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それでこそ朝凪認世

「なによ、うっさいわね!」


 ミトは鋭い視線を僕に飛ばす。


「あっ! 朝凪先輩!」


 僕の背後からシズの声。


「連れてきてくれたのですね! さすが部長です!」


 嬉々とした明るい声のシズ。

 まずい、シズは僕が連れてきたと思っているようだ。ミトは眉間にシワを寄せている。


 ミトは氷のような冷たい目で、


「白夜、いつもの裏に集合」


 そう言い残して部室を出ていった。シズはその背筋も凍るような場の雰囲気に気圧されたのか表情がこわばっている。


「ぶ、ぶちょー、朝凪先輩まだあきらかに怒ってましたよね……」

「だ、大丈夫だよ……ちょっと行ってくるね」


 シズを残して部室をあとにした。いつもの裏ってどこだよ? と思いながら体育館裏に行くとミトはいた。

 ここであっていたみたいだ。ここではあまり人目につかないからな。


「あんた、今日ジロジロあたしのこと見すぎ。キモいったらありゃしないわよ!」


 のっけから罵声で始まる。


「というよりかここ数日、あたしのこと見てたでしょ! あんたって天性のストーカーなんじゃないの」


 久しぶりの会話が鬼の罵声。いやいや、来なくなったから心配してただけなのにここまで言われないといけないのか。確かに話しかけるタイミング見計らってはいたけど……。


「別にそんな変な気持ちで見てたわけじゃ」

「ふん、どうだか」と睨むミト。

「あんた、あのコにあたしを部室に連れてくるとでも約束してたんでしょ?」


 くっ、やっぱり気づかれていたか。図星なので苦笑い。

 ミトが口角を上げてニヤつく。なんか悪巧みが閃いたようなニヤつきだな。嫌な予感がする。


「シズが謝りたいって言うからとりあえず僕が仲介しようと思って……」

「ひとつ言っておくけどね。別にあのコにバカにされたから部室に行かなかったわけじゃないからね」

「じゃあ、なんで来なかったの?」

「あたしはあんた達を見返してやろうと思って、自分の作品をずっと推敲してたの」


 それって少なからず、シズの言葉を気にしてたからだと思うけど。だいぶへこんだ様子だったくせに。でも、この負けん気の強さがミトらしいといえばミトらしい。

 僕ならもう立ち直れないだろう。


 急にミトの表情が沈む。


「だけど、やっぱり無理だった。あたしには圧倒的に文章を書く能力がないのよ。これは自己分析した結果わかったことだけど」


 ミトさん、あれほどラノベ読んでるのに気づくの遅くないですか? それにそれだけじゃないと思うけど……。


「アイデアはいろいろ浮かぶからセンスはあるのよ。ほらよくラノベの世界でもあり余る力をうまく使えないキャラいるでしょ。それと同じなのよね」


 僕はまたまた苦笑い。自分でセンスあるって言ってしまう自信はどこから来るんだろう。


「あんたが今のところ部内で一番実力があるのは認めるわ。そこで、よ。あんた、あたしに文章の書き方を教えなさい。それさえ完璧にできればあんた達なんてメじゃないんだから」


 え~~~。


 僕はあからさまに嫌な表情をした。ますます『カメショー』を創作する時間が奪われそう。


「嫌とは言わせないわよ。その代わりあのコには部室にあたしが来たことはあんたの手柄のままにしといてあげるから」

 交換条件……悪代官かこいつは。

「尊敬される部長でいたいでしょ? ねぇ、『さすが部長!』さん」


 ミトは小悪魔的な笑みを浮かべた。


 くっ、腹立つけどここはのんでやるか。後輩から崇拝されるのは嫌な気はしないし、実のところ一種の優越感に浸れるし。『さすが部長!』確かにあの言葉は気持ちいい。


「わかったよ」


 僕は悪魔の条件をのんだ。


「光栄に思いなさい。あたしにご教授できるんだから」


 これからカメショーのイメージ創作も部室で、できなくなるかも……。そんなことを考えていると唐突にミトが言う。


「そういえば、あんた達付き合ってんの?」

「へっ、な、なな、ななななに言ってるんだよ!」

「いつのまにかあのコのこと親しそうな名前で呼んでるし」

「それはシズがそう呼んでほしいって言うから」

「さあ、どうだかね。この前あのコに腕を組まれてたとき、鼻の下伸ばしてまんざらでもなさそうだったけど。あたしが部室に行ってない間、二人で何をしてたんだか」

「そ、そそそんなことしてないよ」

「あら、そんなことってどんなこと? ……もしかしてこんなことかしら」


 ミトはいじらしい表情で顔を近づけてくる。


「ちょ、ちょっと待って……」


 リア充女子の綺麗な顔がどんどん近づいてくる。こんな近くで女の子の顔を見たことないから恥ずかしさが込み上げてくる。


 ちょ、ミトさん!? これ以上、寄られると……唇が触れちゃうよ!?


「ほら目を閉じて」とミトは頬を赤らめて言った。


 ミトはリア充だからキスくらいなんともないのか!? 

 こんな形で僕はファーストキスを済ませるのか!? 

 いや、一世一代のチャンス到来と捉えていいのか!? 


「ほら早く」と急かすミト。


 抗えない僕は目を閉じた。頭の中ではエロ同人などでありがちなありえない状況から始まるエロいシーンが駆け巡った。


…………………………あれ…………期待した感触が訪れない。


「ぷぷぷ、あはははははー! うけるー! なにそのゆでダコみたいな真っ赤な顔!」


 僕が目を開けるとミトは腹を抱えて笑い転げていた。


「なにマジになってんのよ。あんたなんかにキスなんて百万年早いわよ! それとあんたなんかに彼女ができるなんて百億光年早いっての。ぷぷぷ、あんたってこういう方面はからかいがいがあるわね~ぷくくくく」


 …………なんだからかわれたのか……純情な二次元愛好家を弄びやがって! そうだよ! わかってたよ! 三次元に期待した僕がバカだった。バカバカバカ、僕はバカだ!

くそくそくそ――――――――!!!


「あ~面白かったあ~! じゃあ、明日から頼むわね白夜」


 ミトはそう言って颯爽と立ち去っていったのだった。


 僕は情けないことに家に帰ってからも間近で見たミトのまごうことなき美人な顔立ちが頭から離れなくて『カメショー』の執筆が進まなかった。


 くっそ―――――!! 完全にしてやられた。

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