山彦とゴンザロス
昼食を終え、シズのこともあるので、僕は早々に下山することを提案した。
「その前にひとつだけやりたいことがあるきに」
ユウに視線が集まる。
「やまびこっちゅうのを試してみたいぜよ」
「それは面白そうね」
ミトが乗り気になる。
「わたくしもやってみたいですわ」続いてまひる。
「われも……召喚……してみせよう」
シズも声を絞り出す。
「わしから始めちゃるきに」
ユウが大きく息を吸い込んで、向かいの山に向かって、
「おりょ~う!!!」
なぜか坂本竜馬の妻の名前を叫ぶユウ。
「おりょ~う」と反響される。
「へぇ~ほんとに返ってくるんだ」
感心するミト。ユウには誰もツッコまないんだ。
「じゃあ、あたしも」
ミトが続いて息を吸い込み、
「カメショー!!!」
少しして、「カメショー」とこだまする。ありがとう! 山の動物達に宣伝してくれて。
「なかなか面白いわね!」
ミトが満足気な笑みを浮かべた。
「では、わたくしの番ですわね」
まひるが一歩前に出る。
「よし、じゃあ、みんな下山するわよ」
ミトが平然な顔をして言い放った。
「ちょ、少しお待ちあそばせ!」焦る表情のまひる。
「ん? なに?」真顔で聞き返すミト。
「今からわたくしが……」少し涙目のまひる。
「ミトもそんな意地悪しないで」
「あねさんとまひるさんが幕末期の薩摩、長州のように険悪な仲なのはわかっちょるがここは平等にせんといかんぜよ」
ユウが僕の後押しをしてくれた。
「ふん」と鼻を鳴らすミト。
「ほら、まひる」。
「わかりましたわ!」
まひるは笑顔で応えた。
息を吸い込み、
「ぶーせいはー!!!」
遅れて、「ぶーせいはー」と山々に響き渡る。まひるがやまびこに託したのは自分の悲願の全クラブ制覇だった。いや、これ願掛けじゃないんですけど……。
「はあースッキリしましたわ!」
清々しい表情のまひる。
「一生叶わない夢ね」
ぼそっとだがまひるに聞こえるように言うミト。
「くっ! 貴女はまた」
「ふん」
やれやれこの二人は……。
「わ……われの出番だな」
まるで魔王が瀕死の状態をイメージさせる、か細い声でシズが言う。
「無理しなくていいよ」
「わが……右腕……心……配……無用…………だ……」
馬面だから表情は読み取れないが、相当苦しそうに言葉を吐いてますけど……。
「ゆく……ぞ!」
シズはよろよろと立ち上がり、両手を広げてなにかボソボソと長い呪文詠唱のあと、
「出でよ! 山の化身ゴンザロス!!!」
まったくカッコよくも可愛くもない召喚獣の名前を叫ぶシズ。だが、あまりにも弱々しい声で山彦にならない。うなだれるシズ。
他の面々も苦笑いして、あのミトでさえツッコまない。
あれ!? まひるだけ真剣な表情をしているぞ!?
「われの残りMPでは召喚できぬか……」
魔王万事休す。
「貴女……さっきのゴンザロスってエックスファンタジー7の召喚獣、山のゴンザロスですの?」
まひるが尋ねた。
「…………」
シズは返答せず。
エックスファンタジー……通称エクエフ、現在は11まで発売されている大人気RPGだ。
壮大なストーリーと戦闘のスピーディーさがユーザー受けして新作が出るたびヒットしている。恋愛的な要素も含まれており、ゲーマーやオタ以外の例えばリア充にも受けており、幅広い層から支持されている。そして、なにを隠そうエクエフシリーズはまひるのフェニックスグループのゲーム会社ニクスが手掛けている作品なのだ。
エクエフ7というと僕が小2くらいの作品だった気がする。ゴンザロス、そんな召喚獣いたような気がするな……
あっ!?
「そういえば、エクエフ7の召喚士って魔界の皇女、シルフェイス・アサギだったよね」
「ええそうね。それにアサギはオッドアイだったわ」
そうだ、アサギはオッドアイだった。さすがミト。
リア充だがゲームにも精通している。リア充でありながらオタ要素を兼ね備えている彼女は僕が知る限り唯一無二の存在……朝凪認世。
王道RPGはしっかり抑えていたか。それにしてもシズはあんな古いRPGのキャラを模倣していたのか。ただのオリジナルではなかったんだな。まあ、普通あんな昔の懐キャラ誰もわからないよ。
「エクエフ7……わたくしの幼きころの一番思い出深いゲームなのですの」
「まひるでもゲームとかしてたんだ」
「当然ですわ。わがフェニックスグループが力を入れている業界のひとつなのですから。しかも、エクエフはわが社が自信を持って世に送り出した商品なのですから」
「いつプレイしたの?」
「もちろん、発売された時……いえ世に出るより前でしたわ。デモソフトみたいな形で新商品はいつも家に送られてきますから」
自前の会社の特権だな。
「それにしても小1でエクエフ7をプレーするってかなりのもんだぞ」
まだあの世界観とかストーリーとか小1には早すぎるだろう。戦闘シーンは楽しめるかもしれないが、操作性も小1だったら難しいと思うし……。僕が初めてエクエフをプレーしたのは高学年になってからで、その当時流行ってた9だった気がする……7は過去の作品をやっておこうと思って、中古を買ってプレイしたのを覚えている。
「わたくしにかかればノープロブレムですの。それに一緒にやってくれた友人もいましたし……」
「ロープレを一緒に?」
「そうですの。エクエフ7は戦闘においてキャラごとにコントローラーを変えれましたのよ。コンビネーションを駆使して、子供ながらに二人で冒険してたかのように楽しかったですの」
そういえばそんな機能があったような……。
「懐かしいですの……」
遠い目をしてどこか感慨深げなまひる。
「さあ、あとは部長殿じゃき」
「えっ、僕もするの!?」
「当たり前でしょ! 早くしなさいよ!」
さっきはもう帰ろうとしたくせに……。急に振られても何も出てこないよ……。ええい、仕方ない!
「ヤッホーーー!!」
僕は定番のセリフを叫んだ、というかこれしか咄嗟に思い浮かばなかった。でも、定番だけにきれいな山彦になる。ちょっと得意げにみんなの方に振り返る。
みんなの反応はシズの時以上に呆れた様子。あっ、あれ!?
「ないわあ、ないない! あんたほんっとにボキャブラリーないわね!」
鬼の貶しをするミト。ユウの「おりょう」にはツッコまないのに僕にはツッコむのね……。
「大トリの山彦でしたのに……」
落胆するまひる。
「ちゃちゃちゃ……」
残念そうな表情をしてコメントすらないユウ。
「わが右腕……ハァ……なら……ハァ……ゴンザロスを召喚してくれると思うたのに……」
かなり辛そうに言うシズ。
「それは無理だから、というか息荒いけど大丈夫シズ?」
「心配無用だ」
そんな息遣いで言われても説得力にかけるんですけど……できうるならゴンザロスより回復系の召喚獣を召喚してやりたいぜ!
それにしてもこいつらの期待値どんなに高かったんだよ! 僕にそういうの求めること事態間違ってるんだよ!
「残念すぎる山彦だったけど、そろそろ下山するわよ」
ミトが下山を促した。
僕が一番まともな事を言ったはずなんだけどなあ……。た




