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禁書

 二人ともブックカバーをつけているのでタイトルはわからない。僕は気になって訊いてみた。


「ユウはなにを読んでるの? なにか新刊のラノベでも出たんだっけ?」

「先日、ある書店に行ったら、とんでもないコーナーを見つけてしまったんぜよ」

「とんでもないコーナー??」

「百聞は一見にしかず!」


 ブックカバーを外してその本をかざすユウ。


『ケダモノに誘惑された俺』…………あからさまなタイトルと美男子二人が見つめあって手を絡ませるこのイラスト…………これはラノベに出てくる女子お決まりのBL本じゃないか!


「こんなものが世に出回っているとは日本もまだまだ捨てたもんじゃないぜよ! 『カメショー』ばりの衝撃を受けたき!」


 僕以外の三人もこちらを見て、唖然とした表情をしている。


「部長殿はこの男同士のまぐわいの本読んだことあるがか?」


 ミト、まひる、シズの視線が痛いほど突き刺さる。


「ないよ、ないない」


 オタクだけど僕は腐男子ではない。三人がホッとした表情を浮かべた。ユウだけは残念そうな表情をした。


「そりゃあ、もったいないぜよ! 一度読んでみてくだされ。わしなんかBLコーナーの本買い漁ってしもうたぜよ。寝る間も惜しんで読みふけってしもうたぜよ!」


 それ、ハマりすぎですよユウさん……。


「いやあ、わしが書く歴史物ラノベに取り入れたい要素満載じゃきに、敵同士の維新志士と新撰組の恋なんてもんも……あ~考えただけでゾクゾクするぜよ」 


 書くのは自由だけど……それラノベっていうか歴史物ボーイズラブだよ……。 


「わしの作品の幅が広がったぜよ! やっぱり坂本竜馬のように突飛な発想が常に時代を動かすのだ……ぜよ」


 興奮しすぎて土佐弁を忘れるユウ。まさか、僕が入院してる間に腐女子ルートに突入していたとは……この分だと当分熱は冷めないだろうな。  


 ユウはもう置いといて、


「シズはなに読んでるの?」

「私は……わ、われは……」


 通常モードから碧眼モードになるシズ。しかも、顔を赤らめて、サッと読んでいた本を隠す。


 僕の頭の中に? が浮かぶ。他の部員も表情から察するに同じことを思っているみたいだ。


「なんで隠すの?」


 隠すところから簡単には見せられないものなのか!?


「これはその……」


 たじたじになるシズ。


「怪しい」

 ジト目でユウが圧力かける。


「わしもカミングアウトしたんじゃからシズさんもせにゃならんぜよ!」

「ユウちゃんは勝手に自分から晒したじゃない!」

「くぅーちゃん、わたくしたちの間で隠しゴトはなしですわよ。幼き頃に誓ったわたくしたちの約束ですわよ」

「そ、そんな約束ってういうか、私はるーちゃんのことまだ許してないんだからね!」 


 まひるは『るーちゃん』と呼ばれていたのか。


「と、とにかくこれは……闇の禁書なので汝らのような齢16年やそこらの者には見せれぬのだ」

「ならば実力行使といこうかいの」

「えっ?」


 ユウがシズに詰め寄る。シズは立ち上がり怯える表情で後ずさる。数歩、後ずさったところでシズは背後にいるミトにぶつかった。何にぶつかったか確認する為に背後を振り返

るシズ。


 ミトはニヤリとした。今まで参加していなかったミトだがやはり気になっていたみたいだ。


「いまよ!」


 ミトがシズの手首を掴んだ。


「あねさん、ナイスアシストぜよ!」


 素早くユウがシズから例の本を奪取した。


「さあ、見せていただこうかいの」


「やめてー!」


 シズが叫ぶ。


 ユウが開こうとした刹那、本が宙に引っ張られた。まひるだ!


「くぅーちゃんがこんなに嫌がっているのになんてことをするのですの」

 ユウとまひるが本を引っ張り合う。

「ん~! ここまで来たら見ないと気が済まんぜよ!」

「ぐぬぬ! 離してくださいまし!」


 一歩も引かない二人。力が拮抗している。だが、予期せぬ出来事が起きた。あまりの引っ張り合いにブックカバーが外れて、本が宙に舞ったのだ。床に落ちた本のタイトルは……


『昼下がりの人妻の甘い罠』


 部室が冷凍庫ミサイルでも撃たれたかのように一瞬で凍りついた。


 まさかの官能小説!


 しかも、熟女もの。さすがに想定外……僕はソフトなエロさの漫画くらいを予想していたんだが……まさかシズが……。


「シズさんにこんな趣味があったとは……げにまっこと驚きぜよ」

 ユウが言える立場ではない気がするが、確かに驚愕の事実だな。


 赤面するシズ。


「くぅーちゃん、ごめんなさい!」


 まひるが急に謝り出した。


「鳳凰院家のせいでここまで追い詰められてしまっていたなんて……」

「シズ、あんた……変わってるとは思っていたけど……」と真顔のミト。

「こ、これはち、違うんです!」


 シズが慌てて弁解を始めた。


「これは……そのなんて言ったらいいか……」

「何よ? このままじゃただの変態になるわよ!」

「キ……キスシーンを書きたくて参考にしようと」

「なるほど~ってそんなもの漫画やラノベでもあるじゃない!」

「そうなのですが、少し大人な……アダルトな感じの書き方をしてみたくて」

「それで官能小説?? ちょっと発想が突飛すぎない?」

「それが一冊読んでみたらこれはこれで勉強になるというかなんというか」

「あんた、そんなキスシーンがあるような恋愛もの書いてたっけ?」


 そうだ、シズの作品というとバトルファンタジー系だったよな。

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