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決着します。

 開始早々に、仕掛けたのはフレイヤの方だった。


「はあぁぁぁぁ!!」


 昨日も繰り出した火球の連射。

 しかも。昨日より一つ一つの大きさが大きく、躱した私の後ろで派手な火柱が上がる。

 距離を取るのは得策ではない、そう判断した私は彼女との距離を一気に詰めた。


「くっ、相変わらずすばしっこい」

「はあっ!」


 1合、2合、3合と刃を交える。


「剣の間合いなら有利と思いまして? はっ!」


 さすがは学園屈指の使い手だ。剣術もかなりの腕前である。

 カキン、カキンと剣が甲高い衝突音を響かせる中、私は、彼女の剣が赤い光を帯びたのを見た。


 次の瞬間――


 ゴオォォォ!


 危険を感じ飛びのいた直後、炎が彼女を囲むように円形に立ち上る。見れば彼女の剣が炎を帯びている。

 一薙ぎで、炎の壁を作り出したというのだろうか。あの剣とまともに打ち合うのはまずい。


「いい勘してますわね、ほんと野生動物みたいですこと。よく避けましたね」

「凄い剣だな」

「ええ、我が一族に伝わる宝剣ですのよ。切ると同時に大出力の火炎魔法を叩き込む、防御してもダメージを受けますわ」

「受けなきゃいいわけだ」

「さて、そう言っていられますかしら。この宝剣ヴォルカヌスの力の前で!」


 そう言うと同時に、フレイヤは持っていた剣を地面へと突き立てた。すると彼女を囲んでいた炎の中から、巨大な蛇の頭がぬるりと伸びあがった。

 数にして3匹。炎で形づくられている蛇がこちらを睨む。


(ヒュドラ)に呑まれて消し炭になりなさい! 変質者!」


 一気に3匹のヒュドラが襲い掛かってきた。

 それぞれが空中をくねくねと延び、獲物に食らいつこうと三方向から迫る。防御は難しい。受ければ丸呑みにされて丸焼きだ。

 受けることはせずにぎりぎりで躱すも、普通の魔法と違い、躱しておしまいということはない。ヒュドラたちは私を追いかけてきた。


「逃げ切れるなんて思わないことね!」


 蛇から逃れようと走り続ける私に向かって、フレイヤが剣を振った。

 すると、剣から炎の塊が放出され、私めがけて飛んできた。


「くっ!」

「あなたを攻撃するのはヒュドラだけではなくってよ。それに、躱せば躱すほど後がつらくなりますわよ」

「な!? さっきの躱した炎から、別の蛇が!?」


 ヒュドラの数が増えていた。先ほど躱した剣から出た炎が地面に当たり、そこに発生した火柱をつくると、そこから新たなヒュドラを産んでいたのだ。


(まずいな、時間をかけるだけ不利だ。しかし、接近出来たとしても、あの剣と正面から打ち合うことに……)


 考えながら躱す間も、剣から放たれる炎とそれが生み出すヒュドラは増えてゆく。

 ただ、その中でフレイヤの剣に“変化”があったことに気づいた。


「しつこい! まだ避けますか! これでいい加減に燃え尽きなさいっ!!」


 彼女が一際大きな炎が放つ。その炎は私の目の前で地面に当たって火柱となり、一気に5匹のヒュドラを生み出した。

 ここに来て、勝負を決めに来たのだろう。

 しかし、この攻撃のおかげで、私の気になっていた点が“確信”に変わった。そして、私も勝負を決めにいくことにした。


 再びフレイヤに向かって疾駆する。

 前後左右と何匹ものヒュドラが襲い掛かってくるのを潜り抜ける。そして、真正面で彼女を守るように構える蛇たちに向かって、一閃――


 秘剣、〈烈風斬〉


 私の剣から放たれた闘気と風圧の塊が、正面の蛇たちを根元の炎ごと吹き飛ばした。



「くっ! ちょこざいな!」


 フレイヤがひるんだ一瞬で間合いを完全に詰め、一撃を繰り出す。

 しかし、フレイヤも私の動きを捉えていて、合わせるようにカウンターの一撃を振るう。


 ぶつかる刃。


 その瞬間、彼女の剣が文字通り火を噴いた。


 ――ゴオオウ!


 剣から放たれる炎。


(いまだっ!!)


 私は体を一回転させた。 

 受け流すようにして炎を寸前で躱すと、その回転の動きのまま彼女の胴に刃を叩き込んだ。


「はあっ!」


 ――バシュッ!!


「ぐっ、かはっ……そん、な……」


 一撃が綺麗に打ち込まれた。

 フレイヤは悶絶の声が漏らし、その場に意識を失って崩れ落ちた。


「そこまで!! 勝負あり!! 勝者、グレンザール」


 ケイルズ先生の勝ち名乗りが練習場に響く。

 決闘の勝敗は決まり、こうして私は自分の学園生活を守り抜くことができたのだった。



◇  ◇  ◇



 再び学園長室で、学園長を前に私とフレイヤは並んで立っていた。

 学園長は笑っているように見えるが、目元がぴくぴくとひきつっている。


「大変素晴らしい決闘でした。これでグレンザール君は、この学園に残れることになりました。ラグーンさんも、納得していただけましたね」

「……はい」

「よろしい……ちっ、もう少しだったのに」


 今、ぼそっと不穏なことを言った気がしたが、聞かなかったことにしよう。

 それよりも、さっきからぼうっとしてる隣の彼女を心配した。


「ラグーンさん、大丈夫?」

「ええ、それより……教えて欲しいのですけど、どうして最後の一撃の時、カウンターで放たれる炎を最小限の動きで躱せたのですの? あのカウンターは簡単に回避できるほどやわな攻撃ではないと思っておりましたが」

「そうですね。普通ならば回避は難しい。どうやってもダメージは受けていたはず。ただ、あの時ラグーンさんの剣が帯びていた炎が小さくなっていた。おそらく、蛇を出せば出すほど、剣が持っている炎は弱くなるのでしょう?」


 私の考察にフレイヤは驚いた様に「え、ええ」とぎこちなく頷いて答えた。それを聞いていた学園長が納得した様にうんうんと首を振る。


「なるほど、つまり、カウンターで放った一撃は、蛇を使いすぎて従来より弱く小さい炎になっていた。だから躱すことができたと…………クソが」


 学園長がまた最後にぼそっと言ったが、聞こえないふり、聞こえないふり。せっかく学園生活を勝ち取ったんだ。平常心、平常心……正直、一発殴りたいけど。

 心を落ち着けていると、フレイヤが私の方をじっと見ていることに気づく。

 睨む、でなく……なんだろ、ぼーっと眺める、いや、うっとりに近い感じだ。

 やっぱり打ちどころが悪かったかな。


「あの戦いの中で、ヴォルカヌスの特性をそこまで見抜いていらっしゃったとは……なんてお強い方……」

「あのぉ、ラグーンさん? やっぱり大丈夫ではない?」

「フレイヤと」

「え?」

「フレイヤとお呼びになってくださって結構ですのよ」




 ――おお、お前さん、もう女の子をたらしこんだのか。さっすが、色男。


『あぁ……やっぱりこれ、好感をもたれてる感じだよな』


 ――お約束だな。着替えを見る~の、決闘し~の、消し炭よって言われ~の、決闘に勝ち~のからのフォーリンラブ!!

 もはや様式美ともいえよう。


『どんな様式だよ。というか、ありえんだろ、剣で叩かれて好きになるとか』


 ――マゾだな。


『身も蓋もないな』


 ――まぁ、マゾじゃないにしても、この手の物語の女の子ってのは冬の藁ぐらい火が付きやすいのさ。きっかけはなんでもいい。

 それと、お前さんの方にも物語の主人公として守ってもらうことがある。


『なんだよ』


 ――鈍感に徹するべし!


『鈍感?』


 ――女の子たちは自分の気持ちをお前に気付かれていないと思ってアプローチをかけてくる。そりゃもう、頭脳は大人な少年探偵の腹話術ぐらいバレバレのな。


『最後の例えなんだよ……』


 ――しかし、お前さんは鈍感な男として、どんなアプローチをされようと、彼女たちの気持ちに気づいていないように接するんだ。いいな。


『あ、ああ。ところで、その言い方だと女の子ってもっと増えるってことか?』


 ――オフコース!


『鈍感に徹しないと、“合格”なエンディングを迎えられないのか?』


 ――イグザクトリー!!


『なんか、ムカつくな、それ。まぁいい、どこまでも物語の主人公を演じろってことだな……はぁ、演技は苦手なんだがな』




「えっと、じゃあフレイヤさん」

「フレイヤと」

「ああ……フレイヤ、どこか具合でも悪い? まだダメージが」

「いえ、大丈夫ですわ。それよりあの、あなたをメリットとお呼びしても?」

「え、ああ、かまわないよ」

「ではメリット、どうやら同じ学年のようですし、今後ともよろしくお願いいたしますね

 友人として……いずれは……いえいえ、なんでも、うふふふ」


 フレイヤと私は、笑顔で握手を交わした。

 シュミット学園長の「ちっ、爆ぜろ」というぼやきは、例のごとく無視する。

 いきなり決闘という突飛な出来事もあったが、そのおかげで剣を交えることが出来き、剣を通して彼女の人柄も分かった。そして良好な“交友”関係を築けたと思う。

 さて明日からは学園も始業だ、どんな“物語せいかつ”が待っているのやら。


戦って、自分をしばいた人をすぐに好きになりますかね、普通……マゾか? マゾなのか?

他の作品では、話の展開はもう少し細かに色々とあって、ここまで単純ではないかもしれないけど、チョロい女の子多いと思います。

まぁ、恋愛ものではないからキメ細かな恋に落ちる描写は要らないということなんですかね?


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