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魔界な人々

庶民魔族な私と上級魔貴族なボン

お久しぶりですみません。

小説家になろう初投稿から七周年記念作品です。

 えーと、なんか恥ずかしいんだもん。

 いい匂いだって抱きしめてる上級魔貴族なボンさんをどうやって離そうとポリポリと頬をかいた。


 今日はお寿司、スーパーで半額〜と歌いながら、軽自動車に乗ってスーパーリッセマに向った。


 近くに山がよく見える地域の田舎でお仕事始めていく年月ちゃんと人間に溶け込めてるって良いよねと思いながら車をスーパーの駐車場に停めた。


 ああ、人界最高〜少なくとも翠地方みたいに女が一人で外歩けませんはないもんね。


 スーパーサイコーと思いながらかごをカートにおいて、お惣菜、お寿司コーナーに直行したもん。


 自炊? お料理あんまり得意じゃないし、食べるのは()()だもん。


 わーい、ベーカリーが割引してる〜。

 ここのサンドイッチ美味しいんだよね。


 ウキウキとトレーを手に持ってトングでお気に入りのコンビーフサンドイッチとクリームチーズトマトパンとたまごサンドとツナサンドの入ったのとレーズンベーグルを入れて、あとあの人が最近ハマってる焼きまんじゅうパンとお焼きパンを入れてレジに並んだ。


 「ありがとうございました」

 店員さんからパンの袋をホクホク受け取った。


 50%オフだったよ、嬉しいな。


 次にお寿司コーナーを物色する、お買い得にぎり30%オフ……まだ早かったかとお惣菜コーナーに移動する。


 ものすご唐揚げさまが……ものすご唐揚げさまが……半額ですと〜

 これは買いーわーい。


 あ、そうだ、清廉の清水(ミネラルウォーター)買わないと……山谷の恵み(ミネラルウォーター)でも杜のせせらぎ(ミネラルウォーター)でもいいけど……箱買いしたいな、水道水でもいいけど、美味しい水の方がいいもんね。


 でも箱買い重いしなぁと思いながらミネラルウォーター(本当の糧)のおいてあるところに向った。


 おおー星のしずく(ミネラルウォーター)が安い〜

 箱買い……お、重。


 でも大丈夫……ダンボール箱を持ち上げかけると後に誰か来た。


 「アケネ、持つよ」

 遅くなってごめんねと銀髪の美男子がダンボールを引き取って持ち上げた。

 「ボンさん、ありがとう」

 「ボンじゃないけどね、それにしても、今日もいい匂いだね」

 ダンボールを持ったままクンクンかがれた。


 え、えーと明らかに私を嗅いでるけど、ごまかすもん。


 「ものすご唐揚げが半額だったの、あとお寿司コーナーも行くもん」

 「おお、すごいね」

 じゃあ、行こうかとミネラルウォーターの箱をカートの下において押しだした。


 あ、まってだもんと言いながら追いかける。

 魔界にいたら、誅殺レベルの無礼さだけど、だ、大丈夫かなと思いながら、いつもこのくらいの時間に現れるボンとお買い物してそのあと食事してる。


 私は魔界の翠地方(スイちほう)出身の植物系の中級庶民魔族だなんだもん、まあ、父親が上級人型魔族の末端にいたんですごく過保護で翠地方の男らしく妻子を囲いまくったので、反動で人界に来て自由に生活してるんだもんね。


 「お寿司……まだ30%オフ……」

 「まあ、いいんじゃない、僕が買うよ」

 にっこりと眩しい笑みを浮かべたボンに外人さんだぁとちっちゃい男の子が指さして指さしちゃだめよと人族のお母さんが腕を降ろさせ、ついでにうっとりとながめた。


 「わーお、ボンさん、太っ腹ー」

 「ボンじゃないけどね、アケネこそ僕のためにパン買ってくれたみたいじゃない」

 ボンが横目でベーカリーショップの袋を妙に色っぽく見た。


 はいはい、焼きまんじゅうとかお焼きとか大好きだもんね。


 私がこのボンさんと知り合ったのは勤めてる施設の去年のうつき祭りのときなんだ。


 『焼きまんじゅうが売り切れ……』

 ショックのあまり呆然とフラダンスを見ているボンが何故か目を引いていた。

 『ボン、焼きまんじゅうごときでなに呆然自失なってるんですか』

 隣のそこそこ見目の良い男性がご利用者の道子さんに食事介助をしながら半眼になった。


 お年寄りの道子さん半魔族だから、あの人たちも半魔族か魔族なのかな?

 うちの施設は経営者が魔族なので入所者も職員も半分くらい魔族なんだよね。


 『ボンさん、お食べになる? 』

 道子さんが可愛く自分の分の刻まれた焼きまんじゅうを指さした。

 『真心だけで充分です、叔母上』

 『遠慮しなくていいのに』

 道子さんが使い捨てパックを持ち上げて渡そうとしてるのは微笑ましいけど、いわないとだもんね。

 『道子さん、それは道子さんが食べる分ですよ』

 『アケネちゃん、焼きまんじゅう売り切れちゃったみたいなの』

 道子さんがだからあげたいわと可愛く子首を傾げた。


 道子さんのは細かく刻みになっててフランクも焼きそばも焼きまんじゅうも普通の人が食べるには物足りないし美味しそうに見えない。


 道子さん、入れ歯だからきざまないと食べられないんだよね。


 『どっかで買っていくから、お祖母ちゃん……どこに売ってるかな』

 お孫さんらしい人? が良さそうな青年魔族? が道子さんとよく似た顔で見上げた。

 『あ、えーと雲海屋(ウンカイヤ)で仕入れて焼いてるのでそこなら売ってると思います』

 雲外鏡(ウンガイキョウ)の化身のお姉さんがやってる田舎風和菓子屋さんで焼きまんじゅうもそこで仕入れたって実行委員さんがいってたもん。


 あとはスーパーとかに自分ちで焼く用の焼きまんじゅうセットとか売ってますよと教えた。


 『ボン、憧れの焼きまんじゅうは帰りに買ってあげますから、無意識に色気垂れ流さないでください』

 『ああ、それにしてもいい匂いが……』

 アンニョイな色気たっぷりでボンは銀の髪をかきあげ周りの若い人族の女性たちの一部が見惚れてる。


 いい匂いは買えたらしい焼きそばかな? その時ボンの青緑の目と視線が一瞬だけあった気がした。


 アケネちゃん〜と職員の江口さんが呼んだのでその場は会釈して呼ばれた方に早歩きした。


 お祭りも無事に終わってあとで道子さんが、あのボンさんは甥っ子さんなんだけど、本家筋の方で、一緒に来た孫がお仕えしてるのよといってた。


 やっぱり、魔族で魔界関係者かとちょっと思ったけど、縁はないもんねと思ってたんだよね。


 でも、しばらくして仕事帰りのお楽しみの食料物色とミネラルウォーターを調達をスーパーフレッシイに行ったときに和菓子コーナーに見覚えある一つにまとめられた銀髪が……


 『やっぱりいい匂いだ』

 にっと笑った顔になにか寒気がして後ずさったのはちっとも悪くないと思います。


 『こんばんは……お惣菜の匂いだと思います』

 『こういうところで買うんだね』

 庶民はとボンさんが小さい声でつぶやいた。


 庶民を敵に回すもんね、その発言。


 ま、まあ別に()は食べるのは趣味だからいいけどね。


 『叔母上はお元気ですか? 』

 『はい、今日も元気一杯、レクリエーションで歌ってましたよ』

 そうですかとボンさんが満面の笑みを浮かべて黒糖まんじゅうと草大福を差し出した。


 『どっちが美味しいでしょうか? 』

 『お好みだと思いますけど、なれてなければ黒糖まんじゅうの方が……』

 なんで私に聞くんだもんと思いながら答えた。


 そうですか……と言いながら両手に持った大福とまんじゅうを見ている極上美貌の上級魔貴族にそろりと後ずさった。


 こ、これ以上無理、絶対無理。

 そう思って後ずさったのになにかに背中がぶつかった。


 『ボン、かってな行動はつつしんでください』

 後ろから聞こえる男性の声に身体がビクっとなった。


 人族は気付かないかもだけど、高位方面の魔族って中級魔族といえども下級に近い私にはきついんだもん。


 『エルベール……怯えさせるな』

 『申しわけございません』

 後ろの魔族さんが勢いよく頭らしきものを下げて頭突き? で押されて転びかけた。


 『うちのアホがごめん』

 暖かいもんに包まれたので見上げると綺麗なボンさんの顔があった。


 うわー、受け止められた〜、あったか、ええーと。


 『申しわけございません』

 振り向くと厳つい角刈りの灰色の髪で目つきの鋭いブラックスーツのがたいのいい壮年男性魔族が直角に頭を下げていた。


 『滅……』

 『あ、あの大丈夫ですので、お気になさらず、あ、頭を上げてください』

 恐ろしい雰囲気に、あわててボンさんを見上げると冷たい気を一瞬で極上の笑みで覆い隠したのが見えた。


 やっぱり高位魔族様恐ろしいです〜


 お詫びに食事でもどう? とそのままエスコートされて……高級車に乗せられそうになったので、おわびはいいです〜とお断りした。


 じゃ、大福でも食べようとボンさんはスーパーで買った大福とや~ほー茶ちゃチャを私は半額のたい焼きと古の詩(ミネラルウォーター)を買ってイートインコーナーで食べた、ええ、何故か半額(割引)商品ばっか買う経済状態とともにたい焼きを半分と大福半分を交換しましたが……


 どうやらボンさんは人界でなんか不動産関係の商売もしてるらしく、さっきの部下らしい人がビジネスディナーがとかつぶやきながら時計見てるのにどこも世知辛いなぁーと思った。


 『じゃ、また』

 何故か私に極上の笑みを浮かべた()()()()とはこのままもう、あわないんだろうなとおもってたのに、次の日からスーパーで会いまくりで何さの日々。


 「焼きまんじゅうもいいけど、焼きまんじゅうパンも美味しいね」

 ボンさんが美味しそうに焼きまんじゅうパンにかじりついた。

 最近、やっとできるようになった()()()()()を見ながら星のしずく(ミネラルウォーター)の600リットル入りペットボトルを開けた。


 最初はえらく上品に食べてたんだよねと思いながら一口飲んでイートインコーナーのテーブルに置いた。


 「良かったもん」

 「アケネは食べないの? 」

 ボンがお寿司を差し出した。


 スーパーのベーカリーコーナーに来てる客がちらっとこっちを見てるのを感じた。


 「だべるもん」

 フタをあけてわさびを出してお寿司の上につけて醤油をその上にたらす、私が編み出した技? だ。


 最近のスーパーのお寿司はわさび、別添えであとのせが多いんだもん。

 

 あえて好物のサーモンからじゃなくてイカから食べる。

 ねっとりと甘い身が舌にからみついた。


 ああ、()()()()()()って最高の娯楽だもん。


 「美味しそうに食べますね」

 「ボンさんも食べるもん? 」

 ボンじゃなくて名乗ったじゃないですかと言いながら遠慮なくマグロを取られた。


 うん、アウグスゼーダ•(リョク)……なんたらってきいたけど、高位魔族の正式名なんぞ呼んだら、滅されちゃうもん。


 魔族の常識だもん

 

 「たまには、うちに来ない? 」

 「ここで十分だもん」

 ボンさんに取られる前に炙りサーモンを口に入れた。


 炙りサーモンの香ばしさにうっとりする。

 ボンさんの家って魔界? それとも人界? どっちでも場違いっぽいもん。


 「レストランで食事ではどう? 」

 「洋食屋さんのじんちょうげがいいもん」

 ふわとろオムライスが絶品で前は明太子ソース食べたんだよね。


 いつか同僚と一緒に行った、洋食屋さんのふわとろオムライスの味を思い出した。


 ミネラルウォーター(ほんとの食事)を飲みながら今度はビーフシチューかけオムライスとうっとりとしてると本当に安上がりだねとボンさんがうっすら微笑んだ。


 確かにショッピングモールに入ってるカジュアルなチェーン店だけどね、私的には特別感満載だもん。


 今度の休みはいつとボンさんが通信端末を出したのであわてて自分の通信端末を出してお仕事日記アプリで予定を確認した。


 介護老人保健施設なので休みは土日祝じゃなくてローテーション勤務なんでいつ休みかは確認しないとわからないもん。


 次の休みのデート? を約束した。

 ついでにいまさら連絡先を交換したもん。


 名前はアウグスゼータ•(リョク)•ヨルヘリムって……超高位魔貴族の緑本家の……もうボンさんで登録してやるもん。


 「ボン、呼び出しです……」

 「わかった」

 通信端末を操作していると今日は担当らしいミチノリさんがボンさんの脇に立ってささやき、ボンさんが眉をしかめてうなづいた。

 

 「これからお仕事? 」

 「うん、いってくるよ」

 ボンさんがまた明日と手を振ってちょっと微笑んで出ていった。


 ボンさんの仕事はよくわかんない、でも大変そうだなと星のしずく(ミネラルウォーター)を飲み干した。


 あ、しまった、ミネラルウォーター(ほんもんの食料)のダンボール運んでもらうの忘れたもん。


 ま、まあ、カートがあればなんとか……


 車はなんとかなったけど、アパートにあげるのが大変だったもん、箱買い、今度はやめとくもん。


 

 今日は、女性入浴日だもん。

 ちっちゃい、浴場前の廊下にご利用者が並んでるもん。

 「ちょっとー、私はまだかい〜」

 「あんた、順番だよ」

 車イスで爆走中の人の喜久子さんが竜の中級魔族なマリコさんを追い抜かしていく……もちろん、人姿なんだけど、本当に人って大胆で鈍感だなぁと思いながら道子さんの髪の毛にドライヤーをあてた。


 「あらあら、お元気ねぇ」

 道子さんがちろっと二人を見た。

 なんか寒気がするよと喜久子さんが叫んでマリコさんは上手に車イスで後ずさりした。


 さすが、上級半魔族、恐ろしい威圧だもん。


 喜久子さん、寒気がするなら看護職さんに熱はかってもらおうか、マリコさんミツさんにぶつかるから、前進んでと男性介護主任の江口さんが穏やかに脱衣場のカーテンをあけて出てきた。


 江口さんは人だからわかんないんだよとマリコさんが震えながらつぶやいてカーテンの向こうに入っていった。


 私は大丈夫だよ〜と喜久子さんが叫んで、江口さんが元気だね、でも順番だよと返してた。


 「江口さんはにぶいわね……そこがいいところだけど……そういえば、ボンさんとお付き合いしてるそうね」

 「お惣菜食い友達ですよ〜」

 照れてるのね、うふふと乙女? な道子さんに真実を告げてなんかむなしくなりながら、終わりです、帰ってくださいと車イスを廊下に向けた。


 ええ、どうせボンさんは上級魔族で、どうも(リョク)本家の関係者っぽいし、しょせん私は末端な木霊魔族だもんと思いながらミツさんを脱衣場に入れた。



 今日はフレッシーにしようかなぁ……そういや、ボンさんってスーパー変えても必ず現れるよねと思いながらお先に失礼しますと挨拶して女子更衣室に行って着替えて出たらちょうど男子更衣室出てきた江口さんと一緒になった。


 「アケネちゃん、お疲れ様」

 「江口さんもお疲れ様です」

 江口さんは好青年で介護主任で人族? らしいけどおばあちゃんたちに人気がある。


 そのまま一緒に職員駐車場に行きながら心配そうに最近、利用者さんの家族関係者につきまとわれてるみたいだけど、大丈夫? と江口さんに聞かれた。


 ……利用者さんの家族関係者? と考えた。


 「……別につきまとわれてませんよ? 」

 「僕は見たんだけど、あの銀の髪の男性は、道子さんの家族関係者だよね」

 何なら僕から注意してもいいんだよと江口さんが目を細めたのになぜか寒気を感じた。


 「ぼ、ボンさんとは食べ友なので大丈夫です〜」

 お疲れ様でした〜と言い捨てて愛車に乗り込んだ。


 気をつけて愛車を発車させながら一瞬だけ窓から外を見ると江口さんはあきらめたらしくアウトドアに使えそうな大きい青い普通車の方に歩いて行った。


 わーん、やっぱり家族関係者と食べ友はアウトかもん?

 でも、ボンさんと食べると寂しい人界一人暮らしが楽しいんだもん。


 プライベートは口出さないでほしいもん。


 今日は、フレッシーに行ってストレス発散にノンアルビール(嗜好品)チーズタラ(嗜好品)も買ってボンさんと飲んじゃうもん。


 きっと楽しいもん。


 「アケネ、今日もいい匂いだね」

 「ボンさん、何飲むもん? 」

 ノンアルビールを物色してたらボンさんのいい声が後ろから聞こえたので振り返ったもん。


 「その内臓脂肪に効くノンアルコールレモンサワー……どうしたんだい? 」

 ボンさんが後ろから覗き込んだ。


 私がノンアルコールビールを飲むなんておかしいと思ったらしい。


 もう、全部話しちゃおうかなと思ったけど……本人に言えないと大丈夫と笑いを絞り出したもん。


 その日はイートインスペースで半額お惣菜でノンアルコール酒盛りして、ボンさんとデート? の打ち合わせをして帰ったもん。


 今度のお休み楽しみだもん。

 江口さんの事は忘れるもん。


 

 「明日、ボンさんとオムライス食べに行くそうですわね」

 遅番でお手拭きを配ってると道子さんがおっとり私を見た。

 「えーと、それは……」

 「ミチノリ()がね、昨日来たのよ、それで聞いたの」

 おっとりとあら、熱いわと道子さんはお茶を飲んだ。


 わーん、ミチノリさん、ボンさんの護衛なんだろうけど、守秘義務はどこいった〜。


 「じんちょうげに行くそうですわね」

 私も若いときは旦那様と良く空中デートしましたわと道子さんが指を組んで喜久子さん、ふん、セレブデートかい、私だってお参りデートしたわいといつも通り突っ込んだ。


 喜久子さん、たぶん道子さんの空中デートはヘリコプターデートとかパラグライダーデートじゃなくて自前の羽根で魔界で空中デートだからね。


 本当に喜久子さん、人族なんだなと思って頭を上げると江口さんがこっちを見ていた。


 なんか言われるのかな、でも個人的に付き合うのは勝手だもん。

 

 そんなことを思いながら、その日も仕事に没頭したもん。



 そんなこんなで今日はデート? だもん。

 まあ、食べ友交流会なだけだもん。


 この間、ファッションストア あかさかで買った薄茶のコールテンのワンピースにレギンスはいてブーティーにしようかなとちょっと古いけど魔連に紹介された風呂トイレは別のアパートで口紅を塗ってるとボンさんからもうすぐつくって連絡が来たので慌てて仕上げで外に出た。


 最近、よく来る近所の飼い猫らしい黒猫ちゃんが足元にすり寄りにゃーんと鳴いたけど、今日はカリカリ(キャットフード)ないんだ、ごめんねと頭を撫でてると、自動車の音がした。


 豪華な高級車で来ないでと言ってあるから普通の車かなと顔を上げると、見怯えあるアウトドアに使えそうな青い普通車がアパートの前に停まった。


 「……江口さん……」

 「アケネちゃん、騙されちゃいけないよ」

 普通車からおりてきた江口さんが私に微笑んのを見たときなんか寒気がした。


 「騙されてません、それになんでここが? 」

 「水はどこにでもあるからね」

 江口さんがちらっとアパートの裏の川を見た。


 江口さん……もしかして……人族……じゃ……


 「さて、どうにあの害獣駆除をしようかな」

 目を細めて江口さんが見た先にボンさんが運転する白い軽ワゴンがアパートに続く道に入ってきたのが見えた。


 普通の車って言ったけど、ボンさん、わざわざ軽自動車にしたんだと少し気が抜けたところで、すぐ近くに気配を感じて横を見ると江口さんがすぐ近くにパーソナルスペースとか言うところにいたもん。


 「アケネ、おはよう……エグチ殿だったか? 」

 ボンさんが全然笑ってない笑みを浮かべて車からおりてきた。

 「害獣は排除しないとね」

 江口さんが右腕を上げた。

 

 アパートの川の水が盛り上がりボンさんに襲いかかった。


 水がはけると目の前からボンさんが消えた。


 「わーんボンさーん」

 「害獣駆除完了かな」

 慌ててあたりを見回す私の横から江口の嬉しそうな声がした。


 流されちゃったかもん、白い軽自動車もびしょ濡れだもん。


 これでアケネちゃんも安心して仕事に来られるねと言う江口さんののんきな声にムカついたけど、ボンさん救出が先だと思って蔓を出しかけた。


 「なるほど、エグチ殿は()ではなかったか」

 「そういう君は害虫だったみたいだね」

 上から声がして妖精の羽根を出したボンさんが降りてきた。


 ボンさんって緑本家(妖精族)の人だっけ?

 

 「害虫はおとなしく退場してください! 」

 「するつもりはない! 」

 水柱を襲いかからせる江口さんにボンさんが竜巻を起こして吹き飛ばした。


 ついでに吹き飛ばされかけて慌ててアパートの玄関の柱に蔦を絡ませてつかまった。


 「やりますね、害虫、しかし僕は負けません! 」

 この流域の治安と可愛い木霊を守るためにと江口さんが両手を上げた。


 川から水柱が何本も迫ってくる。


 そのうち一本が私に近づいてくる……怖い、動けない。


 水に直撃しそうになったとき何かが冷たい水柱から守るように抱き込まれた。


 銀の……髪? ボンさん?


 一瞬の苦しさと次の瞬間の空の青さに、呆然とする、下に苦々しい顔の江口さんが見えた。


 「アケネ、大丈夫か? 」

 「大丈夫……ボンさん? ボンさーん〜」

 私は思い切り空飛ぶボンさんに抱きついたもん。


 く、魔界の害虫め、我が流域の木霊の乙女の末裔を誑かすなど……と江口さんがすごい顔で睨んでる。


 え、江口さん、人族じゃないんだね。


 「乙女を開放したまえ、害虫! 」

 「僕の愛するアケネに指一本触れさせない! 」

 「……愛する? 」

 私は思わず凛々しいボンさんを見上げたもん。

 

 「我が川辺に咲きし赤き乙女の子孫にふらちなことなど許さない! 」

 江口さんが水の壁を立ち上げボンさんが片手を前に竜巻を展開したけど、少し苦しそうだ。


 わーん私を片腕に抱いてるけど大丈夫なんかもん。

 蔓でどっかに降りたほうがいいかもん。


 キョロキョロとアパートの屋根を見ると屋上に大家のおばあちゃんが不機嫌そうに立ってるのが見えておもわず危ないと叫んだもん。


 大家さん、人族だよね?


 「まったく、魔族も神族も迷惑だ」

 大家のおばあちゃんが何かを懐から取り出して和弓に変えて矢を放った。


 竜巻が消失し水の壁が……


 「江口彦尊(エグチヒコノミコト)様、お仕事にお戻りくださいにゅ」

 ちっちゃな黒いローブ姿に白い翼の人物がすごい勢いで江口さんの頭に虫取り網をかけた。


 あ、あれ天使だよね、いつの間に来たんだろう?


 「ハルキさん、神樹の民(シンジュノタミ)のご婦人から通報された、サボり神は捕まえられたようですね」

 上空から筋肉のソコソコついた四つの翼の黒いローブに黒い軍服の天使が降りてきてちっちゃな天使? の頭をなでた。


 「僕はサボったつもりはないけどね、それより害虫を捕まえてよ」

 「副業に力を入れすぎているとお聞きしましたが、江口彦尊、それに魔族は今のところ管轄外でございます」

 筋肉天使が慇懃無礼に礼をして江口さんの腕をつかんだ。


 もう片っぽはちっちゃな天使がよいしょとつかん拍子にローブか脱げて猫耳のついた可愛らしい顔が見えた。


 「僕は君を守りたいだけなんだ」

 「人の恋路を邪魔すると多量猫にふまれちゃうみゅ」

 おいらの具沢山ツナマヨおにぎり分けてあげるから、諦めるみゅとちっちゃな猫耳天使がポンポンと叩くと江口さんが顔をあげた。


 僕は諦めないとつぶやく江口さんにみたらし団子はあげませんと筋肉天使が変なことを言って引っ張って行った。


 ボンさんが地面に降りて私をおろして羽根を消した。


 そのまま抱きしめていい匂いだとつぶやいたのが恥ずかしくて手をおいてボンさんの胸をおすと少しだけゆるめてくれたので綺麗な青緑の眼と視線があった。


 「わ、私の事愛するって食べ友として? 」

 「アケネ、愛してる、アケネは? 」

 私の事は嫌いですかとボンさんが耳元で甘くささやいた。


 私はなんか顔が熱くなって思いっきり首を振った。


 「ボンさんがだ、大好きだもん」

 「アケネ、付き合ってほしい」

 ボンさんが私の手のひらにキスした。


 付き合う? 付き合うってお惣菜一緒に食べたり……じゃないよね? 私みたいな下級に近い中級魔族とたぶん緑本家(リョクホンケ)に連なる高位魔族……でもでも……


 「えーと、私、中級魔族だけどいいかもん? 」

 「アケネ、それじゃあ」

 綺麗な青緑の眼が甘く輝いたもん。


 「よろしくお願いしますもん」

 「アケネ〜」

 ボンさんが思いっきり私を抱きしめた後く、唇にキスしたもん。


 終わったあとあたりを見たらアパートの入り口から出てきた大家のおばあちゃんが若いっていいねぇとニヤニヤしててヨシナリさんがボン良かったですねと白い軽自動車の扉を開けながら笑ってたもん。


 「アケネ、ではさっそくデートに行こうか? 」

 「う、うん」

 優しく肩を抱かれてエスコートされながら思った。


 いつまでこの高位魔族のボンさんと一緒にいられるか……恋人でいられるかわかんないけど、精一杯がんばるもん。


 でも、ボンさん、これからもお惣菜食べに付き合ってくれるかもん?


 それだけが心配だもん。

読んでいただきありがとうございます。

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