◆第1話◆100番目の私が得たもの
始めましての方も、過去作から読んでくださっている方もどうぞ宜しくお願いします。
たった一人の殿方のハートを射止めるために生まれ変わる事99回。100回目の人生で私は魔女になった。
ただ一人を思い続け、執念で時空を歪めて何度も何度も同じ器に生まれ変わる度に魂だけは人間離れしていった。それ何てまど○ギ?とお思いだろうが、現に私はこうして前世の記憶を携えたまま、少しの魔力を持ってこの世に生を受けたのだ。
しかしながら、やり直し人生も100度目ともなるともうこれいい加減に諦めたほうがいいんじゃね?脈無さすぎだし、運命変えられなくね?といい加減思うよね。
そもそも、そこまでして手に入れたい程の男なのかと疑問が浮かぶ。
前回までの私が99回も恋愛を成就する事に失敗したのは恐らく、前回の記憶を引き継いでいなかった為だ。前回の失敗を教訓に出来ずくだらない過ちを繰り返してしまったのだ。
今回私は99回分の記憶を持って産まれてきた。思い出す限りでは本当に私は・・・私という奴は何度生まれ変わってもなんて残念ガールなんだろう。
ある時は恥ずかしすぎて声をかけられずに終わる。ある時はライバルに騙されて出し抜かれて終わる。またある時はしつこくし過ぎて嫌われる。
・・・うん、もうセンス無さすぎ。幸薄すぎ。
それなのに過去の99人の私は何の疑問も持たず、決して諦める事もせず、ただひたすらに同じ男性を追いかけては散っていったのだ。
99人の私の記憶を思い出せるとはいえ、ただ1つだけどうしても思い出せない事がある。それは【そもそも私が相手を好きになった経緯】である。
1番目の私の記憶を辿っても、なぜか物心ついた時から相手を好きだったのだ。というよりも、まだその人と会ってもいない段階で既に将来その人と出会い、結ばれる事だけを夢見て育っていった。・・・なんで過去の私はその男に恋していたのだろう?
まぁ、思い出せない以上は今回の私は彼を好きになる事は無いし、ぶっちゃけ今回だってどうせ彼を落とせるとも思っていないし、なんなら落とす気すら無い。
報われない恋を追いかける位なら、その無理めな男に拘らず一切関わらずに他の殿方と素敵な恋をして人生を満喫しよう!100人も居るんだから一人位そんな私が居てもいいでしょ!そんでその男の攻略は次回の私に期待する事にしようと決心したのだ。
よって過去の99人の記憶を引き継いだ100人目の私の人生の目標は、前回の記憶を持ち合わせていなかった為に運命に縛られ命を散らした過去の私達には決して為しえなかったであろう【その男に関わらない人生を送る事】である。
そんなしがらみとは一切無縁の王国の外れの小さな村の平凡な村娘としてスローライフを満喫しようとした私だが、そう上手くはいかなかった。
「あ、こんな所に居たのかい?シェリー。探したよ」
「カイン・・・」
幼馴染のカインだ。私のストレスフリーな人生を送る為の目標を容易く打ち砕いた元凶は、この男の子である。何故ならば、この男の子こそが因縁の想い人なのだ。運命とは皮肉な物で、カインと会わずして人生を終えてやると決心した途端に【相手の方からやってきた】のであった。
過去の私におけるカインとは、ある時はお金持ちの息子であり、また、ある時は遠い国の王子様であり、私が努力をしなければ決して接触すらも出来ない存在であった。過去の私が追えば追う程に手の届かない所まで行ってしまう過去のカイン。
なのに今回のカインは、決して私と結ばれるわけでは無いのに何故、今までの【手の届かない存在】ではなく、隣の家に越してきた【同い年の幼馴染】というなんとも近しい存在なのだろうか。
「おばさんが呼んでたよ。手伝ってほしい事があるって」
「あぁそう。わざわざ呼びに来てくれてありがと」
「あっ、僕も手伝うよ。人手が必要かもしれないしね」
「結構よ。お構い無く」
端から見る分には、この今までとは違う【幼馴染】という間柄も【相手から私を構ってくる】という状況は私の悲願が最も叶いやすい状況だと思うだろう。
だが、よく考えてほしい。
いくら過去の私が幸薄かろうと過去の私がさらに過去の私の記憶を持っていなかろうと、あらゆる原因で失恋した運命に抗えずに散っていった99人の私の想いが今更こんな安易な事で叶うわけが無いのだ。
25番目位に唯一カインとデートまでする間柄になった私が居たが、それは後にカインが友人とした賭けに負けた罰ゲームであった事が判明している。
これまでの99人のカインが99回も私と関わったとしても私に対してこれっぽっちも好意を抱かなかったのだから今回のカインだって私に構ってくるとはいえ例外ではないだろう。
この近しい関係性は気にはなるが、ある意味今回の100番目のカインもまた運命のイタズラに巻き込まれた被害者といえよう。隣同士の同い年の幼馴染ともなれば、いくら私に興味が無かったとしても嫌でも関わらずにはいられないのだから。
とりあえずの打開策は、私はカインと目を合わせない事、こちらからは話しかけない事、そして話しかけられた場合は最低限の会話しかしない様にする事だ。
それに私には切り札がある。最初に述べた通り、私は魔女になったのだ。ちょっとした魔法なら使えるので13歳になれば王立魔法アカデミーに入学する事が出来るかもしれないのだ。
このまま普通の村人として暮らす事を夢見たが、私の近くにこの男が居るなら話は別だ。
なんせアカデミーは全寮制なので入学さえ出来ればこの男とは離れられるのだ。13歳まで後5年、お互いにそれまでの辛抱だわ。
「ふふふ。カ・ン・ペ・キ☆」
「何が?シェリー楽しそうだね」
「はっ!カインまだ居たの!?アベル達の面倒でも見てなさいよ」
そう冷たくカインに言い放つと私は早足で我が家を目指した。
「待って、待ってよ、シェリー」
「ぎゃぁ!なんで付いてくんのよ!」
「だってお家お隣だもん・・・」
「くっ。しょうがないわね。じゃぁ、私が後ろ歩くからアンタ先に帰りなさいよ」
「・・・・・・・・・うん」
ほっ。カインはまだこどもだから(私もだけど)私に構ってくるんだろうけど年頃になったら打って変わったように私に興味が無くなるってわかってるんだから!
【5年後】
桜の花も綻ぶ季節、我が家に一通の手紙が届いた。私宛だ!白い封筒の裏を見ると、【王立魔法アカデミー】と書かれてあった。
一月前に受けたアカデミーの入試の合否が記されている手紙である。
私は階段を1段飛ばしで上り、部屋に駆け込んだ。ドキドキしながら封を開けてギュッと目を瞑って薄目を開けて恐る恐る手紙の内容を見た。
目に入ったのは【合 格】の2文字だった。
「やっ・・・たぁぁ!」
魔法が使えたとしても、全ての人が受かる訳ではない。入学するには入試と魔力測定が行われるのだが、一定の基準に満たない場合は入学出来ないのである。
「お母さん!私、アカデミーに合格したわ!」
“これでカインから離れられる!!”
喜びに打ち震えつつ、階段を勢い良く駆け下りてリビングに居る母に報告しに行った。
「まぁぁぁ!おめでとう!これで二人揃ってアカデミーに通えるわね」
「・・・・・・は?二人?誰と誰が?」
「あなたと、カイン君」
母がテーブルの向かいに座ったカインと私をそれぞれ指を差して答えた。
「やぁ。合格おめでとうシェリー」
「えっ?何で居るの?つか、何で?アンタ魔法使えたっけ!?」
「あはは。シェリーを驚かせたくて黙ってたんだ。ふふっ、ビックリした?」
いや、ビックリしたどころの騒ぎじゃないわよ。これじゃアカデミー受けた意味が無いじゃないの!
「わ・・・私、やっぱりアカデミー行くのやめるわ」
「ダメよ!せっかく受かったのだから行きなさい。滅多に無いチャンスなんだから」
「そうだよ。僕、シェリーと一緒にアカデミーに行きたいから受けたんだよ?シェリー、一緒に頑張ろう?」
「まぁ。カイン君はいい子ねぇ〜。シェリーの事宜しくお願いね、カイン君」
「はい。モチロン」
つうか、魔法が使えるなら早く言ってよ。そしたらアカデミー受けなかったのに。逃げられない状態でのカミングアウトなんて卑怯だわ。家の母親まで味方につけるとか・・・。
私の思惑に反して、カインは私がどんなにそっけない態度を取ってもニコニコと気にせずに何かと私に構ってくるのであった。
カインから逃げたくて受けた全寮制の魔法アカデミーなのに、まさかカインが追いかけてくるとは思わなかった。
ニコニコと微笑んでいるこの男の本心を私はまだ知らない。
ここまでお読みくださいまして、ありがとうございます!
今日は私の○○回目の誕生日でして、どうにか本日中に新作を更新する事が出来ました。
月曜日・金曜日の週2回の更新で頑張って行きたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いします(`・ω・´ゞ