僕は勇者じゃないのです
次の日、部室にミトは現れなかった。それからそのうち来るだろうと思っていたが、ミトはもう3日も部室に顔を出していない。
僕は気にするシズを励ましながら部活動を続けた。部活動っていっても僕の場合、脳内で『カメショー』の構想を練るだけなのだが。
シズは自分の既存の作品を推敲したり、新しい作品の執筆に挑戦している。だけど、日が経つごとにミトが来ないことに焦りを感じているのも伝わってくる。このままミトが来なくなって、これを機に僕もフェードアウトしたら仮面小説部はなくなるのかな。なくなったらなくなったで僕は構わない。
当初の願いどおりだし。だけどそうしたら、せっかく入部したシズが不憫でままならないな。このコにとってはやっと見つけた居場所なんだから。
シズが執筆を止めて深刻な面持ちで、
「部長、私、朝凪先輩に明日謝りに行きます」
空気が重く感じる。
「……僕がなんとかするよ」
「でも、私があんな残酷無慈悲なこと言わなければ……」
まあそれはそうだけど。
「僕がまず話してみるよ。その方がうまくいくと思うし、任しといて」
なんの根拠もないが、それでもシズが話すよりはマシだと思う。また、言い合いになって碧眼モードになられたら、それこそ取り返しがつかなくなるだろう。
そして、翌日の教室にて。僕はミトの様子を伺う。いつものようにリア充共と戯れている。
おいおい、シズにカッコよく任してと言ったものの、どうやってミトと話すんだ!?
あのリア充共を押し退けてミトと話すなんて至難の業もいいところだ。
ミトにたどり着くまでにいったいどれだけの関門があるんだよ。最低5人はミトの周りに常にいやがる。
五つも関門を突破できるわけがない。その前にあそこまで行く勇気がない。
僕は勇者じゃない。絶対無理!
どうしようか……どうしようか……どうしようか……。
それに奇跡的にミトにたどり着いたとしてもクラスなんかで話しかけたら殺されるかもしれない。僕は様々な言い訳を探した。
でも、仮面小説部のために勇気を奮い起こし、一歩ずつ関門に向かう……ってそんなの漫画やラノベの感動ものの話だよ。
現実世界では絶対無理!
レベル1のキャラが魔王の城に挑むようなものだ。城門にたどり着くまでに即死だよ即死! 二次元の世界なら助けが入ったりするけど、この三次元の世界では誰も助けてくれない。だって、仲間が一人もいないんだから。そうして、毎休み時間ずっと悩んでいるともう最後の授業も終わり、あっというまに放課後がやってきた。
すでに僕の思考はミトと話すことよりもシズにどうやって無理でしたって説明するかにシフトしていた。とりあえず、考えがまとまるまで机から動けない。
作戦1、ミトは休みだったんだよ、だから明日話すよ作戦……これでは万が一シズがミトを校内で見かけていたらうそがバレバレになるな。僕への信頼が失墜してしまう。
作戦2、僕が休みだったことにする。これもシズにどこかで見られていたらアウト!
作戦3、ミトに一応、話した程でシズに報告する。ミトは部室に来ないからバレないし、明日に先延ばしできる。
そうだ、これでいこう!
明日機会を伺ってミトに話せばいいんだ。それならうそにならない……はず。問題の先延ばしだが、機は必ずやってくるはず。シズに何か突っ込まれてもなんとか言いくるめることができるだろう。
とりあえず、作戦3を決行するために部室へと足を運ぶ。
「え―――――――!!!」
僕がなぜこんなに驚いているのか、それは部室の扉を開けるとミトがいたからだ。まさかの想定外……。