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第一話『Hero comes a new challenger!』

 

 ゲームとは?

 それは、駆け引きを楽しむ遊びのことである。

 今一般的にゲームとは総じてデジタルゲームのことを指す事が多い。

 デジタルゲームとはテレビや携帯端末を使いディスプレイ越しにプログラムで作られた遊びのことだ。

 だが、ゲームの歴史はデジタルゲームが生まれるはるか以前に遡る。

 実際の物を使うボードゲームにカード、体を動かすスポーツもゲームとなる。

 ならば人類の歴史が始まり遊びという概念が生まれた瞬間こそ、ゲームの誕生と言えるのだろう……


 ……いや、そんなことはない。

 それよりはるか昔、もしかしたら……


 ____________________________________________________________


 そして、現在。


「はいどーもー!プレシーチャンネルのクーです!」


 カメラの前で挨拶する女性。


「私は今っ!あの歴史的発掘現場に来ています!」


 その女性がいるのは多くの人が集まる広場、人だかりの中央には古びた壺のような物が置いてある。

 壺の大きさはおおよそ子供の背丈くらいだ。


「おぉ~……クーさん凄い所に行ってる~」


 そこから遠く離れた場所、クーと言う女性のカメラで撮られた映像を自分のスマホで見て驚く少女。

 少女は電車のシートでヘッドホンをしながらそれを見ている。


 あかり(マキちゃん今どこ?)


 少女のスマホにメッセージが入る。


 マキ(電車。クーさんの動画見てる)


 少女は素早くメッセージを返す。


 あかり(どんなの?)

 マキ(歴史的発掘!恐竜時代のオーパーツ!っての)

 マキ(動画のURL)


 その動画を見ながらメッセージでやり取りを始める少女マキ。


「と、いうわけで私もD-Tuberとして参加したわけですね~」


 動画の中からクーの声が聞こえる。

 D-Tuberとは、動画配信サイトD-Tube(ディーチューブ)に動画をアップロードして収入を得ている芸能人の総称だ。

 クーの話から、この発掘には多くのD-Tuberが関わっていたことがわかる。

 D-Tuberの中には考古学者やそれらに近い学問を学んでいる人々もいる。

 クーの動画ではそんな人々と会話する場面がいくつもあった。


 マキがしばらくそんな動画を楽しんでいると流れる電車内のアナウンス、それにハッとして動画を見るのを止める。

 そしてスマホをポケットに入れると席を立って電車から降りた。

 ____________________________________________________________


 同日、東京都内。


 少女の家のインターフォンが鳴る。

 少女は朝食のカップ麺を食べるのをやめてインターフォンを取る。


「葵ぃーゲーセンいこーぜー」


 インターフォン画面の向こうの少女はインターフォンを取った少女にそう声かける。


「まだやってないわよ」


 そう言って葵はインターフォンを切る。

 画面の向こうの少女は再度インターフォンのボタンを押す。


「学校行っても暇じゃーん」


 押した後、少女はそう言うとすぐに家の扉が開いて葵が出てくる。


「じゃあゲーセン開くまで私の家にいる?」


 葵が少女に問いかける。


「おねがいしまーす」


 少女は笑顔で答え、葵の家に上がった。


「お、またカップ麺?好きだね~」


 少女はリビングに上がるなりテーブルに置かれていたそれを見て言う。


「好きなのは知ってるでしょ?」

「知ってる知ってる。けどこればっかだと体に悪いぞ~」

「サプリメントも一緒に摂っているから大丈夫よ」


 葵はお菓子棚から大量の栄養サプリメントを出す。


「上手いのか、それ?」

「不味くはないわ」

「普通に飯食った方が美味しくないか?」

「自然そのままのやつって好きじゃないのよ」

「そう……」


 葵はサプリメントを一個ずつ袋から出すとテーブルについて再びカップ麺を食べだす。


「いつも通りもう繋がってるから」


 葵は食べながら少女に言う。

 少女は軽く返事をしてテレビの電源とゲーム機の電源を入れる。

 電源が入ると少女は慣れた感じにゲームソフトを選ぶ。


「これ、やっていいか~?」


 少女の言葉に葵は麺を啜りながら頷く。

 それを見た少女はゲーム機にFPSのソフトを入れる。


 ゲームが始まると黙々とやり始める少女。

 葵はサプリメントを飲み、食べ終わったカップを捨ててから少女に話しかける。


「いいわよ。私、自分の部屋で同じのやるから」


 葵はそう言うと自室に向かった。


「おうッ!」


 少女の元気な返事は葵の部屋にまで届いた。

 しばらくゲームをする2人。FPSのマッチングで時に協力したり対峙したりしていた。

 そんな彼女たちの時間を壊すように10時過ぎくらいに電話が響く。


「あおいー電話――!!」

「はーい」


 葵が一旦ゲームを中断して電話を取る。相手は学校の先生だった。

 そうだと判ると急に葵はしおらしくなり。


「ごめんなさい、先生。本日も体調が悪く学校に向かうことは出来ません」


 そんな言い訳を言って電話越しの先生を納得させた。


「今、亭羅(ていら)さんが家に来て看病してくれています。私の体調次第では彼女も休むかもしれません」


 葵は更に続けてそう言った。

 亭羅とは茜の苗字だ。


「はい、そう伝えておきます。じゃあ先生、また明日行けたらよろしくお願いします」


 葵は最後までしおらしい態度で対応して電話を切った。


「茜!あんたは適当なところで学校こいだって!」


 電話が切れたと同時に彼女の態度は元に戻りそう怒鳴った。


「うっせーバカって伝えといてくれ!よろしくな!」


 ゲームに集中しているのか茜は葵の方を振り向くことなくそう言った。


「もう切ってるわよ。あと前にあんたが来た時に置いてったコーラとビーフジャーキーまだあるけどいる?」

「おうッ!」


 茜の勢いある返事に葵はため息をつきながら冷蔵庫から茜が置いていった二つを取り出して彼女の横に置く。


「じゃあここ置いとくから。それと、もうすぐゲーセン開くわよ」

「オッケイ!じゃあこれ終わってそれ食ったら行こうぜ!」


 2人はそのやり取りをするとゲームセンターに行くまで別々の部屋でゲームを続けた……

 ____________________________________________________________


 多くの人が集まる広場、クーやD-Tuber達が集まっていたあの広場。

 専門家達が古代の壺を調べている。

 それは、考古学の面からも有り得ない壺。

 発掘された場所は恐竜時代白亜紀末、人類の歴史以前から存在する人工物。

 現実的に考えれば、人類の誕生後に誰かが穴を掘り、そこに置いたと考える。

 だが違う、それは有り得ない。

 壺を形成する物質、形状そのどれもが人類が誕生してから現在に至るまでのどこの文明のものとも違う。

 いつ、誰が、何のために作ったのかすらそこにいる専門家達でも憶測の域を超えることは出来ない。

 こんな好奇心をくすぐるオーパーツ、誰が触らないというのだろうか?

 ここにはそんな子供の様な探求心、好奇心を持つ者しかいない。

 カメラを回す者、厳重にその壺を調べる者、周りで見る者、その全員がそれだ。

 だから、開ける。

 それは人類の、或いは地球の神秘を追求する大いなる一歩となる行いだ。


 それが何かわかっていたなら……


「逃げろ……それは開けてはならない……」


「なに、今の声……?」


 今にも蓋が開かれると言う瞬間、クーにだけ聞こえる謎の声。

 だがクーはここにいる誰かの声だと思い、聞き流す。

 それはその声のいう事がここにいる人間とは逆の一言だったからだ。

 こういうことを言う人はまれにいる。

 周囲の人々が思うことと真逆の事をいう事で注目を集めようとする人、逆張りと呼ばれている。

 クーはそういう逆張りを多く見ている。

 だから、自分に言われたと知っていても反応しなかった。


 壺の蓋が開かれると同時に溢れ出た光は周囲を包み込む。

 その強烈な光から人々は目を覆いながら歓喜や恐怖が入り混じった声をあげる。

 光はやがて煙となり、壺の中身を覆い隠す。


 瞬間、壺の中から伸びる手。

 その手は人と似た形、しかしその肌の質感や細部はまるで爬虫類と蝙蝠を足した様な異形の手。

 それを見た者は悲鳴をあげる。

 手の主が壺の中からゆっくりと這い上がろうとすると同時に後ずさりを始める人々。

 中には後ずさりをしながらも、本物の怪物を自分のカメラで撮影を始める人もいる。


「クリィーチャーァァァァァ!!!!」


 誰かの叫び声と共に人々はパニックになり勢い良く壺から離れる。

 同時に、壺の中の怪物はその姿を現す。


 その姿は一見すると人間。

 二足歩行のサルの様な姿、しかし蝙蝠の様な翼を持ち口元には牙が生えている。

 手には鱗、肌は青白く鳥のような目。

 そう、その姿はドラキュラ伝説のドラキュラのように見える。

 だが怪物は太陽の光をものともせずに辺りを見渡し、その蝙蝠の翼をマントに変えて身に羽織り地面に降りる。


「ふむ……かつての神の様な建築物、そして神々……いや、違う……なるほど彼らは……」


 怪物は警戒する人々や周りの様子を見渡しながら呟く。

 そして壺の方を向き平身する。


「パンドゥラ様、久々の地上でございます」


 怪物の言葉と共に壺の中より舞い上がる黒煙。

 黒煙は周囲に拡散し、人々、そして街中を包み込む。

 だが黒煙はしばらくすると再び壺の前でより収束して次第に人の形を形成していく。


「ふふふ、どうやらどこぞの誰かが封印を解いてくれたみたいね」


 黒煙は老婆とも若い子供ともとれる複数のエコーが関わった様な女性の声でそう言う。

 そしてその姿が完全な人の形になると地面に足をつける。


「じゃあ、ゲームの続きといこうかしら」


 黒煙は笑いながら言うと、黒いドレスを着る少女となる。


「パンドゥラ様、しかしながらこの時代は……」

「わかっておる。既にあの頃から1億と数千年は経っている」

「では……」

「いや、奴も目覚めているはずだ」


 ドラキュラの様な怪物と黒煙の少女は話し合う。


「それにしても……」


 少女は辺りを見渡す。


「よくもまあここまで成長したものだ。人の間、神と悪魔の子供達よ」


 そして目を細めて達観する。


「フッ……かつての大陸の王者も地に落ちたものだな……」


 少女は誰かが持っていたフライドチキンを目にして憐れむ目でそう言う。

 そして壺に謎のエネルギーを送り始める。


「皆の者、出てきなさい!1億年ぶりの自由よ!」


 その言葉と共に壺から異形の手が多く現れた。

____________________________________________________________


 同時刻、地球内のどこか。


 無数の機械がひしめき合うまるでSF映画のセットの様な空間。


「あうあうあ~!どうしましょ!どうしましょ!!どうしましょ!!!」


 そこで慌てふためく少女、その見た目はどこか機械的な要素がある。


「ベータ、どうした?」


 彼女を心配する様な男の声。


「あぁ、トリル様大変なんです!」

「なにがあった?」


 巨大な装置から半透明な鳥の羽を持つ人の右腕が現れる。


「見ての通り私はまだ完全に再生できてはいない。復元には後4億年はかかる」

「あう~……そうは仰っても大変なんですよ~」

「それで、なにがあったのだ?」

「それが……パンドゥラの封印が解かれたみたいです~」

「なんだと!では早急にGクリスタルの封印を……」


 トリルが驚き焦りそう口ずさもうとした瞬間であった。


「はぁい!トリル」


 パンドゥラの声が聞こえる。


「あうぅ~……世界各国であの場所にいたD-Tuberのチャンネルを通してこちらにメッセージを送っていますねぇ~……」

「パン……ドゥラ……」


 パンドゥラは黒煙状態であの場にいた人々の記憶を垣間見て、自分が封印されてから現在に至るまでの歴史を知ったのだ。

 そしてあの場所にいたD-Tuber全員を人質にし、彼らのチャンネルを利用して世界に自分の存在を知らしめていた。


「あいさつしてくれないのかい?貴方もどこかで見ているんでしょう?」


 パンドゥラは動画の中からトリルに話しかける。

 トリルは黙ったままだ。


「黙りこんだまま~?これを見ても?」


 パンドゥラはカメラを動かし人質の姿を動画の中に映す。

 人質は怪物に囲まれ、腕と足を魔方陣の様なもので縛られている。


「じゃあいいわ……さあご視聴の人間の方々、ゲームの時間よ!」


 パンドゥラは微笑みながら動画の撮影を続ける。


「これを見ていても、見ていなくてもあなた方全員がこのゲームのプレイヤーよ」

「ルールは簡単、私達の元から人質を解放するだけ」

「でも私達もただじゃあ渡せないわ。抵抗もするし、攻撃もする」


 パンドゥラはゲームのルールを説明し始める。


「ああぅ……これはまずいですよ」


 ベータがそう呟くのも無理はない。

 これは現実に起こっている世界の危機だが、それを見てこれが本当のことだと思っている人は殆どいない。

 世間的にこの動画は確かに多くの人に見られている。しかし、誰がこんな世離れした現状を真実だと思うだろうか。

 付近の住人がそれをネットに流し、世界に広まり始めるまで物の数秒、しかしそれを真実と思う者はまだ少ない。

 何より、その震源地はD-Tuberという噓も真実も喜劇も悲劇も娯楽も事件だろうと全て纏めて動画という形で野に放つネットの海の厄介者。

 彼らが集まった場所で何が起ころうと『動画の為の演出』と捉えられてしまう。

 よりにもよって、この日本という国は危機管理の薄い国だ。

 政府などの上層部は前例のない非常事態を後回しにし、前例がなければ大丈夫と言う前向きな性善説を唱える。

 国民たちの多くはネットでの情報を真実ではないと考えている。

 ネットで信憑性の薄いものは例え真実でもデマと思い、逆に信憑性のあるものはデマであっても真実と思うものだ。

 始末に悪いのは仮に真実であると言う証拠があったとしても、現状多数がデマと思っていればデマだと信じる人が多いということだ。

 何とまぁ上も下も都合のいい人間が多いことか、まともな人は既に多くを把握していると言うのに……

 それこそ、そんな人々と同じネットというツールを使って知っているのだ。

 この非常事態も現状多数の人間が『D-Tuber達の動画演出』と思っているのでデマだと思い込んでいる。

 震源地付近の住人は非常事態を真実だと知っている。

 だが、声は届かない。

 そして……

 怪物の手にかかる。


「ベータ!至急ダイノファイターの代わりとなる人達を連れて来るんだ!」


 トリルは焦りの入った声でベータに命令する。


「でも……ダイノコインはその種の恐竜のメスじゃなくては使えなかったのでは……?」


 ベータは質問を返す。


「この1億年で仕様を変更したのは他でもない、君だろうに」


 トリルは呆れる。


「あっ、そうでした!私が2000年くらい前にそうしたんでしたね」

「……ベータ、非常時だ。頼むからしっかりしてくれ」

「えへへ~すみません。至急人類版ダイノファイターのメンバーを選定します」


 ベータは別室に向かった。


____________________________________________________________


 同日、東京都内。


「おぃ相方ァ!!」


 ゲームセンターに鳴り響く奇声。


「……うっさい」


 その隣で小さく呟く葵の声。


「ゲロビ当てんなバァァァアァァカッ!!てめえのせいで負けたじゃねぇかァァァァァ!!」


 奇声の主は更に叫び声をあげる。

 葵は立ち上がると同時にゲームの筐体をバンッと叩いてそこを離れる。


「逃げんなざぁぁあぁあぁあぁこ!!」


 奇声の主がその場を離れる葵に向かって吠える。

 葵はたまらず耳を塞ぐ。


 葵が向かった先はクレーンゲームコーナー、そこで太いカルパスを咥えながらウサギのぬいぐるみを取ろうとする茜と会う。


「それ、取れないわよ」


 葵は冷静に茜に指摘する。


「ふっへ~ふふへへへ」


 茜がカルパスを咥えながら答える。


「何言ってるか全然わかんないですけど」


 不機嫌な口調で葵がそう言うと急いでカルパスを食い終える茜。


「うるせ~知ってるよ」


 カルパスを飲み込むとそう言い直す茜。


「じゃあなんでやってんのよ」

「楽しいから」

「落とせないのわかってて?」

「まあな」


 葵の指摘に笑って返す茜。


「はぁ……どうやらあんたは本物の馬鹿のようね」


 葵はため息をついてそう言う。


「それで、エクヴァはどうしたんだよ」


 茜が少しムッとした顔で葵に尋ねる。


「やめてきたわ」

「なんで?」

「相方が余りにもうるさいのよ……」

「そりゃあまぁ……ご苦労さん……」


 葵のどこかイラッとしている返答に同情する茜。


「で、どうしたんよその相方」

「相手に接近したところをゲロビで一緒に引導を渡してやったわよ」


 葵のプレイを聞いて茜は爆笑する。

 その際にクレーンゲームの筐体のボタンを意図せず押してしまう。


「……ぬいぐるみ、落ちたわよ」

「えっ!?」


 茜が驚くのも無理はない、偶然にも押したボタンのタイミングとポイントはぬいぐるみと穴の隙間の急所を突いた。

 グッとクレーンのアームで押されたぬいぐるみは穴の隙間に入り込み、頭の重さでするりと落ちたのだ。

 茜は青天の霹靂に真顔になりながらもゆっくりとぬいぐるみを取り出す。


「ほい」

「むぐっ!」


 茜はぬいぐるみを葵の顔に当てる。


「なにすんのよ!」

「やるよ」

「いらなっ……」


 葵がそう言おうとした瞬間、茜はニヤリと笑う。


「いらない~?おっかしいね葵ぃ~……」


 茜は八重歯を見せて、ぬいぐるみを葵に押し付けながらニタニタ笑ってそう言う。


「なっ……なによ……」

「お前さぁ……前に来た時このぬいぐるみ欲しそうにしてたじゃねぇかよぉ~」


 茜の言葉に目を丸くする葵。


「して……無いわよ……」


 そして葵は少し恥ずかしそうにぬいぐるみで顔を隠しながら茜との目線をそらす。


「なんだその態度、乙女か?」


 葵の態度にニンマリ笑顔で茜は言う。


「あぁうっさいわね!欲しかったわよ!」


 その言葉に葵は顔を赤くして叫んで返す。


「じゃあ持ってろ」


 茜はそう言うとクレーンゲームエリアから離れる。


「……わかった……」


 葵は恥じらう顔で小声でそう言うと茜についていく。


「じゃあエクヴァでもやりに行くか~」

「……うるさいのいるんだけど」

「いいじゃねぇか。そいつが黙るくらい、こっちがうるさくなんだからよ」


 茜の不敵な笑みに目を細める葵。


「……だから動物園みたいなのよ」


 そしてボソッと呟いた。


「動物園ねぇ……お似合いじゃねぇか、ウサギ抱いてる宇佐美ちゃんにはさっ♪」


 葵の態度を見てから茜は茶化した。


「……肉食恐竜」


 葵はジトっとした目で茜にそう言う。


「なんか言ったか?」

「あんたの事よ、いつも肉食べててクッソうるさくて人んちにあがってくる肉食恐竜」


 茜はそれを聞いて目を瞑る。


「葵、覚えとけよ……」


 茜は数秒後、目を見開いて強く穏やかに言った。


____________________________________________________________


 茜と葵のいるゲームセンター内。


「まだあかりちゃん来ないな~」


 マキはダンスゲームの筐体の前のテーブルで足をぶらぶらしながら待っている。

 そんな時にマキのスマホにメッセージが入る。


 あかり(ごめんまだ行けそうにない)泣いている絵文字

 マキ(そっか~じゃあてきとーに遊んでるねー)


 マキはあかりとメッセージでそんなやり取りをしながら場所を移動する。

 移動した先はエクヴァと言うロボットを操作して相手プレイヤーと戦うゲームの筐体の場所。

 一見すると普通の女の子が入っていくようなゲームではない。

 それは何と言ってもこのゲームmわりかしロボットが好きな一部の男性向けに作られているゲームだからだ。

 だけどマキはこれに興味があった。

(このゲーム、色んなD-Tuberがやってるんだよね)

 そんな考えがマキにはあった。

 D-Tuberは多種多様なジャンルの番組を配信する。

 中にはサバイバル生活の体験を配信しつつ、こういったゲームのプレイを配信する人もいれば……

 企業から依頼されて玩具や家電のレビューを配信しつつ、そのジャンルの海外製海賊版パチモノ商品を同時にレビューする人もいる。

 そう、D-Tuberの存在はそのジャンルに興味のない人間をそのジャンルに引き込み易くしたのだ。

 だからマキというあんまりロボットに興味のない女の子も……

(クーさんが紹介しててちょっと興味持ったんだよね)

 と言う具合に引き込めてしまうのだ。


「えっと……まずなにするんだろ……」


 マキは何をすればいいのかわからずオロオロする。


「初めて?」


 マキは後ろから話しかけられる。


「あっ……はい……」


 マキは少し不安そうな顔で振り向くと、そこには自分と同い年くらいの女の子が二人いた。

 それを見た瞬間、ぱあっとマキの顔が明るくなる。


「よかったぁ……やってみたかったんだけどどうやるかわかんなくてぇ」

「そうか……葵、教えてやれ」


 女の子の背の高い方、茜が後ろの葵に向かって言う。


「なんで私が!?」

「めんどいから」

「嫌よ」

「……あっそ……」


 二人がそんなやり取りをすると茜がマキに寄る。


「あんた、パスカード持ってる?」


 茜がマキに話しかける。


「えっと……持ってます!」


 マキが茜にパスカードを見せると茜はマキにゲームのやり方を教え始める。

 マキがゲームを始められる様になったら茜と葵はマキと対面の筐体に座る。


「……鬼ねあんた」


 葵は茜に小さい声で言う。


「なにが?」


 少しにやけながら茜は声に応える。


「やり方だけ教えて、敵対側に座るなんて」

「それがどうしたよ」

「……別に」


 葵は茜が自分でゲームを教えておいて店舗内対戦の時にゲーム内でマキと敵対する席に座ったこと疑問を持っていた。


「悪いけど、わざと負けてあげようなんて魂胆ならあんたごと潰すからね」


 葵は少し怒った口調で茜に言うとゲームで自分の使うキャラを選ぶ。

 葵が選んだロボットは飛行機に変形する狙撃銃を持った青いロボット。


「またそれかよ!」


 葵のキャラ選択画面を覗いて叫ぶ茜。


「あんたも同じじゃない」


 そんな茜も葵に指摘された様にいつも使っている赤いロボットを選んでいた。

 茜が選んだロボットは龍に変形する大剣と鞭を持つ悪役ロボットだ。


「あんたの300コスほんっと重いんだけど」

「黙れ」

「……チッ」


 葵が思わず舌打ちをするのも実は無理もない。

 このゲームのルールは簡単、2人1チームとなって相手のチームの持ちコストを先に0にした方が勝ち。

 そのために相手チームのロボットを自分のロボットを使って攻撃し、ヒットポイントを0して持ちコストを削る必要がある。

 ロボットのコストは機体ごとに上から300、250、200、150と分かれている。

 チームの持ちコストは600、茜が選んだロボットのコストは300なので半分を占めている。

 つまり、茜のロボットが負けることがあれば二人のチームはそこで窮地になる。

 葵の選んだロボットのコストは250、自分が二回負けても合計コストは500なので三回までは耐えられる。

 茜と葵のロボットの合計は550なので二人とも一回づつ負けたとしても残り50で負ける事はない。

 だが、この数字がこのゲームでは命取りなのだ。

 最後に復活したロボットは自分のコスト-残りのチームコストの分しかヒットポイントが回復しない。

 つまり300コストなら50だと6分の1、250だと5分の1程度しか回復せず戦場に出される。

 それは最後に復活した方が相手側から狙われ安くなる事態なのだ。

 相手側からすれば、雀の涙程度のヒットポイントの相手がある一定の位置に現れる事になる。

 しかも現れるまでは2対1の状況を作れる、非常に有利な状態となる。

 葵が危惧したのはそれともう一つある。

 それは葵のロボットはこのゲームで基本的な射撃戦が出来るが茜のロボットは遠距離攻撃用の武器が存在せず、相手側に接近しないと攻撃を与える事は出来ない。

 故に1対2の状況に陥ると不利になりやすく一番初めに負けやすいキャラなのだ。

 それはつまり相方である葵が1対1と1対1の状況を作る必要が出来ると言うことだ。

 上記で述べた通り、茜が負けても葵の負担となる。

 茜は葵が不利な相手を狙い、葵は茜の不利な相手を狙う事を強いられる。


 要は葵は自分のプレイが茜のせいで制限されるのが気に入らないのだ。


「えっと……これがクーさんが動画で使ってたやつだね」


 マキも茜たちと反対側の席で自分の自分の使うキャラを選んでいる。


「ん?」


 マキの隣に見知らぬ人が座る。

 見知らぬ人はマキに一言も話しかけず黙々とゲームを始める。

 その人が選んだロボットは黄色い寸胴なロボットだ。


(私も選ばないと…)


 そう思ったマキはクーが動画の中で使っていたことのあるロボットを選ぶ。

 マキが選んだロボットは機械の翼と両腕に金色に光る剣を持つ白いロボット。

 店舗内の4つの筐体、その全プレイヤーがロボットを選んだ時、ゲームが始まる。


「っしゃぁ!来たァ!」


 ゲーム開始に茜が叫ぶ。

 同時に葵のロボットが見知らぬ人の寸動ロボットを撃ち抜く。

 更に茜のロボットがマキのロボットに向かい素早く接近する。

 マキの操作よりも茜の操作は慣れていて早く、マキが回避するより先に茜のロボットの鞭がマキのロボットに打ち込まれる。

 両方とも先制は茜と葵のチームだった。


「キェェェェェ!」


 そして数分、マキのチームが劣勢の状態でゲームが進むとマキの隣で奇声が発せられる。


「ぴっ!」


 それに驚きマキはビックリする。


「qあwせdrftgyふじk!!」


 続けて見知らぬ人は意味不明な奇声を叫び始める。

 マキは余りの事にその人から目が離せず、ゲームを動かすことさえ忘れてしまう。

 すると見知らぬ人はマキの方を振り向く。


「ゲーム集中しロォッ!!YO!!」


 見知らぬ人は怒りの形相でマキと目を合わせて怒鳴り散らす。


「はっ……はい!」


 マキは余りの怖さに即座に自分のゲームに戻る。


「うるせぇ!」


 瞬間、マキの手前の筐体から茜の怒号と何か硬いものを叩いた音が響く。


「ぴぃっ!」


 前からも横からもくる暴言の嵐に悲鳴を上げながら震える。

 震えた手でまともにゲームをプレイできるはずもなく……


 ……マキのチームは茜と葵のチームに負けてしまった。

 酷く落ち込むマキ、その隣りの見知らぬ人は……


「相方ァ!!」


 突如としてマキに怒鳴りかける。


「まともに操作できねぇーならやんじゃねぇーよ!」


 見知らぬ人は半泣きのマキにそんな暴言を吐き続ける。


「おい」


 見知らぬ人の後ろから茜が現れる。


「うるせぇって言ったよな?」


 茜がそう言いながら睨むと見知らぬ人は茜にも暴言を放つ。


「ごちゃごちゃうるせぇな……とりあえず負けたんだからどきな」


 茜が冷静にあしらうと見知らぬ人は不機嫌そうな顔でその場を去る。


「あんたまたbluebirdで有名になるわよ」


 葵が茜の後ろから呆れながら話しかける。


「知らねえよ、特定できる情報流せば逆にあっちが追いつめられるだろうが」

「どこにそんな根拠あんのよ……」

「お前の持ってるスマホ」


 茜が言う通り、葵はその見知らぬ人の暴言を全て動画撮影していた。

 そう、葵は筐体の上にある物置にスマホをムービー撮影状態にしてゲーム中見知らぬ人の暴言を撮っていたのだ。


「万一あいつがなんか行動したらこれでカウンターできるわね」

「別にネット上で言い争わなくても、これ持って訴えに言ったらいいだけだからな」

「じゃあちょっとあいつのアカでも探ってみるわ」

「おう」


 茜と葵はやり取りを終えると茜はマキに近づく。

 葵は自分がゲームをしていた筐体の席に座ってスマホの操作を始める。


「大丈夫か、お前」


 茜がマキに話しかける。


「は……はい、ありがとうございます」

「まぁ、気にすんな。このゲームああいう輩多いから気をつけろよ」

「……うん。それなら、先にちょっと言って欲しかったかな……」


 落ち込みながらも少し棘のある返答をするマキにムズムズする茜。


「悪かったな、そういうの慣れてたから。普通だと思ってた」


 茜はマキから顔をそらしつつ謝る。


「……いいよ。あなたが優しい人だってわかったから」


 マキは俯いたまま茜にそう言った。

 それを聞いた葵は思わず吹いた。


「なにがおかしい?」


 茜はそれを聞いて葵の方を向いて問う。


「ごめんなさい……こんな肉食恐竜を優しい人って言う優しい子初めてみたから」


 葵は問いに半笑いで答える。


「誰が肉食恐竜だよ」


 茜のツッコミに真顔で茜を指差す葵。

 茜は葵のその態度に静かに怒りを表す。


「あのぉ、すみません」


 茜が葵に対して怒りの言葉を投げようとした瞬間、ゲームセンターの店員が話しかけてくる。


「あ、なんすか?」


 茜は感情をすぐに切り替えて笑顔で店員の方を向いてそう言う。


「ちょっと、3人とも来ていただけませんでしょうか?」


 店員は茜、葵、マキの三人を呼ぶ。


「はっ……はい!」


 マキは店員の言葉に驚きながら咄嗟に立ち上がり店員の方に行く。


「茜、さっきのことじゃない?」

「あぁっ!?悪いのはあいつだろ!」


 茜と葵は言い争いをしながらも店員の方に行く。


「じゃあ、付いて来てください」


 店員の誘導に従う三人。


「およっ!?マキちゃん?」


 その驚いた声は店員に誘導されてスタッフルームに向かっている三人を見た少女のものだった。


「なんかあったのかな?」


 少女は気になってスタッフルーム手前の扉まで後をつける。

 店員が扉を開ける時、マキは少女に気づいて声を出さずすかさず両手を合わせて、『ごめんね、待ってて』の意味っぽいジェスチャーを送る。

 少女も『OK、わかった。待ってる』の意味っぽいジェスチャーをマキに送って手を振ってどこかへ行く。


「誰?」


 そのやり取りを見た葵がマキに話しかける。


「友達だよ」

「……そう」


 マキの答えを聞いて再び前を向く葵。

 一同はスタッフルームに着く。


「少しお話いいかな?」


 全員が席を着いた時、店員が口を開く。


「はい」


 茜が答える。


「じゃあまず君、あの大声上げてた人がそっちの子に怒鳴ってた時、何やったの?」


 店員があの時の状況を聞く。


「私は別に……今日自分が教えた初心者が怒鳴られてるの見て可哀想って思って……」


 茜が店員経緯を説明し始める。


「なるほど、次にそちらのウサギのぬいぐるみ持ってる方」


 店員が葵の方を向く。


「はい」

「君は彼女が揉めてた時何してたの?」

「……私は」


 葵は自分が暴言を発した相手がネットで動くかどうかを調べた事を店員に話す。


「なるほど……」


 店員は葵の一言一言に頷く。


「それで最後に君」

「ぴゃい!」


 マキは呼ばれると緊張の余り変な声が出る。


「君は……被害者だよね」

「はい」

「相手に怒鳴られた時、どうだった?」

「嫌でした」

「もし、彼女たちがいなかったらどうしてた?」

「う~ん……」


 店員の質問が難しかったのか、マキは考え込んでしまう。


「相手が言いたい事言い終わるまで、黙ってたと思います」


 数秒の間、マキは考えて出した答えを店員に話す。


「私も今日、二人に教えてもらわなかったらあのゲームにも触れなかったから……」


 マキはチラッと二人の方を見る。


「だから怖かった、けど初対面なのに二人は優しくて……」


 マキの目に涙が浮かぶ。


「あなたも彼女たちみたいになりたい?」


 店員はマキに聞く。


「……うん、なれるなら」


 マキは小さく、けど店員に聞こえるくらいの声で答える。


「そっか~……なら全員合格!!」


 店員はいきなり声色を変えて明るく発する。

 三人が驚くのも無理はない、何が合格なのか理解できない。

 何故なら三人ともここに呼び出されたのは揉め事を起こしたからだと思っていたからだ。

 一つ目の揉め事、さっきのエクヴァと言うゲームで奇声をあげられた事。

 もう二つ目は学校をサボってゲーセンに来ていた事だ。

 これについては茜と葵には対策案があったが、今回は無意味となってしまった。


「じゃあもう時間が無いから転送するね」

「え?……ちょっ!?」


 葵が何か言おうとする間もなく四人は光に包まれて何処かに転移する。

 葵の持っていたぬいぐるみを置いて……

 ____________________________________________________________


 数秒後、地球内のどこか。


 光に包まれてゲームセンター店員を含めた四人が移動した場所は無数の機械がひしめき合うまるでSF映画のセットの様な空間だった。


「なんじゃここは!?」


 茜が驚く。


「……えっ?目隠しされてゲーセンの地下にでも運ばれたんじゃない?」


 葵はあくまで現実的に現状を呟く。

 そんな中、一人ポカーンと口を開いて、ピクリとも動かず呆然としているマキ。


「はい、皆さん落ち着いてください」


 店員が一回手を叩く。

 三人は店員の方を向く。

 そして店員は光に包まれると一瞬にしてその姿を機械的なドレスを着た茜たちより背の小さい少女に変える。


「うわっ!なんだそりゃ!?」


 ここに来て更に驚く茜。


「まっ……マジックかなんかじゃない?」


 動揺する葵。

 そして先程から同じ顔をしてピクリとも動かないマキ。


「大丈夫ですかー?」


 少女がマキの目の前に立って心配そうに手を振る。


「待って、説明してくれ」


 茜が頭を抱えて少女に話かける。


「あっ!そうでした!」


 少女はハッとする。


「お前もしっかりしろ!」


 茜は続いてマキの両肩を持って体を揺らす。


「ぴゃいっ!!」


 マキは変な声を出して驚く。


「ご……ごめん、何が起こってるのか全然わからない……」

「……安心しろ」


 茜はマキの顔を見つめて真剣な声で言う。


「私にもわかんね」


 その後、ぺかっとした笑顔をして気の抜けた声でマキにそう言った。

 その表情を見たマキは目を丸くする。


「……ばーか」


 隣で葵は茜に向かって小声でそう言った。


「じゃあこの現状がわかるのかよ不登校の天才美少女探偵さんよぉ」


 葵の小声の罵倒が聞こえていたのか茜は即座に彼女の方を向いて皮肉を言う。


「なによ、そのあだ名」

「そこかよ!」

「一度も言われて無いんだけど」

「今咄嗟に出ただけだ!それより!今の!私達の!状況を!説明しろ!」


 茜は葵に徐々に近づきながら徐々に声のボリュームを上げつつ言う。

 葵は片手で耳を塞ぎながらここに連れて来た店員に変装していた少女を親指で指差す。


「はい、私が説明します」

「……本当、頼みますよ」


 茜は疑心暗鬼で少女をジトっと睨む。


「それじゃあご説明しますね」


 少女はこれまでの経緯を丸いモニターに映しながら説明を始める。

 モニターに映し出されるのはD-Tubeの動画。

 あの発掘現場で撮影された多くの人が怪物に襲われている映像が流れる動画だ。


「これはやらせでもフィクションでもありません。今現実に起こっている非常事態なのです」

「ほー」


 茜はあまり信じられず聞き流す。


「本当のことです、信じてください!」


 必死になる少女に茜と葵は目を細めて疑いのまなざしを送る。


「あうあ~……ほら、ここはどこですか?こんな事普通に出来ると思いますか?」


 少女は未だに疑っている二人を説得するためにしどろもどろに自分の力を説明する。


「目くらましからゲーセンの地下室に移動させたのよ」


 冷静に現実的な答えを即答する葵。


「あう~……違います!転送したんです!」

「じゃあここどこだよ」

「聞いて驚かないでくださいよ!ここはアメリカ合衆国、アリゾナ州のセドナです!」


 その答えに無言で再び疑いのまなざしを向ける二人。


「あ、あう~……そ、そんなに疑うなら出口を案内するです~……」


 少女は二人の説得を諦めて俯きながら出口を指差す。


「あいよ」


 茜はにこやかに手を振って少女が指さした方向に向かっていった。

 葵はすぐに茜の後を追っていった。


「はぁ……人間を説得するのがこんなに大変だとは思いませんでした~」


 ガックリとため息をする少女。


「ん?」


 少女は顔をあげるとこの間もボケーっとしていたマキを見つける。


「あのっ!」


 少女はマキに素早く近づくとマキの両手を握る。


「ぴゃいっ!!」


 少女の行動に驚くマキ。


「あなたは!私の事を信じてくれますよね!?」


 少女の必死な顔にマキは首を素早く上下に振って頷いた。

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 その頃、茜と葵は……


「どこだ、ここ……?」


 外に出た二人は呆然とした。

 そこは明らかに先程までいたゲーセンではない。

 見渡す限りの自然、自分たちが踏みしめているのは見慣れない褐色の大地。

 美しく色分かれた断層と緑溢れるその周囲、振り向けばあるのは真っ白で丸い近未来的な建築物。

 ここは明らかに日本では無い。


「映画で見たことあるわよ、この風景」


 少し引きつった顔で葵が呟く。


「見たことねぇ鳥がいるんだけど……」


 茜は木にとまっていた野鳥と目が合う。


「あいつの言ってた事って……」

「……どうやら本当だったみたいね……」

「あおい……」

「なによ」

「戻るぞ!」


 茜は慌てて建築物に戻った。


「なにやってんだあいつら……」


 茜と葵が建築物の中に戻ると和気あいあいとしている少女とマキを見つける。


「何か、あったのか?」


 恐る恐る茜が二人に話しかける。


「あっ!実はですね」


 少女は経緯を説明する。

 それは茜が出ていった後、すぐであった。

 マキは少女が茜と葵に言った話を真摯に聞いて、理解した。

 モニターに映る人物の中に自分の知っている人たちが怪物につかまる姿を見たからだ。


「助けたいですか?」

「助けたいです!」


 少女の問いかけにマキはハッキリと答える。

 そして、少女はマキに怪物からその人達を救うための力の説明をしていたのだ。

 そこまでが茜が戻ってくるまでの話である。


「なるほどね……」


 茜が納得する。


「あなたの言った通り確かにここは日本じゃなさそうね……」


 少し涙ぐんで少女に囁く葵。


「ごっ……ごめんなさい。用が済めば帰してあげますよ」


 少女は葵を宥める。


「オーケー、お前の要望はなんだ?」


 茜は少女を見て言う。


「はい……実は三人には私達に代わってあの映像に出て来た怪物達と闘ってもらいたいのです」

「いやいやいや、無理無理無理」


 茜は右手を左右にパタパタ振りながら否定して、少女の要求を拒否する。


「大丈夫です、私が見込んだ限り三人には協力して戦う力があります」


 自信満々に少女は言う。


「その証拠を見せなさいよ。私達、出会って数十分よ?」


 葵の返しに頷く茜。


「私と茜は知り合いだけど、そっちの子は今日初めて会ったのよ?」

「うん」


 続けて葵は話、茜は頷く。


「そうなんですか?」


 少女はマキに聞く。

 マキは無言でゆっくり頷く。


「まぁでも、これからは仲間という事で協力いただけませんか?」


 マキの答えを知った少女は再度二人に聞く。


「あぁ……いいっすよ」


 茜は割と素っ気なく応じる。


「あ……あかね?」


 呆然とする葵。


「それで、どうやって戦うんだよ。そこに出てたバケモンとよ」


 茜は当然の疑問を少女に問う。


「こちらに」


 少女は茜達を奥の扉の前へ案内する。

 茜は真っ先に少女についていき、葵とマキはその後ろをついていく。

 全員が扉の前に立つと扉が開かれる。

 その先もまた、不思議な機械で埋め尽くされた空間。


「トリル様、ダイノファイターズとなれそうな方を三名つれてきました~」


 少女が空間に向かって大声で言う。


「トリルって誰?」


 葵が小さい声で茜に聞く。


「私が知るわけねーじゃん」

「そうよね……」


 二人は再び少女の方を向く。


「はい、わかりました」


 少女は虚空に返事をする。


「では……自己紹介が遅れました、私はベータ」


 その後、少女は三人の方を向いて挨拶をする。

 それに対して三人が軽く頭を下げる。


「そしてこちらがトリル様です」


 ベータが右手を虚空に上げる。


「……ごめん、見えないんだけど」


 茜が彼女の右手の先を探りながら聞く。


「あれ?……さっきからここにいらっしゃりますが……」


 ベータが自分の右手の先を振り向いて言う。


「いや、見えないんだけど」


 再度、茜はベータに言う。


「……はい、わかりました」


 茜の一言に諦めがついたのかベータは右手を下げる。

 その瞬間、ベータの右腕は一瞬輝く。

 そしてベータは気を失った様にガクッと頭を下げたと思ったらすぐに意識を取り戻し三人の方を向く。


「失礼をした。私がトリルだ」


 それまでとはまるで違う雰囲気と口調で三人に挨拶するベータ。

 マキがその様子にポカンとする中、茜は彼女の様子が変わったのを怪しむ。


「その目、君は確かに戦士としての素質があるようだ」


 雰囲気の変わったベータは茜の目を見て微笑む。


「あんた……もしかして人の体を乗っ取れるのか?」


 茜は少し怖気づきながらもベータを指差す。


「いや、この子は私のエンジェル。言うなれば私が生み出した人工の使用人ということだ」

「は……はぁ……」

「すまないが私の体は普通の人には見えない。だからこうして私のエンジェルの体を使っているのだ」

「ふ……ふぅ~ん……」


 茜はトリルの説明に適当な相槌を打ちながらなんとなく理解した。


「まぁ、あんたが私の常識の範囲じゃ計り知れない存在ってのはわかったよ」

「それでは……」

「生きて戻れる保障はあんだろうな?」

「なに?」


 茜はトリルと話を進める。その際、茜はそうトリルに聞いた。


「戦ってもいいが、当然私達だって死にたくない。だから聞いてるんだよ」


 茜はトリルの体に触れる。


「あんたは言うに、自分の作ったこの天使の体に入ってそれを動かして戦うことが出来る」


 トリルは茜の言葉の深層を読み取り俯く。

 茜の言葉には『お前は危険な仕事を自分は傷つかない所で他人を動かしているだけの卑怯者だ』と言う意味合いが込められていた。


「そんな奴の願いを聞く筋合いはねぇし、私だってこれで世界が変わるなら願ったりだ」

「なに!?」


 茜の不敵な笑みにトリルは目をそらす。


「当たり前だろ、あんたは所謂神様。その本物の神様が自分じゃ対処できない事を適当に選んだ人物に任せるんだってんなら……」


 茜はやれやれとした素振りでトリルの周りを歩く。

 そしてトリルの正面に立ち……


「私はそんな奴に従いたくはないな」


 そう言い放った。

 それを聞いたトリルは悲しい表情を浮かべる。


「そうかもな……」


 トリルは諦め切った様な悲しい顔で何かを言おうとする。


「でも私は力が欲しい」


 そこに茜が割り込み、トリルはハッとして言葉を閉じる。


「私達と取引してくれねぇか?」

「なん……だと……?」

「言われた通りにあの怪物どもを止めてやるさ」


 茜は自信満々に自分を指差しトリルに言う。


「あかね!」


 葵が後ろで茜を呼ぶ。


「なんだよ」

「本気で……やる気なの……?」


 茜は不安そうな葵に歩み寄る。


「まぁな」

「なによ……私てっきり協力するフリして帰してもらったらそれっきりにするつもりだと……」

「私もそうしようと思ってたさ……けどまぁ、思ったよりも楽しめそうだ」


 二人はひっそりと会話する。

 葵が少し不服な表情で茜から目をそらすと茜はマキの方を向く。


「お前はどうなんだ?」

「ふえっ!?」


 茜がマキに話しかけるとマキは驚く。


「聞いた話じゃお前の知ってる奴が襲われるそうだな」

「う……うん」

「じゃあそいつを自分の命かけて助けたいか?」


 茜の問いに少し戸惑うマキ。


「できれば……助けたい!」


 数秒の間の後、マキはそう答える。

 茜はそれを聞いて少し微笑んで再びトリルの方を向く。


「まず、こっちの条件を言わせてくれ」

「……ああ」


 茜とトリルの目は真剣に重なる。


「契約後、生き残ったなら私達はあんたから貰った力を自由に使わせてもらう」


 茜はトリルに自分の要求を言う。


「なら私は君たちに授ける力に君たちの得意な戦い方に合わせられるように改良しよう」


 トリルは茜にそう言った。


「それは私達の条件を飲んだって事でいいんだな?」

「ああ、事態は一刻を争う。私は君たちに力を授け、その後を見守ろう……」

「……ありがとうございます」


 茜はトリルにお辞儀をする。


「それで、改良ってのはすぐ出来るの?」


 葵が割って入る。


「ああ、今の私の力でもほんの一瞬だ」


 トリルは葵にドヤ顔で言う。


「では私の要求を改めて言おう」


 トリル言葉に三人は耳を傾ける。


「君たちが見てもらった通り、今日本で私が且つて封印した魔女パンドゥラが蘇った」


 トリルが手のひらをかざすと一瞬の光と共に五枚のコインが現れ、トリルの周囲の宙に浮かぶ。


「君たちにはこのダイノコインを使ってダイノファイターズとなってもらう」

「ダイノ……ファイターズ?」


 茜が不思議に思う。


「そう。これはかつて私と共にパンドゥラ封印の為に戦った女戦士の力」

「全員、女性だったの?」


 葵が疑問を問う。


「そうだ。とは言っても人間ではなく恐竜の女性たち、今から数億年前の話だからな」


 トリルの答えに思わず目を丸くする葵。


「そう、彼女も気の荒い性格だったな。彼女の種族は今、ティラノサウルスと呼ばれている」


 トリルが見つめる先のコインが光り、トリルの手に収まる。


「彼女は率先して敵陣に向かい、その尾を鞭の様に使い敵をなぎ倒し、敵を踏みつけ、牙で嚙み砕いていた」


 トリルがコインに彫られたティラノサウルスのレリーフを見つめ思い出にふける。


「そして、普段は冷静だが戦いとなれば猪突猛進。一直線に突撃するパワーファイター……」


 トリルが別のコインを見つめるとまたそのコインが光り、トリルの手に収まる。

 その手に収まる瞬間、葵にはそのコインに彫られた恐竜レリーフが見えた。


「トリケラ……トプスね」


 トリルは葵の言葉にそっと頷く。


「ああ、彼女の種はそう言われているね」

「残り三枚……」

「あの……」


 マキは手を上げて話に入ろうとする。


「行くなら早く行きませんか?」


 ここに来て、相当時間が経っていると思っていたマキは思っていたことを皆に言った。


「まぁ、そうだな」


 茜は頷く。


「そうね」


 葵も頷く。


「でもな」


 茜はマキの方を向く。


「これからどんな力で何と戦うかってのは非常に重要だ。時間を取ってでも聞いて選ばなきゃいけない。焦る気持ちはわかるが、これは私達の命にも関わる問題だ。よく聞いて、良く選べ」


 そう茜はマキに言うと再びトリルの方を向く。


「そう言う訳だ、あんたが思い出にふけるのもいいが急用なんだろ?」

「……ああ」

「なら他の三枚の能力も簡潔でいい。言いな、そこから私達が選ぶ」


 茜はトリルの方に手を伸ばし、コインを渡すように促す。


「わかった。君たちに託そう」


 トリルは彼女たちの方にコインを宙に浮かばせ並べる。


「残りの三枚。一枚目はプテラノドン、空中戦に長けた力を得れるコインだ」

「そして二枚目、ヴェロキラプトル。群れを率いるコミュニケーション能力に特化した能力」

「最後はステゴサウルス。情報を集め、使用や保存すること長けたコインだ」


 トリルは残りの三枚に宿る力を簡潔に説明する。


「そして、1人1種類が原則だ。それ以上多く使うと心身に何かしらの影響が出る」

「なるほどな……前例があるのか?」


 茜はトリルの説明を聞き終えるとそう質問する。


「ああ、以前使った者がいる。彼女はプテラノドンの力を使い、翼を得た代わりに優しい心を失った」


 茜はその答えを聞いて頷く。


「……そいつ、もしかしてドラゴンか?」

「そうだな、人々にはそう言い伝えられているな」


 茜はそれを聞いてひと時、言葉を失い苦笑いする。


「なるほどね。つまり選べるチャンスは1回、そしてもう二度と変える事は出来ない……」


 葵が二人の会話を纏める。


「そう言うことだ」

「……質問いいかしら?」

「ああ」

「ステゴサウルスの能力、どんな媒体からでも情報を仕入れたり手に入れた物を改竄とかできるかしら?」

「そうだな、君たちにわかりやすく言うと神のノートパソコンと言ったところになるだろう」

「もう一つ、トリケラトプスの能力。さっきちょこっと聞いただけじゃ分かりにくかったから、具体的に聞かせてもらえませんか?」

「わかった、トリケラトプスの力は簡単に言うと推進力の強化だ。力を得た者が行う全ての動作に真っ直ぐ進む力を与える」

「どんな動作でも……例えば銃で撃った弾丸にも付与出来たりするのかしら?」

「そうだな、出来ないことは無い」


 葵はトリルの答えを聞くと微笑む。


「そう、なら私は……」


 葵はコインに歩み寄って自分の手に収める。


「あおい?」


 茜は不思議がる。それは彼女が取った枚数が二枚だったからだ。


「お前、さっきの話聞いてなかったのか?」

「聞いてたわよ。だからはい」


 葵は茜にステゴサウルスのコインを渡す。


「なんだよ」

「あなたがこれ使いなさい」

「嫌だよ」


 茜は葵にコインを返す。


「なんでよ」

「私にも選ぶ権利ってのがあるだろうが!」


 葵は茜の言葉を聞くと小さく舌打ちして、それ以上は話さなかった。


「たっく……自分勝手に決めんじゃねーよ」


 茜は葵の態度に呆れる。


「じゃあ次、お前選べ」


 茜はマキにそう言う。


「いいの?」

「いいよ」


 マキは残り三枚を見つめる。


「どれがいいかな?」


 マキは茜の方を向く。


「私に言われてもな……」


 茜は困惑する。


「でも……ひとりじゃ……」


 不安そうにマキは茜を頼る。


「それで、何がいいんだよ」

「わから……ない」

「ん~……お前なんか得意なものとかないか?」

「えっとね、ゲームのどうクラとかツムぷよとか得意だよ」


 マキの答えたどうクラと言うゲーム、正確な名前はどうぶつクラフトと言う所謂サンドボックスゲーム。

 プレイヤーは目的も無くゲームの中で色々な事が出来る、それがサンドボックスと言うジャンルのゲームだ。

 どうぶつクラフトはそんなジャンルの中でかわいい動物とコミュニケーションできる要素があり、幅広い層に人気が出ている。

 もう一つのツムぷよはパズルゲーム。制限時間内に同じ種類のキャラを三つ以上消してスコアを競うゲームだ。

 こちらも手軽にスマホなどの携帯端末でプレイできるから幅広い層に人気のあるゲームだ。


「スコアとかどんなもん?」


 茜の質問に対してマキは自分のスマホを出して見せる。


「あ~うん」


 茜はマキのツムぷよのスコアを見て何とも言えない顔をする。


「ダメかな?結構自信あるけど」

「葵、この点数ってどんなもんだっけ?」


 茜が葵に聞くと葵はすぐに自分の端末で調べる。


「普通ね」

「そうか……」


 結果が出るとあっさりそれを茜に言う。


「じゃあどうクラで作ったもんとか見せてくれるか?」

「うん、いいよ」


 茜の次の問いにマキは快く自分のスマホを見せる。


「これ中々いいできだな!」


 マキのスマホに映されたどうクラのスクリーンショットを見て茜は褒める。


「そうでしょ!クーさんの動画見ながら作ったんだ~。上手くいったプレイ動画もあるよ!」


 マキは褒められて意気揚々とすると茜に自分が撮った動画を見せる。

 その動画ではプレイヤーキャラがロケットで打ち上がり、グライダーで飛行する姿やモンスターを落雷に誘導して珍しいアイテムを手に入れる様子が映されていた。


「こう言うの好きなのか?」

「うん。D-Tubeでやってたの真似して上手くいったんだ~」

「ほぉ~、もしかしてさっきの家とか服とかもそんな感じか?」

「うん。やり方見ながら真似した」

「なるほどな」


 茜はそれを聞いて一枚、コインを手に取りマキに渡す。


「これって……プテラノドンの……」

「それが一番いいだろうと思ってな。情報収集系や指揮統制系の力はお前には合わないと思ったんだ」

「そっか……ありがとう。決めてくれて」

「いいよ、言われただけだから」


 茜は少し照れながらもマキからのお礼の言葉を受け取る。

 そして……


「私はこれだ」


 茜は二枚のコインを手に取り、その内一枚を皆に見せる。


「ティラノサウルスね」


 葵がまるで知っていたかの様にそう言う。


「なんで?」


 マキが葵に聞く。


「こいつにつけたあだ名の元だからよ」

「なんてあだ名なの?」

「肉食恐竜」

「なんで?」

「いつも肉食べててガサツだから」


 マキは葵のつけたあだ名の意味を聞いて思わず吹き出してしまう。


「葵……覚えとけよって言ったよな?」


 それを聞いてイラッとする茜。


「ごめんなさい、覚えとくわ。それで、もう一枚を手に入れた理由はなに?」

「ああ、こっちも残しておくには勿体無い能力だと思ったんだよ」

「なんでよ」

「指揮系統能力、通信とかそう言うのに使えると思ってな」

「……なるほどね」


 茜と葵は二枚目のコインをしまう。


「それらをどう使うかはこれからの君たちに任せよう」


 全てのコインが行き渡ったのでトリルは話始める。


「そうさせてもらうよ」

「君たちが選んだコインに新たに君たちの力を取り入れよう」


 トリルは三人に光を与える。

 その光は三人を個別に包むとそれぞれ色を変える。

 茜は赤い光、葵は青い光、マキは黄色い光に包まれる。


「今、君たちの中にある戦いの知識とそれに必要な装備をコインの力に加えた」


 光がそれぞれのコインの中に収束する。


「これでこれは私達の物になったって事か……」

「そうなる」

「いいわね、偶然とは言え人ならざる力を得たのは……」

「なんか、本物のヒロインになった気がする」


 三人は気分が高揚する。


「ただし、そのコインは1回力を得る度に消滅する」


 そんなところにトリルから衝撃の真実が告げられる。


「マジか!?」


 茜は思わず声を出す。


「複製するには君たちの社会的な力が必要だ」

「その力ってのは?」

「人間社会では何をするにも必要な物、即ち貨幣だ」

「へぇ~」


 茜はその答えを聞いて再びトリルを怪しむ。


「金取るって事ね」


 茜と同じく葵もトリルの怪しむ様に睨む。


「それで、この力っていくらなんだよ」

「君たちが日本人なら一枚100円だ」

「やっす!」


 茜はその金額に驚く。


「本当に力があるのか疑いたくなったわね……」


 葵は更に疑いの目を強める。


「そう思うなら使ってみるといい。ダイノプレイングと叫び、コインを宙に投げるんだ」

「……わかったよ」


 茜は扉の前に立つ。

 マキもそれを見て茜の横に並ぶ。


「じゃあ、試させてもらうわよ」


 葵もそうトリルに言うとマキと同じ様に茜の横に並ぶ。


「ダイノ、プレイング!」


 茜達はそう発すると同時にコインを投げる。

 するとコインは宙で浮かび、紫色の光を放つ。

 光は三人を包み込み彼女たちの姿を戦士に変える。


「うおっ!すげぇなこれ!」


 瞬時にして変わった自分の姿に驚く茜。

 その姿はまるでアニメに出てくるヒーローと魔法少女を足した様な姿。その鎧の色は三人とも紫色をしている。


「意外と軽いわね……」


 葵は大きな剣のような武器が付いた腕を軽々と持ち上げる。


「わっ!羽根があるよ!」


 マキは自分の背中の翼に驚く。


「凄い!思っただけで飛べる!わっ!わっ!」


 自分のプテラノドンの様な翼を羽ばたかせて、はしゃぎだすマキ。


「落ち着けよ」


 茜はマキを宥めながらも自身の力を試したくてうずうずしている。


「それでは君たちを目的地へ転送しよう」


 トリルが三人の前に手をかざすと三人は光の玉に包まれる。


「ちょっと待って!どんだけ暴れても私達の正体ってバレないだろうな!?」


 咄嗟に茜はトリルに聞く。


「そこは安心したまえ。その力を使っている限り、君たちの素顔はどんな媒体を通そうとも真実を視認できない」

「……それが本当なら安心したよ」


 茜はトリルの答えを聞くとニヤリと笑う。


「では、頼んだぞ。その力は、じきに君たちに馴染む」


 トリルがかざした手を振り上げると三人は一瞬にして空へテレポートする。

 そして三人を包んだ玉は高速で空を移動し目的地へと向かった。


 ____________________________________________________________


 それから数分後、クーやD-Tuber達が集まっていたあの広場。

 そこにはいつの間にかこの世の物とは思えない禍々しい黒い塔の様な城が建っている。

 その城の最上階にある玉座に座る魔女パンドゥラ。


「よい、眺めだな」


 パンドゥラは黄昏る。


「はい、パンドゥラ様」


 その横を蝙蝠の怪物が立つ。


「捕らえた人々から現代のゲームの知識を得ました」

「ふふふ……そうか」


 蝙蝠の怪物の報告に不敵にほほ笑むパンドゥラ。


「既にレプリカンがゲーム製作に取り掛かっています」


 パンドゥラは手前のチェスの様なボードゲームから一つの駒を手に取る。


「かつて私は奴に負けた」


 他の駒を魔術を使い動かして自分の手前の黒色の駒が不利な盤面を作っていく。


「だが今回は違う」


 黒色の駒を動かし一手で有利になる。


「たかだか1億年。あのジジイはまだ完全に復活していないはずよ」


 一手、一手パンドゥラは駒を動かし白のキングを追い詰める。


「かつての神々の遊びも今やここまで広まりそして進化したようだな……」

「そのようでございますね」

「この星の中には以前よりもゲームが溢れている。ならば」


 パンドゥラは蝙蝠の怪物に目線を向ける。


「我々の目的、星の統治も瞬く間に出来るでしょう」


 怪物の答えを聞いて思わず高笑いをするパンドゥラ。

 パンドゥラは笑い終わると黒のクイーンの駒を白のキングの目の前に置く。

 盤面に白の駒はキング一個となった。


「そう、奴の駒はもういない。これより行動に……ん?」


 パンドゥラの余裕の笑みは一瞬にしてなくなる。

 それは今、パンドゥラのいる玉座に向かってくる紫色の光の玉。


「なによ、あれは」


 パンドゥラはその玉に向かって炎の魔術を放つ。

 だがその玉は全く勢いを衰えず、こちらに向かってくる。

 次第にその玉の振動が響き渡り、チェスの盤面にパンドゥラが取ったはずの白い駒が落ちる。


「なによ!これは!」

「パンドゥラ様!」


 蝙蝠の怪物は思わずパンドゥラの身を抱えそこから離す。

 瞬間、光の玉は玉座の間に直撃し崩壊する。


「げっほ……!なによ……なんなのよ!!」


 パンドゥラは土煙に魔術を放つ。

 しかし魔術は土煙の中の何かにかき消される。


「……なんだかんだと言われたら」


 土煙の中の者はそう言って土煙を掃う。


「答えてやろうじゃねぇか!」


 そこから現れたのはティラノサウルスの力を纏った茜一人。


「その……姿は……ティラノ?」


 パンドゥラは茜の姿を見て怖気づく。


「知ってるなら話は早い……」


 茜はパンドゥラを見て微笑む。


「なるほど、あんたが新しいジジイの駒ってわけね」

「ジジイの駒ぁ!?」


 茜はパンドゥラの言った事に何言ってんだこいつと思う。


「ジジイってのはトリルって名乗ってたやつの事か?」

「ええ、そうよ」

「悪いが私は奴の為に戦う気はねぇよ」

「なんですって!?」


 パンドゥラは茜の言った事に何言ってんだこいつと思う。


「じゃああなたは何のために私の邪魔をしようとすんのよ!」

「私の為だ!」


 パンドゥラは茜の答えに驚く。


「てめぇをもう一回封印すれば、報酬にこの力をくれるって言われたんだよ」

「ふふ……そう……」


 パンドゥラは微笑む。


「なら私と組まない?私の計画が完成すれば世界の半分を与えるわよ?」


 パンドゥラは茜を引き込もうとする。


「断る」


 茜は即答する。


「あら?いい条件だと思うけど」

「お前みたいなわけのわからない独裁者が支配する世界はごめんだ」


 茜は笑いながらパンドゥラを否定する。


「さっきの言葉から、計画の内容はどうあれお前が世界をどうこうしようってのはわかった」

「だったらどうするの?」

「お前とは戦う仲って事だよ!」


 茜はパンドゥラに殴りかかる。


「パンドゥラ様!グゥッ!!」


 蝙蝠の怪物が咄嗟に間に入り茜の拳を代わりに受け倒れる。


「へぇ、正義の味方にしては中々味な真似するじゃない」


 パンドゥラは茜を褒める。


「そりゃどうも!」

「ぐへぇっ!!」


 茜は自分の前で横たわっていた蝙蝠の怪物を踏みつけれる。


「お返しよ!」


 パンドゥラは炎の魔術を茜にぶつける。


「そらよ!」


 その瞬間、茜は怪物を踏みつけている足から光の爪を出し、怪物を鷲掴みにすると炎の魔術に向けて放り投げる。


「あぎぇ!」


 怪物は魔術に直撃して悲鳴を上げる。


「ごくろうさん!」


 怪物が床に倒れる前に茜は自分の尻尾を振り回して怪物をパンドゥラの方にぶつける。

 パンドゥラは怪物の体を魔術で浮かせ助ける。


「お前はもう休みなさい」


 パンドゥラがそう言うと怪物は闇に包まれ消える。


「しかしなかなか荒っぽいわね、あなた」

「悪かったな」


 茜はニヤリと笑う。


「でもいいのかしら?」

「何が?」

「ここに一人で来て、よっぽど命知らずなのねって意味よ」


 パンドゥラのその言葉と共に無数の怪物が部屋に集まる。


「この数の相手、まさかあなた一人で相手するつもりかしら?」

「ん~……」


 茜は腕を組んで考え始める。


「どうしたの?」

「いや、私の得意なゲームってさ、アクションゲームなんだよ」

「それがどうしたの?関係無いわ」


 パンドゥラは片腕を上げ、怪物たちに突撃の命を下そうとする。

 その時、茜の鎧の色が紫色から鮮やかな赤に変わり始める。

 パンドゥラは上げた腕を降り下ろし、命を下す。

 一斉に茜に向けて突撃する怪物達、しかし茜は不敵に微笑む。


「それがあるとしたら?」

「なんですって!?」

「ゲームインポート!三千無双!」


 茜は掛け声と共にオーラを纏う。

 そして突撃してきた怪物達をまるで羽虫の様に光の爪と自身の尻尾で薙ぎ払う。


「なんですって!?」


 たった一人の相手に無数の従者があっさりと倒されたパンドゥラは驚く。


「こいつが対多人数用の戦い方だ。知らないか?三千シリーズってゲーム」


 茜がそう言う三千シリーズとは、この世界で発売されているアクションゲームである。

 その内容は群がる敵を単身でなぎ倒していく爽快感が売りで十数年の歴史のあるゲームだ。


「まさかあなた……」

「そう、それをパクって力に変えたのさ」

「なるほど。昔はただの強化だったのに……あのジジイもやってくれるじゃないのさ」


 パンドゥラは小さくつぶやく。


「こっちは試運転なんだ、色々試させてもらうぜ」


 パンドゥラと茜はお互い構える。

 一時の間、パンドゥラは警戒している。

 今のパンドゥラには現代のゲーム知識は一切無い。

 自分の魔術に驚かず、平然と攻撃してくる相手がどの様な行動をしてくるのかわからないのだ。

 瞬間、城の下から爆音が響く。


「何事!?」


 驚くパンドゥラ。


「……始まったか」


 まるでそれを知っていたかのように言う茜。


「何をして!?」

「ふっ……私が1人でここに突入したと思ってんのか?」

「なんですって……」

「あいにく突入時は私達も自分の力に慣れてなかったからなぁ……」


 茜の余裕そうな表情に嫌な予感を感じたパンドゥラは咄嗟に転移魔術を唱える。


「ゲームインポート、ギルティブルー」


 その様子を見た茜はすかさず力を使う。


「なっ!?転移できないですって!?」

「ギルティブルー。これは1対1で戦う対戦格闘ゲームの名前だ」


 茜は徐々に近づく。


「1ラウンド無制限、2ラウンド取った方が勝者。プレイキャラは自分自身でプレイヤーはお前と私……」


 茜は片手を力強く握りパンドゥラに向ける。


「私を倒すまで、お前はここから逃げられねぇって事だ!」


 パンドゥラは茜を睨みつけ歯を噛み締めた。

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 時は少し戻り、パンドゥラの城周辺。


「オールクリアね……」


 青い鎧に身を包む葵がスナイパーライフル銃を持ち小さい声でそう言った。

 葵は城の近くで最も高い高層ビルの屋上に立っている。

 そして……


「うわぁ……全部一撃……」


 マキは空を飛びながら葵の起こした出来事に驚く。

 それは城周囲を警戒していた数百の怪物を全員、頭部か心臓を狙って一発で撃破したからだ。

 だが怪物の死体は残らない。弾丸が直撃した瞬間に怪物の体は闇となって散り散りになるのだ。


「マキさん」

「はっ……はい!」

「今から言う物をクラフトしてくれないかしら?」

「わっわかりました!ゲームインポート!どうぶつクラフト!」


 マキが力を使うと素材と工作箱が現れる。


「まず火薬」

「火薬っと……」


 そしてマキは工作箱を使って葵の指示通りに作る。


「出来ました」


 数分後、葵の指示したものが作られる。


「ありがとう、助かったわ」


 葵が指示したもの、それは爆薬。


「次は私の番ね。ゲームインポート、フォートクラフト」


 葵の使ったゲームの力はクラフト要素のあるTPS(サードパーソン・シューティングゲーム)、戦闘中に銃火器や要塞を作る事が出来るゲームだ。

 葵は設計図を使い即座にロケットランチャーを作り上げる。


「こっちの力で即座に作れるのは即席の防壁と銃火器。それに必要な素材を集めるにはあなたの力の方が早いのよね」


 葵は自分の力の不便さを愚痴る。


「でもこれで作戦の第二段階を始められる」

「この後、私が勢い良く城に突入すればいいんだよね?」

「ええ、今から私が……」


 葵はロケットランチャーを構える。


「城めがけてこれを撃つから、風穴が空いたらすぐ行きなさい」

「……わかった」


 マキは自身の翼を使い宙に浮く。


「いつでも、いいよ」

「わかったわ」


 葵はマキの返事を聞くとすぐにロケットランチャーのトリガーを引く。

 ロケットは一直線に城の門に着弾、爆発が起きる。

 この爆発音が茜とパンドゥラの耳にも入った。

 マキが電光石火の勢いで城に突入するのを見て、葵はすぐさまロケットランチャーを捨て、スナイパーライフルに持ち替える。


「神が作った恐竜の鎧に私達それぞれの得意なゲームジャンルを付け加えた私達の力……」


 葵は構えながら独り言を言い始める。


「いいものを手に入れたわ……」


 葵は思わず微笑む。


「これが……この状況が私の人生……リアルなんて……」


 葵の笑みは次第に怪しくなっていく。

 その間に城の風穴からマキが取りこぼしたであろう怪物が出てくる。

 それを一匹も見逃さず、葵は的確に怪物の額に弾丸を撃ち込む。

 弾丸は一発、また一発とまるで怪物が次に動く場所を知っているかのような道筋で怪物の頭を一直線に貫く。


「最高じゃない!」


 ライフルのリロードをしながら葵は歓喜の声を上げた。

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 時は更に戻り、三人はここに来るまでの間、光の玉の中でベータから自分の力についての解説を受けていた。


「つまりこの鎧の色が変わるとそれらの能力が使えるってわけか」

「はい、皆さんの得意なゲームの力が宿るはずです」

「なんでゲームなのよ」

「それは皆さんがコインに宿した戦う力のイメージがゲームだったからですね」

「まぁ……戦う力って言ってもそんなもんしか思いつかなかったわけだからな」

「とりあえず、ゲームインポートと言うワードの後に思いついたゲームタイトルを行ってみてください」

「するとどうなるの?」

「皆さんが想像するそのゲームタイトルらしい力が働くはずです」

「……なにかデメリットは無いのか」

「特にありません」

「……都合がいいわね」

「それはもう何百年もかけてシミュレーションしていましたからね」

「わかったよ、それじゃあ私達が知っているゲームならなんでも現実で再現可能ってわけだな」

「はい、あくまでもある程度なので気をつけてください」

「つまり実際にしてみるまでわからないと……」

「なら、一度使ってみたいから目的地に一番近い高台で降ろしてもらえる?」

「了解しました」


 ベータは葵の言う通りに高層ビルの屋上に三人を降ろす。


「じゃあさっそく……ゲームインポート、フォートクラフト」


 葵の言葉を発するも何も起きない。


「……なるほど、まだ出来ないって事ね」

「葵、そんなことより見てみろよ!」


 茜が葵を呼びかける。


「なによ……」


 冷静だった葵も呆然とするような現実の光景がそこから見える。

 広場中央に聳え立つ禍々しい城と空を包む暗雲、周囲を飛び回る怪物たち、それはまるでゲームの中の世界。


「へへっ……リアリティあるじゃねーか」


 茜は思わず顔が引きつる。


「これが現実の光景とは思いたく無いわね」


 葵は呆然としたままの顔でそう言う。


「私達、これと戦うんだよね……」


 マキは不安そうに茜に話しかける。


「まぁ、策はあるかな」


 茜は微笑みながらマキの方を向く。


「葵、双眼鏡」


 即座に茜は葵の方を向く。


「無いわよ」

「そうか……」


 落胆する茜。


「あのさ……」

「なんだ?」


 マキはもじもじしながら茜を呼ぶ。


「これから、一緒に戦うんだし皆名前で呼び合わない?」

「……そういやお前の名前なんだっけ?」

「あれ?」


 ここに来てマキは二人に名乗って無いのを思い出す。


「私、風寺マキ。雷霆(らいてい)中学の生徒だよ」

「雷霆中ねぇ……私は宇佐美葵。伊洲羅(いすら)中在学」

「亭羅茜だ。葵と同じ中学だよ」

「茜ちゃんと葵ちゃん、これからよろしくね」


 マキは笑顔で二人に挨拶する。


「よろしく」


 葵は冷静な表情で少し冷たく返す。


「よろしく、マキ」


 茜は八重歯を見せる位の笑みで返す。


「じゃあ早速作戦を伝えるぜ」

「うん!」

「まず第一、私達の力が馴染むまでここで待機」

「え?」


 茜の最初の作戦内容にポカンとするマキ。


「確かこの鎧の色が変わると馴染んだことになるのよね?」

「そう言ってたからな。葵、お前がさっきやろうとしてたのは……」

「インポート後にスナイパーライフルのクラフトよ」

「やっぱりな。それで出来なかった」

「ええ」

「じゃあ次だ、葵とマキは自分の力が使えるまでここで待機してろ」

「使えるようになったら?」

「葵は自分の武器を作って城外の敵を攻略して、終わったら城を破壊して突破口を作れ」


 茜の策を聞いて葵は沈黙する。


「どうしたよ?」

「いや、これがリアルだとしたら銃撃したら肉塊とか飛び散るんじゃないかと思って……」


 葵は苦い表情で茜にそう話す。


「……そういやお前スプラッター系ダメだったな」

「見ない様に設定とか出来ないのかしら?」

「そいつに聞いてみろよ」


 茜が後ろで待機しているさっきまで自分達が乗っていた光の玉を親指で示すと葵はそこに向かう。


「それでマキ」

「はい」

「お前は力が使える様になったら、葵が城に開ける突破口を使って城内に突入」

「ここから?」

「ここから」

「え?私飛べな……」


 マキがそう言い終わる前に茜がマキの翼を掴む。


「だからそれまでこれの飛び方を覚えとけ」


 茜はマキに笑顔を見せる。


「ここから飛び込むにはこれの使い方をお前がマスターしないと危険だ」

「う……うん」

「じゃあ頼むぜ。空飛べんのはお前だけだ」

「わかった、じゃあ今から練習するね」


 マキはゆっくり飛行練習を始める。


「はいこれ」


 葵が茜に双眼鏡を渡す。


「どこにあった?」

「ベータに言ったら送ってもらえたわ」

「マジかよ……」

「ついでにこれも」


 葵は茜にスナイパーライフルを見せる。


「ここは日本だし銃刀法違反だぞ」

「武装転送エクスポート」


 葵の一言でスナイパーライフルは一瞬にして消える。


「うおっ!マジックか!?」


 茜は驚く。


「基本能力の一つらしいわ。持っていたものを武装としてベータのいた空間に保存される」

「なるほどね」

「武装転送インポート」


 葵のその言葉で再びスナイパーライフルが現れる。


「思ったより軽いわね、これ」

「私達の力が強くなってんだよ、それは」

「なるほどね」


 葵は城に向けて銃を構え、茜は同じ方向を双眼鏡で見る。


「城の天辺に部屋があるわね」

「玉座に座ってる人形みてーな少女がトリルが言ってたパンドゥラって奴かな?」

「今なら狙撃できるけど?」


 葵は銃に弾を込める。


「まだだ葵、今攻撃すると捕まってる人がどうなるかわからん」

「そうね……」

「兎に角今は時間稼ぎだ」

「そうね」

「じゃあ私はあそこに突入するわ」

「はぁッ!?」


 茜の咄嗟の一言に驚く葵。


「何考えてんのよ!」

「マキは飛行、お前は銃、それで私は?」

「はぁ?」

「尻尾がついて、手足から爪が出るだけだ」


 茜はへらへらと自分の尻尾を振り、手や足から光の爪を出し入れする。


「はぁ……見た目通りの野獣ね」


 葵はため息混じりに茜を煽る。


「お前も頭についているトリケラトプスみてぇな角がウサギちゃん見えるけどな」


 茜は葵を煽り返す。


「言ってなさい」

「おまえもな」


 茜は葵から離れて光の玉に向かう。

 光の玉の上空でマキは飛行練習をしている。


「大丈夫か?」


 茜はマキに話しかける。


「はい、慣れてきました」


 マキは茜の前に着地する。


「じゃあ、頼んだぞ。お前が突入して捕まってる人達を助けろ」


 茜はマキの肩を叩くと光の玉の中に入る。


「ベータ、この玉まだ動かせるか?」

「はい」

「そっか……なら私を乗せて城のあの場所までぶつけてくれ」

「りょ……了解しました」


 茜が準備をしているとマキが後ろから茜の尻尾を触る。


「なにしてんだよ」

「ごめん、私どこに人が捕まってるのか知らないなって思って……」


 茜はマキの一言を聞いて葵の方を指差す。


「あいつに聞いてみろ」

「わかった」


 マキは葵の方に向かう。

 その後ろ姿を見て茜は微笑む。


「じゃあいくぜ、時間稼ぎだ」


 その言葉の通り、茜は葵とマキの力が解放されるまで一人で敵を足止めしようと考えている。

 考えれば、その行動は無謀だ。しかし茜は葵に言いそびれた様に自分の力を試したいのだった。

 彼女は人ならざる力を得た。マキは空を飛び、葵は平然と実際に銃を取り扱って見せている。

 自分が今使える武器はまるで暴れる為だけの爪と尻尾、葵の言う通りただの野獣なのだ。

 そして自身が得意なゲームも知っているからこそ、力を解放した時もまた、マキや葵よりも戦う力が強いだろうとも感じていた。

 だから、真っ先に敵に突入して時間稼ぎを率先したのだ。


「それじゃあいきますよ」


 ベータがそう言うと玉は再び宙に上がり、茜は構える。


「ああ、敵にご挨拶と行こうか!」


 茜のその言葉と共に、ベータがカウントダウンを始める。


「3……2……1……ファイアー!!」


 玉は城に向かって勢い良く発射した。


「行ったわね……」


 葵は茜が乗った玉を見送ると銃を構え、いきなり銃のトリガーを引き、周囲に大きな破裂音が響く。


「ぴぃっ!!」


 その音に隣にいたマキは驚く。


「ヒット!」


 葵はスコープを除きながら喜ぶ。

 スコープの先には禍々しい黒煙があがる。


「な……なにしたの?」

「1人でうろうろしてる怪物に一発ぶち込んでやったのよ」

「え……いきなり?」

「大丈夫よ、誰も気付いてないわ」

「え、いやそうじゃなくて……」


 マキは葵が急に攻撃を始める行動が理解できなかった。


「茜は私達に力が発現するまで時間稼ぎにいったのよ」


 葵の言葉と同時に茜を乗せた光の玉は城に衝突する。


「それまでに私もあなたも可能な限り基本的な戦い方を練習しとかないといけないと思ったのよ!」


 そう言いながら葵は再びトリガーを引く。


「あなた空を飛ぶ以外に今出来る戦い方ある?」


 葵がマキに聞く。


「ん~ないかな?」

「無いなら今は待機してて、私は銃があって出来るからやってる」

「うん、わかった」


 マキはその場に座る。

 これから数分の力が発現する間に葵は外に出ていた怪物を全てそのスナイパーライフルで撃破する。

____________________________________________________________


 そして時は進み、マキが城に突入する所に戻る。


「クラフト!鋼の剣!」


 マキは滑空中に鉄の棒を掴み、それを素に武器を作る。


「えい!」


 少し気の抜けた気合の声共に正面の怪物に斬りかかる。

 怪物は一刀両断され、闇に帰る。


「うわっ!本当に倒せた!」


 着地と同時に周囲を見渡すマキ。

 そこには怪物と無数の牢屋が並んでいる。


「なんだ!侵入者か!?」


 怪物が叫ぶと続々と集まってくる。


「おーい助けてくれ!」


 牢に囚われた人々もマキに気付くと助けを求めて叫ぶ。


「えっ!?……あっ……えっ……!?」


 無数の敵に叫び声、そんな目の前の状況にマキは思わず剣を落として怯えてしまう。


「へっへっへっ……なんだ勢い良く飛び込んできた癖にとんだ臆病者だなぁ……」


 怪物たちはじりじりとマキに歩み寄る。


「ひっ!……」


 怯えるマキ。今のその姿はただの少女、自分が飛べることも忘れて、怖気づき、後退りする。

 それもそのはずである。たった数時間前は本当にただの少女だったのだから、無数の化け物と必死に助けを求める人々の声に慣れてなんかいない。


「た……たすけ……」


 マキは思わず今の自分の立場を忘れそう、声に出してしまいそうになる。


「助けて!!」


 その時、マキの耳に聞き覚えのある声が届く。


「……クー……さん」


 マキは声が響いた方を向き、その声の主が自分に向けて泣きながら必死に助けを求めている顔を見る。

 そう、その声の主はマキの好きなD-Tuberクーだった。

 彼女が動画の中ではしないような泣き顔、真に迫るその表情にマキは衝撃を受ける。

 その顔を見て、今の自分の立ち位置を見て、殆ど同い年だった仲間の活躍を思い返してマキは弱腰でも再び剣を握る。


「はっ……はい!私が!助けに来ました!」


 マキは震え声で叫ぶ。

 本来なら頼りなく、情けない声だが藁にも縋る思いの囚われた人にはそれが頼もしく感じ、怪物達には挑発と思われた。


「舐めるな臆病者がぁ!!」


 一斉に襲い掛かってくる怪物の軍団。

 マキは一瞬、クーの方を向き思い出す。

 彼女が実況していたアクションRPGの一つを……


「ゲーム、インポート。ドラゴンズファンタジア!」


 マキはゲームの名前を発して、剣に電気のエネルギーを集める。


「これでぇぇぇえぇ!!!」


 雷のごとき電撃が剣を中心に周囲に広がり、怪物を闇へと還す。

 その眩い光と雷鳴に囚われた人々は目を瞑り、耳を塞いで悲鳴をあげる。

 だがその輝きと轟音が鳴り止んだ時、その中心に剣を掲げ立っている人。


「ドラゴンズファンタジア……それに今の技って……」


 クーはその姿に見惚れる。

 マキはクーの方を見ると歩み寄る。


「離れて……くれませんか?」


 マキは緊張してたどたどしくクーにそう話しかける。

 クーも頷くとマキに言われた通りにする。

 マキは彼女が離れると同時に檻に斬りかかる。

 しかし、うまく斬れないので剣を置いて両手で力任せに檻を壊す。


「はぁ……はぁ……」


 思わず息を切らすマキ。


「助けに来ました、クーさん」


 マキは呼吸を整えてからクーに笑顔を向けてそう言った。

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「ゲホッ……ゲホッ……」


 横たわり、血を吐くように苦しく咳き込む魔女パンドゥラ。


「どうした?魔女さんよぉ~」


 余裕の表情でパンドゥラに近づいてくる茜。


「ぐぅうう……」


 苦虫を嚙み潰したような顔で茜を睨むとパンドゥラは立ち上がる。


「そう来なくっちゃなぁ」


 茜はニヤリと笑う。


「なんなのよ、あんた……私の魔術がまるでどこに出るか、知ってるみたいに避けて」

「魔方陣がわかりやすいんだよ。発生から発動までも長いし止めやすい」

「くっ!」


 パンドゥラは火炎と氷塊、岩石と竜巻を同時に瞬時に発生させて茜に向け放つ。

 放つと同時にパンドゥラは呪文を唱え始める。


「わかりきってんだよ!」


 茜は氷塊を躱すと火炎を竜巻に誘導して相殺し、岩石を尻尾で砕くと破片を足の爪で掴みながらパンドゥラに突撃する。


「はやい!」

「てめぇが遅いんだよ!」


 茜は掴んでいた岩石の破片をパンドゥラに向けて投げ、それを躱す彼女の懐に飛び込むと即座に腹部を殴りつける。


「弱いな、お前」


 再び膝をつくパンドゥラの目に涙が籠る。


「くぅぅぅ……」


 その様子を見て茜はパンドゥラから一歩離れる。

 その時、パンドゥラの頭部に小さな赤い光が灯る。

 茜が自分の手で外とパンドゥラの間を遮ると赤い光は茜の手に移る。

 それは赤い光が外からパンドゥラを狙っている物とわかる。

 茜がその光の先を見ると光はチカチカと点滅する。


「葵か、これ」


 茜はその赤い光が葵のスナイパーライフルのレーザーポインターと思った。


「そうよ」


 茜の頭の中に直接聞こえる様に葵の声が聞こえる。


「うぉ!?葵いつからいた!?」

「まだビルの屋上よ。茜が突入する前にベータから聞いたのよ、他のメンバーとの通信方法をね」

「なるほどね」

「頭の中で通信したいって思ってから対象の人を思い浮かべると声に出さないでも出来るわよ」

「ありがとよ」


 茜は葵の言った通りにして口に出さないで葵との通信を続ける。


「どうするの?そいつ今なら撃てるけど」

「まぁ待てよ。こいつには色々聞きたいこともあるし、上手く利用できれば私達の人生も楽しくなる」

「……なるほどね」


 葵のレーザーポインターの光が消える。


「それならそいつの処遇は茜に任せるわ」

「そうさせてもらうよ」


 葵が通信を切ると茜はパンドゥラの方に向かう。


「お前、なんか野望持ってるな?」


 茜はパンドゥラに話しかける。


「なによ……私はゲームに負けたわ、二度もティラノを中心にね」

「そうかい」

「私にはね、成すべき計画があるのよ」

「だろうな、封印が解かれた瞬間こんな大規模な行動取って私と出会った時もそんな事を言っていた」

「それで、私をどうするき?」

「あぁ、この場は助けてやろうと思う」

「情けをかけようって言うの?」

「違うさ。お前がゲームに負けたって言うなら、チャンスをやろうって言ってるのさ」

「チャンス……ですって!?」


 パンドゥラは茜の少し気味の悪い笑顔をしながらの提案に驚く。


「だからこの場は一旦どこかへ引いて、もう一度ゲームをしようぜ」

「あんた達は……その度に邪魔するってわけね?」

「勿論」


 パンドゥラは沈黙する。


「……わかったわ、ここは手を引いてあげる」


 パンドゥラはゆっくりと立ち上がってそう言う。


「じゃあよろしく、ゲームクリエイターさん」


 茜はパンドゥラにそう言い返すと引き下がろうとする。


「待ってなさいティラノっ子。すぐにあんたじゃクリア出来ないゲームを作って私の計画を達成させて貰おうじゃないの!」


 パンドゥラは不敵な笑みでそう言うと闇に包まれていく。


「あぁ、期待してるぜ」


 茜もパンドゥラに不敵な笑みを返す。


「だが一つ言っておくぜ。互いに死人が出るような危険な行動するようなら……」

「するようなら?」

「お前を容赦なく潰す」


 その言葉を低いトーンで言った時の茜の目には間違いなく殺意が籠められていた。


「ふっ……その余裕も今のうちよ。必ず今日のことを後悔させてやるわ」


 パンドゥラは同じ様に殺気立った目を返しながら完全に闇に包まれ、そんな捨て台詞を吐いて消えていった。

 パンドゥラが消えると同時に、徐々にだが城も砂となって消えてゆく。

 まるで今までの事が夢幻だった様に……


 空の暗雲は晴れ、青い空が輝き始める。

 城がゆったりと崩れていったのでいつの間にかそこには囚われていた人とマキと茜しかいなかった。


「すげぇな、こんなに人が捕まってたのか……」


 茜は周囲を見渡す。


「あっ!茜ちゃ……」


 マキが茜に気付いたと同時に話しかけようとする。


「むごっ!」


 しかし茜に口を塞がれる。


「マキ、口に出すな」


 茜は仲間同士の通信方法でマキに話しかけ、その方法を教える。


「ごっ……ごめん」

「いいかマキ、こんな格好でこんな力使える私達の正体がもしバレたらどうなる?」

「……大変なことになる?」

「なるよな、どうやって力を手に入れたか調べられる可能性は十分にある」

「そ、そうだね」

「最悪今回の件の共犯なんて言われる可能性もある。だから私に合わせろ」

「う……うん」


 マキと茜はそんな会話を通信で行い、一言も漏らさなかった。

 次第に周囲の目線は茜の思った通りに二人に向けられる。


「皆さん、聞いてください」


 周囲にいた人は茜の声に耳を傾ける。


「これから話す非現実的な事は全て現実の事です。それは今日、皆さんが実際に経験して理解していると思います」


 周囲の人は頷く。


「この日、遥か昔に封印された魔女パンドゥラが目覚めました。それがあなた方を捕らえていた怪物の親玉です」

「失礼ですが、あなた方は?」


 とある人が茜に聞く。


「私達は魔女を再度封印する為に選ばれた戦士……」


 茜はそこで少し間を置く。


「やべぇ、名前考えて無かったわ」


 そして通信で葵に連絡を取る。


「……何やってんのよ、即興でいいじゃない」


 葵がこれまでの経緯を遠くで何となく見ていて適当なアドバイスを送る。


「あいよ」


 茜は葵のアドバイスを聞くと通信を切る。

 そして再び茜は周りの人の方を向く。


「そう、私達は……」

「あなた達は?」

「ダイノゲーマーズです!」


 その名前は、茜が即興で作ったチーム名だった。


「ダイノゲーマーズ……そうか、俺はいつの間にか変身ヒーロー系の世界に転生していたんだな」


 茜の周りの人の中の誰かがそう呟く。

 そして周りは少しずつ盛り上がって、現実に戻っていき人々は解散していく。


「あっ……あの!」


 そんな時、マキの手を誰かが握る。


「はっ……はい!」


 マキが驚いたのも無理は無い、その人は憧れのクーだったのだ。


「先ほどは……ありがとうございました」

「は……はい」

「その……これが本当に現実なんて……私、思わなくて……怖かった……」

「う……うん、私も怖かったです」

「えっ?」

「でも、クーさんのおかげで勇気が出せました!」

「私の……おかげ?」

「はい!私、クーさんのチャンネル登録して毎回見てます!」


 その言葉を聞いて明るい顔になるクー。


「う……嬉しいです!本当にこんな力を使える人がいて、しかも私のリスナーさんなんて!」

「わ……私もこんな風にクーさんと会えて嬉しいです!」


 互いに笑顔で喜ぶマキとクー。


「それで、一つ聞いてもいいですか?」


 マキは思わずそう言うとクーは頷く。


「誰にも言わないので、できればクーさんの本名、教えてもらえませんか?」


 マキは自分がクーに聞きたかった事を思い切って聞いてしまう。

 その言葉に少し戸惑ってしまうクー。


「やっぱり、ダメですよね……」


 その不安そうな顔を見て呟くマキ。


「いいですよ、教えてあげます」


 逆にその声を聞いて心を決めたクー。


「本当ですか?」

「その代わり、今度私の動画に出てもらえませんか!?」

「本当ですか!?」

「はい、いつでもいいので私にダイレクトメールをください」

「はい!します行きます!」


 マキの嬉しそうな返答にニッコリ笑ったクーはそっとマキの耳元に寄る。


「じゃあ私の名前、教えますね」


 ごくりと固唾を飲むマキ。


「私の名前は……『ゆかり』といいます」


 クーが自分の本名を言う。


「ゆかり……さん」

「誰にも言わないでくださいね?」

「……はい、いいません」

「ありがとうございます。それでは失礼しますね」


 クーがその場から離れようとした時だ。


「おい」


 茜がクーに話しかける。


「はい、なんでしょうか?」

「あんた、うちの仲間と何話してた?」

「え~と、いやその……」


 茜が少し怖い顔で出す質問に言葉を考えるクー。


「助けてくれて、ありがとうって話だよ」


 即座にクーに助け舟を出すマキ。


「ふーん、そうか」


 少し怪しむ顔をしながらマキを見つめつつそう言う茜。


「ならいいよ、すまなかった呼び止めて」

「すみませんでした」


 クーは茜に頭を下げつつその場を離れた。

 やがてその場にいる人の数が少なくなっていく。


「じゃあ葵の所に戻るぞ。ベータ!」


 茜がベータに通信を入れる


「了解しました」


 ベータの声と共に光の玉が何処からか二人の前に現れる。


「戻るぞ、マキ」

「うん」


 茜の言葉と共に二人は光の玉に乗り葵のいるビルの屋上に飛んだ。

 ____________________________________________________________


 茜とマキが葵の所に着き、葵が光の玉に乗った後の事。

 三人の力は消え、元の姿に戻っている。


「ダイノゲーマーズねぇ……」


 葵は茜から自分達のチーム名を聞いた。


「まぁ、適当にな」

「本当に適当ね」

「それで、これからどうするの?」

「まぁ今回逃げた魔女はどうせまた来るだろうさ」

「そしたら?」

「またこれで遊べるってわけだ」

「あの~……」


 茜と葵の会話にベータが割って入る。


「お言葉ですが~、これは遊びじゃないですよ?」

「わかってるよ」

「しかし逃がしたのは残念ですね」

「まぁな、次は捕まえるさ」


 ベータと茜の会話からも取れるように、茜はあえてパンドゥラを逃がした事を伝えていない。


「どうしてあのタイミングで逃がしたのよ」

「まぁ、あの時の逃げる時の魔法が気になってな」

「黒い煙みたいなのね」

「吸ったらなんか病気になりそうでついな」


 葵は茜とパンドゥラの戦いの一部始終を見ていたが会話までは聞き取れていなかった。

 茜達がそんな会話をしている中で一人嬉しそうにするマキ。


(クーさんの本名、ゆかりさんか……)

(それに、私……クーさんの動画に出れるチャンスまで貰っちゃった……)


 そんな事を思っていると茜がマキを呼ぶ。


「なに?」

「お前、さっき話してた人と何かあったか?」

「え!?いや!なにも……」


 マキはクーに言われたことを誤魔化す。


「それはそうとさ~」


 そしてマキは話を変える。


「なんだよ」


 茜が話に乗ってくる。


「もし私達の活躍、どこかの動画で撮られたりしたらどう?」


 マキは嬉しそうにそう言うが、それを聞いた茜と葵は目を丸くすると少し怒った様な表情を見せる。


「最悪ね、それ」


 葵が嫌そうな顔でそう言う。


「まぁ目立つからな。そこはどうにかするするしかないだろう」

「万が一にでも私達の正体がバレるような事は避けたいわね」

「そうだな」


 葵と茜の答えと会話の内容が肯定的じゃないと思ったマキ。


「じゃっ……じゃあさ、有名なD-Tuberとかにコラボしてくださいとか来たらどう?」


 少しづつ、自分の言いたい事に話題を引き寄せるマキ。


「ダメに決まってるでしょ!?」

「ぴぃいい!!?」


 マキの言葉を聞いた葵が突然怒鳴ったために驚くマキ。


「なるほどな」


 その様子を見て何かに気付く茜。


「なによ」


 葵は茜に聞く。


「なにが」

「なにがなるほど、なのよ」

「言いたくねぇ」

「あんた私達の正体がバレるかもしれないのよ」

「……それは今んとこねぇな」

「なんでそう言い切れるのよ」

「別に~」


 茜のからかっているかのような言い方に真意が見えないと判断した葵は茜と話すのを止める。


「まぁ一つ言えるならマキ」

「う……うん」

「お前はこの力を見せびらかせたいってわけか?」

「もっ……もちろん正体は秘密にするよ!?」


 逆にマキは茜に自分の心の内を読まれて動揺する。


「自分のだけじゃなくて、私らの正体もバレたらどうなると思う?」


 茜は怒りの目をマキに向ける。


「ごっ……ごめんなさい……」


 怯えるマキ。


「まぁ別にこっちの正体がバレない程度ならお互い、何しても構わないとおもうぜ」

「ほ……ほんと?」


 茜は先ほどとは打って変る笑顔を見せる。


「お互い楽しもうじゃないか。これから先、私達のリアルはより楽しくなんだからよ」

「う……うん。そうだね!」


 マキもつられる様に笑顔になる。


「ただし、私達は進んで撮影とかには出ないからそのつもりでね」


 葵が冷静な声でマキにそう言った。


「うん。そういうことになっても私だけで出るよ」

「そうしてちょうだい」


 マキと葵は約束した。


「そろそろ私達の会ったゲームセンターに着きます」


 その時、ベータがそう言う。


「そうか、ならその前に……変身用のコイン、50枚売ってくれないか?」


 茜はおもむろにそう言う。


「ああ、それならゲームセンター内でお話ししましょう」

「わかったよ」


 そんなやり取りの後、すぐに光の玉はゲームセンターで三人を転送した部屋に着地し、消える。


「うおぉ」


 突然の事でバランスを崩す茜、それを見て微笑む葵。

 そして、部屋の扉を空ける音が鳴る。


「皆さん、お疲れ様でした」


 三人が扉の方を見るとそこには店員の格好をしたベータがいた。


「お前その格好……」

「皆さんには制服を着ただけの私に見えますね」


 ベータは席に座る。


「実は皆さんのコインの力と同じで、私の持つ力にも認識妨害機能があるんですが……それは一度正体を見られたら機能しなくなるんです」

「へ~、そうなんだ」


 マキはお気楽にベータの言った事に返すが茜と葵の二人は真剣な眼差しになる。


「つまり、一度でも正体を見られたら……」

「はい。次からは見られた人にはずっとそのままです」


 茜は考える。


「ベータ、お前らの本拠地でトレーニングとか出来ないか?」


 茜は考え付いた質問をベータに聞き始める。


「はい。私に通信してくれればいつでも提供します」

「力を使ってないときの通信方法は?」

「自分のコインを額に当てて、力を使ってる時と同じ様にしてみれば使えるはずです」

「コインは必ず1枚は持ってないといけないって事だな」

「そうなります。それと再度確認ですけど今回使ったコインの種類は皆さん一人一人の生体データを取った専用物となったので、他の種類のコインは使わないでくださいね」

「……わかったよ」


 茜は自分の持っていたヴェロキラプトルのコインを財布にしまう。


「最後だ、今日のコインの追加購入は?」

「ここで1枚、非常用に差し上げます」

「それ以上は?」

「1枚、100円で渡します」

「買った」


 茜は自分の財布から5000円を出してベータに渡す。


「じゃあ私も」


 葵も同じように5000円をベータに渡す。


「えっ!?なんで二人ともそんなにスッと出せるの?」


 マキは驚く。


「まぁ最初はこんくらいな」

「いやいやいや、中学生にしてはポンと出し過ぎかなって思って……」

「小遣い貰わないのか?」

「貰ってるよ……月、6000円……」


 マキの言葉を聞いて茜は自分の出した5000円を財布に戻す。


「わかったよ」


 そして茜は財布から10000円を出す。


「2倍に……なった……」


 マキが驚愕する。


「因みにこの内5000円はマキの分でよろしく」

「いいの?」


 不安そうに茜に聞くマキ。


「いいよ。まぁ今回だけな」


 平然とそう返す茜。


「……ありがとう、茜ちゃん」


 マキは茜に少し照れながらお礼を言う。


「それでは、コインを精製します」


 ベータは茜と葵から受け取ったお金を手に取ると光の玉に包む。

 光の玉の中の貨幣は次第に形が見えなくなり、光の玉と一緒に消える。

 そして机の上にポトリと三枚のコインが落ちてきた。


「……三枚だけ?」


 茜が呆然とする。


「いえ、ほら裏に……」


 ベータがティラノのコインを手に取り裏面を皆に見せるとそこには51と刻まれている。


「なるほど、それが使用回数ってわけね」


 葵がそれだけで意味を読み解くとベータが頷く。


「まぁ、こっちの方が無くさなくていいか」

「そうね」

「ありがとう、茜ちゃん」


 三人はそう言いながらコインをしまう。


「無くさないでくださいね、昔の彼女たちみたいに……」


 ベータはさりげなく大変なことを言う。


「えっ……無くしたことあんの?」


 思わず聞いてしまう茜。


「すみません。前のパンドゥラとの闘いの時に1枚、その後のアイスエイジでも2枚紛失してます」

「冗談だろ?」

「いえ、現存するダイノコインの種類は10枚でその内3枚は今言ったように紛失しています」

「残り2枚はあるのか?」

「はい、残り2枚はまだ人類用に調整できてないだけでベースに行けばありますよ」


 茜とベータの話を聞いて考える葵。


「つまりそれって、敵に見つかれば利用されるし人に見つかれば……」


 葵が考える付いた可能性を呟く。


「私達の正体がバレる可能性が出てくるわけか……」


 それを聞いた茜が更に呟く。


「どうゆうこと?」


 さらにさらにそれを聞いたマキが意味を聞く。


「人に見つかれば、発見されたオーパーツと類似した物を持ってる私達が怪しまれる。だから最初に変身する場所は人気のない所を選ばないといけない」


 葵がマキの質問に答える。


「敵に見つかれば利用され、私達じゃあ手の付けられない相手を生み出す可能性があるって事だ」


 茜も葵の補足でマキの質問に答える。


「じゃあ出来るなら無くなったコインも見つけないといけないって事なんだね」


 マキは二人の答えでなんとなくその重要性を知った。


「じゃあ纏めるぜ。今日から私達はダイノゲーマーズ、その目的は蘇った魔女パンドゥラの計画を阻止する事と失った3枚のコインの回収」


 茜が纏めを言い始める。


「私達の正体は完全極秘、力を使う為に変身できる回数はコインの裏面の数分のみなので考えて使う事」

「使用回数は1回100円、ベータに渡す事で回復可能。ベータとは通信でのやり取りしか出来ないからコインの紛失は絶対しない事ね」


 葵の補足に頷く茜。


「そう言うことだ、じゃあ解散な」

「はい、では皆さん大変なお願いとなりましたがご協力をお願いします」


 ベータはお辞儀をすると席を立って部屋の扉の方へ向かう。


「それと今回皆さんはゲームセンターの暴言騒動に巻き込まれて事情聴取を受けていた、という事で口裏を合わせてください」


 ベータは扉の前で三人にそう言う。

 三人は頷くとほぼ同時に席を立って扉に向かう。


「ちょっと待って……」


 葵が茜を呼び止める。


「なんだよ」


 茜が振り向くと葵は茜の耳元で囁く。


「茜が取ったウサギのぬいぐるみ……あそこにあるから取ってきてくれない?」


 葵は恥ずかしそうにベータが座っていた椅子の隣の椅子に置いてあるウサギのぬいぐるみを指差す。

 茜はそれを聞くと何も言わずそこに行ってぬいぐるみを持ってくる。


「ほい」


 持ってきたと同時に葵の顔にぬいぐるみを押し付ける。


「なにすんのよ!」

「持ってきた」


 茜はニヤリと笑う。


「まぁこれで許してやるよ。ウサギちゃん」


 茜は葵に言われた肉食恐竜と言うあだ名の事を少し根に持っていたのでいたずらをした。


「仲いいんだね二人共」


 マキがその様子をみて微笑む。


「まぁな」


 茜は明るく返すが葵は不服な目でマキと茜を睨む。

 そのやり取りの後、三人はやっとゲームセンターに戻る。

 マキが振り向くといつの間にかベータはそこから消えていた。


「あー!マキちゃんいたー!」


 その時、大声でマキを指差す少女が現れる。


「あっ!あかりちゃん!」


 何かを思い出した様にビックリするマキ。


「探したよー、どこ行ってたの?」

「うーんと、えーとね」


 あかりにどこにいたか聞かれて答えに困るマキ。


「そいつ、私らと一緒にトラブルに巻き込まれてちょっと店員に事情聴かれてたんだ」


 茜がフォローにはいる。


「そうだったんですかー。大丈夫だった?」

「うん、まぁ大丈夫だったよ」


 まるで久々にあったようにマキとあかりは話し合う。


「なぁ……よかったら私らも一緒に遊んでいいか?」


 茜が二人に話しかける。

 その言葉に葵は顔を隠し、表情を見せないようにする。


「「いいよ!」」


 マキとあかりは顔を見合わせた後、茜達に笑顔で同時にそう答えた。


「じゃあもう少し遊ぶか~……な、あおい~」

「もう疲れたわよ……」

「じゃあ行こう茜ちゃん、葵ちゃん」

「マキちゃん二人の名前知ってるの?」

「教えてもらっちゃった」


 四人はまた、普通の日常へと帰っていく。

 だけどこれは一時の安息。

 またいつか、彼女たちには非現実的な戦いの日が待ち受けている。

 そう近いうちに……


____________________________________________________________



 その日の夜、茜は家に帰ってきて一人になって思いにふける。


 リアル……

 そのゲームの開始時点は誰もが文字通りの生まれたままの赤ん坊。基本操作は親、私を生んだ約20年以上プレイしてる先輩がキチンと教えてくれなきゃままならない。

 最初の内は日常会話も専門用語だしチュートリアルに進むにも6、7年かかり既にサービス開始から数万年は経っている超大作サンドボックスゲーム。

 普通の生活をするにも小難しいルールがそこかしこに隠されていて……チュートリアル、即ち学校では一切そんなルールは教えてくれない説明不足のクソゲー。

 しかも昔のプレイヤーがあれもこれもとやりたい放題、更に新しいルールを作っていくから複雑さは後から入るプレイヤー程増していく。


 そんな事を小学生の時から茜は思っていた。

 父に相談すると、今可能な限り将来のために必要な知識と勉学を実践で学べと言われ。今自分が楽しいと感じる事をより詳しく掘り下げてみろとも言われた。

 それで茜は自分の楽しいと思っていた物、ゲームならプログラミング言語、使われている数式、釣りや野球なんかも突き詰めていけばそれは全て子どもの頃の数遊びに帰結すると言う事がわかった。

 必要なのは、楽しい事を一生続けるための勉強。

 社交性などの対人スキルに使っている道具がどの様な仕組みになっているかを知っている知識。

 それをどこで応用できるかを考える思考力と好奇心こそがこのリアルというクソゲーを楽しく遊ぶために必須なスキル。


 そんな風に学んでいった茜は兎に角好きなものを探求していく勉強方法をとった。


 格闘ゲームの動きにはモデルとなった人がいる。アクション俳優の動き、武術等々……

 格闘ゲームのキャラを自分の体の様に動かすためには指の動きやコントローラーの持ち方が重要になり、キャラと自分の動きの後の隙を共有することが秘訣と考えた。

 キャラが動けない時は、自分もボタンを押さない。キャラが動ける限り、続くコマンドを入力し続ける。

 楽しむならキャラの動きを真似するためにスポーツジムなんかにも通って真似してみる。

 その時の練習を動画に撮って、プロやゲームキャラの動きを見比べて素人とプロ、空想と現実での違いを学ぶ。


 今日この日まで、楽しい事を優先して色んな事をやってきたが限界も知っていた。

 学びたくても学材が無い、したくても環境が無い、思ったように体が動かない。

 どれだけお願いしても貸してはくれない時は貸してくれない。

 所詮は一般市民の子供、リアルの茜のジョブでありクラスで社会的な立ち位置。

 尚且つ地球の一部であるからして社会的な法則、物理的な法則からは避けられない人間という種族の一人。


 それが今日、崩れた。

 理由はどうあれ、自分は特殊な力を与えられて、まるでアニメやゲームのキャラクターの様に様々なリアルの法則を無視して動けるようになったのだ。

 太古にリアルというゲームをプレイして、今や全プレイヤーがゲームオーバーした恐竜という種族の力。

 今までの自分の経験が活きる自分自身の力。

 その二つが合わさった結果、自分の体は前以上に思うように動き、爽快だった。

 今までの不満が、全て溶けていくような高揚感を味わった。

 そして、いとも簡単に目標の敵を再封印までを達成しそうになった。


 茜はそれじゃあつまらなかった。


 このまま敵を封印したら、目標が無くなってしまう。

 この力を振るう相手がいなくなってしまう。

 また元のクソゲーを強いられる人生になってしまう。

 耐えられなかった。一度使っただけなのに……

 既に茜はその力に魅かれていた。


 だから、パンドゥラを逃がした。次にパンドゥラが動くことを期待して。


 だが今、帰ってきてから怖くなった。

 次にパンドゥラが動き、被害が出れば間接的とはいえ、自分の欲望の為にパンドゥラを逃がした自分の責任になると。


「逃げられねぇよな……」


 思わず茜はコインを見つめそう呟く。

 パンドゥラを逃がす時、被害を出すなと念を圧したのはその重責から逃れたいと言う意味もあったのだ。


 茜は心に決めた、魔女が一線を超えるまで楽しみながら戦い抜くと。

____________________________________________________________


 翌日、囚われていたD-Tuberの動画による報告でそれがフィクションではなく現実の事だと配信される。

 しかし現場には何一つ痕跡は無く、社会は未だ疑いの眼差しで見つめ、普段の日常が進むだけだった。


 月の裏側に闇の城が建っているいるとも知らずに……

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