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オッドアイの少女

 そっちに目をやるとまたコンコンと音が聞こえた。誰かがノックしている。

 まさかチラシ効果の新入部員なのか。ミトはいないのにどう対応すれば……タイミング悪いよ~。


 コンコン。仕方がない、居留守するわけにもいかないから僕は扉を開いた。


 そこにはロングの黒髪の女の子が立っていた。


 

 ミトはいつものようにリア充の中に溶け込んでいる。もちろん、僕は平常通りぼっち街道まっしぐら。

 休み時間、そんないつものクラスの風景を目にしながら頭にはぼんやりと昨日ミトが帰ったあとの部室の情景が浮かんでいた。


「ここはどんな活動をしている部なのですか?」


 艶のある綺麗な黒髪がお尻まである女の子で、雪を連想させる白い肌が印象的だったが、さらに目を惹いたのは彼女のオッドアイだった。左目だけが碧眼なのだ。おそらくカラーコンタクトだと思うんだけれど……。

 瞳の色を無効にすれば純和風美人という言葉がピッタリだ。


「えっと、ラノベってわかるかな?」

「……はい」

「簡単に言うとラノベについて語りあったり、実際に書いてみたりするのが主な活動内容かな。文芸部のラノベ版って感じなんだけど」

「よかった」


 そう言って、碧眼娘は微笑んだ。


「あの……これ……」


 差し出されたのは入部届。ミトがいないけど、勝手に入部させていいものだろうか。


「明日、もう一回来てもらってもいいかな?」


 やっぱり勝手に決めたらなにを言われるか、たまったもんじゃないから保留にしてみる。碧眼娘は目をキョトンとさせている。


「あなたが部長さんではないのですか?」


 痛いとこついてくるなあ。表面的には部長なんですが、実質的には僕ではないんだよ。


「僕が一応、部長ではあるんだけど……」

「でしたら……私ではなにか不服ですか? なにか入部条件があるのですか?」

「いや、君が不服とかじゃ……」

「…………………………………」


 彼女は黙って、心を見透かすような冷たい視線を僕に送り続ける。僕はプレッシャーに耐えられなくなって「受け取っておくよ」と答えてしまった。


「はい、お願いします」

 碧眼娘は冷ややかな表情から一変、おしとやかな優しい笑みを浮かべた。どこか気品のある笑みだ。

 受け取った入部届の情報から一年生で、

 名前は晩代静空ばんだい しずくとある。

 一年生と話したのは初めてだな。一年生以外もこの学校でまともに話せるのはミトだけだが。


「これ、ユナイですよね?」


 唐突に晩代は僕らが配ったチラシを出してユナイを指差した。


「ああ、そうだけど。君、カメショー好きなの?」


 晩代の目が輝きを帯びて、


「はい、私のバイブルです。ところでこれはコピーではないですよね? 部長さんが描かれたのですか?」

「確かに描いたのは僕だけど、有名なシーンを模写しただけだからコピーみたいなもんだよ」


 晩代の目はさらに輝きを増した後、右目をつむった。つむった右目は普通の黒目である。口元には不気味な笑みが浮かんでいる。


「ふっふっふ、やっと巡り会えたわ。わが右腕になれる存在に」


 !?!?!? なに今の!?!? 急にキャラ変わらなかったか!?


「部長さん、私、ラノベより本当は漫画家になりたいのですけど絶望的に絵が下手なのです。だから作画をできる人を探していたのです。あのユナイを見てビビッときました。そう……」


 また晩代は黒目を閉じた。


「われがネビュラサンダーをくらった時の衝撃のように」


 なんだこのコ!? 碧眼だけになると人格変わるのか!? それともこれが生中二病というものなんだろうか。中二病キャラは書いたことあるけれど、実際、目にするのは初めてだ。『ネビュラサンダー』どっかで聞いたことがある魔法の名前だな。

 それよりどうするべきか、ツッコむべきなのか、スルーすべきか…………やはり先に、


「絵を僕に描いてほしいってこと?」


 とりあえず疑問に思ったことを口にした。話の腰を折りたくないので中二病にツッコむのはやめた。


「はい。私の作品に描いてほしいのです」


 さらに碧眼だけになり、 


「われと栄光の道を歩もうぞ!」


 そんな前向き発言されても困るんですが……。


「漫画が描けるほどの実力はないよ。それに漫画家志望なら漫研とかに入るほうがいいんじゃないかな」

「あそこはレベルの低い者しかおらぬ。われの多大なる力についてこれるものは誰一人としていなんだわ」


 気に入った作画をできる人がいなかったのね。それでも僕より上手い人はいたと思うんだけどなあ。


「汝のユナイには熱き魂を感じる。灼熱の如き情熱がユナイからほとばしっていたのだ。キャラクターにあれほどの情熱を注ぎ込める人材はそうはいない。ただ、絵が上手いだけではいかないのだ。汝ならわれの良き右腕となれるであろう」


 自分の生み出したキャラクターだからいつだって強い思い入れはあるけれど。


 晩代はゆっくりと右目を開けた。


「ぜひお願いします」

「いや、そう言われても…………」


 晩代は表情を曇らせて、


「そうですか……では、また私の作品を持ってくるので一度目を通してみてください」


「…………」


 僕は困った表情をした。


「今日のところはこれで失礼します」


 晩代は踵を返して部室を出ていった。


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