黒子と花火大会
「黒子!」
まひるが叫んだ。
えっ! 黒子ってあの黒子!? まひるの付き人の!?
「申し訳ありません、お嬢様。刃物相手で万が一お嬢様に傷が出来たらと思うと、ついつい出てきてしまいました。出しゃばってしまい申し訳ございません」
「あのような輩、わたくし一人で充分でしたのに」
「それは承知でございましたが、黒子めのカラダが勝手に動いてしまいましたゆえ、申し訳ございません」
「ふん、まあいいですわ」
髪を払うまひる。
「それよりみなさん、花火が見える観覧場所までお急ぎください。開始の時刻が迫っておりますゆえ。ここの後始末はわたしにお任せしてください」
「ほんとにいいの?」
ミトが遠慮がちに訊く。僕も同じ気持ちだ。
「よきに計らいますのでご心配なく」
黒子は微笑んだ。
「黒子に任せておけばいいですわ。鳳凰院財閥のシークレットサービスがいかようにもあとはしてくれますわ」
財閥ってこえ~よ! ほとんどの出来事、闇に葬れるんじゃないのか。
これが日本を牛耳れるほどのトップ財閥の力なのか……。
「……そ、それならいいけど……じゃあみんな行くわよ!」
ミトの掛け声と共にみんなが花火会場に足を向けた。僕も彼女たちのあとを追おうとした時「暗間様」と声をかけられた。
「先ほどはお嬢様を守ろうとしていただき感謝致します」
黒子が頭を下げた。
「そんな、僕はなにもできなかったですよ」
「いえ、さすがは稀代のラノベ作家でございます」
???!?!?
「……今なんて……?」
「貴方様がお隠しである『仮面少女の正体は妹』の作者でありますことは知っておりますゆえ、その理由も」
「…………え―――!!!」
僕は驚きの声を上げた。周りのお祭りを楽しむ客から少し注目を浴びてしまった。
「どどどどうしてそそそれを」
焦って平常心を保つことができず、うまく話せない。
「鳳凰院財閥の情報網をもってすればわからないことなどありませぬゆえ。貴方様がたの部活動メンバーについてはすべて調べておりますゆえ」
「ま、ままひるは知ってるんですか?」
一番確認しておかないといけないことだ!
「お嬢様には教えておりませぬ」
ほっ、僕は胸を撫で下ろした。
「さすがにお嬢様でも、真の貴方様には及ばないと黒子めの独断ながらそう判断致しました。ですからこのことはお嬢様には伏せております。このアリーナ・クロコップの胸の内にだけに留めておきますゆえ、ご安心くださいませ」
まひるの全クラブ制覇の弊害になると判断されたおかげで僕の正体は守られたということか……あとクロコップって言ったよね……『黒子』じゃなくて、『クロコ』だったんだね……。
「お嬢様は初めて部活動というなるものを楽しんでいらっしゃいます」
「初めて?」
「左様でございます。お嬢様にとって部活動とは制覇するもの……いえ、なんでも簡単に制覇できていましたので作業的なものといったほうが正しいでしょうか。しかしながら、貴方様がたの部活動ではそれが簡単にできなかった。逆にお嬢様はそのことを楽しんでいらっしゃいます。みんなで部活に出て作品を執筆し切磋琢磨する。それを楽しんでいらっしゃいます。なおかつ、今日のように高校生らしい遊びもしており、本当に嬉しそうで……」
クロコが微笑む。
「晩代のお嬢様というかつてのご友人も取り戻し、お嬢様にとってなかったはずの青春の1ページになろうとしている。本当に貴方様がたには感謝しております」
「いや、そんな感謝される謂れはないですよ」
「これからもお嬢様をよろしくお願い致します」
クロコはお辞儀をした。
「こ、こちらこそ」
僕もお辞儀をした。
「ささっ暗間様、足を止めてしまい申し訳ございません。花火が始まりますゆえ、お急ぎください」
僕は頷きみんなの元へ駆けつける。まひるはハイスペック教育を受けてきて学生らしい有意義な時間などないに等しかったんだろう。なんでもできるというのも罪なものだ。
僕には到底辿り着けない領域だが、まひるにはつまらない世界だったのかもしれない。だが、カメショー部は違う。まひるに反抗する者もいれば、まひるよりラノベを熟知し、まひる以上の作品を書ける人もいるのだ。だからこそ、彼女は楽しいのだ。
しかし、話は変わるがやはり日本トップの財閥にもなるとなんでもありだな。僕がカメショー作家であることを秘密にしている理由も知ってるってごく一部の編集の人間スピカ先生くらいだけなんだが。潜入捜査でもしたのか、いや絶対してるよな。
やっぱりこえ~よ! 鳳凰院財閥!
「たっまやー!」
ミトが満面の笑みを浮かべた。
「なかなか庶民の花火もやりますわね。わがフェニックスグループのプライベート花火には遠く及びませんけれども」
「暗黒の中に放たれる焔の花。美しい」
「げにまっこと花火は風情があってよいのお~」
それぞれが花火の感想を述べる。どうやらみんなさっきまでのイザコザは尾を引いてないようだ。怖がっていたコもいたからひとまず安心だ。
こうして、曲がりなりにも人と花火を眺めるなんて多少なりリア充感があるよな。まひるとは違う意味で僕もつまらない世界を歩いていた。人とできるだけ関わらないように努めていた。だけど、カメショー部ができてから苦労もそれなりにあるが楽しい毎日を過ごせている。
僕にもなかったはずの青春が色づき始めている。
それもこれも僕が『カメショー』を書いてなかったら今がなかったということだよな。輝きを放ち一瞬で消えて余韻を残す花火を見ているとそんな作品にならないようにいつまでも輝きを放ち続ける作品を創りたいと強く思った。
そして、花火の光に照らされたみんなの横顔を見ていると来年もカメショー部で来たいと僕は思った。




