1:エイト&クロ
みなさん、お初にお目にかかります。
岩手の豚です。
星は尊し笑えよ人生。
第一話「エイト&クロ」です。
少年は、大陸創成暦五〇〇五年の七月二五日にミルフィオレ帝国の都市部で産声を挙げた。名をエイトと言った。
エイトは活発で、人懐っこく、故郷をやんごとなき笑顔で照らしたと言われているほどだった。
五〇一七年の六月六日。少年が十二歳になった頃だった。
ミルフィオレ帝国はアングリット皇国の手により終焉の狼煙を挙げた。
正義という名の元に理不尽に銃弾を撃ち込まれ、エイトの両親は無惨にも殺された。親も、友も、すべてすべて失った。
それでも、エイトはなお生きた。必死に足掻き、必死に泣き叫び、必死に生きて、なるべくしてなる未来──死──を越えた。
ただ一人生き残ったエイトはテレヴィレスタ王国の軍人に拾われた。その頃にはもう、エイトの目には愛も命も希望も絶望もなにも見えず、灰色のノイズがかった世界しかなかった。
「うおっし! 相棒、早く行こうぜ!」
「はい」
十八歳になったエイトは、銀髪紫瞳の中性的な少年、クロにせかされながら宇宙空港を掛けていたその両脇にはキャリーバッグが滑車を働かせており、二人のその身長差も相まって傍から見れば仲のよい兄妹の旅行に見えなくもない。
「俺たちも、明後日からハンターだもんな。気合い入れていくぞ!」
「はい」
「相変わらずの無表情だなあ。なんで、表情変わらないんだ? あれ? 本当に変わらない。死体かお前は」
「申し訳ありません、クロ。表情の変え方を、すっかり忘却してしまったようだ」
クロに顔を揉まれながらそう言うエイト。
「謝んなくていいんだよ。いつか思い出せばいいだけだ」
「はい。承知しました」
灰色の世界で、クロは笑っていた。こういうとき、どうすれば笑えるのだろうか。エイトは考えたが、わからなかった。
「かったいなあ…あれ。あの子……」
「どうしましたか」
「ほら。あれ、迷子っぽいよな」
「はい。おそらく」
「ここだだっ広いぞ? 見つかるか?」
クロのその言葉を聞いたエイトは思案した。
「私が迷子センターまで送ってきます」
「あと一〇分もねぇぞ?」
「ここで放っておくわけにもいきません」
「……だなっ。それでこそ相棒だ!」
「ありがとうございます」
エイトは、涙目でオロオロとする少年に向かってずんずんと歩みを進めた。
「少年」
「ヒィッ!?」
「探し人でなくて申し訳ありません。もしかして、迷子ですか?」
「えっ、あっ…その……」
そこに、クロが割って入る。
「めっちゃ恐がらせてんじゃん! もうちょい物腰柔らかくしないと逆効果だ、お前の場合は。無駄にキリッとしやがって」
「以後、善処します」
「できてないんだよなあ…」
クロはしゃがみ、少年に視線を合わせる。
エイトはそれを見て、しゃがむ。しゃがむというより、正座になってしまったが。一応、しゃがんだ。
「君、誰か探してるの?」
「えっと…その……お母さん……」
「そっか。じゃあ、迷子センターは?」
クロが少年にそう問いかける。
エイトはこちらに突進してくる何かに気がつき、立ち上がる。
「わかんない」
「道がわからないの? じゃあ、お兄ちゃんたちと…」
エイトが構えを取る。
そして、そのエイトに三〇前後の女性が引っ掛かる。
「息子に触れるなぁああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
「落ち着いてください。お母様。私共は──」
「お母さん!!」
「離せ! 犯罪者!」
「エイト」
「了解しました」
エイトが姿勢をずらすと、引っ掛かっていた母親が少年に駆け寄り、警戒の姿勢をとった。
「私の息子に手を出すなッ!! 恥を知れ! しかるのち裁かれろ!」
「誤解が生じています。私共はただ──」
「警備員さぁああああああああああああん」
「この人…驚くほど話聞かない」
後にエイトとクロはそのまま警備員に連行された。エイトはすこしもやっとしたが、クロが落ち着いていたので、まあ、そういうものなのだろう。と落ち着くことにした。
「それで? 連れ去ろうとしたってマ?」
「そこの身長がばかデカイ君」
「なんでしょうか」
「あの女性の言っていることは本当?」
「逆に問います。本当だと思いますか」
エイトは背筋を伸ばし椅子に腰を掛け、、まっすぐと空港職員の目を見て、そう問いた。
「言ってしまうと、錯乱した者の言葉と、冷静沈着した者の言葉、どちらが信用するに値するものなのでしょうか」
「形式的なものだから…」
「形式的なもの、ですか。「的な」というワードの意味がわかりませんし、あなたのその意味のわからない職務怠慢によって私共は乗るべくした宇宙船に乗り損ね、チケット代を水泡に帰させました。これは、どう説明するのでしょうか」
「いや……それは、まず第一に──」
「第一に? 第一にとはなんでしょうか。「第一に」という言葉はあなた方空港側に正当性を持たせるための言葉ではありませんよ? しっかりと真実だけを話してください」
「その……」
「言葉に詰まる意味も不明です。ただこちらは「真実だけを話してください」とそう#お願い__・__#をしているではありませんか。脳はどこについているんですか? まさか、脳味噌まで職務怠慢ですか。あきれてものも言えませんが」
この台詞は、前日に無理矢理育ての父、マーカスに見せられた刑事ドラマの主人公の相棒、レオナルドの台詞である。つまり、エイトは今ささやかながら…。
「お願いではなく命令であれば、話してくれるのでしょうか」
レオナルドになりきっているのである。
「話になりません。いきましょう、クロ」
「おぁ? あ、話終わった? 船は?」
「おそらく無理でしょう。この人たちはどうしても働きたくないみたいだ」
「なんだそれ。いいや、そうだ。ハンバーガー食って行こうぜ! 寝たら腹減ったよ」
「約二時間前にピザを食べたばかりでは? カロリーの過剰摂取は肥満の元です。おすすめできません」
「ケチ」
「いいえ。私は貴方の身体を心配して言っているのです」
「俺食ってもあんま太らねぇし」
「いいえ。日々かすかに太くなって──」
「殺すぞ」
「──申し訳ありません」
エイトはクロの拳を受け止めながら謝る。
「というか、俺が太ってるとかわかるのかよ」
「はい。いつも貴方を見ているので」
「そっかあ……」
「はい」
「「……」」
「それ、普通にキモくね?」
「撤回します」
「撤回できません。記憶しましたぁ」
「撤回できます」
そんなこんなくすぶり合いながらやがて気がつく。
((宇宙船……どうするんだろう…))
noteやってるんですけど、noteにもショートストーリーやらなんやら投稿してます。
お暇な方は是非……。