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複雑な気持ち

「じゃあ、皆さん、またひと月後に会いましょう!」


 ミケさんの仕切りで人生初のオフ会は幕を閉じた。


 僕はというと、イタコ好き発言からその後ひと言も話さなかった。何度も言うが僕は打たれ弱いのだ。いらない発言をしてヤケドしたくない。

 このオフ会間違いなく苦い過去ランキング上位に入ってくるだろう。思い出したくない思い出のひとつになるだろう。


 オフ会場のファミレスを出たとき、うしろから肩をポンポンと叩かれた。僕が振り向くと、朝凪がいた。彼女のキリッとした大きな目はすでに見下している。


 もしかして、同じクラスって気づいたのかな。


「あんた、次回も来なさいよ。カメショーが好きなのはいいことだから、もっとこれに参加して知識と情熱を高めるといいわ。それと…………さっきのイタコの件は悪かったわ。あんたの好きなキャラを馬鹿にして」


 後半部分は棒読み。


 まったく気持ちがこもってないんですけど……それに僕が高校のクラスメートだとやはり気づいてないな。変な期待をした僕が馬鹿だった。

 こいつにしてみれば僕は空気と一緒なのに……僕は馬鹿だ! 

 でも、なんだ、急にしおらしくなって。棒読みといえど謝ってくるなんて……まさかこれがリアルツンデレに発展する前兆か。

 漫画やラノベの世界では一人くらいそんなキャラがいたりする。僕もそんなキャラを『カメショー』の中で書いてたりする。残念ながらリアルでは経験したことなかったが……彼女はおろかほぼほぼ女子と会話したことない僕にとっては初めての体験になるかも!?


「なにニヤついてんのよ気持ち悪い。ミケさんがあんたが来ずらくなったらかわいそうだからって言うから、とりあえず謝っただけよ。キモいわね」


 なんという、どストレート! 


 ツンデレでもなんでもなかった。ただ言われたから謝っただけって……それ暴露しちゃダメだろう。しかも簡単に……さっきの新鮮な気持ちを返しやがれ! 

だけど、そんなことは言えるはずもない。


「ごめん」


 これが僕の現実です。


「こらこら、逆にヤシロくんが謝ってるじゃないですか」とミケさんの声が背後からした。


「だって、ニヤつき加減がキモかったんだもん」


 そんなに変な笑みを浮かべたっけ?


「まあーだとしても言い方には気をつけてあげて」


 そこは否定してよ……ミケさん。ミケさんにも僕の笑みが気持ち悪いというのは肯定されてしまった。


 朝凪が視線を逸らして不満げに頷く。ミケさんにはやけに従順だな。ミケさん風貌は少し伸ばしたあごひげが整えられていて、それがとても似合っているからかダンディーなアラフォーくらいの大人にみえる(実際は25才、さっきのオフ会で聞いた)服装も大人向けのファッション誌の一面を飾りそうな落ち着いたダークカラーで統一している。

 間違いなくカッコイイ部類に入るし、まったくオタにはみえない。こんな人が自分のラノベのファンだと思うとなんか嬉しい。


 さすがの朝凪も大人カッコイイ人には弱いのかな。


「あたしはもう帰るね!」


 朝凪はそう言うとそそくさと早足で行ってしまった。


「気を悪くしないでやってね。彼女は思ったこと、オブラートに包んで言えない子だから」


 ミケさん、それあんまりフォローになってないですよ。できれば、思ったこと何倍にもして言われたりするほうが良かったよ……。


「ワールドちゃんも仲間が増えるのは嬉しいはずだし、僕も嬉しいからまた良かったらこれに懲りずに来てよ。今日はじっくり話せなかったし、ヤシロくんのカメショーのこれからの見解とか聞いてみたいし」

「……はい」

「良かった。じゃあ、またメールするよ」


 ミケさんは踵を返した。


「あの……」


 ミケさんが僕の呼び止めで振り返る。


「……どうしたんだい?」

「いや……なんでもないです。また、よろしくお願いします。」


 ミケさんは一瞬不思議そうな顔をして、


「うん、じゃあまた」


 僕は朝凪と同じ学校でクラスメートということを言おうとしてやめた。言ったところで自分が惨めになるような気がしたから。彼女は僕のことを万に一つも気づいていない。いや、学校でも存在すら知らないんじゃないか。


 彼女にとって僕は空気みたいな存在なのだ。昔からそうだった。僕はクラスの窓際。そう、それが当たり前の僕の人生。

 でも…………僕の存在を気づいていない彼女が僕の作品の熱烈なファンだなんてなんか複雑な気持ちだな。


 明日、彼女は僕のことに気づくだろうか。そんなことを考えながら僕は帰路についた。

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