ミケさんとミト
僕はカメショーブース横のベンチでミトを待っていると意外な人に声をかけられた。
「ヤシロくん」
僕をこう呼ぶのは『カメショー』のオフ会のメンバーだ。
この落ち着いた渋い低い声はミケさんだ。
「こんにちは」
「こんな所で会うなんて奇遇だねっていうかサイン会に来たのかい?」
そう言って、ミケさんは僕の隣に腰をおろす。
「まあ、そんなところです」
「よく当選したね~! すごい倍率だっただろう?」
「えっと……これはその……」
僕は動揺の色を隠せない。はあ、自分が嫌になる……。
ミケさんはなにかを疑うような目をする。
「……なるほど。やっぱり君だったか。チケット、ワールドちゃんにもらったんだろう?」
なんでこの人わかるんだ!? 心の中が読めるのか? それとも僕の顔に答えでも浮かびあがっているのか? これぐらいの人間になると読心術が身についているのか?
「そんな驚いた表情しなくても大丈夫だよ。それはおそらく僕が彼女にあげたチケットだから」
「ど、どういうことなんですか?」
全く事情がわからんぞ!?
「ミーちゃんにどうしてもあげたい人がいるからってお願いされてね」
チケットがミケさんのものだったよりもミーちゃんという発言にさらなる衝撃を受けた。
ファーストインパクトの直後にセカンドインパクト発生。僕の頭の中はすでに状況が把握しきれなくなってきている。
「ミー……ちゃん!?」
「あ~ごめん! ワールドちゃんのリアルネームのあだ名だよ。昔からそう呼んでるからオフ会じゃなかったし、自然と出てしまったよ」
昔から?
ミケさんとミトはオフ会の前から知り合いだったってことか……ってますます謎が増えた気がする。もはや頭の中ではすぐには整理がつかない。
「その様子じゃ、ミーちゃんからなにも聞かされてないようだね」
「はい……」
僕は頷いた。
「僕と彼女は今一緒に住んでいてね。それで……あれっ、ヤシロくんちゃんと聞いてる? ヤシロくん?」
ミケさんの呼びかけでわれにかえる僕。一緒に住んでいるというサードインパクト発生後、僕の頭の回路は思考を一時停止したみたいだ。これは人間が身を守るための無意識的な防御機構が働いたんだろう。
「すいません……二人はその……なんというか……その……そういう関係なんですか?」
さすがはリア充、高校生にして同棲とは……。
一瞬、目でどういうこと? っていう風な語りかけをしてきたが、すぐにミケさんはクスクスと笑いだした。
「違うよ、僕たちはいとこにあたる親戚なんだよ。それで彼女が今の学園に通うために僕の家に来たってわけ。家っていっても僕はひとり暮らしじゃないから、もちろん親もいるしね」
「な、なるほど」
どこかホッとする。
だからかミトがミケさんにはどことなく弱いわけは。
「それって、オフ会のメンバーは知っていたりするんですか?」
ミケさんは首を横に振った。
「公表してないよ。彼女、あれでいて僕と知り合いとかで特別視されたくないんだよ、君ならわかるだろ?」
僕はゆっくり頷いた。
「でも、どうして僕には教えてくれたんですか?」
「それは君があの学園で初めてできた彼女の友達だからだよ」
「えっ!?」
ミケさんは僕が考えたこともないことを口にした。




