海王リヴァイアサンは散る
「汝ら、ようやくわが召喚獣リヴァイアサンが幻獣界から降臨したぞ!」
シャチからリヴァイアサンに進化した浮き具が海に浮かべられ、シズが乗る。続いてシズの後ろにミトが乗る。沈み込むがなんとか二人なら沈まないようだ。
「ゆけ! リヴァイアサン!!」
誰も引っ張ったり、押したりしないので波の上でプカプカ浮くのみのリヴァイアサン……。
「あんた達押しなさいよ!」
「わたくしもお乗りになりたいですわ」
「あんたシズが乗ってるんだから罪滅ぼしだと思って、押してあげなさいよ!」
ハッとするまひる。
「わかりましたわ! くぅーちゃんの為なら!! 水泳部在籍時一番早いと言わしめたこのわたくしの人魚にも勝るとも劣らない泳ぎを披露してさしあげますわ!」
言葉巧みなミトの話術になんかいいように使われてるぞ……まひる。
「わしは前で引っ張ってやるき! 桂浜での水練で鍛えたわしの泳法とくと見るぜよ!」
「よし! いざゆかん魔界の海へ!」
沖の方を指差すシズ。4人は出発した…………と思ったら、1メートル先でミトが気づく。
「白夜、なにしてんの? あんたも行くのよ」
「僕は遠慮しとくよ」
苦笑いで取り繕う。
「わが右腕、召喚士の汝が来んとリヴァイアサンはたちまち消えてしまうではないか!」
なんだよその設定……。
「早く来なさいよ!」
ミトが怒りを露わにして言う。全員が僕に視線を集中させた。
「わ、わかったよ」
目ヂカラの集中砲火に圧倒され、僕は許諾してしまった。リヴァイアサンの尻尾を掴んでれば大丈夫だよな……。
「リヴァイアサン! リフトオフ!!」
ミトが某ロボットアニメの一尉の真似をして叫んだ。するとありえないスピードでぐんぐんと沖に向かうリヴァイアサン。
速すぎるだろ!
「おりゃりゃりゃりゃりゃー!」
まひるが僕の隣で凄まじいバタ足を披露しているのだ。
「うりゃあ!」
前方ではそれに負けじとユウも凄まじい速さで腕を掻いている。
「さすがリヴァイアサン! これでこそ王の名に相応しい海の魔獣よ!」
リヴァイアサンのスピードにご満悦なシズ。
僕はバタ足どころかリヴァイアサンの尾びれにしがみついて振り落とされないようにするのに必死だ。猛烈な勢いでかなり沖までやってきた。先ほどからはリヴァイアサンはゆ
っくりと回遊している。足がつくか試してみたが、当然ながらまったくつかない。
僕は背筋がゾクッとした。絶対に尾びれを離すことはできないぞ!!
「ここまで来るとなんか静かでいいわね!」
ミトはそう言ったが、僕は恐怖でそれどころではなかった。
「ふふふふ、心地良い魔界の海よ」
「やっぱりわたくしも乗りたいですわ。ミトさん、代わっていただけるかしら」
「嫌よ、あんたはずっとそのままモーターになってなさいよ」
「そんなの不公平ですわ。代わってくださいまし」
「そんなに乗りたいならシズと代わればいいじゃない」
シズはギクッとさせた。
「くぅーちゃんとわたくしは乗りたいのですの」
「ややこしいわね! とにかくあたしは嫌よ!」
「……それなら」
まひるは動き出した。なにをする気なんだよ。
まひるはミトの背後に乗ろうと試みだした。ミトの背後といっても尾びれ部分くらいしかない。
「ちょっと、あんた……!」
「もっと前に詰めてくださいまし」
まひるはミトの背中を押す。
「無理無理!」
そう言いながらミトは前に詰めず、お尻を後ろに突き出して無理矢理乗ろうとするまひるを落とそうとする。そのやり取りでリヴァイアサンは激しく揺れ動く。
「ちょっと二人ともやめてくれよ!」
僕は身の危険を感じ叫んだ。
「ちょっとやめなさいよ! あんたみたいな乳だけ無駄にデカイのが乗ったらその重みで沈むじゃない!!」
「まあ、またわたくしの胸を愚弄しましたわね! いいから早く前に詰めてくださいまし!!」
激しく揺れ動くリヴァイアサン。今にも転覆しそうだ。
「二人ともホントにやめてくれ~!」
僕は叫んだ! まずいまずい! この浮き具がなくなると本当にまずい!
「汝らリヴァイアサンが消滅してしまうではないか」
暴れるリヴァイアサンになんとか捕まる僕。この手だけは絶対に離せない!!
必死になってる僕の隣で、
「ぷはー!」
急に浮上してきたのはユウだった。
「なにしちゅうがか? こんなに暴れて」
「まひるがミトの後ろに乗ろうとしてそれをミトが拒否してて……うわあっと!」
危なかった……手が離れるとこだった……。
「ほうか……それよりこれを見てくれぜよ! 海底におったき!」
満面の笑みを炸裂させたユウが海面から揚げた手にいたのは手の平サイズのウニだった。
「割ったらうまそうじゃ! 海底にたくさんおったきに取りにいこうぜよ!」
「……僕は潜れない……というか泳げない……です」
目をキョトンとさせるユウ。
「ほうか……それならわしが取ってくるきに部長殿、これ持っててくれんがか」
ウニを手渡してくるユウ。そんなことよりミト達をどうにかしてくれよ~。ユウは再び潜水を開始した。
なおも続くリヴァイアサン上の覇権争い。 激しく揺れる浮き具に片手では振り落とされそうになり、僕は不安に煽られ、うっかりウニの手でリヴァイアサンを掴もうとした。
プスプスプスプス……効果音にしたらたぶんこんな感じ……やってしまった…………。
数秒後……「あれっ、なんかしぼんでない!?」
「ミトさん、なにを仰って……本当ですわ!?」
みるみるしぼんで、シワシワになってゆくリヴァイアサン。
「あんたが暴れるからでしょ! このバカアヒル!!」
「貴女がおのきにならないからですわ!!」
「汝らの争いでリヴァイアサンが力尽きてしまったではないか!!」
浮き具としての機能がなくなったリヴァイアサン、もといシャチがいなくなり、僕は手足をバタバタさせた。
「ゴボボホっゴボ! 助け……てくれ」
「白夜!?」「部長さん!?」「部長!?」
3人の驚いたような声だけが聞こえたが僕は徐々に沈んでゆく。これで僕の人生は終わるのか……こんな所で……ああ『カメショー』完結させたかったなあ……遠のく意識の中
でそんな事を考えていた……そして、頬が柔らかいものに包まれたところで気を失った。
「……白夜…………白夜」
誰かが僕を呼ぶ声が聞こえる。なんか聞き覚えのある声だな。
「白夜!」
その強く叫ぶ声に導かれて僕は目を開けた。
「白夜!」「部長さん!」「部長!」「部長殿!」
いつものカメショー部の4人が僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「良かったー!」
声を揃えて4人が言った。安堵の色を浮かべる4人。
「僕は……いったい!?」
「あんた溺れてたのよ。覚えてない?」
不安げな顔のミト。
……ああ、そうだ……いつのまにか気を失ってしまったのか。
「げにまっこと心配したぜよ」
「そっか……ごめん、ありがとう」
「あんたねぇ、泳げないなら泳げないとちゃんと言っときなさいよね!」
ミトは少し怒っているようだ。
「……ごめん」
強制的に乗せたのは君達なんだけど……。
「わが右腕、大事ないか?」
「ちょっと、ぼぉ~とするけど大丈夫だよ」
ピーポーとサイレンが遠くから聞こえてきた。
「部長さん、フェニックスグループが提携している病院の救急チームが来ましたわ。大事をとって精密検査を受けてくださいませ」
「だ、大丈夫だよ。そんな大袈裟にしなくても」
「ダメですわ! ちゃんと後遺症が残らないか診てもらわないと」
「そうね。不本意だろうけど、ここはアヒルに甘えときなさい」
「そうじゃ! 部長殿」
「すまない、わが右腕……リヴァイアサンを召喚してしまい、回復魔法を使う余力がわれに残っていなくて……」
召喚士は僕じゃなかったっけ?
まあいいか、それよりただ周りから注目浴びるのが嫌なだけなんだけど……でも、確かにちょっと力が入らないや。
僕は心配そうな表情を浮かべる4人に見送られ、救急車に運ばれたのだった。
ひとつすごく気になることを救急車の中で救急隊員が言っていた。
「力が入らないのは酸欠状態だったからだろう。じきに戻ると思うよ! 意識もはっきりしてるから大丈夫! 誰かが人口呼吸してくれたから良かったけど、それがなかったら危な
かったかもしれないけどね!」




