これがリア充!?
「このマンションだよ」
僕はミトと校外で待ち合わせ(校内でそんなことするとクラスのリア充に見られるかもしれないから)してから僕の家までやって来た。
「あれ、綺麗な建物だけど、思ってたより小さいわね。これって家族で住んでるの?」
「一人暮らしなんだ」
ミトは驚いたのか目を丸くした。
「へ、へぇー、そうなんだぁ」
「うん」
「なんか理由があるの?」
本当のことはもちろん言えないのであらかじめ用意しておいた返答をする。
「まあ、家庭の事情というやつで」
「ふ~ん、そうなんだ。なんだかわかんないけどあんたも大変なのね」
家庭の事情という武器は大体どんな相手にもこれ以上突っ込ませない盾になる。
「ここだよ」
僕は鍵を開けて、扉を開いた。
「お邪魔しま~す」
「適当に座って」
「結構広いわね。あんたんち金持ちなの?」
「別に普通だよ」
「ふぅ~ん」
そう言いながら遠慮がちにリビングのソファーに腰かけるミト。なんか自分の家にJKがいるなんてドキドキするな。しかも、あの超絶リア充の朝凪認世というところがよく考えるとすごいよな。
変に緊張するぞ……。
「紅茶かコーヒー、どっちがいい?」
僕は平静を装う。
「紅茶かな、それよりアレ見せてよ!」
「アレ??」
「あんたがあたしにくれたクラマ先生の直筆サイン入りのカレンダー! あんたもう一つ持ってるんでしょ!」
「あ~……アレね。アレは実家に置いてきてるよ……」
実際にはないんだけど……。
「え~そうなの。あんたの事だから肌身離さず持ってると思ってた」
「はい、どうぞ」
紅茶を入れてミトに渡す。
「ありがと」
僕は自分の紅茶が入ったカップを片手にどこに腰を下ろすか迷っていた。
少しの沈黙のあと、
「す、座れば」とミトが二人掛けソファーの端に寄る。
「あっ、うん」
ミトの隣に腰を下ろした。どこかミトもソワソワしているのは気のせいだろうか。
また、しばし沈黙が続いたあと、紅茶に口をつけようとした時、ミトが口を開いた。
「ここって、あたし以外に友達とか部員とか来た事あるの?」
「いや、ミトが初めてだよ。ミトはやっぱりリア充だから男子の家とかもよく行くの?」
ミトが怒ったように鋭い視線を飛ばす。
「あんたねぇ、あたしがそんな軽い女に見えんの? 男子の家なんてあたしだって初めてよ」
ミトは今度は視線をそらし、
「し、しかも、まさか一人暮らししてるなんて……」
「えっ」
まさかミトも緊張しているのか? 僕を男として見てるって事なのだろうか。そう思うと、よけいにドキドキしてきた。
「し、執筆のレクチャーしようか」
「そ、そうね」
ミトは自分の鞄からタブレットを取り出し、執筆中の原稿を画面に表示させる。
「ここなんだけど……」
「うん」
僕はタブレットを覗き込んだ。近づくミトの髪の香りなのか、良い匂いが鼻になだれ込む。
二人で覗き込むと、肩が寄り添うような形になり、またドキリとしてしまう。平常心を保つのに必死な僕。一瞬、ミトに目をやると、彼女も僅かに頬を赤らめている。
なんだ、このリア充感は。
「えっと」と言ったものの、 ダメだ、アドバイス出来るような思考にならない。
「白夜?」
そう発したミトに自然と目が行く。彼女の目と合う。
いつもなら「キモい」とか言われて、叩かれるはずなのだが、僕らは見つめ合う。胸の鼓動が弾むように高鳴る。
つい、彼女の柔らかな唇に目がいってしまう。彼女は恥ずかしそうに完全に頬を赤らめている。間違いなくこれを良い雰囲気と言うべき気がする。いや、相手はあの朝凪認世だぞ。そんな事はありえない……はず。
「白夜……あたし……」
その時、ピンポ~ン。家のチャイムが鳴った。
僕とミトは顔を見合わせた。
「だ、誰だろ?」
「た、宅急便かなんかじゃないの? あんたの事だからオタグッズでも届いたんじゃないの?」
「なにも買った記憶ないんだけど……」
僕は玄関に行きドアを開いた。僕の目は驚きのあまり丸くなった。
「ど、どうして?」
まひる、シズ、ユウの三人がそこにいた。
「わが闇の情報網を駆使すれば容易いこと」
「もう苦労しましたわ! まさかもう一つ家があったなんて。前に降ろした所で張っててもやって来ないんですもの。クロコに訊いたらここを教えてくれましたの」
「こんな隠れ家があったとは。幕末の維新志士たちが密談に使うた池田屋や寺田屋みたいなもんぜよ」
「なんか騒がしいわね……げっ!!」と背後からミト。
「抜けがけはよくないですわよ。ミトさん」
「べ、別に抜けがけなんてし、してないわよ」
「あねさん、二人で密会とは解せんぜよ」
「み、密会でもないわよ!」
「なら逢いびきというもんがか?」
「部長とミト先輩がまさかそこまで進展していたなんて……やっぱりあの人口呼吸がきっかけで」
何かいけないものを見たときのように両手を口に当てるシズ。
「違うよ!」「違うわよ!」
僕とミトはハモるように否定した。
「ちょっと白夜にアドバイスをしてもらおうと思っただけよ!」
「ふ~ん」
三人があきらかに『怪しい』と言わんばかりのジト目視線を僕らに浴びせた。
「本当だよ! それよりどうして僕らがここにいるとわかったの?」
「わたくしが昨日部室に向かう途中で二人の話し声が聞こえてきたのですの」
それでぼくんちをクロコに調べさせてやって来たのか。彼女なら容易い事だろう。
「では、失礼しますわ」
まひるがそう言うと三人が家に上がる。
リビングまでの短い廊下で、
「おーこれがわが右腕の居城か!」興奮気味のシズ。
みんな適当にリビングのソファだったり絨毯の上でパソコンを開き執筆を始めた。これって……部室でよくね?
ミトはなんかイラついているようにみえる。時折、鋭い視線を僕に飛ばす。そうだよな~、また別の日でセッティングするしかないか……。




