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◆第8話◆カインの思惑

 僕の名はカイン・リンクス・アルベルト。シェリーとは家が隣同士で産まれた時からの幼馴染である。


 唐突ではあるが、僕は幼馴染のシェリーの事が好きである。別にそれを隠してはいないし、周りの反応を見る限りはシェリー以外には僕がシェリーを好きだという事は多分わかるのだろう。


 シェリーは年の割に達観していて大人びた少女であった。僕がシェリーに近付くと、シェリーは僕と距離を取りたがり、むしろ離れてさえ行こうとする節があった。


 もちろん僕にはその理由が思い当たらず、シェリーの口からもその事が語られる事は無かったけど、シェリーが僕から離れたがれば離れたがるほど僕はシェリーに対する恋心を募らせていった。


 ある日、シェリーがコソコソと村の外れに向かっていくのを目撃した僕は密かに彼女の後をつけてみた。


 村の外れには枯れた土地しか無く村人も殆ど足を運ぶ事は無い。そんな場所に何の用があるのかと疑問半分、興味半分だった。


 そこで見た光景を僕は今も忘れる事が出来ない。僕は少し離れた場所に生えている木の影に隠れて彼女の様子を観察していた。

 

 彼女は枯れた畑の中心部にしゃがみ込んで地面に向かって手をかざした。すると、枯れ果てた畑の地面からみずみずしく青々とした植物が生えてきたではないか。


 その植物はみるみる内に育ち、とても美味しそうな真っ赤なトマトを実らせた。


 シェリーはその実を満足そうに眺め、1つ残らず収穫して両手いっぱいにトマトを持って元来た道を戻っていった。


「・・・驚いたなぁ。シェリーは魔法が使える様になったのかぁ。でも、こんな証拠を残したままじゃ利用されちゃうよ」


 僕はシェリーの魔法の痕跡を・・・残された植物を跡形もなく燃やした。


 その日の晩、我が家にシェリーが魔法で実らせたトマトを使った料理が出た。シェリーは自分が魔法で出したとは言わず、村の外れに自然に実っていたものだと説明したらしい。


 実に浅はかである。そんな説明した所で誰も信用しないだろう。村の人は皆、もう何年も草の根さえ根付かないほど枯れ果てた土地にそんな奇跡が起こるはずが無いのを知っているから。何よりもその証拠は僕が全て燃やしたから、シェリーが畑を見せても無駄だしね。


 さて、このままではシェリーが枯れた土地でも植物を実らせる事が出来るという事が村に知れ渡るのも時間の問題だろう。この村の人々は村の外れの枯れた土地のせいで、いつ今機能している畑も枯れてしまうかと不安を抱えている。そんな時にシェリーの魔法が知られれば、魔力が尽きるまで繰り返し枯れた土地に植物を実らせ続ける事を強制され、村の為にその身が犠牲になってしまうかもしれない。


 ・・・そんな事許さない。シェリーが僕以外に利用されるなどあってたまるもんか。

 

 シェリーは僕のものなのに。


 僕はシェリーが眠っている部屋に忍び込み、そっとシェリーの額に手を乗せた。

 

 僕はその時にシェリーの魔法の一部を封印したのだ。


 翌日、シェリーはトマトを魔法で出した事も持ってきた事も覚えておらず、それ以降二度と村の外れに足を運ぶ事は無かった。

 僕の目論見通り、シェリーは花を出す魔法しか使えなくなっていた。


 また、別の日に僕はシェリーが母親に「アカデミーに入学したい」と言っているのを偶然目撃した。

 体中の血がフツフツと沸騰する様な気がした。シェリー、そんなに僕から離れたいの?どうしてそんなにも僕の事を嫌うの?


 僕はこんなにも君を愛しているというのに。


 アカデミーの入学試験の日、僕はシェリーに見つからない様に試験を受けた。

 僕は事前にアカデミーの事を下調べしており、試験時の魔力量の上位10名はトップクラスとして3年間クラス替え無しで特別待遇を受けられるという事を知っていた。

 このままだとシェリーと僕はクラスが離れ離れになってしまうので、離れた場所からシェリーに向かって魔力量増加の魔法をかけた。


 入学式の日のクラス替えの紙を見て、上手く行ったのだと心が踊った。

 

 これでシェリーと3年間はずっと一緒に居られる。


 ただ、そのクラスには厄介な問題があった。


 ライズという男がシェリーの周りをウロチョロし始めたのだ。僕が何かをシェリーに言いかけたり行動を起こそうとすると決まってこいつが僕とシェリーの間に割り込んで来るのだ。


 当のシェリーは僕の事は拒絶しようとするくせに、ライズの事は“アクセル”などとセカンドネームで仲良く呼び合ったりしている。


 ・・・そんなに僕にヤキモチを妬かせたいのかな?

 

 僕はライズの事も気に入らなかったが、ライズを拒まないシェリーにもまたイライラしてしまった。

 今日も、僕が掴んだ手を振り払おうとするからつい、カッとなってしまいシェリーの腕を握る力の加減が出来ずに彼女の腕の肉を爪で抉ってしまった。


 まぁ、彼女に少しくらい傷がついたとしても、すぐに僕が治してあげるから問題は無いと思う。


 そんな事よりもシェリーには、その時感じた痛みは僕の心の痛みなのだと気付いてほしいと願った。


 それからのシェリーはとても従順だった。やっぱり、躾は大事な事なんだね。もっともっと君は誰のものなのかって事を教えてあげなくちゃ。

 


 アカデミー在学中の3年間はシェリーが自由に振る舞っていても大目に見てあげようかなと思っていたけど、何かあればすぐにでも閉じ込めておける様に準備をしておかなくちゃね。



 例え君が僕から離れたがっても、僕は君を逃さないよ。


 シェリー・・・。

 

ここまでお読みくださいまして、ありがとうございましたm(_ _)m


※次回の更新は6月21日(金)を予定しております。お待たせして申し訳ございませんが、執筆活動の記事を参照して頂けると幸いです。

 ご迷惑をお掛けしますが、何卒ご理解頂けます様宜しくお願い致します。

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