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大賞はエベレスト

 部室に入るなり「あんた持ってきた?」とSMミト。


「うん、持ってきたよ」


 僕はかばんから原稿を取り出した。


「部長、朝凪先輩のあとでいいので私にも読ませてくださいね」

「ああ、いいよ」

「やけに自身あるじゃない。なんか自信満々の白夜を見てると腹立つわね。しょうもない作品だったら、タダじゃおかないわよ。あたしがわざわざ時間を割いて読んであげるんだから」


 自分から読ませろって言ったくせに。ミトは早速、席に着いて読み始めた。その間、僕は暇なので部室に置いてあるラノベを読んで時間を潰すことにした。

 シズはというと昨日の自分の作品を机に広げ推敲し始めた。僕も『カメショー』の推敲がしたいよ。


 読み終えたかなという時間くらいにミトに目をやるとまだ半分くらいしか進んでいなかった。

 やけに読むスピード遅いな。昨日のシズの作品を読んでいたスピードから考えるともう終わっていてもいいような気はするんだけど。ちなみに僕のもシズの作品くらいの原稿枚数だ。


 それからしばらくしてからもう一度、ミトに視線を移した。またさっきと同じくらいの枚数しか進んでいないようにみえる。


 おかしいな。寝てるのか……いや、見る限り真剣な表情で読んでいるよな。だけど、こんなに読むのが遅いはずがない。

 僕はミトに気づかれないように観察した。


 ミトは原稿に釘付けかっていうくらいに集中しているから盗み見るのは容易だった。そして、観察結果からいうと次の原稿に進むのはそれほど遅くないのだ。やっぱりおかしいぞ。僕がそう思ったとき、


「汝、いったい幾度読み返すのだ。早く、われにも読ませよ」と碧眼シズが言った。


 なるほどね、そういうことか。ミトは聞こえていないのか原稿から目をまったく離さない。


「ミト?」

「そこの面妖な仮面を被ったおなご聞こえておらんのか」


 なおもミトは原稿から目を離さず、


「うっさいわね! もうすぐ終わるから黙ってて!」


 僕とシズは顔を見合わせた。

 それから10分ほどで「ふー」とミトが大きく息を吐いた。ようやく読み終えたようだ。


「白夜……これホントにあんたが書いたの?」

「当たり前だよ」

「はあ~~~~」とミトは脱力感が滲み出るような大きな溜息をゆっくりとついた。


 なんだよ、なんかダメだったのか。わざわざ机の奥底から引っ張り出してきた僕の処女作なのに。『カメショー』の執筆まで止めてまで、昨夜一晩中手直ししたのに。

 カメショー作家の世に出ていない処女作だぞ! 

 僕のファンなら喉から手がでるくらいほしいプレミアものだぞ!


「朝凪先輩、読ませてもらっていいですか?」


 力が抜けきった様子のミトは無言でシズに原稿渡す。シズは集中して読み始める。ミトは窓の外をぼ~っと遠い目をして眺めだした。ダメ出しすらないなんてそんなにダメだったか……。

 僕はそんなミトをに話しかけるのもなんか怖かったので、とりあえずシズが読み終えるのを待つことにする。しかし、何度考えてもそんなにいけないとは思えないんだが……ちなみに処女作だけど新人賞の2次選考は通過した作品なのだ。

 しかも、徹夜までして推敲したんだぞ! 

 僕の目からしたらシズの作品よりすべてにおいて完成度は高いと思うんだけど…………それても僕の目が狂っているんだろうか。


 僕が審査員をして最終選考で落としてきた新人賞応募者に悪い気がしてきた。皆さんごめんなさい。僕みたいなもんが審査員でごめんなさい。こうしてネガティブ思考に洗脳されていると、シズの声が部室中に響いた。


「部長!! この作品面白すぎます! さすが部長です!!!」

「へっ?」


 シズが碧眼モードでもないのに興奮気味に「ストーリー、キャラ、伏線どれを取っても秀逸すぎて私の作品より全然素晴らしいです!」


 そこまで褒めなくてもと思いつつ自然と顔がにやけてしまう。


「そうなのよねぇ」


 窓の外を見ながらミトが言った。えっ、そっち!? ダメ出しとか貶すとかでなく、ミトも良く思ってくれてたってこと!?


「あんたさぁ、ホントにこの作品、新人賞に出さなかったの?」

「えっと…………」


 返答に困る僕にジト目で追い詰めるミト。


「……出したよ」


 ミトがSM 仮面の目をギロッとさせた。


「あんた出したことないって言ってたじゃない! このあたしにうそをついてたってことね!」

「いや……うそっていうか……は、恥ずかしかっただけだよ」

「それをうそって言うのよ。うそつくなんて最低!!」

「ご、ごめん」

「ふん! それでこの作品どこまでいったのよ」

「……3次選考」

「ホントでしょうね」

「本当だよ」それは本当だ。『カメショー』では大賞を取ったけれども。

「そう……この作品でも最終選考まで残らなかったんだ……」


 ミトはなぜかショックを受けているようだ。


「険しい、険しいのう。わが右腕がマウントフジといったところなら、大賞というのはエベレストか、はたまたレッドラインのように絶対に乗り越えられない壁だぞい。われなどまだまだその辺の名もなき山も同然だのう」


 碧眼シズもがっくりと肩を落とした。


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