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ミトは天保山!?

「そこまで落胆しなくても……シズなら頑張ればどんな山も壁も乗り越えられるよ」


 これはお世辞でもなんでもない。シズにはセンスを感じたのは本当だ。


「そうよ、あんたはいいわよ。ある程度書けてるんだから。あたしなんて……」


 うん? ミトのこの言い草は!?


「やっぱりミト書いたことあるの?」


 ミトの顔がひきつる。


「な、ないわよ。ないないラノベなんて書いたことない!」


 僕はシズを見た。すると、シズも僕と同じ思いなんだろう、頷いた。


「う、うそはよくないんだよね」


 僕は呟くように言った。

 ミトの顔がピクつく。シズが追い討ちをかける。


「虚言は良くないと汝が述べていたではないか。わが右腕に最低!! とまで罵っておったのはどこの誰だったかのう」

「あ、あんた達に見せるようなものは書いてないってことよ! 自分のためのものは書いてるけど……だからうそはついてないわよ」


 なんていう言い訳……。

 シズはあんぐりと口を開けている。そりゃそうだよ、苦し紛れにも程がある。でも、これが朝凪認世なんだよな……。


「なんか文句ある?」

「ないけど……ミトも見せてくれないとフェアじゃないような気がするけど」

「わが右腕の言うとおり」

「ああああたしの崇高な作品はあんた達みたいなオタク軍団にみみみみみ見せるものではないのよ」


 なんだその動揺……。


「汝、さてはよほど自信がないのであろう? うん?」


 煽るように上から目線でシズが言った。


「そそそそんなことないわよ!」 

「では、見せてみよ」

「ぐぬぬぬぬ」

「ほれ早く……やはり無理かの」

「ぬ……ぬぬぬぬ」


 ミトは背水の陣になり、次の一手が出てこない。やれやれ、助け舟でも出してやるか。


「ミトの作品を読んで僕らも勉強になるかもしれないし、お互いアドバイスできればより良い作品を創れるんじゃないかな」


 碧眼モードを解除したシズが僕に続く。


「さすが部長! そうですよ、朝凪先輩。部員という仲間ですが、あるときはライバルとして切磋琢磨して高みを目指すカメショーキャラ達のようにこの部を盛り上げていきましょう」

「…………わ、笑わないと約束するなら……」


 ミトは小さく呟いた。 


「笑わないよ」「笑うわけないですよ」


 人が精魂詰めた作品を笑うなんてするわけがない。人のものを笑うとしたらこの部では君くらいのもんだよ、と心の中で呟く僕。

 しかし、ただ恥ずかしいだけで見せたくないのか、はたまた見せれないほど酷いのだろうか。


 ミトは今も迷いがあるのか、しかめ面でゆっくりと原稿をかばんから取り出した。それを机の上に置く。見た感じやけにうすっぺらいな。短編ものなのかな。


「読むよ?」

「勝手にすれば」


 僕は原稿に手を伸ばした。

 タイトルは『あたしの自己中な彼氏が可愛いすぎる』こういってはなんだけど、自己中なミトがいかにも書きやすそうなタイトルだな。

 ミトは顔を引きつらせながら僕を見る。シズは静観している。僕はそんな中ミトの作品を読み始めた。


………………結論からすると、すらすらと読めたので時間はかからなかった。というよりこれを小説と呼んでいいんだろうか。一番近いものに例えるなら……そう小学生が書くような日記なのだ。しかも低学年くらいの……。


 簡潔に説明すると主人公のハルカという女の子が彼氏のわがままをなんでもきくという話なのだが、彼氏のどのあたりが可愛いのかまったく見えてこない。彼氏が~しました。あたしはそれを可愛いと思った。

こんな事がひたすら続いて終わるのだ。無論オチや伏線など用意されていない。せめて主要キャラが異常なくらいインパクトあれば百歩譲って引き込まれる可能性はあるかもしれないけどそれもないし……普通のことを可愛いと言っているJKの幼稚な日記がたんたんと続くだけ。


「で、なんか言うことないの?」ミトは僕と目を合わさず不安げに斜め下に視線を落としている。感想がほしいらしい。

「えっと…………」


 まずい、まったく言葉が出てこない。


 褒める要素がなさすぎる。かといってはっきり酷評することもできない。


「よ、良くもなく、わ、悪くもなく……」


 ミトはジト目で僕にプレッシャーを与えてくる。それから解放されたくて、なるべく傷つかない言葉を捜しているとシズが笑いだした。


「ククク、仮面のおなご。汝は天保山だのう」


 シズの見下した目と小馬鹿にした口調。


「あんたもう読み終えたの?」

「こんなものわが速読の技法をもってすればたやすいこと」

「人の作品にこんなものって、随分な言い方ね! それに天保山ってどこの山よ!」


 ニュアンス的にバカにされているのはわかっているらしい。ミトは知らないらしい。天保山といえば日本一低い山ということを……。


「ククク、汝自身でググってみればよかろう」


 ミトは仮面を外してスカートのポケットからスマホを取り出し、液晶をタップする。そして、すぐさま顔を歪めた後、悔しさからか目に涙を溜めて下唇を噛んだ。


 僕は見かねて、

「シズちょっと言い過ぎだよ」と戒めた。


 ミトにとっては精魂込めて創った作品だろう。それを酷く貶すのは失礼な気がしたのとミトの表情が絶望感を表していたから。


 シズはハッとして頭を下げて、

「すいません、つい私……朝凪先輩すいません」

「……あたし帰る…………」


 抜け殻のようなミトはトボトボと部室を出ていった。

 シズは気まずそうな顔をして僕に視線を投げかける。


「大丈夫だよ。明日になったら機嫌も治ってるよ」


 たぶん……。


 しかし、あのミトが言い返すことすらしなかったのはよっぽどへこんだんだろう。

 僕もシズもなんだか尾を引いて、早々に部室をあとにした。

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