夏休みは自由がない!?
一学期の終業式が終わり、図書館に本を返してから部室に行くと、ミトとシズ はすでに執筆作業に入っていた。もちろん、二人はいつもの仮面をしている。エリートクラスの二人はまだのようだ。
シズは手を止めて、
「部長、一学期お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様」
ミトはこちらに目もくれず黙々とキーボードをタイプする。
「部長! ここの表現ちょっと見てもらっていいですか?」
シズがパソコンを持って走り寄ってくる。ミトはチラッとこちらを見たが、すぐに自分のパソコンに目を戻した。
「ここなのですけど、ちょっと回りくどいですかね?」
シズが指をさしたところを読む。
『青白い炎がスパイラルに交わりながら奴を打ち砕いていくのだった』
「……悪くないけど、スパイラルっていうのは螺旋状だから交わるっていうのが想像しにくいかな。あと、語尾の方もシンプルの方がスッキリ伝わる気がするかな」
シズは少し険しい表情をになった。
「たとえば……」
僕はペンを取り、
『青白い炎が螺旋を描きながら放たれ、奴を打ち砕いた』
「これでどうかな? こっちのほうがシンプルだけど、読者に伝わりやすいと思うけど」
シズは頷き、馬面を脱いで、
「はい! さすが部長です!」と言った。
気持ち良い響きの言葉。しかも、シズは称賛の眼差しを僕に向けている。
「なるほどね」
ミトがいつのまにか隣に来ていた。
ガラッと扉が開いて、
「お待たせしましたわね」とまひるが顔を出した。
あとに続いてユウ。
「今日もよろしくお願いするきに」
「お疲れさん」
僕は手を上げて応えた。シズは即座に馬面を被り、ミトは席に戻った。
「みんなが揃ったところで確認したいんだけど、夏休みは部活どうするの?」
夏休みに入る前から気になっていたことを僕は口にした。
「もちろん、やるわよ」
ミトが即答する。
やっぱり、そうなるか……。
「毎日……じゃ……ないよね?」
僕はおそるおそる訊いた。
「基本的には来たい人だけでもいいけど、部長は毎日必ず出席ね!」
他の面々が頷く。
「ちょ、ちょっとまってよ! 僕も自由参加でいいんじゃないかな?」
せっかくの夏休みに『カメショー』の執筆のピッチを上げようと思っていた僕の計画が水の泡になってしまう。毎日部活に出るということは時間が限られてしまうということだ。部員たちみたいに部室で僕も執筆できるなら話は別だが。
「あんたがいないと誰がアドバイスするのよ。一応、あんたみたいのでもみんな頼りにしてんだから」
ミトが珍しく持ちあげるようなことを言った。
シズは馬面で激しく頷き賛同する。
「部長殿、よろしく頼むぜよ」とユウ。
「来てくれないと困りますもの。それに約束……ですの!」
まひるはウインクした。おそらくこないだのリムジン内のことを言っているんだろう。
一瞬、ミトはまひるを訝しげな表情で見たがすぐにしてやったりの笑みを浮かべた。
その時、気がついた。しまった!
ミトは僕が頼まれたら断れないのを知っていてわざわざみんなの前で持ち上げたんだ。しかも、女の子4人からの頼みごと。
くそっ! まんまとやられた。そりゃ、断りませんよ。人に頼られるなんて人生においてなかったし、確かに嬉しいし。でも、こう部活に捉われると物語に参考にできる取材にもオチオチ行けないぞ。この夏休みのあいだに『カメショー』の題材になるような所に行って、物語の構想の肥しにしようと思っていたのに……。
「長期休暇やき、みなさんで合宿とかどうぜよ?」
「合宿か……なるほどそれはいい考えね」
ミトが賛同する。
おいおいおい待て待て待て。
泊まりがけはきつい。ただでさえこの夏休みに書き溜めたいのに。
合宿……そうだ!




