真の友達
「ミトにはちゃんと他に友達がいるし、それ以前にどうしてミケさんは僕が同じ学校って知ってるんですか??」
ミケさんは微笑んで、
「もちろん、彼女が教えてくれたんだよ。オフ会に来てた君が同じクラスにいたってね! それから君とクラブを創ったとか、時折その部活のことを話してくれるんだ。オフ会に来ている時以上に楽しそうな表情をしてね。学園に入ってあんなに楽しそうに学園のことを話すのは見たことなかったよ」
ミトがそんなことを……普段のミトからは想像もつかない。だが、まだひとつ解せないことがある。
「でも、ミトにはリア充とも呼べる友達がいますよ」
ミケさんは僕の言葉に対し、鼻で小さく溜息をついた。
「……ヤシロくん、なにをもって友達かを定義するのは難しいけど、僕はこう考える。秘密を共有することができるのが真の友達だ! ってね。彼女には確かにリア充と呼ばれるコ達と付き合ってはいるが果たしてそのコ達に『カメショー』が大好きなことを言ってあるだろうか」
「……言ってませんね」
言っているわけがない。僕と話をしている場面さえ誰かに見られたくないのに。
部活でもリア充どもにバレたくないために仮面を被ってるのに。
「そうだね。だから彼女にとっての友達とは秘密……まあこの場合は好きなものを共有して何でも話すことができる君のほうが本当の友達と呼べるんだよ。学園に通い出してからいつもどこかつまらなそうだったのが、部活を創設してからの方が圧倒的に彼女の笑顔が多くなったからね。間違いないよ、一緒の家で暮らしている僕が言うんだから」
ミケさんの分析は素直に嬉しい。だけど、またひとつ腑に落ちないことが出てきた。これはミトと出会ったときにも思ったことだ。
「だけど、ミトほどのリア充ならオタクのことをカミングアウトしたくらいでダメージはさほどないような気がするんですが……」
ミケさんは今までとは一転、神妙な面持ちになった。
「……彼女は…………自分からではないがあるんだよ。友達と思っていたリア充にオタクだって知られたことが……」
「えっ!?」
予想だにしていなかった答えが返ってきて僕は驚いた。
「その結果、見事に仮初めの友達は離れて行った……それはタイミングの問題だったかもしれないが……彼女は―――」
「お待たせ!」
背後からミトの声がした。僕とミケさんは振り返った。
「あっ!?」
ミトはミケさんをみて思わず声を漏らした。
「やあ、ワールドちゃん」
「こ、こんにちは」
少し罰の悪そうな顔をするミト。
ミケさんはそんなミトを察知してか、
「さてと、僕も買い物に行くかな。欲しい同人誌があるんだよな~」と白々しく言った。
ミケさんは立ち上がろうとした時、僕の耳元で「さっきのは」と囁いた。
そして、自分の口元にサッと人差し指を立てた。ミケさんが話した事はミトには内緒ということらしい。
「じゃあ、二人共、またオフ会で」
そう言ってミケさんは雑踏の中へ消えていった。
「はあ~おっも!」
ミトはさっきまでミケさんが座っていた場所に腰をかけた。大量の同人誌が入った袋を持っている。
「ミケさんと何を話してたの?」
「いや……別に……」
「いや……別に……じゃないわよ! 早く言いなさいよ! あんたにポーカーフェイスなんてできないんだから」
自分がつくづく嫌になる。どんだけ隠し事ができないんだ僕……。
「まあ、どうせあんたにあげたサイン会のチケットがミケさんのっていうことがバレたんでしょうけど」
ミトは勝手に予想をたてて暴露した。
よし! これくらいなら白状してもいいだろう。
「そうだよ。僕も驚いたよ」
これよりも、もっと衝撃的なことがありまくりだったけど。
「断わっておくけど、ミケさんから強奪したわけじゃないわよ。ちゃんとお願いして譲ってもらったんだから、あ、あんたの為に」
頬を赤らめるミト。
「わかってるよ。ミケさんもそう言ってたから。ありがとう」
「う~なんか白夜のくせに生意気ねぇ~!」
「そ、それよりもたくさん買ってきたんだね!」
ミトは睨み顔から満面の笑みになり、
「そうなのよ! 面白そうなサークルを片っ端から覗いたからね」
にしても買いすぎだと思うのだが……。
「バイト代全部消えちゃったけど、読むのが楽しみ~ってか早く帰って読みたいから帰るわよ!」
僕はミトが買ってきた同人誌を半分以上持たされて帰路につくのだった。
今日のミケさんの話は衝撃の連続だったが、ひとつどうしても気になる点があった。それはミトほどの表向きは超絶リア充でもオタクがばれただけで友達(仮)が離れて行くのだということだ。
僕が思い描いていたすべてに恵まれているリア充はオタクをカミングアウトしようがなにしようが関係ないものだと思っていた。オタクというのはリア充を失墜させるのに一気に広がるウイルスのようなものだろうか。それならミトが執拗に仮面を着けてまで隠したがるのはわかる気もするが……。
ただミケさんの話は途中で終わってしまったのでまだ決めつけるのは早いけど……。




