ミトの交渉術
さてこの日はまだまだ続きがある。シズ、ユウ、鳳凰院が帰ったあと、僕はまだ部室に残っていた。ミトに話があるから最後まで残るように言われたのだ。
二人きりの部室にて。
「あんたにしてはなかなか良い言い訳だったわね」
仮面を被る理由について言っているんだろう。
「本当のこと言っても良かったんじゃないの?」
「あんたホントバカね! そんなことしたらあたしが弱味を握られるじゃない」
溜息をつくミト。
「とくにあの世間知らずお嬢様に知られると厄介でしょ。あたしはあんなコ怖くないけど、この学園ではあんなのでも絶対的権力者だからああいうのに対抗するには弱味は絶対握らせたらダメなのよ」
ミトの交渉術は常に優位に立つために相手のアラをつけ込めるようにしておいて、ここぞというときに一気に捕食するやり方だ。
自分のカードが弱くても言葉巧みにそれを増幅させて、相手のカードより対等もしくは強力に魅せるのだ。鳳凰院がその弱味を握るということは常に鳳凰院が優位に立ってしまうということなんだろう。察するに、やはりその弱味(ミトがカメショー部の一員であること)はよっぽどリア友に知られたくないということだ。
「わかったよ。でも、なんでそんなにミトもシズも毛嫌いするの?」
「あんたバカなの!? あんたはわかってると思ってたわ」
バカのオンパレードだな今日は……。
「シズは知らないけど、あたしはこのクラブが注目されると困るのよ。 あんなのでもこの学園では人気者でしょ。あんなのが長くここに居座れられると否が応でもカメショー部が注目を浴びてしまうじゃない。せっかくのあたしのリア充ライフが危険に晒されるじゃない。こんな仮面まで着けてカモフラージュしてるっていうのに!」
ミトは仮面を勢いよく外す。
「……なるほど!」
「それに……生まれたときからあの地位でなに不自由なく、何でも自分の思い通りになると思っている、ああいう上から目線のお嬢様が好きじゃないだけよ」
ミトは幼い時になにか苦労をしてきたんだろうか。
「でも今は部活仲間なんだし、もうちょっと仲良くしてあげたら……?」
「ふん、あんただって注目浴びるの嫌なくせに」
「そうだけど……」
ミトの言うことはもっともかもしれない。生徒会長がこの部活に長居すればするほど確かに注目を浴びてしまうだろう。そうなればミトの正体も自ずとバレるかもしれない。
学園の二大スターがこんなクラブにいることがわかれば僕も注目の的になる可能性を秘めている。
ダメだ、そんなのはダメだ。僕は卒業まで人知れず暮らしていきたいのだ。
「じゃあ、鳳凰院さんの作品を一番と認めてあげたらいいんじゃない? そうすればこのクラブも制覇したことになるし、鳳凰院さんの全クラブ制覇も成し遂げたことになるし」
「それはダメよ。あたしのプライドが許せないわ。一番じゃない作品をウソついて一番と認めることなんて絶対許せないわ…………それにあのコ……自分で気づくと思う」
結局のところ鳳凰院が僕らを上回る作品を書いてもらうしかないってことか。
「どうでもいいけどさっきから白夜のくせにあたしに意見するなんて生意気ね!」
「ご、ごめん」
「もう用は済んだから早く帰ってよ! あんたと喋ってるとなんか腹立つし」
「うん……」
「せっかく褒めてあげたのに……」
小さな声でミトは呟いた。
僕はカバンを取って部室を出ようとした。その時、背後からミトが言った。
「明日も部活に来なさいよ」
僕は頷いて部室を出た。




