追い付きます。
「次の角を右! もうすぐ追いつきます!」
「よし! もうすぐだ! 頼むぞラード!」
「任せとけブヒ!」
「行けえぇですわ!」
振り回されながら何度も右に左にと折れ曲がり、猛追によってハピスまでもうすぐのところまでやってきた。
ブルルンの速さは凄まじく、魔物が出現する場所を通っても魔物が顕現する前に通り過ぎてしまうほどだ。私たちもここまで来るとこの猛スピードに慣れ、むしろ、高速の乗り物が出す爽快感とスリルが脳を麻薬のように痺れさせて“ハイ”になっていた。
「ブヒィィ!」
雄叫びを上げてラードが手綱を引く。
ぐいんっとブルルンの巨体が横滑りしながらカーブの先を正面に捉える。
ハピスの反応がその角を曲がったのは数十秒前だ。角を曲がれば姿を耐えられるかもしれない。
「よし! 抜け、ああぁぁぁ!」
なんと、カーブを抜けた先には障害物が。正確には、“門”があったのだ。石の扉がついた重厚な門である。
「ラード! 止まってくれ!!」
「だからブレーキはないブヒ!!」
「いやあぁぁ!!」
「きゃあぁぁ!!」
「全員頭を抱えて、対ショック姿勢を取るブヒぃ!!」
ドガァァン!!
直後、ブルルンが石の門に正面衝突し、激しい音を響かせた。ブルルンは投げつけられた水風船のように弾け飛んで、辺り一面にその柔らかい肉をぶちまける。
乗っていた私たちも、衝突の衝撃を全身にどんっと受けてから弾き飛ばされた。飛び散るブルルンの肉に交じって石に床を転がり弾む。
「いててて……みんな、大丈夫か?」
体はあちこち痛いし視界には星がちらつくが、私はよろめきながら立ち上がると声を掛けた。すると3人とも私と同じようによろよろと立ち上がり「大丈夫……」と力ない返事が返ってきた。
「ちょっと待ってください……うぷっ」
レベッカが回復魔法を唱えてくれて、痛みも消え視界もすっきりし、全員、しゃきっと姿勢が戻った。
「し、死ぬかと思いましたわ……」
「で、でもブルルンがクッションになって助かったブヒ」
「まあ、そうなんだが……ここまで障害物がなくて本当に良かったな」
「……うん、それは確かにブヒ」
全員無事なことを確認し、改めて石の扉がついた大きな門に目をやる。
神殿のものらしい神々しいレリーフの施された大きな門の扉は、片側だけ少し開いていた。黒幕はあの門を通って向こうにいるのだろう。
地図上のハピスの反応も門の向こうで止まっているので、ここが終着点であることは確かだ。
まだ彼女の反応は青のままだが、急がねば。
私たちは巨大な門を潜り、その先の部屋へと足を踏み入れた。
私たちの目に最初に飛び込んできたのは、黒いマントを纏った男の背中だった。そのマントも、その上にある白髪頭も見たことがある。知っている後姿だった。
「マ、マクバーン先生!?」
私は思わず声を出した。
その声に先生が振り向く。すると、マントが翻り、彼の足元にハピスが横たわっているのが見えた。
「ああ、ハピス!」
「やっぱりマクバーンが黒幕だったブヒか!?」
「そこで、止まれ!」
駆け寄ろうとするフレイヤを、マクバーン先生がぴしゃりと制止した。その顔には険がある。
「なぜ、お前たちがこんなところに……シュミット先生、どういうことですかな?」
「ひうっ! えっと、バードリアさんが行方不明になって、反応を追いかけていたら」
「それだけじゃないブヒ! お前が死霊軍団の復活を企んでいるのも、ばっちり分かってるんだブヒ! それを止めに来たブヒ!」
「お前ではない! マクバーン先生と呼べ!」
「ひ、ご、ごめんんさいブヒ……」
その時、別の声が話に割り込んできた。
「クックック、いい生徒さんたちじゃないですか。そんなに怒ったら可哀そうだ」
先生の陰になって分からなかったが、声がして初めてその存在に私たちは気づいた。
マクバーン先生の前方に、用務員のピピンもいたのである。
しかし、一緒にいることの多かったこの2人が、今は険悪な雰囲気を漂わせ対峙している。
「黙れ! 貴様の下らん計画もここまでだ。大人しく牢屋に入れ」
「参ったな。そうはいかない。そのお嬢さんは無事に返すから、ここは引き返してくれないか?」
「はい、と言うわけなかろう」
「じゃあ、消えてくれ」
突然、ピピン老人が両手から青白く燃える炎を放った。しかし、マクバーン先生も魔法の障壁を展開してこれを容易く防ぐと、それとほぼ同時に光る鎖を飛ばして、ピピン老人を絡め取った。
「無駄だよ」
目にも留まらぬ魔法の応酬は、マクバーン先生に軍配が上がったように見えた。が、ピピン老人はにやりと笑うと、鎖を粉々に破壊してしまったのである。
「ふん、大人しく縛につかぬと言うなら」
マクバーン先生が傍らに何やら召還を始めた。
先生の足元に伸びる影の中からせり上がって来る漆黒の甲冑を纏った騎士――現れたのは旧校舎で私に襲い掛かってきた、ガウェインである。
「行け! ガウェイン! 奴を捉えろ」
状況が全く理解できなかった。おそらくラードたちにもそうだろう。
私たちは混乱するばかりで、2人のやり取りを固唾を飲んで見ているしかなかった。
「どうしたガウェイン!? 奴を捉えろ!」
しかし、私たちが必死に考える間にも事態は更に展開する。
先生はガウェインを召喚したが、どうも様子がおかしい。ガウェインが先生の言うことを聞かず、ピクリとも動かないのだ。
「それも無駄、なんだよ」
ピピン老人の目が怪しく光ったと思った直後、ガウェインが主人であるマクバーン先生に切りつけた。
思わぬ攻撃に回避もままならず、ガウェインの剣の直撃を受けて先生はどっと後ろに倒れた。切り裂かれた胸からはおびただしく血が流れている。
「な、なぜ……だ……」
「なぜって、この僕がそのガウェインの“生みの親”だからだよ」
「ま、まさか……デル……オス」
「そう。僕が、デルオスさ。さあ、子孫であるよしみで苦しまない様にさっさと殺してあげるよ」
「させるかっ!!」
剣を振り下ろそうとするガウェインの前に、私は咄嗟に割り込み一撃でもってガウェインの剣を跳ね上げる。ガウェインは思わず跳び退った。
「レベッカ! マクバーン先生に回復魔法だ!」
「あ、は、はいっ!!」
私の背後でレベッカが慌ててマクバーン先生に近寄り、回復魔法を掛け始める。傷は深いが致命傷ではない。回復魔法を掛け続ければ助かるはず。
「おや、黙って見ているだけかと思ったが……ああ、君か、メリット君。本当に君はあの男にそっくりだね。名前も一緒だし、見てると怒りがこみ上げてくる」
「お前がデルオスだと!? どうしてここにいる!? とっくに死んだはずだ」
「喋り方までそっくりだ、まったく……死んでなんかいないさ。こうして生きているよ。死霊召喚で出したガウェインだろうと操れるのが、何よりの証拠だ。こういう風にね」
すると、私と対峙していたガウェインがデルオスのもとに歩いていき、彼の目の前まで行くと跪いて忠誠を示すようなポーズを取った。
「さて、デルオス本人だってわかったかな? どうして500年近く生きながらえているんだって聞きたそうだね」
デルオスはくるりと後ろを向いて、部屋の奥へとゆっくり歩き始めた。
私は追いかけようとしたが、ガウェインが立ちはだかり、それ以上足を踏み出せない。
「今日は特別な日だ。それに、ここまでせっかく来たんだから特別に教えてあげるよ」
てくてくと歩きがら、デルオスは1人話続けた。
「僕ぐらいの高位魔族になれば、魂を入れる体を変えて生き長らえるなんて芸当ができる。いや、死霊魔術が得意な僕だからできる技かな。
しかしね、こんなことをしなくちゃいけないのも、全部、剣士メリット、それとあのバカな魔王と勇者のせいなんだ。
メリットの光の剣のせいで魔力の根源にダメージを負った僕は大きくパワーダウンして、あの後、魔王城に攻め込んだ勇者たちに負けた。パワーダウンしてなければ、あんなゴミどもに負けるなんてあり得ないのに。
その後、負けた僕は、魂だけを離脱させて別の魔物に憑依した。その時は生き延びて、時間をかけて魔力を取り戻して復活しようと考えてね。
そうしたらどうだ?
バカな魔王は勇者と講和する。領土も分け与える。しまいには、人間なんて劣等種と魔族を混ぜやがった!
魔人なんてなったせいで、魔力の最大値が頭打ちだ! いくら回復を待っても、もとの強大な魔力には戻らないんだよ!」
喋りながら、デルオスが最奥にある祭壇らしき階段を上り出した。
そこまできてデルオスの目的がはっきりし、それを止めようと私は駆けだした。
「させるか! デルオス!」
「ヴオォォ!」
「邪魔だ!」
私の進撃をガウェインが阻む。
「フレイヤ! ヒュドラでデルオスを! やつに秘宝を取らせちゃだめだ!」
「は、はい!」
フレイヤが剣からヒュドラを放つも、ガウェインが私に応戦しながら、片手で魔法を放ちヒュドラをかき消した。
「ここの秘宝のことを知ってからも長かった……鍵を全部集めるのに何十年かかったことか。最後に秘宝が眠る部屋まで案内役が手に入ったのは良かったがね。鍵を入れる鍵穴を捜すのにも何年とかかるところだった。
さて、これでこんな脆弱な体ともお別れだ。そして僕はこの世界で真の魔王となる」
悠々と祭壇に上ったデルオスは、頂上にある台座に近寄ると、その台座に施された窪みに菱形のクリスタルを4つはめ込んだ。
「さあ! 僕を在りし日の姿に戻してくれ!」
デルオスが叫ぶ。
すると、円状に並ぶ4つの菱形の真ん中、そこに施された円形の彫刻が、一瞬にして曇りのない美しい鏡に変わった。その直後、鏡が目もくらむ強烈な光を放ち、辺りを真っ白に染める。
私たちは否応なくその光の中に呑まれていった。
バレバレだけど、黒幕はデルオス本人でした。
しかし、容疑者がジジイばっかだな(笑)




