まひる
校門のところで黒いリムジンが停車していた。僕が横を通りすぎようとした時、後部座席の窓が開いた。
「部長さん、お乗りになって。ご自宅までお送り致しますわ」
そう言って顔をのぞかせたのは鳳凰院だった。
僕は初めてリムジンなるものに乗った。普通の高校生ならなかなか乗れない代物だろう。
小さなシャンデリアにワイングラス、大きめのモニターに冷蔵庫まで設置されている。絢爛豪華な車内に圧倒される。車が発進して鳳凰院が話しだす。
「今日はあの……かばっていただき助かりましたわ」
鳳凰院は少し頬を赤らめている。
「ミトたちも多少強引だったからね」
「やっぱり部長さんが来てくれないと……この数日わたくし空気みたいに無視されていましたの」
なんとなく想像がつく。
「このわたくしが! ですわよ。ほんとにあの方々の神経はどこかおかしいですわ……わたくしは全クラブ制覇を果たしてフェニックスグループの頂点に立たなければいけないんですの。そして、必ずやり遂げなければならないことがあるんですの」
鳳凰院の目は強い決意が秘められているように見えた。
「だから……これからは絶対いらしてくださいね」
ギュっと鳳凰院は僕の手を上から重ねた。頬は依然として赤く染まっている。僕の頬も彼女に呼応して熱くなるのを感じる。
「うん」
僕はドキッとして思わず頷いてしまった。緊張のあまりゴクリと唾を飲み込む僕。
「よかった……」
鳳凰院は微笑んだ。やばいかわいい……。
誰が見ても完璧なルックスに吸い込まれそうになる。
「お嬢様到着致しました」
その声で僕はわれに返った。今気がついたけど運転手は鳳凰院の付き人黒子だった。
黒子の声に反応して鳳凰院はパッと手を離した。その行為が残念に感じた。緊張がほどけ、どこに着いたのか外を見ると僕の自宅の前だった。
あっというまの帰宅時間だ。そりゃ歩いて10分もかからないんだから車ならものの数分だよな。この時だけはもう少し家が遠かったらなあと思った。
「じゃあ、また明日」
僕は車から出ようとした。
そのとき「まひる……」と鳳凰院は呟いた。
そして顔を赤らめて恥ずかしそうに「まひる……と特別に呼んでいただいて結構ですわ」
「……うん」
僕が機械的に答えると、鳳凰院はかぁ~とさっきより顔を赤くして、
「か、勘違いしないでほしいですわ。貴方がわたくし以外の部員のことを下の名前で呼んでいましたから、わたくしだけ名字ではなんか癪に触っただけですわ」
僕は取り繕う、まひるがすごく可愛く見えた。
「なんですの、そのにやけ顔は!」
「いや、別に」
「いやらしい顔ですの……もう早くお帰りになさってくださいまし」
「送ってくれてありがとう」
僕は車を降りた。
後部座席の窓が開いて「では、明日部活で。ごきげんよう!」とまひるは言った。
僕は手を振って応え、黒いリムジンを見送った。
それにしてもここ数ヶ月で下の名前で呼べる女の子が4人もできた。人生とはわかんないもんだなと感慨深く思いながら僕は送ってもらったこの家ではなく、現在の自宅兼仕事場に足を向けた。




