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夏コミとミト

「お待たせ!」


 私服姿のミトが背後から現れた。暑さ対策で僕と同じようにキャップを被っている。服装は動きやすそうな格好をしている。


「なにジロジロ見てんのよ。気持ち悪いわね」


 私服姿はあまり見ることないので見惚れてしまっていた。こういう可愛い子ってどんな服装でもお洒落に見えるよな。


「まあ、無理もないわね! あたし可愛すぎるし。こんな可愛いコと一緒に歩けるだけでも光栄に思いなさい」


 ミトから誘われた夏コミに向かうために最寄り駅で待ち合わせしていたのだ。

 僕はミトからの誘いをやんわり断った(コミケは一人でじっくり周りたかったから)のだが、人口

呼吸をしてあげたという代償に一緒に行くことを命じられた。


 会場前にて。


「相変わらず、すごい人ね」


 人が多すぎてなにかの生き物のようにうねりをあげている。


「ミトは何度か来たことあるの?」

「去年だけね」

「そうなんだ。なんでこの最終日に?」

「行きたいブースがあるのよってあんたもファンなら知ってるでしょ」


 やっぱりあれか、あれだろうな~。大体察しはついている。


「あんたはあれ以外に行きたいとこあんの?」

「いや、別に」


 僕は一昨日と昨日で自分が欲しいものを頑張ってゲットしておいたので問題ない。いつもはこの三日目はレイヤーさんの観賞に浸るために行く。

 今年は『カメショー』のレイヤーさんが去年より多いな。アニメ化の発表のおかげか、それともやはりあのイベントがあるからか……。


「あったあった! あそこよあそこ!やっぱり結構並んでるわね~」


 ミトが指差したのは『カメショー』のブース。三日目の今日だけの特別ブースなのだ。


 しかも、並んでいるのはサイン会だ。


「早く並ぶわよ!」

「並ぶって、サインもらえるのはチケットを持ってる人だけだろ?」


 このチケットは事前に抽選で当たった人だけに送られてくるはずだけど……。


「じゃじゃじゃーん!」


 ミトは二枚のチケットを掲げた。


「どうしたのそれ?当たったの? 」

「ふふふすごいでしょ! 100分の1の超レアものよ!」


 ドヤ顔をするミト。


「すごいけど、なんで二枚もあるの?」


 こういうのって基本的には一人一枚しか当たらないはずなんだが。


「それは内緒」


 ミトは唇に人差し指を当ててウインクした。なんだこの二次元ばりに可愛いしぐさは。


「はい、白夜にこれあげるわ!」


 えっ!


「なによその驚いた顔。言葉も出ないくらい嬉しいの? そりゃそうよねぇ、レアなサイン会だもんね」

「えっと……僕がもらうよりミトが二回貰えばいいんじゃない?」

「なに言ってんのよ、同じ人はダメに決まってるじゃない」

「そうか……」

「せっかくあたしが譲ってあげると言ってんのにいらないって言うの?」

「そういうわけじゃないんだけど……」

「まさか! あんたも当たったとか」

「当たってないけど……」

「ならありがたく受け取っときなさいよ」


 ミトは僕にチケットを渡してきた。


「さあ、並ぶわよ!」


 僕の手首を掴み引っ張るミト。少し、ドキッとした。


 しかし、それよりもこれはまずいことになったぞ! ブースに来るくらいならバレないと思っていたが、このままではあの人にバレる確率100パーセントに近い。マスクでも持ってくるんだった。並びながら打開策を練っている僕にミトがこんな事を訊いてきた。


「あんた、なんか『カメショー』のグッズとか持ってきた?」


 僕は首を横に振った。


「そうよね~それあげるのサプライズだったしなあ」


 ミトは困った顔をした。


「スピカ先生にサインもらうのになんか必要なんだけど……一応、色紙は持ってきてあげたけどグッズにしてもらう方がいいわよね?」

「そうだね! ミトはこのまま並んで先にサインもらいなよ! 僕はブースでなにか買ってきてそれにもらうよ!」


 よし、ミトと同じタイミングでサインをもらわないならスピカ先生に気づかれてもなんとかやり通せるだろう。

 僕は列から離れ、グッズを買いに行く。『カメショー』のグッズならあれがあるはずだ!

  物色しているとやはりあった! 

 これならスピカ先生に気づかれないためのさらなる防御網が張れる! 僕はお目当ての品を手に取り、列に戻る。


「白夜! こっちこっち!」


 ミトの声がする方をみると、手招きしている。目が合ってしまったので無視するわけにもいかないからミトが並んでいる前の方に駆け寄る。


「ここから並びなさいよ。後ろの人には言ってあるから」


 その親切心、今日はいらないんですけど……。


「いや、でも悪いし……」


 ミトは微笑んで、後ろに並んでいる人に「すいません」と言って、スマイルを振りまいた。後ろに並ぶオタっぽい男性はミトスマイルにやられてすんなりと了承した。

 オタは美少女のスマイルには寛容なのだ。こうしてまずミトから離れるという防御網が決壊した。


まずいな、どうしようか……とりあえず先にミトに行かせて、僕はあとに続こう。その方が僕とスピカ先生のやり取りは見られないで済むはずだ。それにこれがあるし。


「あんたさっきから難しい顔してなに考えてんの?」


 ぎくり!


「なんでもないよ……」

「……なんかつまんない。あんまり嬉しくなさそうだし……」


 ミトはふて腐れ、唇を尖らせた。……そうだよな。カメショーファンなら喉から手が出るほど欲しいチケットを譲ってもらったんだし、普通なら喜びを爆発させるよな。ミトもどういう風の吹き回しかわからないけど、僕に喜んでもらいたかったんだろう。


「そんなことないよ! 僕みたいな奴がこんなのもらっていいのかな!? って思ってただけだよ」

「じゃあ、嬉しいの?」


 首を傾げて僕の顔を覗き込むミト。

 その仕草に僕はドキッとした。女性耐性ゼロの僕以外でもミトのこの仕草は可愛くみえるはずだ。


「も、もちろん! ああ嬉しい! ああ楽しみだな!」


 僕は明るく笑顔を作った。ちょっとわざとらしいかったかな……。


「そう、なら良かった」


 ミトは微笑んだ。うっ、可愛い! 僕の発言を素直に受け取るミト。今日のミトはいつもとなんかちょっと違う気がする……。

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