ハイスペックガール
「暗間白夜……性別男性。一般クラス二年生。クラスでもまったく目立たない存在。常に端っこの窓際族。仲がよい生徒も可哀想なほど誰もいない様子。友達と呼べる者がいないので情報も皆無に等しいがたぶん大したことはない。見ためもパッとせず、根暗なメガネオタク。一応、仮面小説部部長」
悔しいがデータ通りだ。
「こんな男が部長なのですか。これでしたら他も大したことなさそうですわね」
生徒会長が蔑んだ視線を僕に浴びせる。
「先ほどから失礼なそこの変わったマスクを着けている女子生徒は?」
「朝凪認世……性別女性。一般クラス二年生。一般クラスの中ではかなりの有名人。友達も多く、男子からも女子からも評判がよい。多くの生徒の憧れの的になっている。エリートクラスでも彼女に告白して玉砕した者もいるほど美少女である。ただ、運動はできるが勉強のほうはあまり出来がよくない」
「なによ、その最後の文は! あたしは普通よ普通!」
ミトが怒ってデータを否定した。
「名前くらいは聞いたことありますわね。でも、所詮一般のクラスですわ。文武両道、才色兼備、容姿端麗、人望、家柄、将来性すべてを兼ね備えているわたくしの敵ではございませんわね」
生徒会長は完全に見下した視線をミトに浴びせた。
「その通りでいらっしゃいますが、最後のひとりが曲者です」と黒子が言った。
その直後、「朝凪先輩! 馬面の被り物はどこですか?」
慌てた様子で言うシズ。
「ん? そこのダンボールに入ってると思うけど……」
シズは素早い動きでダンボールから馬面を取り出しすかさず被った。
「プププ、なんですのそれは。そこの変態マスクをしている方といい、どのような活動をしている部なのですの?」
「この悪しき森の魔女、この聖域から出てゆくのだ!」
仮面被ってるけど、この口調は碧眼モードだな。シズはさらに生徒会長に向かって呪いの呪文のようなものを唱えながら両手をかざす。
「まあ! 失礼ですわね。わたくしは女神さながらですのに」
「で、あんたなにしに来たのよ? 用がないなら出ていってくれる? あたしたちまだ忙しいのよね」
さすが煩わしいことが嫌いなミトさん。だけど、言い方はあれだが質問の的は得ている。
本当に何しに来たんだ?
「口の利き方がなってないですわね。まあいいですわ。下々の民は高貴なわたくしと話す機会などないのですから仕方ないですわね。ひたすら崇めることしかできないわたくしがこうして突如現れたのですから、驚いて当然ですわね。わたくしは心が広いので許してさしあげますわ」
「あんた、質問の意味わかってんの? そんなごたくはどうでもいいから何しに来たのよ」
「わ、わかってますわよ。回答を急ぐ人ですわね……わたくしは生徒会長として全部活動の頂点に立つためにやって参りましたの。運動部から文化部すべてこの三ヶ月ほどでトップに立ちましたわ」
「全部の部活って、サッカーとかバレーやバスケットも!?」
僕は単純に驚いた。なぜなら、これらのクラブは全国でも屈指のレベルだからだ。
「もちろんですわ」
生徒会長は平然と言ってのけた。
「お嬢様は余りある才能お持ちになりながら幼少の頃より、あらゆる教養を身につけておりますゆえ」
黒子が補足した。だからってどんなハイスペックだよ。
「生徒会長として、どのようなことでも一番でなくてはなりませんの。それくらい簡単にこなしませんとフェニックスグループの頂点には到底立つことはできませんのよ」
「ふーん、で、どうやってトップになったと認めてもらうの? 個人競技ならまだしも団体競技なんて明確なラインないじゃない」
「それは各クラブのキャプテンや監督に認めていただきますの。わたくし一人入っただけでどれほどチームが見違えことか。ソフトボール部なんてわたくしが入っただけで、弱小チームだったのが、全国区にたちまちなりましたの」
どんなアスリートだよ。超人オリンピックに出れるレベルだろそれ。ちょっと次元が違うな……。
「そんなわたくしがこのような場末のクラブに顔だけでも出したことを光栄思ってほしいですわ」
「まさか、うちにも入部するつもりなの?」
ミトは嫌悪感を露にした。
「一応、そうなりますわね。ここで最後ですし。たった三人しかいないクラブ、1日いえ、半日あれば十分ですわ」
「え~」
ミトは露骨に嫌な顔をした。シズはというと追い払いたいのか、よくわからない呪文をずっと呟いている。
「ところで先ほども尋ねましたけれども、このクラブはいったいどういう活動をされていますの?」
「白夜、めんどくさいからあんた説明してよ」
やれやれミトはいつだって面倒なことを押し付けてくるな……だが反抗するのも面倒なので僕は簡単に部活動の内容を説明した。
「仮面を着ける必要性があるのかは理解し難いですが、それ以外は概ねわかりましたわ。楽勝ですわね。文芸部や漫画研究部でもすぐに一番の作品を執筆したわたくしにとって朝飯前もいいところですわ」
「ライトノベルは読んだことあるんですか?」
エリートでもラノベ読むんだろうか。
「そんなもの読んだことないですわ。でも、大体そこに飾ってある本を見ればどういうものかは察しがつきますわ」
「ふ~ん、読んだことないんだ」
ミトが邪悪な笑みを口元に浮かべた。
「そのようなもの読まなくても書けますわよ」
「じゃあ、短編でもいいから書いてみなさいよ」
ミトは僕に指を差して、
「こいつより面白い作品だったら、即あんたを一番と認めてあげるわ。その代わり負けたらあたしたちのいうことをきくこと」
「臨むところですわ」
「ミト、それは……」
どういう意図があるんだろうか。ミトが僕の耳元でささやく。
「あのコを追い払うにはこれでいいのよ」
「なにをヒソヒソやってますの」
「こっちの話よ。じゃあ、書けたら持ってきてよ」
ミトになんらかの謀略があるらしい。こういうことにかけては天才的ではあるからな。
「今、書きますわ。1時間もあれば十分ですの。1時間後には全クラブ制覇ですわ」
おいおい、ほんとかよ!? いくら短編でも1時間て。
銀髪の美少女はイスに座り、「黒子PCをここに」執筆に取りかかった。物凄いスピードでタイピングする。僕らは待っている間、ラノベを読んだり、執筆に勤しんだ。シズは馬面の被り物をしたままなのですごく視界が悪そうだ。外せばいいのにと促したが「魔女に素顔を見られると石になるので」とかわされた。
それは魔女じゃなくてメデューサだよ。
「できましたわ!」
生徒会長は本当に1時間も経たないうちに書き終えた。
初めにミトが読む。僕の作品を読んだときとは違い、小気味よくパソコンをクリックする。その読書時間20分。やけに早いな。
「ダメね」
ミトは見下す視線を生徒会長に浴びせる。
「……そ、そんなわけありませんわ! あなたウソを仰っておりますわね。面白いものを面白いと言わないなんて、なんとひねくれ者ですの!」
「ウソなんて言わないわよ。ことラノベに関しては絶対に」
確かにミトはそのあたりは偽らない。以前対立していたシズの作品もちゃんと評価していたし。
「くっ! そこのメガネ男子読んでみてくださいまし!」
僕はパソコンを覗きこむ。僕もミトと同じようにスラスラ読めた。その所要時間、20分。
感想からいうとラノベではない堅い文章のただの学園恋愛ものだ。キュンとするようなところは多いのだが、いってしまえばそれだけだ。
これなら真面目な少女漫画の原作なら良いように思える。文章の組み立ては素晴らしいものがあるのだが……。
「どうですの? メガネ君」
「えっと、ラノベっぽくないというかなんというか……」
「そうなのよ。ラノベじゃないのよねぇ~。あんたラノベなめてるでしょ。文芸部や漫研ですごくてもやっぱりしれてるわね。ラノベを読んだこともないくせにラノベを書くなんておこがましいわよ!」
「なにが違うというのですか?」
「これ読んでみなさいよ。これはそこのメガネザルが書いた作品よ」
「貴様なぞ、わが右腕の足元にも及ばんのう」
シズが追い討ちをかけた。
「読んでさしあげますわよ。わたくしがこんなメガネくんに負ける訳ないですわ。貴方がたの主観がおかしいだけですわ」
生徒会長は速読法をマスターしているのか読むスピードも段違いに速かった。そこそこの長編なのだが30分ほどで僕の作品を読み終えた。
そして、銀髪の彼女はわなわなと震え黙り込んだ。




