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現れます。

 辺りを真っ白に染めた眩い光はすぐに収まった。視界にちかちかと閃光の残滓が残っているが、目を瞬かせながらゆっくりと開ける。

 デルオスの願い事は叶ってしまったのだろうか。私は視線を祭壇の上のデルオスに向けて走らせた。


「ど、どういうことだ!? 何も、何も変わらんぞ!?」


 祭壇の上にはピピン老人の姿をしたデルオスが、鏡面になった台座のオブジェに自分の姿を映して動揺に声を上げていた。

 しかし、私には祭壇の上で騒ぐデルオスより、彼が見ている鏡のついた台座、その上にいつの間にか立っている人物に驚愕だった。

 デルオスは台座の鏡を覗きこんでいて、その台座の上にいる人物に気づいていない。


「デルオスよ。まだ何も変わってなどいないぞ」

「なっ!? なぜお前が!? いつの間に」


 声を掛けられ初めてそちらを認識し、デルオスが驚愕する。しかし、デルオスが驚くのも分かる。なぜなら台座の上に現れたのは、“本屋の店主”だったからだ。


「ホッホッホッ、なぜってお前が呼んだからじゃろ」

「何!? 本屋の店主など呼んだ覚えはないぞ」

「ああ、いかんいかん、ずっとこの格好だったからな」


 店主の体がぱっと光に包まれ、ほんの一瞬で、武人を思わせる鎧を着た勇ましく美しい女性に姿を変えた。


「我が名はガルズエル、女神に仕えし力を司る天使である」


 さっきまで老店主だったガルズエルと名乗る天使は、背中から生えた2対ある純白の羽をばさりと羽ばたかせた。

 全身がふんわりと光に覆われ、美しい羽を広げて佇む姿は、惚けてしまうほどに神々しい。天使という存在であることを否応なく納得させる。


「て、天使だと!? そうか、お前が僕の願いを叶えてくれるのだな?」

「願いか……我にはそのような力はない。女神より賜りし我の使命は、大いなる力を授けること」

「では、その大いなる力とやらでもいい! さっさと僕によこせ!」


 ガルズエルは短く「そうか……」と答えると、すっと指を縦に小さく振った。すると、彼女とデルオスの姿がヒュッと消えて、次の瞬間には祭壇の下に移動していた。

 2人は距離をとって向き合う


「汝が力を授けるにたる者か試させてもらう」

「試すだと? ふざけるな!」

「大いなる力には、それを御することの出来るだけの力が必要だ。汝のもちうる最高の力をこのガルズエルに示すがよい」

「戦えってことか、分かったよ……喰らえっ!!」


 デルオスが両手から青黒く燃える特大の火炎魔法を放つ。全てを燃やし尽くす地獄の炎は、強大な髑髏に形を変え、ガルズエルを呑み込んで盛大に燃え上がった。


「はぁ、はぁ……どうだ。今の体でもこれぐらい出来るんだ、ははは」


 燃え盛る獄炎に勝ち誇った笑いを上げるデルオスだったが、次の瞬間にはその笑いが鳴りを潜めた。


「な、なに!?」


 驚きにデルオスは目を見開いた。

 ガルズエルの「かっ!」という一喝で、彼女を覆っていた炎が消えてしまったのである。

 その直後、「行くぞ」と呟いたガルズエルは、一瞬にしてデルオスの目の前まで距離を詰めた。


「あ……」


 それがデルオスの最期の声だった。

 雷の如き速さでガルズエルが剣を抜き振り払うと、剣の軌道に光の波が生じてデルオスを呑み込み、後には、デルオスの影も形も残っていなかった。



「こんなものか……」


 虚空を見つめ言葉をこぼすガルズエルの目は、虚しさに満ちているようだった。


「さて――」


 ガルズエルが闘気を漲らせたままゆっくりとこちらに歩いてくる。

 私は、デルオスが消えて直立のまま動かなくなったガウェインをその場に置いて、やって来るガルズエルの前に立った。


「汝は“力”を欲するか?」


 彼女の凍てついた目が私に向く。


「いえ、私は“力”が欲しいわけではありません」

「……そうか」


 私がそう答えると、ガルズエルからふっと闘気が消えた。一瞬だけ、寂しさを湛えた目をしてから、柔らかく微笑んだ。


「さて、メリット君、黒幕は消えた」


 突然、ガルズエルが砕けた口調に変わる。突然の変調に、私は驚いて「えっ」と言葉を詰まらせてしまった。


「平和は保たれたし、もう学園に帰って大丈夫だ。なんなら転移で学校に送ろう」

「えっと、貴女は本屋の主人で、でも天使で……ちょっと頭が整理しきれないのですが」

「ははは、少し混乱しているみたいだな。他の皆も同じか。では、ここまで辿り着いた褒美に君たちには教えてあげよう。君たちには知る資格ぐらいはあるだろうから」


 全員、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしていたのだろう、ガルズエルは私たちの顔が面白かったのか、笑みを湛えたままゆっくりと語り始めた。


「さっきも言った通り、我は天使だ。これが本来の姿。本屋の店主は仮の姿だと思ってくれ。

 500年近く前、女神が魔族と戦う勇者クラインを助けるべく我を遣わした。女神の加護を受けた特別な“力”を届けるためにな。

 しかし、勇者とて、天界のものを簡単に渡すわけにはいかないのだ。その者が“力”を持つに足るか証明する必要がある。それが天界の習わしだからな。

 それと女神からの“力”は簡単に持ち運び出来ぬ。故に私はこの神殿を築き、“力”を安置して守り、勇者を待ったのだ」

「彼は来たのですか?」


 勇者クラインは“大いなる力”のことも何も言っていなかった。彼は気づいていなかったのではなかろうか。それとも神殿に行けない理由があったのか。


「あいつは来なかったよ」

「女神から啓示とかなかったんですか?」

「あったさ……」


 そこまで言って、ガルズエルのにこやかだった表情がどんどん険しくなっていった。闘気、いや、怒気がどんどん膨れ上がってくのが分かる。

 なんかまずいことを聞いてしまったかもしれない。


「勇者のやつ、よりにもよって無視しやがったんだ!」

「ええっ!?」

「女神から啓示を受けて、あいつなんて言ったと思う? 『面倒くさいからいい』だぞ!? あり得ないだろ! 勇者がそれってダメだろ!? ちゃんと、こ! い! よ!」


 思い出した怒りにガルズエルは口調まで変わっている。相当に鬱憤が溜まっていたんだろう……。


「女神も女神だ! 魔王と勇者が和睦してここも必要なくなったから天界に帰りたいのに、なんにも言ってこねえ! 絶対に忘れてるだろ、あの年増! おかげで試練クリアするやつ出るまでずっと縛られてるよ!

 もう街を作ったよ! 学校立てて、商人誘致して、人を集めたよ!

 神殿に転がってるレアアイテムとか、さも『私が発見しました』って自作自演で新聞に載って、神殿に興味もつやつ捜したよ!

 でも、全然、い! な! い! よ!」 


 地団駄を踏んで怒り狂う。

 美しかった彼女の顔は、今は修羅の形相だ。私は触れてはならないものに触れてしまったかもしれない……。


「はぁ、はぁ…………ごほん、すまない少し取り乱した。まぁ、そんなわけで、私はずっと神殿に入り、試練を突破できる者を待っていたわけだ。久々に、デルオスという挑戦者が現れたのだが……まぁ、彼もダメだった」


 なるほど、先ほどから一瞬見せた空虚さに満ちた目はこういう理由だったのか。


「まぁでも、自分の作ったこの街も暮らす人たちも愛着があるし、このままでもいいのかもしれないと思えてきたよ。さてこれで大体は分かっただろ? さあ、そろそろ学園に帰ろうか」

「あの……」

「どうした、メリット君」

「私に、“力”を得るための試練を受けさせてくれませんか?」


 ガルズエルがぴくりと体を震わせた。


「……どうして急に? 君は“力”が欲しいわけではないのだろ?」

「はい。でも、貴女は天界に帰れないままで困っているのを見過ごせない」

「困っているか……確かにさっきあれだけ取り乱した姿を見られているからな、違うとは言えない。でも、仮初の姿で自分の作った街を見守って暮らすのも悪くないと感じてもいるんだ。だから、気を使ってくれなくていい」

「でも、貴女は私に“期待していた”のでしょ? 自分を解放してくれるんじゃないかって。だから神殿や秘宝のことも教えてくれたし、地図も貸してくれた。それに、私がさっき“力”はいらないと言ったら、寂しそうな目をしていましたし」


 私の指摘は図星だったのか、ガルズエルははっとしてから、ハハハと快活に笑った。


「お見通しか。そうだな、期待していたよ。でも、よく考えて欲しい。試練が始まれば、我は手加減出来ない。君を殺してしまうかもしれないんだ。しかし、君の様な好人物を殺したくはない」

「そんなのやってみなければ分かりません」


 そこで突然、ラードとフレイヤが話に割り込んできた。


「ちょ、ちょっと待ってブヒ。メリット、無理に戦うことなんてないブヒ! いくらメリットが強くても、相手が悪すぎるブヒ!」

「そうですわ! 天使様も戦わなくていいと仰っているのに、わざわざ危険を冒すなんて」




 ――俺っちもラードやフレイヤちゃんの言う通りだと思うけどな。デルオスって悪いやつは滅んだんだし、それで終わりでいいじゃねぇか。この天使ってやつもこのままでも『悪くない』って言ってんだ、そんなやつを助けるためにお前さんが大変な目に合う必要ねぇよ。


『ジン、彼女が言ったのは『悪くない』であって『良い』というわけじゃない……それに私は困っている人を捨て置けない、性分なんだよ』


 ――へっ、お前さんってやつは




「ちょっと、ベッキーちゃんもメリットを止めてくださいまし」


 レベッカは、ちょうど今マクバーン先生の傷を回復魔法で塞ぎ終わったところだった。助力を求めるフレイヤやラードの視線を受ける中、静かに立ち上がると言った。


「困っている人がいたら見過ごせない、それでこそ“メリット”なんじゃないかな」

「ありがとう、シュミット先生、いや、レベッカ」


 ラードもフレイヤも、レベッカの言葉に納得したのか、それ以上は何も言わなかった。


「そうか……我も試練を望む者をこれ以上拒むことは出来ない。本当に良いのだな?」

「ええ、お願いします。それと、試練の前に彼らを学園に送ってください」

「え? メリット? どうしてブヒ!?」


 ここにいてはラードたちも試練に参加しようとするだろう。巻き込むわけにはいかない。ガルズエルもその意図を汲んでくれて、私の視線に黙って頷き返すと転移させるために指を振った。


「みんな、先に学園で待っててくれ」

「メリット――」


 皆の姿が目の前からぱっと消えた。


「ふぅ、やっと喋れるな」


 私以外みんな転移したと思っていたから、突然死角になっていた真横から声がしてびくりとした。


「が、ガウェイン?」


 声がした方にいたのはガウェインだった。なぜ彼だけ残ったかも疑問だが、まず、普通に喋ったことが1番疑問で驚きだ。『ウオォォ!』とか狂戦士みたいに叫んでいたイメージしかない。

 私が訝しむ様に見つめていると、ガウェインは兜を脱いだ。


「ガウェインというより、今は“オルニス”かな」


 兜の下からは見目麗しい青年が顔を出した。


「オルニス!? 洗脳されていたんじゃ」

「デルオスが死んだからね。どういうわけだか洗脳が解けたみたいだ」

「でも君は過去の存在で、洗脳された状態で召喚されただろ? そんなことって」

「さあ、細かいことは分からないよ。さっきデルオスが、僕の支配権をマクバーンからデルオス自身に繋ぎ直したからかも。だから、今はフリーの状態なのかな?」


 直接オルニスと喋ったことはなかったが、王子の割に意外と口調が軽い。

 彼が言うには、デルオスが死んで少ししてから自我が戻ったらしい。狂戦士みたいになっていても事態はずっと見ていたから、私が剣士メリット本人であることが秘密というのも理解していて、気を聞かせて話しかけなかったらしい。


「僕が話しかけたら怪しまれちゃうもんな」

「あ、ああ、お気遣いありがとう」


 顔はオルニスだが、ガウェインの鎧を着て明るく笑う姿は違和感が強い。


「どうやら霊体の君は転移の対象には出来ないみたいだな」

「ははは、そうみたいですね。あ、そうだガルズエル様」

「なんだ?」

「試練というのは、私も一緒に受けてはいけないでしょうか?」

「別に2人で挑んできてくれて構わない。もともと勇者たち一行をまとめて相手するつもりでいたからな。この試練自体に人数の制約はない」

「オルニス、君を巻き込むのは――」


 オルニスは持っていた兜を投げ捨てると、私の言葉が終わるのを待たずに自身の剣を構え笑って言った。


「僕はもう死んでいるんだ。命の心配は自分の分だけで大丈夫だよ。それに、妹の恋人、いや、義弟を助けるのは当然だろ? あ、なんなら義兄にいさんって呼んでいいよ」

「呼びません」


 これ以上言っても無駄そうなので、私も剣を構える。


「では、メリット、オルニス、両名とも覚悟は良いな? これより試練を始める。汝らの持ちうる最高の力をこのガルズエルに示してみよ」


 再びガルズエルの体から闘気が溢れ、凍てつくような冷たく鋭い目に変わった。周囲の空気が圧力を増したかと錯覚するほどに張り詰めて重い。

 試練を与える者、力を司る天使、まともに対峙するとこれほどとは……しかし、呑まれるわけにはいかない。

 セレンティリオスの柄をぐっと握りこんで息を吐き、自分の闘気を高める。


「参りますっ!!」


 私とオルニスは咆哮を上げて、悠然と構える強大な相手に向かっていった。


ジジイ VS ジジイ が終わって、召還された新たなジジイ

もうジジイばっかだな(笑)


でも、新たなジジイは天使でべっぴんのねえちゃんでした。

ちなみに、RPGでいう裏ボスの設定です。

ストーリーを進めるうえで、別に倒さなくてもいい強い敵ってやつですね。

それが勇者に無視されたパターンで書きました。


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