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合宿の行方

「じゃあ、取材を兼ねてってのはどうかな?」

「取材?」


 ミトがはてなマークを浮かばせた。


「自分の作品の参考になる場所に訪れたり、なにかしたこともない体験をすると、よりリアルに描写できると思うんだけど……」

「それはいい考えですね! 実際プロの作家さんも取材に行ったりしてるって言いますしね」


 シズがすぐに賛同してくれた。


「そうそう。それに小説って自分が体験したことなら書きやすかったりするだろ? 読者って主人公の体験を擬似体験するようなとこもあるし、物語に奥深さを求めるなら取材は必要だと思うよ」


 僕はミトに力説した。


「……わかったわ。でも、行き先はどうやって決めるの?」

「それはみんなが行きたいとこが平等になるように一人ずつ行きたい場所をひとつ出すってのはどうかな? いま、書いてる作品でもいいし、いずれ書こうと思ってる作品の参考になるとこでもいいし」

「ほうじゃの~、それならわしはやはり山がいいき! 官軍から逃げる新選組の気持ちになりたいき! 適当な山でケモノ道を歩くのも一興ぜよ」

「それはちょっと危険すぎないかな」

「それならやっぱり竜馬とおりょうが新婚旅行で登山した霧島じゃの。何度行っても飽きんぜよ」

「行ったことがないとこの方がいいと思うよ」

「ユウさん、それでしたらエベレストになさったらいいですわ。自家用ジェットもご用意して差し上げますわ」


 まひるが提案する。おいおい、何泊で行くつもりなんだよ……ってかそれ以前にいきなり行って登れるものじゃないだろ。体力もお金も知識も装備も時間もいるだろ。


「それは遠慮しとくぜよ。外国にはあまり興味がないきに」


 断る前提そこ!?


 怖いセレブって怖い。せめて日本国内でよろしくお願いします。


「あんたが一人でいけば?」と冷たい視線のミト。

「わたくしはもう何度もアタックしていますから、意味ないですの」


 軽く自慢ですね、それ。


「ちっ!」


 嫌味で言ったのに普通に自慢されたミトは舌打ちした。


「まあ、とりあえずユウは山ということで」


 このままではこの話が先に進まなさそうなのでここで促した。

「誰か他には?」

「あたしは……コ」ミトは僕をチラッと見て、「は……花火大会かな」


 ん? なんか言い直したような気がするけど、ミトの口から花火大会が出るとは思わなかった。

 ミトみたいなリア充どもは花火大会なんて行きまくってるはずなのに。

 むろん、僕は行ったことがない。なんかの帰りに音だけは聞いたことはあるけど……。あれは一学期で仲良くなったリア充どもが告白するための夏の一大イベントなのだ。冬のクリスマスやバレンタインデーに匹敵する告白イベントだ。


「あら、朝凪さん、花火大会行ったことないのですの? なんならわがフェニックスグループ主催の花火大会にいらしたらいいですわ。いつだって打ち上げてごらんにみせますわよ」


 勝ち誇ったように笑みを浮かべるまひる。


「あ、あるわよ! あんたの世話になんか死んでもなるか!」

「じゃ、じゃあミトは花火大会だね!」


 僕が仕切っていかないと話が進まない。


「まひるは?」


 ミトはなぜか僕に鋭い視線を飛ばした。


「わたくしは行きたいとこなんてないですの。この16年間で行きたいところなんて行き尽くしましたの」


 当然の如く言い放つまひる。


「なら、あんたは別になにも取材についてこなくていいでしょ! だからあんたは自宅待機してたらいいんじゃない?」

「あら、でも、このメンバーで行くからこそなにかしらドラマが起きるかもしれないですわ。だからついて行きますわ」


 まひるはまたまた当然のように言い放った。普通なら胸アツなひと言と捉えてもいいような言い回し。

「ぐ……」


 さすがのミトも、もっともなことを言われ、言い返せないようだ。


「確かにその通りぜよ。行くメンバーが違えばまたそれで新しい発見がありゆうかもしれんがじゃ」


 シズは微動だにせず、静観して聞いている。


「じゃあ、まひるはまた探しておくと言うことで」


 ミトがなにも言わないうちにまひるの件は終わらす僕。 


「あとは……シズだね」

「ちょっと待って、さっきから気になってたんだけどいつのまに白夜あんた、こいつのこと名前で呼ぶようになったの?」


 ミトが唐突に訊いてきた。

 シズも何度も首を縦に振る。さっきの鋭い視線はこれだったのか。


「昨日くらいかな? ……はは……」

「あら、貴女方、嫉妬してますの? 仕方ないですわね。特別に貴女方も名前で呼んでいただいてもよくってよ」


 上から目線で物を言うまひる。


「ハァ! 死んでも呼ばないわよ! この腐れアヒルが! あんたなんて不死鳥ならぬ一生飛べないアヒルがお似合いよ!」

「まあ! なんて失礼ですの!」


「鳳凰翔ばず……」


 シズも某漫画のセリフを呟く。


「まるで同盟前の薩摩と長州みたいぜよ」


 ユウ、それより仲悪いよこの二人……。


「まあまあ、そんなケンカ越しにならなくても」


 僕は仲裁に入る。


「うっさいわね! 元はと言えばあんたが原因でしょ!」

「ごめん」


 いや、ただ名前で呼んだだけなんですけど……。


「喧嘩はいかんぜよ、話を戻すき。シズさんはどこに行きたいがか?」


 坂本竜馬フリークを差し引けば意外と一番ユウがまともだ。


「わたしは……われは魔界に」


 全員が「え?」という表情をして沈黙する。部室内の時が止まったかのような静けさだ。シズ、そんなとこは地球上どこに行ってもありません。


「まかいとはどこですの? わたくしも行ったことがありませんわ」


 本気で言ってるんですか? まひるさん……さっきの沈黙はあきれてたわけじゃなくて考えてただけなのかよ……。


 ミトは口をあんぐり開けて呆然としている。ユウは苦笑い。


「……シズも現実に行きたいとこあったらまた教えてね」


 僕の言葉に頷くシズ。


「ねえ、だからまかいとはどこですの? 海外ですの?」


 全員がスルーする。僕も苦笑いする。


「どうして誰も答えてくれないのですの?? まかいってどこですのよ!」

「うっさいわね! あんたの自慢の自家用ジェットでも行けないところよ。あんたの付き人にでもあとで聞いたらいいじゃない。話が進まないから黙りなさいよ!」

「黒子にあとで訊きますわ」


 ミトがまひるを一応納得させた。黒子がどう説明するのか気になるな……。


「白夜、あんたは行きたいとこないの?」

「僕は…………海に行ってみたい」

「ふん、確かに夏の定番といえば定番なんだけど、あんたがそれを言うとなんかやらしいのよね。あたし達の水着姿見たさに言ってるんじゃないの?」とジト目で言うミト。


「そうですわね。この間のおっぱい審査もヤラシイ目つきしてましたものね」


 凄まじい疑いの視線を僕に飛ばすまひる。


「なんぜよ? そのおっぱい審査なるものは」


「シズ!」


 ミトが説明するようシズに振る。そういえばこないだからミトもシズのこと、あだ名で呼ぶようになったな。ゴニョゴニョとシズがユウに耳打ちするように話した。


「ほうか~、部長殿も男じゃのぉ~」


 その通り! みんなの水着姿が見たいんだ! なにが悪い? 僕は男だ! こんな魅力的なコがたくさんいるのに見たくない奴なんていないはず! と声を大にして言えないのが僕の現実。


「ち、違うよ。今書いてる作品で海の場面を書きたいからだよ。海水浴なんて何年も行ってないから……」


 水着の件は置いといて、これは本当だ。僕は一人でもあのリア充の群れがいるビーチという禁断の場に足を踏み入れるつもりだった。『カメショー』でキャラたちが海に遊びに来るという場面を書こう

と思っていたから。


 そうだ、これは立派な取材なのだ。


「部長の作品の手助けになるのなら私は行きますよ! その代わり私の作品の絵師になっ」


「なりません!」


 ここは断固拒否する。


「仕方ないわね。とりあえず決まったのは花火大会、山、海ね」

 ミトがまとめる。


こうして、夏休みの取材先が決まった。それにしても夏休みにリア充どもが行きそうなところばかりになったな。

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