SM仮面vsオッドアイ
ということが昨日ミトが帰ってからあったのだが、結局ミトには報告ができていない。
なんでかっていうともちろんそれはクラスが同じでも部室以外ではリア充ミトと話すことなんて許されていないからだ。たとえ許可されていたとしても僕からは話しかける勇気などこれっぽっちもないけどね。
放課後、図書室に借りていた本を返却してから僕は部室に向かった。部室の扉を開けると二人の女の子がなにやら言い争っている。
一人はもちろんミト(SM仮面装着状態)で、もう一人はオッドアイ少女晩代だ。
僕に気づくなりミトが激怒して、
「ちょっと聞いてないんだけど! なによこのコは!」
なんでこんなに怒ってるんだ!?
「いや、昨日ミ、ミトが帰ったあ―――――」
「わが右腕よ、何者なのだ。暗黒世界の汚らわしいマスクを着けているこのおなごは……」
ミトに説明しようとして晩代に遮られた。晩代は例によって黒目は閉じて碧眼のほうだけ開いている。
「この人は二年の朝凪認世さんでこの部の――――――」
「さっきから片目をつむって訳のわからないことばっかり言ってるんだけど!」
「われを罵倒して戦いの幕をあけたのは貴様であろうが」
この二人、僕の話を最後まで聞く前に自分の言いたいことばかり訴えてくる。絶対小学生のときの『人のはなしを聞く』の成績は最低だったに違いない。予想するにどうやらミトがいつものように歯に衣着せぬ言い方をして晩代が中二病モードで言い返していたようだ。
「順を追って話すから二人とも落ち着いて聞いてよ! 晩代さんはとりあえず目を開けてください」
ミトはふて腐れた様子になり、晩代はこちらを見据えた。僕は昨日の一連の流れをミトに説明し、晩代にはミトを紹介した。
ミトは僕をちょいちょいと手招きして、小声で耳打ち。
「あんたあんな変わったコ入れたいわけ? あたしは反対よ。あんたみたいのがいてさらにあんなコ……それに目指してるのは漫画家でしょ、畑違いよ」
ミトは険しく眉間シワを寄せた。
相変わらず、どストレートにものを言うな。何気に僕もディスられてるし。まあでも変わったコというのは的は外れてないけど……。
「でも、根は真面目そうだし、漫画家志望だけどラノベも好きみたいだよ。なによりカメショーファンだし」
カメショーファンには悪い奴はいない……はず。
ミトはジト目で「ふ~ん、あんたは入れたいわけね」
「この部のコンセプトには一応合っていると思うけど」
ミトは鋭く僕を睨みつけたあと、鼻で溜息をついた。
「わかったわ」
ミトは晩代に歩み寄り、
「晩代さんって言ったかしら……さっきのあたしへの無礼を謝ったら入部を許可してあるわ」
そこ根に持っていたのね……。
またまた晩代は右目を閉じて碧眼だけにする。これはまずい展開が来そうな予感。
「わが右腕よ、この者の許可なぞ得る必要があるのか? この部の長は汝であろう。汝のいうことなら聞いてあげぬこともないが」
ミトが僕に怒りを帯びた視線を投げつける。
「だ、だったら一応謝ってあげて!」
「一応ってなによ!」
「まあまあ、ミトにも非がまったくなかったわけじゃないないだろ。結構きついこと言ったんじゃない?」
「白夜のくせに生意気ね!」
そう言ったあと、ミトは図星だったのかムスッとして黙り込んだ。
「朝凪先輩、マスクのこと弄ってすいませんでした」
しおらしく晩代が謝った。
「なによ、両目を開けてたらやけに素直じゃない……あたしも言い過ぎたわ」
おっ、なんだこの展開。簡単に和解成立か!?
「これで晩代さんも晴れて『仮面小説部』の部員だね」
「カメショーファンみたいだから仕方ないけど認めてあげるわ」
「われは貴様ではなく、わが右腕の願望をきいてやっただけのこと。貴様に認められるなぞ片腹痛いわ」
あちゃーいつのまにか右目閉じちゃってるよ。
「ぐぬぬ! 白夜! あんたこのコの教育ちゃんとしときなさいよ! 今日もバイトだから帰る!」と凄い剣幕でミトは勢いよく扉を閉め出ていった。
ミトもそうだが、このコの碧眼モードになると直球で言いたいことを言ってしまうのはどうにかしないといけないな。これでは衝突ばかり起きてしまう。これから先が思いやられるよ。
「やっとうるさい小虫が消えてくれたわ。わが右腕よ、ゆるりとこれからの計画を練ろうぞ」
晩代は邪悪な笑みを浮かべた。
「晩代さん、ミトも先輩だからもうちょっと敬うようにしてほしいかな。彼女が創設者だし」
「わが右腕の頼みならば仕方がない。そのように計らうよう努めてやろうぞ」
「ならまずはその右目を開けようか」
晩代は目を開いた。
「……すいません、私右目を閉じると怖いものなしになってしまって……それで漫研の人達ともうまくいかなくなって……」
「じゃあ、よっぽどのこと以外は右目を閉じないようにしていけばいいんじゃないかな」
「わかっているのですけど……でも頑張って努力します」
晩代は口元に柔らかな笑みを浮かべた。その笑みは碧眼モードとは違い、やはりどこか気品がある笑みだった。両瞳が開いていれば素直ないいコなんだけどなあ。
「ところで部長、私、自分の作品を持ってきたので目を通しておいてもらえますか?」
あっ、忘れてた。そういえば、僕に作画してほしいと頼んできてるんだった。せっかく入った新入部員、しかも一年生。僕にとっては初めての部活での初めての後輩。この先、新しい部員が確保できる保証なんてないし、ミトと二人ってのもいつまで経っても辞められないしな。今後のためにも無下に断るのも考えものだ。とりあえず、作品を読むくらいはしておくか。
「うん、わかったよ」
「ありがとうございます!」
そう言って、晩代は自分の作品を置いて帰った。
帰って早くカメショーの続きを書かないといけないのになと思いつつ、僕は晩代の作品を持ち帰った。