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二度目のオフ会

 ある日曜日、僕は二ヶ月ぶりに『カメショー』のオフ会(ひと月に一度開催)に参加するため電車に揺られている。


 実のところあまり行きたくなかった。その理由は自分のファンといえど、やはり若干のダメだしを目の当たりにするからだ。ミトに「来なさい」と命令されてしまったため、仕方なく電車に揺られている現状。

 前回は『カメショー』の締め切りに追われていてすっぽかした。行きたくなかったので締め切りという名目のおかげで行けないことにうしろめたさはなかった。

 というか締め切りナイス! って感じ。都合よくこのままフェードアウトしてやろうと思っていたのに……。


 ミトは前回、僕が来なかったのは自分のせいに思われたくないから来るように命令してきたのだ。初めて参加したときミトは僕にきつく当たってきた。それが他のオフ会メンバーに前回僕が来なかった原因だと思われたくないらしい。


 あいもかわらず、自分至上主義な奴だ。


 オフ会場であるお店に到着した。店の造りは個人でやっているカフェっぽい感じ。それほど大きくはない。

 所々、ビビッドなカラーを取り入れている外観だから、お洒落な佇まいだ。僕がその真っ赤なドアに手をかけた時、後ろから声がした。


「やあ、ヤシロくん」


 振り向くとミケさんがそこにいた。このオフ会の主催者だ。


「こんにちは」


 僕は軽い会釈をした。


「こんにちは、来てくれて嬉しいよ」


 ミケさんは優しい笑みを浮かべた。人にこう言われるとなんか照れるな。


「早く入りなさいよ!」


 聞き覚えのある声が入り口の方から聞こえた。僕はミケさんから目を離し入り口に目を移した。いつのまにかドアは開いていて、仮面を着けていないミトがそこにいた。

 今日は学校指定の制服でなく、英字がプリントされた白のTシャツの上にデニムのジャケットを羽織って、紺ベース白の縦ストライプ入った膝丈くらいまでのスカートを合わせている。知っている女の子の私服姿を見るのは新鮮だな。しかも可愛い。


「そんなきつい言い方はダメだよ、ワールドちゃん」

「だって……トロいんだもん」


 ミトは『だって』のあとは消え入るような声で呟いた。どうもミトはミケさんには気を遣うみたいだ。


「それはごめんよ、さあヤシロくん入ろうか」


 どうやら『トロいんだもん』はミケさんの耳にも届いていたようだ。


「違う! ミケさんじゃなくて、びゃ……このコが……」


 ミケさんは一瞬、不思議そうな顔をしたが、すぐさま優しい笑みを浮かべ、


「まあまあ、入って入って」と僕たちを促した。


 ミトは僕に鬼の形相を投げかける。おいおい、僕が悪いのかよ!

 ミトの手筈どおり、僕たちは同じ学校に通っていることを隠す。つまりオフ会のメンバーには今日ミトと会うのは二回目という程で僕は接触するように義務づけられている。

 ミトは僕と知り合いと思われるのは避けたいらしい。

 学校でもオフ会でも……あ~リア充めんどくせ~。

 そうこうしてるうちにオフ会が始まった。今日は前回参加したときよりも人数が多く、20人の参加だった。


 初めて見る顔が大半を占めている。今回は前回とは違い、基本的には立食形式で自由に動き回れるスタイルだ。しかし、これが僕にとってはきつい。自分から話しかけるという術を持っていないので、僕は空いているイスに腰を下ろして観察することしかできない。

 僕にできる行動は食べ物を取りに席を立つくらいだ。僕はひとりでバイキング形式のランチでもしにきたのかと錯覚してしまう。

 から揚げをつまみながら、もう僕の心はすでに帰りたくなっていた。たぶん、開始10分ほどしか経っていないのに。

 他のオフ会メンバーは元々親しいのだろう、いくつかのグループができていて各々話が盛り上がっている。もちろん、ワールドことミトもその中に溶け込んでいる。


 さすがリア充ミトさんだ。あいつめ! 


 自分から来いって命令しておいて、この放置プレーはなんたることだ……まあ想定内ではあるけれど。やっぱり来るんじゃなかった……。


 僕の創った物語が話題になってることは嬉しいが、ここにいても全然楽しくないよ。学校並みに孤独を感じる。なんだこの無意味な時間は……いや地獄の時間だな。ある意味拷問だよ。帰って、溜まってるアニメをみるほうがまったくもって充実する。

 あと、二時間弱、長すぎる……。

 このようにサイダー片手にネガティブ思考になっていると、


「ヤシロくん、どう楽しんでる?」とミケさんが話しかけてきた。


 ひとりでいる僕に気を遣ってのことだろう。ミケさん、僕のこの状況、楽しんでいるようにみえますか?


 僕は微妙な作り笑いをした。


「そうそう、ヤシロくんが好きなイタコ、最新刊ではすごく活躍しているね! 新しい奥義、霊神阿修羅閃光斬はかなり強力だし、ドラゴンボールでいうところのピッコロ的な位置だったけど、一気にチカゲに追いついた感じがあるよね」とミケさんがイタコを褒めた。


 それを僕らの隣のグループで聞いてた男性が会話に割って入ってきた。


「確かにイタコの今までの霊を憑依させて能力を向上するのはまわりのキャラに比べると、インパクト弱くなってたけど、神を自分に宿すっていうのはかなり強力になりましたよね」


 名札にはスバルとある。見ためは僕と同じくらいか少し上くらいに見える。顔は男らしいというよりはかわいらしい感じなんだが、耳のピアスと茶髪が彼をチャラく見せている。リア充っぽくて苦手な外見だけど、嬉しい感想を言ってくれるじゃないか。


 ふっふっふ、イタコを大活躍させてやった甲斐があったぜ! 僕は嬉しくてテンションが上がった。


「はい! このままチカゲと共に成長させてやろうと思ってます! このあとの展開なんですが邪悪神に精神を支配されたイタコとチカゲ達が戦って、イタコを解放してからその邪悪神本体とバトルっていう流れも考えているんですけど、邪悪紳の名前をどうするかまだ決まらないんですよね~」

「…………ん?」「はい? …………」


 ミケさんとスバルが不思議そうに僕の顔をみつめる。 


……しまった~!!!!!!!!


 ハイテンションになりすぎて原作者みたいな発言をしてしまった!! まあ原作者なんだけど……普通に考えれば痛い発言だ。変な奴に思われる! どうしよ、どうしよ!


「ヤシロくん、それってどういう……」


 ミケさんは軽く眉間にシワを寄せる。


「いや……あの……そうなれば面白いのになあ……みたいな……はは」

「……ああそういうことか。展開予想か」とスバルが納得すように言った。


「なるほど、その展開予想面白そうだね。確かに最新刊のラストはイタコになにか起こりそうなフラグ立ってたなあ。僕はイタコがまた敵になるのかなあっていうくらいしか読めなかったよ。まあ、クラマ先生のことだから僕らの予想の遥か上の神展開してくるんだろうなあ」

「そ、そうですね……」


 自分でハードルを上げてしまった……はあ~次回の締め切りまでに新しい展開を考えないといけなくなったよ……。


 そうして、三人で話していると、ミケさん効果なのかいつのまにか周りに何人かやってきて、見解とか展開予想とか推しキャラとか、各々話しだしてひとつのグループになっていた。


 僕も居心地良く楽しみ始めていた。


そんな折り、僕はカラダ中に突き刺さるような視線を何度も感じた。その視線の主はここではまったくの他人であるワールドさんだ。

 僕が視線を感じてミトのほうに目をやると彼女は瞬時に目をそらすのだ。


 あの、絶対こっち見てたでしょ。


 オフ会の終盤になってミケさんが大きな声で言う。


「みんなちゅうも~く! 今近くにいる人と四人一組になって、最新刊でスポットライトを浴びているイタコを描こう! 一番うまく描いたグループにはなんとこちら! クラマ先生とスピカ先生のダブルサイン入りカレンダーを進呈します。誰がもらうかは勝ったグループが内で公平に話し合ってくださ~い!」

「やったー!」「マジでー!」「よっしゃー!」「ほんとにー!」と、どよめきの声が沸き上がった。


 あれは見覚えがある。僕はサイン会をしないんだけど、今年のカレンダーに出版社の頼みもあって、姿を見せなくていいのならと何部かサインしたもののひとつだ。編集はなんかの懸賞品にするみたいなことを言ってた気がする。


 イラストを描いてもらっているスピカ先生は僕と正反対で結構、雑誌掲載のインタビュー受けたり、サイン会したり、コミケとかのゲストとして参加してるみたいだけど。

 スピカ先生のサイン入りグッズはレア物レベルだけど、僕のサイン入りグッズは超レア物(ネット情報)になっている。数が少ないからだろうけど……。


 その時誰かが僕の服の袖を引っ張った。


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