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マスク・ド・チェックメイト

 翌朝、いつものように自分の席に着く。もちろん、教室に入ったときから誰も「おはよー」とかの朝の挨拶すらかけてくれない。


 いつもの日常の始まりだ。


 他のクラスメートは友達同士でいろんな話題を振りまいているけれど、僕は担任がやってきて朝礼が始まるまで寝たふりをする。これも日課だ。孤独を一番感じるのは知らない場所や知らない人達の中でいることではない。少なからず、見知った人達の中で誰とも絡みがないことのほうが孤独感をより一層感じるのだ。


 僕は寝たふりをすることで少しでも現実から逃避している。寝たふり以外に本とか読む手もあるんだけど、たまにリア充が「なに読んでんの?」と興味ありげに尋ねておいて、ギャルゲーの攻略本やラノベなどのちょっとオタっぽいものだと顔をひきつられて去られる始末。

 典型的な見ためオタクの僕がそういうものを扱っていると、当たり前のように気持ち悪がれる理不尽な世界。


 これがイケメンや美少女だと趣味の一環として受け入れられる世界なのだ。話は脱線したが普通の少年漫画ならそこはクリアできるけど、「貸して」と言われた場合、断れない僕は貸してしまって返ってこない苦い過去が度々あった。


 結局、貸した奴が他の奴にまた貸ししてなくなるというパターンなんだけど……おそらく借りた奴らも元が誰の漫画だったか忘れているんだろう。そうそうあとスマホをいじるという手もあるけど、僕には当然ながらSNSをする相手もいないし、アプリゲームプレイ中に声をかけられてレアアイテムをあげたりしてしまうことも過去にあったのでこれも却下。


 だから、寝たふりをするのが一番安パイなのだ。


「おっはよー」


 教室の入り口のほうで昨日聞き慣れた声がした。少しだけ顔を上げ、チラッとそちらに目をやった。やっぱり朝凪認世だ。すでに周りには数名のリア充が群れている。彼女が属するグループはリア充のみで編成されている。

 奴らは色恋沙太なんて年がら年中で高校生らしい青春を謳歌しているんだろう。遠足、体育祭に文化祭、修学旅行……これらのイベントすべて奴らにとってはリア充、いやリア獣になるためのものなのだ。

 奴らは彼氏彼女を取っ替え引っ替えしているいわば獣並みの欲望を吐き出している者たちだ。僕には一生かかっても相見えない集団で、朝凪はその中心なのだ。


 そんな彼女と言葉を交わしたことさえ夢のような気がしてきた。

 だけど……自分の中でなにか淡い期待が膨らんでいることは確かだ。


 現実はというと何事も起こるわけがなく、一時間目の数学が終了した。休み時間、僕は気づいたら朝凪を目で追っていた。彼女はリア充グループ数人と楽しそうに会話している。休み時間の終了とともに二時間目の現代国語の白髪頭の先生が入ってきた。


 ちなみに担任である。


「おーい、今日の黒板当番消してないぞー」

「ミト、あんたよ当番」


 グループの一人が朝凪に声をかけた。


「あっ、やば!」


 朝凪は黒板を消しに足早で向かう。消しながら、


「男子は誰よ!」

「おーい、男子の当番も出てこいよー。朝凪が怒ってるぞー」


 僕は誰だろうと思って、当番の名前が書いてある黒板右端を見た。そこには……自分の名前が記されている!? 


 うそだ! まずい! まずすぎる!!  


 こんなこと今までなかったのに。いつもの僕なら女子の当番に気づかれることもなく、そそくさと黒板を消しているはずなのに。女子からみれば自動黒板消しの僕……。

 僕は駆け足で黒板に向かう。クラスメートの視線が痛い。目立ちたくないのに。


「おー暗間かー早く消してくれー」


 先生が白がかったひげを触りながら急かす。


「あんたねえ、ちゃんと消しときなさいよ」


 こちらを見ずに朝凪が悪態をつく。自分だって忘れてたくせに。だが、そんなことは言えるはずもなく、


「ごめん」

「そっち側はあんたが担当ね」


 朝凪は自分のとこだけサッサと終わらせると席に戻ろうとした。



「マスク・ド・チェックメイト」


 僕は無意識的に口走っていた。


「えっ」


 朝凪が僕の顔を覗き込む。


「……………えっ、――――――――――――!!!」


 教室中に響き渡る彼女の声に騒がしかった教室が静まり返った。

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