ひれ伏す生徒会長
「あれぇ、感想は?」
ミトは勝ち誇ったように言った。
「まあまあですわね」
生徒会長は顔を引きつらせている。
「あんたこそウソついてるでしょ! さっき面白いものを面白いと言わないのはどうとかなんとか言ってたの誰だったっけ!?」
ミトは薄ら笑いした。
「ぐ……」
生徒会長は言い返せない。
「じゃあ、いうことをきいてもらおうかしら」
生徒会長は悔しさから若干目に涙を浮かべている。
「今すぐ出ていって! それとあたしたちの部に二度と干渉しないことを誓うのよ」
ミトのその願いにシズが拍手する。
「…………そ……それは……それだけは……」
生徒会長がか細い声で言った。
「はあ~! あんたなんでもきくって言ったわよね」
「そ、それは……その条件だけは飲めないですわ」
「あんた生徒会長のくせに約束ひとつも守れないの?」
生徒会長は涙を目一杯に溜めた。そんな生徒会長をみかねてか黒子が助太刀する。
「お嬢様はいずれフェニックスグループの頂点に立たれる御方。歴代のグループトップがこなした全クラブ制覇という目標はグループのトップに立つために不可欠な恒例行事なのです。これが達成できなければ、お嬢様は失格の烙印を押され……ああ考えただけでもおいたわしや……」
「そんなの知らないわよ。早く消えてよ」
さすがミトさん。救済措置すら出さないとは徹底しているな。
「いや、だから譲歩していただけないかと」
「それならそこの超エリートお嬢様が頼むのがスジってもんでしょ」
「……お嬢様」
「……わかりましたの」
生徒会長は唾をごくりと飲み込んで、
「願いごとを変えていただきませんかしら? お願いしますわ」
「無理」とミトが即答した。
え~出ました! 鬼ミト発動!
生徒会長は唖然として言葉を失っている。
「あんた、人に許しを乞う時はそんな上からでないと頼めないの? こういうときの日本人が許しを乞う最敬礼ポーズ知ってるでしょ」
そこまでさせるのか。ミトはこのような交渉に関してはやはり天才なのかもしれない。常に何かしら相手より優位に立とうとする。
「そ、それは……」
「早くしてよ、あたし忙しいんだから。あたしはこのままサヨナラしてもいいのよ」
生徒会長は屈辱で顔を歪ませながらゆっくりと膝を床につけようとする。足に鉛でもぶら下げているかのように非常に遅い。なんかこんなシーン、銀行を舞台としたドラマで見たことあるような……権力者が土下座をせびられるシーン。
あれは痛快だったが、これはなかなか痛々しく、可哀想に思えてきたぞ。
「朝凪様、ここはこの黒子めがお嬢様の代わりを不肖ながら務めさせていただけないでしょうか?」
「無理。約束を破った罪は重いし、この超エリートお嬢様に世間の厳しさを教えてあげないと」
簡単に黒子の申し出を払いのけるミト。
生徒会長がついにひざまずいた。ここまでするってことは全クラブ統一はかなり大事だということが伺える。こぼれん限りの涙を目に溜め、悔しさを顔全体に滲ませている。ちょっと胸が痛くなってきたぞ。
「ミト、もういいんじゃない。ここまでしなくても」
ミトは一瞬口元になぜか安堵の笑みを浮かべた。
「ふん、部長がそう言うのなら仕方ないわね」
意外にあっさり引くミト。
「じゃあ、代わりにこの部屋に暖炉を設置することで許してあげるわ」
暖炉? 夏は僕の買ってきた機械があるから冬に備えてのことだろうか。
「承知しましたわ。わたくしの財力を駆使すればたやすいことですわ」
「それと」
「まだありますの!?」
「あたし、ひとつって言ったかしら」
「うぐ……」
生徒会長はようやく落ち着いた案件をまた引っ張りだされては困ると思ったのか、押し黙った。
「入部は認めてあげるけど、そこのあんたの付き人は部活動には一切関与しないこと。もちろん、部室にも入ってきたらダメだから」
「そ、それは……」と言う黒子を生徒会長は制止する。
「わかりましたわ。早急に貴方がたより素晴らしい作品を書いてさしあげればいいだけのことですの。数日もあれば十分ですわ」
数時間ではなく、数日と言ったところは少しばかり謙虚になったみたいだ。
「帰って、ラノベについて早速勉強ですわ。では、ごきげんよう下々の民」
生徒会長は偉そうにそう言って颯爽と部室を出ていった。すごい変わりようだ。さっきまで泣きそうになっていたのがウソみたいだ。
生徒会長が出ていったあとの部室にて。
「あんた止めるの遅すぎよ」
「えっ!?」
「あんた達が止めると思って無理難題注文してあげたのに、あんた達も止めないわ、あのバカエリートも真に受けて土下座しようとするし……」
ミトがそう言いながらもニヤける。
「でも、なんか気持ちよかったのよねぇ、逃げられなくしていたぶるみたいなぁ、あたしってエスなのかしら」
怖いこと言ってるよ……その仮面の影響なのか、あなた真性のエスでしたよ。それにしても人を追い込むことだけは天才的だな。やり方はあれだけど……世が戦国時代なら悪名高い軍師になっていただろう。
「朝凪先輩素晴らしかったです! 奴をあそこまで追い詰めるとは」
シズがミトを褒めちぎる。
「ふん、あたしにかかればどんな権力者だろうと地に伏せるのよ。ところであんた、あのバカエリートのこと知ってたの? なんかそんな口ぶりだけど」
「まままままったく知りません!!」
動揺しすぎだよ、シズさん。あきらかに知ってるな。
「ふーん、まあどうでいいけど」
えっ、そうなの?
「めんどくさそうなコが入部したわね」
そこは同感だけど君も十分その部類ですけど……。
こうして、またまた違うタイプの変人が仮面小説部の一員になったのだった。
後日談。翌日から暖炉設置の工事のため部室が三日使用できず、ミトがイライラして生徒会長に入部禁止を言い渡すというまた面倒なことが起きたのだった。




