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ハイキング

 僕とシズとユウは鳳学園がある最寄り駅に集合していた。今日は近くの山にハイキングに行くのだ。ユウは霧島を推したが当然遠すぎるということで、近くのハイキングが有名

な山になった。


「あねさんとまひるさんは先に行きゆうがか?」

「うん」


 ミトは僕たち(主に僕)と一緒にいるところをクラスの誰かに見られたくないので、この駅ではなく、山の麓の駅で落ち合うことになっている。まひるも財閥らしいパーティー

や生徒会の仕事で色々と忙しいらしく現地集合で話はついている。


「ユウ、その格好で行くの?」

「いかにも。これが登りやすいぜよ」


 シズは今時の山ガールっぽい格好で違和感ない(ただなぜかリュックがやたらでかい)のだが、問題はユウ。

 彼女は江戸時代の旅装束のような格好なのだ。帽子の代わりにすけ笠、靴の代わりに草鞋。行き交う人が一度はこちらに目をやる。そりゃ、目立つよね。見ため小学生でも通りそうな子供がこの格好だと。


 ミトは正解だったな。


 僕もひとりで行けば良かったと少し後悔。

ちなみに僕はというと『カメショー』の収入で山の装備一式購入。ちょっと張り切りすぎたかな、と思ったが良くも悪くもユウのおかげで僕は霞んでいる。 


「草鞋って歩きやすいのですか?」


 電車の中でシズが訊いた。


「軽くて、滑らないし、歩きやすいぜよ。古き良き日本の真髄がここにあるきに」

「ふ~ん」

「良かったら何足も持ってきてあるから履いてみるがか?」

「いや、遠慮しときます」


 シズの断りに唇を尖らせるユウ。どう考えてもシズが履いている運動靴のほうが安全性、機能性において勝っているはず。そうじゃないと、今の日本には草鞋で登山している人が当たり前にいることになる。


「そういえばシズさんの顔、初めて拝見したぜよ」

「まあ、いつも部室では馬面被ってるもんな」


 僕も久しぶりに見た気がする。


「あんまりジロジロ見ないでください」


 顔を紅潮させて恥ずかしそうなシズだった。


 残りの二人が待つ駅に着くと、ピンクの山ガールの出で立ちをしたミトがいた。


「おはよう。まひるはまだ来てないの?」

「知らないわよ」


 そのとき、僕のスマホが震えた。まひるからLINEだった。『遅れますのでさきに行ってあそばせ』ときた。

 こういうこともあろうかと、この間LINEの交換を部室でみんなとしたのだ。僕のLINEトークのメンバーが四人も増えたのだ。リア充っぽくて嬉しかったのはいうまでもない。「了解」と僕は返事する。即既読になった。他メンバーにまひるのことを説明し、先に行くことにした。


 僕らは登山を始めた。意外にも先頭は体が小さいユウが務めた。そのあとにミト、シズ、僕の順番であとに続く。無我夢中で登る僕たち。誰もあまり私語を話さない。登山ってなかなか無心になれるものなんだな。


 しかし、中腹あたりから僕はすでに疲れ果ててきていた。木々で影になるとこがあるとはいえ、夏の山だ。暑さと疲労で体力が削がれてゆく。それにもともと運動なんて皆無だから、よけいに辛い。オタの僕にとって、こんなに足を動かすのはコミケくらいのものだ。


ミトに至っては「なんでこのクソ暑いのに山に登らないといけないのよ」とぶつくさ文句を言っている。

 挙句には「あのアヒル、うまいこと避けやがって」とまだ来ていないまひるにも当たる始末。文句を言いながらも登っているのはミトらしい。心配なのはシズだ。さっきからずるずると登るスピードが落ちて、今では僕のほぼ隣にいる。顔色も良くなさそうだ。ユウは軽快な足取りを保ちつつ、時折、獣道っぽいところを見つけてはメモを取っている。

 ユウだけがしっかりとした取材をしている。たまに水分補給の休憩をいれながら、黙々と登り続け、僕らはなんとか頂上の麓にたどり着いた。見下ろすとなかなかの景色だ。太陽の日差しが近く感じるが、大地が青々としてるので暑さを忘れる。


「はあ~やっと着いたね。足が棒のようにだるいよ」

「疲れたー!」

「みなさんお付き合いしていただき感謝するぜよ」

「…………」無言のシズ。

「シズ、大丈夫?」

「……われがこのくらいで根をあげるとでも思っているのか、わが右腕」


 碧眼モードになるくらいだから大丈夫だろう。


「じゃあ、お昼にするわよ!」


 ミトが嬉しそうに声を張り上げた。


 僕達は各々弁当を拡げた。


 ひときわ目を惹いたのはユウの弁当だった。


「ユウそれだけなの?」

「旅の弁当といえばやはりこの握り飯ぜよ」


 竹の葉で包まれたおにぎり。確かにうまいとは思うけど……。


「おいしい! このために登ってきたようなものよね!」


 玉子焼きを口一杯に入れてにんまりしてミトが言った。


「山で食べる弁当って確かにうまいよな。小学生のときの遠足とか思い出すよな」

「感傷に浸ってるけど、あんたのコンビニ弁当じゃん。それに~あんたお弁当一緒に食べてくれる友達とかいたの~?」


 タコさんウインナーを頬張りながらミトが言う。痛いとこをついてくるな。だけど……。


「いたよ……小学生のときだけど……」

「そりゃまだオタ色だしても引かれない年だもんね~」


 胸に図星という星矢が突き刺さる。


 あれ!? シズを見るとまったく弁当に手をつけていない。見るからに顔色が悪い。ミトとユウも気づいてか心配そうな顔で見つめる。


「大丈夫シズ?」

「すいません、ちょっと横になります」


 シズはそのまま敷物の上で寝転がる。


「あんたほんとに大丈夫?」

「少し休憩したら……ご心配おかけしてすいません」

「シズさんあまり無理なさらぬよう」


 心配な顔つきで声をかけるユウ。


 みんなが心配しているなか何かの音が近づいてくるのが空から聞こえてきた。


 この音は……ヘリコプター!?


 僕らの上空で轟音を鳴らすヘリコプターから縄はしごが放たれそれをどっかの国の戦闘員を彷彿とさせる軽い身のこなしでつたい降りたったのは遅れてきた部員、まひるだった。

 まさかの登場の仕方にミトとユウは唖然とする。


「お待たせしましたわ。主役の登場ですわ」

「飛べないアヒルのくせに文明の利器を使って飛んで来やがった」

 ミトが早速悪態をつく。


「そうだ! まひる、あれにシズを乗せてもらえないか?」


 今のシズに自力で下山させるのは辛いものがあるはずだ。


「なにかあったのですの?」


 シズの体調がすぐれないから」

「シズってそこのお馬さんですわよね」


「うん」ってあれ!? 

 シズに目をやるといつのまにか馬面を被っていた。あんなものどこから……そうか大きいリュックにはあれが入っていたのか。


「わが右腕、もう傷は癒されたので心配無用だ」

「いや、さっきまで辛そうだったじゃないか。無理はダメだよ」

「そうじゃき。体を大切にしないとよくないぜよ」

「アヒルの世話になるのは不本意だと思うけど、ここは甘えとくべきよ」


 僕らの心配をよそにシズは首を振った。


「本当に大丈夫ですから……」


 僕らはなんとか説得を試みたがシズが首を縦に振ることはなかった。

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