タイムスリップ刑事vs神隠し屋~束縛生活を送るあなたに高額報酬と引き換えに最高のスローライフを事件~
なろうラジオ大賞用小説第十弾。
謎の男『神隠し屋』を追い、警視庁超常事件課に所属する俺、時駆け刑事は文字通り時を駆け捜査を展開していた。
ちなみに超常事件課とは、超能力者や魔術師が引き起こす犯罪を担当する課で、神隠し屋とは、俺と同じ時間転移能力を持つ犯罪者だ。
罪状は誘拐罪。いろんな時代の女子供をさらい、なぜか未来へ連れ帰るという、謎の行動を繰り返しているらしい。
いったいなぜそんな事をするのか。
俺は相棒の接触感応刑事――文字通り接触感応能力者な相棒と協力し奴がかつて存在した時間と場所をなんとか特定。時間転移し、ついに奴と対峙した。
「動くな。お前が神隠し屋である事は分かっている」
誘拐する前の女子供と対面している奴に俺は言った。
記録によれば、彼女達は奴の最後の被害者だ。即ち奴にこの後連れ去られるのは確定だが、俺達も奴に続く形で転移し逮捕すれば時空矛盾は起こらない。
だから俺達は、いつ奴が時間転移しても、同時に俺達も奴に続き転移できるようすぐに奴の服を掴んだ。
すると奴は、不敵な笑みを浮かべて俺達に訊いた。
「本当に私を捕まえていいのかな?」
「なんだと?」
奴のせいで、特定の時代の子供の数が一時的に激減した。
かつて社会問題になった、少子化の原因の一つが奴なのだ。
ここで奴を逮捕しなかったら、さらに悪化する可能性がある。
「未来の子供の数には貢献したじゃないか」
「ふざけるな。原因不明の少子化でどれだけの人達が不安になった事か」
ちなみにそのせいで、当時は少子化解決のための変な政策が出たりしたそうだ。
「フ、私が干渉せずとも政治は狂ったさ」
しかし奴は何食わぬ顔で、ハゲた頭を右手でなでつつ言った。
「それに私は、彼女達を助けているんだ。昔は当たり前に行われていた、夫からのDVからね」
「なに?」
確かに記録では、男尊女卑の時代にはDVがあった。
そして奴は、そのDV被害者を助けているだと?
「相応の報酬と引き換えに、夫が死んだ後の未来にDV被害者を転移させる。警察が助けない彼女達の救済……それが私の仕事だ」
それを聞き、俺は愕然とした。
まさか、奴はDV被害者削減の為に誘拐事件を?
と次の瞬間。
奴が女子供と転移する。
俺と接触感応刑事は、動揺し、奴を放してしまっていた。
「……ふざけるな」
だけど俺は叫ぶ。
「確かにDV加害者は許せんが、それでも心配する人もいるんだぞ!」
そして俺達は再び奴を追った。
超能力や魔術絡みの事件の被害者を、一人でも減らす為に。