ミトのお願い
僕らの密談をするいつもの所、そう体育館裏に僕は重い足取りで向かっていた。
「白夜、この後、いつものとこに来て」
不死鳥祭での部室片付けも終わりに近づいた頃、ミトにこう告げられたからだ。
おそらく、昨日約束したお願いについてだろう。どんなお願いをされるかわからないが、今までの経験上、ろくでもないお願い率90%というとこだろう。
はあ〜いつもならとっくに帰ってる所だが、不死鳥火炎にも参加しないといけない(まひると踊る約束がある)。
よく考えてみれば、まひると踊るということは、注目の的になることは必須条件だ。なんで安請け合いしたんだろう。こちらも考えるとよけいに気が重くなる。
校舎を出ると、空が茜色に染まっていて、もうじき日が暮れることを示唆していた。行き交う生徒は不死鳥火炎に胸を躍らせてるのか、どこか慌ただしい。
体育館裏に着くと、制服姿のミトが待ち受けていた。
「お疲れ様」
ミトは労うように優しく言った。
「ミトもお疲れ様」
「今日は、まじ驚きの連続だったわね。まさかスピカ先生が来るなんて。今度のオフ会で自慢でもしようかな」
「そうだね。ミトがしたらきっとみんな驚くよ」
「あんたも一緒にしたらいいじゃない」
「いや、だって僕らの関係は秘密だろ」
「あっ」とミトは少し罰の悪そうな顔をして、
「べ、別にもういいわよ。オフ会であたし達の関係くらい言ったって」
彼女のまさかの発言に僕は聞き返す。
「えっ、今なんて?」
「だからあたし達の関係くらいバレたって構わないっていうこと」
「ど、どうしたの? その心境の変化は」
「それ聞いちゃう? あんたも一介の小説家なら心理状況の分析くらい出来るでしょ」
普通の相手なら出来るけど、ミトを知っているからこそ、出来ないのだが。
「それより、お願いきいてよね!」
やっぱり、それはありますよね。
「わかってるよ、約束したし。で、お願いって何?」
「えっ、え〜と……それは……」
うん? なんだ、困ったこの感じは。よほど言いにくいお願いなのか。
ミトは珍しくモジモジする。日は暮れ出しているが、まだ茜色が残る体育館裏で彼女の頬は赤めいている。
そして、彼女は戸惑っている様子で口を開いた。
「あ、あたしとフェニファイ踊ってくれない?」




