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ゴールドマスクの正体

 僕はトイレを済ませたところで声をかけられた。


「クラマせんせ?」


 僕をそう呼ぶのは限られている。そして、この会場で僕と気づいてそう呼ぶのは思いつく限り一人しかいない。

 さきほど僕の黄金仮面にチカゲを描いてくれた『カメショー』の作画担当スピカ先生だ。彼女の方に振り向く僕。

 彼女はマスクをして、キャップを目深に被っていた。変装なのだろう、カメショーファンに見つかると騒ぎになりかねないからな。

 彼女は僕の顔をまじまじと見つめる。


「やっぱりクラマせんせや」

「こ、こんにちは」


 僕は今日初めて会ったように装う。


「こないなとこでどないしたんですか? あっ、もしかしてうちのサイン会の様子でも見に来てくれたん?」


 あなたのサインをもらいました! とは言えず、


「いや、まあ……そんなところかな……はは」


 僕は苦笑いした。


「うわ~ほんまに~! あんまりこういうの来てくれたことないやん」

「家からも近いし、夏のコミケは毎年来てるから」

「そうなんや~、それでもうち感激やわ」


 スピカ先生は目を輝かせた。


「たくさん人が来てくれてるんですね」


 一応、サイン会の感想を述べる。スピカ先生は首を横に振った。


「普段のサイン会はもっとすごい人がいてはるんよ! 今日は抽選でかなり絞ったみたいやから少ないほうやで」

「そうなんですか……いつもイベント事お任せしてすいません」


 僕がやればスピカ先生の負担も減るんだが……。


「そんなん気にせんといて。人間得手不得手はあるもんやで。不得意なことは得意な方がやったらええんやし。『カメショー』の核はクラマせんせ、核がないと手足んなる、うちは動けへんねんからこっちこそ感謝してるんやで! 二人でこれからも『カメショー』を飽きのこない最高の作品にしてこ!」


 両手でガッツポーズを作るスピカ先生。なんて心強いことを言ってくれるんだ。

 この人は神なのか……いや、さながら女神か。


「やけどせんせがサイン会したらもっとすごいことになると思うで!」

「そんなことないですよ」


 僕は謙遜してみせた。それは本当に絶対彼女の方が来ると思ったからだ。


「正体隠してるせんせのサイン会なんてファンからしたら涎ものやで、きっと!」

「そんなこと…………」


 確かに僕のサインものはプレミアがついてるらしいから一回くらいはファンも並んでくれるかもしれないか……。

 人間は心理的に少なくて珍しいものに価値を見出すからな。でも、実物の僕を見たら読者の皆さんはげんなりするんじゃないだろうか。


「あっ、せや! さっき面白い人がおったんよ!」



 僕が言葉に詰まっているように見えたのかスピカ先生は話題を変えた。


「どんな人なんですか?」

「それがチカゲのあのゴールドマスクを装着してきたんや」


 おい待てそれって……。


「しかもやで、そのマスクにサインほしいってなって、うちサインじゃなくてチカゲ描いちゃってん、ふふふ」


 スピカ先生はちょっと悪戯っぽく笑った。そのあと難しそうな顔をして、


「ただ不思議に思たのが、マスク外さへんとこやねん。普通ファンなら顔覚えてほしかったりするもんやねんけどなあ」


 スピカ先生は首を傾げながらさらに、

「実際、今日来てたファンのみんなは見たことあるなあって人ばっかやったし……それに今思えばあの人、ひと言も喋らへんかったなあ」

「なななんか事情があったのかな!? 例えば目立ちたかったとか……」

「そうやったんかなあ、確かに今度もあれで来られたら、逆に絶対忘れられへんもんなあ」

「ははは、そうですよね」


 もう永遠に現れないですけど……。


「そうやで、でもなんでマスク着けてまでサイン会にやって来たん? クラマせんせ……」


「えっ?」

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