オフ会潜入
「あたしはやっぱりユナイのマジックフレアからのマジックボムのコンボが好きなのよね。それから~」
僕、暗間白夜はあるライトノベル小説のオフ会に来ている。それで、コンボが好きと言っている、栗色髪で万人受けする綺麗な顔立ちのこの女の子は朝凪認世。
今日ここに彼女がいることにかなり驚いている。なぜかというと彼女は僕の通う学校のクラス随一の美少女で僕と違い、チャラチャラした感じ(俗世ではイケてるともいう)のまさにリア充なクラスメートとつるんでいるからこういうのとは無縁の生き物だと思っていたからだ。もちろん彼女自身も超絶リア充だし。
クラスでは彼女がラノベ好きなんていう情報は聞いたことがない。といってもクラスに友達が皆無に等しい僕にそんなネットワークなどないのだが…………。
クラスの中心、マントル級の熱を帯びている彼女とクラスの端っこ南極級の寒さで存在さえ微妙な僕がこんなところで接点ができるなんてある意味なんの因果なんだろう。
「ヤシロくんはどのキャラのアルティメットスキルが好きなの?」
オフ会主催者のミケさんが僕に訊いてきた。初参加であまり喋らない僕に気を遣ってのことだろう。
僕以外の8人全員の視線が僕に集まる。ちなみにヤシロというのはオフ会でのハンドルネームだ。
「…………僕はイタコの霊幻五月雨突き……ですね」
ミケさんが苦笑いしながら、
「へぇー結構、渋いとこついてくるね」
なんで苦笑いなんだ? この人はイタコが嫌いなのかな。
「あんた、イタコが好きなの? まだまだね。もっとカメショーをふかくふか~く読み込んだほうがいいわ。これだからにわかは困るのよねぇ~」
朝凪認世が見下すように言う。他の面々も呼応するように頷いた。逃げ出したくなってきた。誰でも気軽な参加というオフ会の謳い文句はどこにいったのやら……。
「まあまあワールドちゃん、彼は今日が初参加なんだからあんまりきついこと言わないであげてよ」
ミケさんが苦笑いしながらフォローする。
「は~い」と空返事したあと、「でも、あたし、にわかがあんまり好きじゃないからなあ」
オフ会でのハンドルネーム、ワールドこと朝凪認世が口を尖らせて呟く。ぼそっと言ったつもりでも聞こえてるんですけど! それに僕はにわかじゃないし! それに実はファンというものでもない。
このライトノベル、実のところは僕が著作したライトノベルなのだ。タイトルは『仮面少女の正体は妹』という自分で言うとちょっと恥ずかしいタイトル。
通称『カメショー』。
この作品、現在高2の僕が中3の受験で忙しいときに書き上げたものなのだが、その時、とある新人賞に応募したところなんと大賞を取ってしまった。そこから怖いくらいトントン拍子に事が進んでこの業界では、トップ争いをするほどに売れたのだ。まあ、イラストを描いてくれたスピカ先生の影響も多大にあるけど。既刊はすでに五巻まであり、もうすぐアニメ化の話もきている。
どうしてオフ会に参加してみたかというと、僕の作品を好きな人たちがどんな討論を生でしているのか気になったわけだ。
それとネットの誹謗中傷を目の当たりにして心の傷を癒そうと思ったのもひとつだ。こっちの方が本音といっても過言ではないかな。有名な作品になればなるほど、アンチも増えるのはわかってはいるけど、基本的に僕は打たれ弱いのだ。
だからオフ会まで開いてくれるファンの方々は褒めてくれるだろうと安易な考えでやってきたのに。ここでもカメショーの少しばかりだがダメ出しをされた。
あ~あ、これなら来なきゃよかったよ。
もちろん、オフ会では自分が著者ということは名乗っていない。なぜなら、僕は有名な人間になりたくないし、平穏に暮らしたいので出版社に頼んで僕の細かなプロフィールの公表は控えてもらっていることを付け加えておく。それがファンの間ではどんな人が書いているかミステリアスになっており、すごく気になるらしい。あるサイトではこんな人だろうっていう予想していたぐらいだ。
話は戻るが、イタコのなにがいけないんだ!
僕的にはかなり思い入れがあるキャラクターなのに。こうなったら、イタコの地位を格上げしてやる。ちなみにイタコの立ち位置は主人公チカゲの最初のライバルである。
まあ確かに最近は次から次へと新キャラを登場させているので出番は少ないけど……。
見ておけよ、オフ会メンバー! 特に朝凪認世! 作者に向かってにわかと言ったことを後悔させてやる!!