前は草食恐竜って事だろ」

「……そうね、じゃあどっかの肉食恐竜に食べられないうちに他の場所に行こうかしら」

「おい待て」


その場から去ろうとする葵を茜は引き止める。


「なによ、あの子から連絡あったでしょう?敵の目的がわかったって」

「……何の話だ?」

「はぁ……これだから脳筋バカの肉食恐竜は……」


葵はため息をついた後に茜に説明する。

葵がここに来る少し前にマキが葵と茜に連絡して、このゲームがゲーム本体を見つけて破壊するのが目的とだと言っていた。

茜はその時ドッラタイタスの攻撃を避けるのに必死でその連絡をないがしろにしていたのだ。


「……なるほどね」

「わかったでしょ?私はあの子とは別ルートで本体を探すから……」

「葵、いやこの姿の時はトリケラって呼ぶことにしたんだ」

「……なによ」

「悪いけど、こいつの相手任せるから本体探すの私に任せてくれないか?」

「……いいわよ」


葵は茜のお願いを受けるとハンドガンを手に持って構える。


「さっきまでの不意打ちは良く効いたがこいつ、正攻法だと結構辛いからな」

「了解」

「じゃあ、任せたぜ」


茜はドッラタイタスが起き上がる前に葵に全てを任せてゲーム本体を探しにその場を去った。


「うぐぐ……オノレェェッ!」


そして茜が去った後すぐにドッラタイタスはそのボロボロの体で立ち上がる。


「うぐっ!」


ドッラタイタスが立ち上がると同時に葵は発砲、ドッラタイタスの肩に弾丸が当たる。


「貴様ぁ……どこまでも卑怯な……」

「まだ息があるみたいね」


葵はドッラタイタスの言葉などまるで聞く耳を持たずハンドガンを捨て、ガトリング砲を新たに手に取る。


「トリケラメダルの効果は自分が放つ攻撃を直線状に加速させる効果……」


葵は独り言を呟く。


「ベータが言うには元々トリケラトプス自身の突進力の強化、人が扱う時は剣や槍に乗せることで突きの射程と攻撃力を高める為に使う事を想定していたらしいわね」


葵はガトリングをドッラタイタスに向けて構える。


「でも私は……弾丸にその力を込める」


葵のガトリングが火を放つ、目まぐるしい速さで回転する砲塔、飛び散る薬莢と火花、弾丸は直線に放たれ幾度となくドッラタイタスの体を貫く。

ドッラタイタスの体を貫通した弾は尚勢いを衰えさせず、その身が砕けるまでドッラタイタスの背後の物体をも破壊して進む。

それはまるで一発一発の弾丸そのものが高速で突進するトリケラトプス。

それがガトリング砲ともなれば、群れを成して標的を蹂躙する破壊の軍勢と化す。


「弾丸は勢いを失わない。風などの抵抗も受けない。放たれた場所から直線状に何メートルも、何十メートルも進み確実に目標を貫く」


やがてガトリングの火が消え、その身が煙に包まれる様になると、その直線状に存在していたはずのドッラタイタスは跡形もなく消えていた。

その光景を見た葵は思わず微笑む……


「ふふ……何も残らない、死骸も、血も、何もかも……それでいいのよ、それで……」


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都心、謎の壁で囲まれた場所を探しまわるマキとユカリはその場所の中心を探していた。


「恐らくはこの辺りにある……はずなんですけどぉ……」


自身なさげにそう言うユカリ。


「見たん……ですよね?」


辺りを見渡しながらユカリに確認するマキ。


「はい、何かが形を変えて地面に潜っていったんですよ」

「その後に蝙蝠のやつが出てきたからそれが本体かもって事でしたね」

「はい」


二人はそんな会話をカメラを回しながら話している。

ユカリがカメラを手に持ち、何度も変身しているマキの姿を撮影している。


「プテラ、今どこにいるんだ?」


そんな時に茜からマキに通信が入る。


「あ、茜ちゃん……」

「……マキ、まぁ今は誰にも聞こえないからいいけど変身中はティラノって読んでくれよ」

「あっ!そうだった、ごめん」

「それでどこにいるんだよ」

「えっとね、クーさんが本体っぽいの見たっていう場所」

「それってどこだよ……」

「ベータに通信しなさい」


茜とマキの通信に葵が割り込む。


「葵、そっちは?」

「片付いたわよ」

「おぉう、はえーな」

「私もそっちに向かうわ」

「いや、いいよ。それよりもベータに通信ってどういうことだ?」

「全員の位置情報教えてくれるのよ。私もそれであんたを助けられたし」

「……なるほどな」


それは葵が茜の元に素早く駆け付けた方法でもあった。

その方法を聞いた茜はベータと通信してマキの場所を探し……

その通信を聞いていたマキはベータに茜の場所を聞いた。


「……あの~お二人とも」


その後、ベータが二人に話しかける。


「なに~?」

「なんだよ」

「一応、通信オプションで相手のコードネームを思って『サーチ』っていえばその人の位置がわかるようにはなってますよ?」

「……聞いて無いんだが?」

「あれ、葵さんから聞いていませんか?」


茜はベータのそこ言葉を聞いて思わず目を細める。


「……」


茜はその通信を無言で切ると葵に通信を行う。


「……なによ」

「お前……知ってたな」

「何を?」

「わざわざベータに通信しなくても相手の居場所わかる方法」

「だったらどうするのよ?」


茜は葵の問いに答えることなく通信を切る。


(サーチ・トリケラトプス)


茜はそう頭の中で思い葵の位置を特定する。


「ゲームインポート・地球特捜隊」


茜はその言葉とともにロケットランチャーを具現化する。


「ターゲット情報入力……」


そしてロケットを上空に向け……


「行って来い!」


トリガーを引き撃ち放った。


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「なにあれー?」

「なんでしょうね?」


ちょっとテンションの高くなっているマキと不安そうなユカリが茜の撃ち放ったロケットを目撃する。

そのロケットはゆっくりと進み目標へ向かっていく。


「なんかちょっと地球特捜隊ってゲームで有名なミサイルと似てますね」


ユカリがその様子を見て呟く。


「それってエアータートルって武器ですよね!?すごいゆっくり進むやつでクーさんも実況で使ってた」

「はい」

「確か動画だとロックオンした敵が自分に迫ってきて最終的に自爆しましたよね?」

「はい、サムネにしました」

「なんかその時と同じみたいですね」

「そうですね、こっちに向かってきてますね……」

「……」

「……」


二人とも数秒停止する。

しかし、その間もロケットは二人の方へ迫ってくる。


「クーさん」

「なんでしょうか?」

「言いたい事があります」

「奇遇ですね、私も多分同じ事を言いたいです」

「じゃあ、せーので言いませんか?」

「……そうしましょう」


「「……せーのっ!」」


「「逃げよっかァァァァ!!」」


ユカリとマキは声を合わせてそう叫ぶとその場から全速力で逃げた。

だがロケットは二人を追うことなく別の方向へと進む。

そう、そのターゲットは……


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「あった」


茜はたった一人である場所にたどり着いていた。

そこはある地下鉄の駅構内。


「これが奴らのゲーム機ってわけか」


茜は目の前にある禍々しい物体を見ながらそう言った。

そして茜が一歩前へと歩くとパンドゥラの幻影が現れる。


「よく来たわね、ティラノっ子」

「魔女……パンドゥラ」

「どうだった?私達のゲームは」

「あぁ、よく考えたなって褒めてやるよ」

「そうでしょう。お前に言われた通りにゲームに勝てば全ては元通り、犠牲者は一人も出ないわ」

「それ、本当だろうな?」

「ええ、このポムボンを壊せばゲームは終了よ」


パンドゥラの幻影は後ろの物体を指差しそう呼んだ。


「なるほどな、ゲームはゲーム機が動かなくなるまで続くってわけか」

「そう、盤が無くなればチェスは出来ない。そのゲームの有利不利に関係なくゲームオーバー」

「だからって盤がどこにあるかの宝探しゲームかよ」

「そうね、こちらも手探りなのよ」

「それでNPCはブロック崩しか……とんだクソゲーだったぜ」

「だから手探りだって言ってるじゃない!」

「まっ今回も私たちの勝ちだな、壊させてもらうぜ」


茜はポムボンに歩み寄る。


「言っておくけど、私が想定したプレイヤーはあくまでもあんた達じゃないから」

「……なんだと?」


パンドゥラのその言葉を聞いて茜は歩みを止める。


「私の相手はあくまでもただの人間。今後も私は人を相手にしたゲームを提供して私の目的を目指させてもらうわ」

「お前は私たちをどう思ってんだよ」

「そうね、ただの……おじゃま虫かしら」

「……そうか」


茜はパンドゥラの幻影の顔をぶん殴る。


「なら何度でも邪魔してやるよ」


茜は笑顔を見せる。

色々な感情が混ざり合ったかのような邪悪で優しい笑みを……

茜に殴られ、顔が半分となったパンドゥラも笑顔を見せる。

相手を小馬鹿にして蔑む様な不敵な笑みを……

そしてその幻影は消え始める。


「まぁせいぜい頑張りなさい。これはまだ余興、私達はより楽しいゲームを作らせてもらうわ……全人類が消えるような最高のゲームをね」


パンドゥラの幻影はそんなセリフを吐いて消えていった。

茜はその言葉を聞いて再び微笑む。


「全人類を消す、ねぇ……」


そしてそう呟いて一歩前へ進む。


「つまり全世界を今回みたいにするって事かよ……」


茜の手が震える。


「……面白れぇじゃねぇか!」


茜は震える拳を握りしめる。


「てめえらがいる限り、私の人生は最高だよ!」


そしてそう叫びポムボンに向けて拳を叩き込もうとしたその時だ。


「あっ!」


後ろから声が聞こえる。

茜はピタリと拳を止めて後ろを振り向く。


「もう一人の……ダイノゲーマーズ、さん?」


その声の主はカメラを持ったユカリだった。


「……あんたは確か」

「D-Tuberのクーさんですよ!」


ユカリの後ろからマキが現れる。


「……プテラか」

「うん。あか……じゃない、ティラノの場所探してたらここに着いたんだ」

「そうか」

「へぇーこれが怪物の言っていたゲームの本体ってやつですか~?」


ユカリはポムボンに近寄り撮影を始める。


「あんまり近寄んない方がいいぞ、私達もどうなるのか知らないし」

「そうですか……でも色々面白そうな機器が色々見えますねぇ~」


ユカリは茜の忠告を軽く聞いた上でポムボンの姿をじっくりと撮影し続ける。


「アカネェェッッ!!!」


そんな時、更に後ろから葵の叫び声が響く。


「どうした?茜って誰だよ」


葵の怒りに燃えている姿に動じる事なく冷静に返す茜。


「とぼけるんじゃないわよ!なによあれ!」


葵が自分の後ろの通路を指すとそこにはゆっくりとこちらに進んでくるミサイルが見えた。


「……あれって」


マキがミサイルを見て思い出す。それはユカリと一緒になって全速力で逃げたあのロケットだった。


「えっ!?なんで!?なんで!?こっち来てんの!?」


状況が理解できずパニックになるマキ。


「プテラ!そいつ連れて逃げろぉ!」

「えっ!うん!」


茜の声にハッとしたマキはユカリの元に行く。


「クーさん、ちょっと失礼します!」

「あっはい!」


マキはユカリを抱きかかえると持ち上げようとする。


(どうせそいつを壊せば元に戻るんなら)


そう思った茜は天井を見上げる。


「ゲームインポート!ファンタジスタオンラインセカンド!」


茜はその言葉とともに拳を掲げる。


「ハートレストォ……」


茜は拳にエネルギーを瞬時に貯めつつ天井へと移動する。


「インパクトッ!!!」


そしてその掛け声と共に拳を振り上げエネルギーを放出させて天井を破る。


「げっ……ゲームインポート!同じくファンタジスタオンラインセカンドでテクニック・サンダー!」


マキは咄嗟にそう叫び、茜が巻き上げる天井の残骸から雷で自分とユカリを守る。


「飛べ!プテラ!」


落ちながらマキの方を見てそう叫ぶ茜。

その言葉にマキは頷くと翼を広げる。


「飛びますよ!クーさん!」

「……はい」


ユカリはマキに抱きつく。

マキは少し照れながらも上を向いて茜が開けた風穴へ向けて飛び上がる。

マキが飛んだ勢いは凄まじく、一瞬で都心上空へと舞い上がった。


「うわぁ……とっと」


マキは慣れない動きで翼をはためかせて何とか上空にとどまる。


「わぁぁ」


ユカリはマキに抱きつきながらも周りの光景に見とれる。

そう、その美しい光景と自分を抱える正体不明のヒーローの姿に瞳を煌煌とさせる。

そして、手を握る。


「ふぇっ!」

「……ごめんなさい。その、こんな状況ですけど一緒に撮ってもいいですか?」


ユカリはマキにそうお願いしながらスマホを取り出す。


「言われればどこにも投稿しません。せめて記念に……」


ユカリはマキに断れるのを前提に頼み込む。


「……いいですよ。私もクーさんのその、ファンですから」


マキは快く承諾する。


「ありがとうございます。それと、撮影外では名前で呼んでくれませんか?」


マキの答えに喜んだユカリは頬を赤らめて更にもう一つお願いする。


「わかりました。ユカリさん」


マキは笑顔を作りそれも承諾する。

その答えを聞いたユカリはウルウルとした目を向ける。


「じゃあ、撮りますよ」

「はい」


二人が上空で記念撮影をすると撮り終わったと同時に直下で爆発が起きた。


____________________________________________________________


少し時は戻りポムボンのある場所。

茜の方に葵が向かっている。


「なによあのクッソ遅いミサイルは!?」

「ああ、あれか……」


茜は人差し指で宙に文字を書く。


「……読めないわよ、口で言いなさい口で!」

「お・れ・い」

「……お礼?」

「そ」


後ろを振り向いてミサイルを見る葵。


「あれのどこがお礼よ!」

「そうだよその言葉だよ!私が少し前にてめーに言いたかった言葉だ!」


茜はいきなりキレる。


「お前が手榴弾くれたから私はエアータートルをプレゼントってわけだ」


エアータートルと言うのは地球特捜隊に登場するプレイヤーキャラよりも遅い進み、最初にロックオンした敵をいつまでも追ってくるミサイルのことである。


「お前がな、ベータに言われてたことを教えてくれなかったからな、イラッときてついそいつを召喚してお前を標的にしちまったんだよ」


茜は葵に笑顔を向けながら、内の感情を隠して少し片言になりながらも優しく話す。


「……それは」


葵は拳銃を手に取る。


「悪かった……」


葵は拳銃を握る。


「わねッ!」


葵は茜に向けて弾丸を放った。

しかし茜は葵が何をして来るのかわかっていたかの様に首を傾けてその弾丸を躱す。


「あっぶねぇな!」

「わかってたくせによく言うわ!」


二人は戦い始める。

だけど接近しようとする茜に対して葵は距離を離しては発砲を続けるいたちごっこ。

少し過激な子供の喧嘩に過ぎない。

しかし葵に迫るエアータートルが葵の行動を制限する。

逃げようとしたポイント、銃を撃とうとしたタイミング、その全てで都合よくエアータートルの爆発範囲内に入ってしまう。

次第に葵の方が先に苛立ち始める。

そして葵の後ろにポムボンが来て茜が上空に飛んだ、その時だ。


「そこだぁッ!!」


茜の尻尾が葵を掴み引っ張り上げる。


「ゲームインポート・ライメイレブン!」


茜は葵を捕まえたのを確認した後、そう叫び火球を作りエアータートルに向けて蹴り放つ。


「ちょっ!離しなさ……」


葵が抵抗する間もなく火球はエアータートルにぶつかり爆発、周囲に爆風が広がる。

その爆発こそが、マキとユカリが上空でみた爆発だった……


都心に風穴が空いた。

その爆心地から二人が上空に舞い上がり、近くのビルに着地した。


「何してんのよ!バカ!」


葵は茜に対して罵声を上げる。


「仕方ねぇだろ、どのくらいで壊れんのか知らなかったんだからよ」

「あんたまさか……」

「そ、お前を煽ってわざとな」


葵は茜の言葉を聞いて目を細めた。


「……物にはやり方ってものが」

「お前に言われたくねぇよ」


そして二人はお互いに黙り込んだ。


____________________________________________________________


都心に風穴が空く程の爆発を上空で見ていた二人もまた近くのビルに着地した。


「大丈夫ですかユカリさん」

「はい、大丈夫です」

「凄い爆発でしたね」

「……はい」


ユカリはマキの手を握る。


「すみません。この光景、撮らせてもらいますね」


ユカリはカメラを取り、見ている凄惨な光景を写す。


「見てください。私達が先程まで普通に暮らしていた場所が……こんな風に変わってしまっています」


ユカリはカメラを回し始めて実況を始める。


「この状況は実際に本物の怪物によって引き起こされました。そこで、そんな怪物達と戦う本物のヒーローと私はコンタクト出来たので聞いてみたいと思います」

「えっ!?えぇ!?」


急にカメラを向けられてあたふたと焦るマキ。


「大丈夫です。この辺編集しとくんで」


ユカリがそう優しさを見せてマキはほっと胸をなでおろす。

そして気を取り直してカメラの方に目線を向ける。


「その、私はダイノゲーマーズ。本当に地球で戦う、その、ヒーローです」


マキはカメラ、ユカリに少し緊張しながらそう言う。


「地球には、みんなが知らなかった脅威や不思議な力が本当にあります」


マキは将来動画を見る人々にメッセージを発する。


「今回のは多分、始まりに過ぎません。これからもこんな事が起こると思います」


マキは自身の胸に手を当てる。


「でも、私達が守ります!絶対に……」


マキの絞り出したその言葉、意味合いよりも自信なさげな声に少し不安を感じさせる。

その瞬間である。

辺り一面が闇に包まれていく。


「えっ!?何が起こったの」


ユカリは咄嗟にカメラをそっちに向ける。

闇は被害のあった箇所全てに広がる。

ユカリ達のいる場所にも……


「危ない!」


マキはユカリを抱えて上空へと飛び出す。

そして二人は上空から闇に包まれる都心を見渡す。


「どうして、いきなり……」


マキが震える。

しかし闇が被害のあった場所を完全に包み込むと眩い光が広がった。

その輝きに思わず目を瞑るマキとユカリ。

そして光が弱まり二人が目を開くとそこには……


「うそ……」

「……だよね」


そう、そこにはまるで先ほどまでの爆発、戦い、騒動などなかったかのように元通りの都心の光景が広がっていた。


「元に……戻ってる……」


マキが空を飛び回ってみるとゲームなんかで見るような魔法陣から消されたはずの人々が一人ずつ召喚されていた。


「ゲームクリアおめでとう!」


そう叫ぶ声を耳にしてマキがその方向を見ると蝙蝠の怪物トークバットがそこにいた。


「……あなたは確か、クーさんの動画に出てた」


マキはユカリを近くにおいて武器を持ってトークバットに近づく。


「これはこれはダイノゲーマーズのお一人様」

「あなたが主犯?」

「いえ、私はナレーター。ただゲームの状況を話すだけの役割」

「それでも私の敵には変わりないよね?」

「えぇ、変わりありません。ですがゲームが終わった今、私の役割は終わりました」


トークバットの体は闇に包まれ始める。


「あっ!まって!」


マキが止めようとするもその体は瞬時に闇に飲まれ、魔法陣が現れる。


「それではまた、次のゲームでお会いしましょう」


魔法陣が輝き、トークバットと闇を包むと彼の姿を完全に消してしまう。


「……逃げられた」


マキはユカリの元へ戻る。


「逃げられちゃいました」

「そうですか、残念ですね」

「また次のゲームでって言ってました。また相手はやる気なんですね」


落ち込むマキにユカリは言葉をなくす。


「その、上手く言えないんですけど」


数秒の間の後、ユカリはマキに話しかける。


「……頑張ってください。応援してますし、私もできるだけ手伝いますから」

「ありがとうございます。ユカリさん」

「いえ、こちらこそ」

「それじゃあ、またどこかで」

「はい」


マキとユカリはそんな会話を終えると別れた。


「プテラ!今どこにいるんだ!?」


茜からマキに通信が入る。


「あ、ティラノ実はね……」


マキは茜に自分の場所を伝えると瞬時に光の玉が迫りマキを中に入れる。


「うひゃあ!」

「その格好で街歩いてたら人目に付くぜ」


光の玉の中にいた茜と葵は既に変身を解いていた。


「茜、ちゃん」

「今はそう呼んでいいぜ」

「今回の戦いはこれで終わりのようね」

「そうみたいだね」

「被害を出したみたいに見えたが全部戻ってるな」

「そうだね、本体ってのを破壊したら全部無かった事みたいになっちゃった」

「被害者側からしたら結果的には何もなかった、と言うよりも時間だけが経った感じだな」

「要するに、勝ちさえすれば被害は無いってことね?」

「そういうことだな」

「今回ばかりは、ってことは無いわよね?」

「……保証はないな。相手のやり方次第だ」

「ゲームで例えると?」

「相手がホスト。ゲームに入った時点じゃルールは教えてくれないクッソ不親切なホスト」

「……なるほどね、今回だけはそう言う形にしましたって言われたらそれまでね」

「そういうこと。次が来るまでどんなルールかわかんねぇんだよ」

「次は取り返しのつかないゲームにされる可能性はあるから……」

「今度来たら即対応だね!茜ちゃん、葵ちゃん!」


マキの言葉に茜はコクコク頷くが葵は特に返事を返す素振りをしなかった。


「茜さん、葵さん、マキさん、そろそろ元の場所に戻ります」


ベータのその言葉とともに光の玉は茜の家に戻ってくる。


「ちゃんと寝室に入れてくれよ」

「了解です」


茜の家の寝室に着き、光の玉は消えてしまう。


「よし、ゲームクリアだな」

「なによその言い方……」

「一大事なんだよ!茜ちゃん」

「わぁってるよ、そうでも思わないとやっていけねぇだろ」

「……私、そうでもないよ」


強い言葉の割には自信のない自分とは逆に気弱な声色の割には自信のあるマキの言葉に茜は驚く。


「そうだな……それじゃあマキ、帰る時間まで家で遊んでいくか?」

「うん!」

「まだあのゲームも途中だったしな」

「そうだね」

「割と面白かったなあれ。マキ、お前やっぱセンスあるわゲームも服選びも」

「そ……そうかなぁ~」

「そうだよ」


二人がそんな話をしながら再びリビングに戻っていくのを葵は見送る。

そしてその場に一人になる。


「茜はいつもそうやって誰かと仲良くなるのね……」


二人の方を見ながらそう言って微笑む葵は何かを考えていた。

そしてそっと懐からダイノコインを二枚手に取る。


「私も見つけないといけないわね……これを渡せる誰かに……」


葵はステゴサウルスのコインを見つめながらそう呟いた。

____________________________________________________________


マキと別れて自宅に戻ったユカリは惚けていた。

ユカリから見たらマキの姿は女性とも男性ともわからない。

ダイノゲーマーズの人物保護システムが働いているのだ。

だから、ユカリはマキに惚れた。

マキに抱えられて上空で撮った写真を見ながら。


「もっと彼のこと、知りたいな」


そんな事を呟きながらユカリは動画編集を続けるのだった。


後日、ユカリの上げた動画と被害にあった人々の証言や動画によって人類は震撼した。

超常現象と悪魔の実在が証明されてしまったのだ。

そして以前は噓と言われたパンドゥラが蘇った時の動画も再度話題になった。

今日を境に世界、リアルと言うゲームは新たなステージに進んだ。

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