まひるのお願い
漫研部を出た僕らはまた屋台を周る。マンモス校だけあって、様々な模擬店はあるけど、あの皆さん……さっきも食べたよね。
祭りの時みたいに彼女達は貪るようにあらゆる物を口に放り込む。
こいつらのあの細い身体に備え付いてある内臓は胃袋しかないんじゃないか。サイヤ人か何かなのかJKとは。
シズとユウは希望通り、行きたい所に行けたのだが、まひるはないのだろうか。
一応、尋ねてみるか。
歩きながらイカ焼きを頬張っているまひるの顔はもうすでに満足気に見えるけど。
「まひるはどっか行きたいとこないの?」
彼女は少し虚を突かれたような顔をして、僕に眼差しを向ける。
「わたくしはみんなとこうしてるだけで、充分楽しいですの」
夏祭りの時のクロコの言葉を思い出す。青春の1ページ。
そう、僕にも同じ事が言えつつある。こんなにも人と接することなんて考えた事すらなかった。でも、心の中のどこか見知らぬ片隅の方で求めていたんだろうとカメショー部に行けば行く程、気づかされる自分がいる。
創部当初、あれ程嫌だったのに。
ラノベを書く以外の自分の居場所が今はあると断言でき、そこは僕にとって暖かな陽だまりのような場所になっている。たまにジャックナイフのような場所に変貌する事はあるけれど。
「あの、部長さん」
イカ焼きを食べ終えたまひるが並んで歩きながら言った。僕は模擬店から目を離し、まひるに視線を移した。
「お願いがあるのですけれど」
なんだろうか。目を泳がせるまひる。前を歩くシズとユウは様々な模擬店に気を取られてるのか、こっちに一切気づいていない。
「なに?」
どこかまひるの頬が紅潮しているのは気のせいだろうか。
「えっと、あ、明日の不死鳥火炎、わたくしと踊ってくださいませんか?」
不死鳥火炎……通称フェニファイ。
これは俗にいう後夜祭と呼ばれるもので、その不死鳥の形に彩られた炎のオブジェの周りでリア充共が踊り狂うものだ。
僕は今まで文化祭が終われば、即帰っていたので、不死鳥火炎など参加した事がないし、ホームルームで配られるプリントのみの予備知識で知っているに過ぎない。
「僕はそういうのはちょっと苦手かな……」
やんわりと断ってみる。
まひると踊るなんて注目の的になりかねない、というよりか確実に注目を浴びるだろう。僕は平穏に暮らしたいのだ。
「……わたくしの事がお嫌いですの?」
「いや、そういう意味じゃないけど」
「だったら、お願いしますの」
まひるは真剣な眼差しで僕を見る。女の子にそんなに頼まれたら断る術を僕は知らない。
「うん、わかった」
「やったー!」
まひるが双手を挙げて、珍しく喜びはしゃぐ。そんなに嬉しいのかな。
シズとユウが振り返る。
「何があったぜよ」
まひるは嬉しそうに「別に何もないですの」と答えた。
僕はこの時知る由もなかった。フェニックスファイアーで男女が踊るという事が何を意味するのかを。




