コスプレ強要
「ところで白夜もしなさいよ」
まひるとの言い争いを止めてミトが言った。
「えっ、僕も?」
「当たり前でしょ。あんた一人しないのも変でしょ?」
他の面々も頷く。言われてみればそうだが、『カメショー』に出てくる男性キャラはあれしかいないのだが……。女性キャラはまだいるが、女装しろとでもいうのだろうか。
「僕になんになれと?」
「リンタに決まってるじゃない」
やっぱり!
リンタとはチカゲの兄なのだ。ひとことで言うと普通のなんの取り柄もない男子高校生。かっこいいわけでもないし、頭が良いわけでもないし、運動ができるわけでもない。
ただ、ひとつ彼は新聞部部長という立場から学園最強の仮面少女の正体を追うことに情熱を捧げている! というだけ。
まあ、そんなことはどうでもいいのだが……コスプレっていう感じでもないんだけど。
「リンタのコスプレっていわれても基本カメラを持った普通の制服姿だけなんだけど……」
「そうよ、それでいいじゃない。制服コス」
「女性キャラの制服コスならまだしも僕の場合、ただ単に違う学校の生徒だと思われるだけじゃ……」
男子高校生が男子高校生の制服コスって地味すぎるだろ……。
しかも、誰もが知ってる漫画とかのキャラでもないし。
「そんなことないわよ。ねぇみんな」
「私も部長の聖空学園の制服姿見てみたいです!」
シズが言う聖空学園とはカメショーに出てくるチカゲとリンタが通う学園だ。
「わたくしもくぅーちゃんに賛成ですわ」
「わしもアネさんとシズ殿と同じ気持ちじゃ」
「みんなはカメショーファンだからあれだけど世間的にはそんなに浸透してる気はしないけど……ほらアニメも始まったばかりだし」
女性キャラは戦闘コスチュームがあるからいいけど。
「あんた、あたし達の『カメショー』をバカにしてるの? 国民の半数は読んでいるし、三分の一はアニメも見てるわよ!」
他の面々も頷く。うそー!! このカメショー信者どもめ!
「言い過ぎだろ!」
自分の作品が褒められているのは喜ばしい事だが、つい、ツッコんでしまった。
「まあ、とにかく! 白夜はリンタね! それ以外ならあんた女装でもしたいの?」
「そういうわけじゃ」
「はい、決定!」
こうして強引にリンタのコスプレにされた。
僕は帰路についている。あのあと、まひるの付き人黒子が僕らの身体の寸法を取りに来た。しかし、明日までに五人分のコスプレ衣装を仕立てることなんてできるんだろうか。まひるはいつものように鳳凰院財閥にできないことはない、とか余裕しゃくしゃくの態度で帰って行ったけど……。
去年の文化祭はクラスで劇をしたけど、なにも役はなく(照明や音響などの裏方の役すらなかった)掃除だけをさせられていた。どういった内容の劇かも忘れた。
今年の文化祭もクラスのほうではダンスとかの見世物をするみたいだけど、僕はまったく蚊帳の外。ミトはもちろんダンスの中心メンバーだけど……。
ただ、去年と違うのは僕にはカメショー部がある。三年間灰色の文化祭だと思っていたのが色づき始めている。
明日にはもっと色鮮やかに染まるのだろうか。




