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駆け抜けます。

 学園に戻った私たちは、学園の森にある管理小屋の床下から地下5層へと下った。

 独りでに火のつく不思議なかがり火は、既に燃え盛っていて煌煌と神殿を照らしている。もう私たち以外にここに足を踏み入れている者がいる証拠だ。


 時間が惜しい。死霊軍団の復活もそうだが、宝まで辿り着いて用済みになったらハピスの身が危険だ。幸い、地図上での彼女の信号はまだ青いままで移動もしているが、焦燥には駆られる。

 そんな私の横で、並走するレベッカはきょろきょろと珍しそうにあたりを見回していた。


「ああ、凄い! 本当に凄い! こんな時じゃなかったら、隅から隅まで調査したい」

「シュミット先生、事態は一刻を争うんです。よそ見しないで」

「分かってます。でも、地下にこんな神殿があったなんて……あ~もっと早く来るんだった」


 目を輝かせるレベッカの隣では、フレイヤが顔を真っ青にしている。


「亡霊なんていない……亡霊なんていない……」


 祈るようにブツブツと呟いている。

 その後で、ラードは死にそうな顔でゼエゼエと息を荒げている。

 勢いで皆を連れてきてしまったが、正直、このパーティー大丈夫だろうか……


「皆、そろそろ亡霊が出る。警戒してくれ!」


 床絵のあるだだっ広い十字路の真ん中に差し掛かったところで、想定通り床から黒い影が伸びて魔物の形に変わった。ただ、前回と違い数が増えるのが早い。1体目を皮切りに、どんどんと黒い影は湧いてきて、魔物に変形を始めた。


「一気に抜けるぞ! 足を止め――」

「ひいぃぃぃ!! お、お化けぇ!!」


 足を止めるなと言おうとした矢先に、フレイヤがしゃがみ込んでしまった。それにつられてラードも屈んで、えづくほど荒い呼吸をしている。

 その間にも魔物たちは、私たちを完全に包囲してしまった。


「アイススピア!!」


 レベッカが、魔法で出した氷の槍を無数に撃ち出し、魔物たちを穿って消してゆく。しかし、牽制にはなっても魔物の数は減っているようには見えない。

 私も剣を振るい魔物たちを切り伏せてゆくが、結果はレベッカと同じく包囲の輪を狭ませないのがやっとであった。

 突破口を開くには火力が足りない。


「お化けがいっぱい、お化けがいっぱい、お化けがいっぱい………………いやぁぁぁぁぁ!」


 その時、突然、フレイヤが絶叫し立ち上がった。

 そして、腰に差していた彼女の愛剣――ヴォルカヌスを抜き払うと、地面に突き刺したのである。


 ゴオオオオオオ!


 火山の噴火を思わせる勢いで、彼女を中心に巨大な火柱が立ち上る。

 それだけでも圧倒的な光景だったが、直後、更にその迫力を増した。

 火柱の中から次々と炎の大蛇が生まれ、空中に体を伸ばしながら縦横無尽に暴れ始めたのである。

 私がフレイヤと戦った時の比ではない数の、無数の火の大蛇―――ヒュドラが片っ端から魔物たちを丸呑みにしてゆく。

 当然、呑まれたら最後、業火に焼かれ炭も残らないだろう。


「うわああぁぁ、助けてメリット!」

「わ、わたしも!」


 逃げ惑っていたラードとレベッカが私にしがみつく。しかし、取り敢えず身を低くしているぐらいしかない。

 術者のフレイヤと同じで、ヒュドラも誰彼構わず襲い掛かっている暴走状態だ。下手に動けばすぐに餌食になるだろう。


 私たちは、じっと嵐が収まるのを待った。

 数分後、フレイヤを覆う炎がヒュドラと一緒に消え、私たちを囲んでいた魔物の群れも全て消えていた。


「はぁ、はぁ…………ふぅ……」


 フレイヤは、ふっと膝折ってぺたりと尻餅をついた。その表情は呆然としている。


「ふ、フレイヤ……大丈夫か?」

「……へ? メリット? わたくし……何を? あの、お化けは?」

「君が全部倒したよ」

「え? わたくしが?」


 きょとんとするフレイヤ。恐怖に我を忘れていて彼女は覚えていないようだ。しかし、今は時間が惜しいので詳細は後で説明することにして、「先を急ごう」とフレイヤ、それに縮こまっているレベッカとラードに声を掛けた。


「ちょ、ちょっと待って欲しいブヒ」

「なんだラード」

「走っていくにはこの神殿は広すぎるブヒ。だから、“乗り物”を使うブヒ」


 ラードは、腰のポーチから瓶を2つ取り出すと、片方の瓶に入った紫の球体を床に転がし、もう片方の瓶の液体をその球体に掛けた。そして、何やら呪文を唱える。

 すると、クルミほど大きさだった球体が、むくむくと爆発的に膨らみはじめ、あっという間に見上げるほどの大きさになった。

 しかし、そこで終わりかと思ったら、そこから粘土の造形でもするように、ぐにゃぐにゃと形を変えていく。


「完成ブヒ」


 造形が終わり出来上がったのは、4足で2本の大きな角を持つ動物の像であった。


「牛……か?」


 全体的に丸っこいファオルムで、現代アートが牛を解釈したらこうなるかという感じだ。


「“ブルルン”だブヒ」


 得意げに胸を張るラードが“ブルルン”を撫でるとゴムの様な外観がブルンと揺れた。

 “プルルン“はこの前見たが、今度は“ブルルン”か……ブルだからその名前なのか?

 ラードが作るなら豚の方がいいのでは、などと思ったがそれは心にしまった。


「これが乗り物か?」

「そうだブヒ。さ、乗るブヒ」


 ラードがそう言うと、ブルルンの背中の肉が触手のように伸びて、私たちの足元にだらりと垂れた。 

「それに乗ってブヒ」とラードが言う通り、ぶよっとしたブルルンの肉に両足を乗せると、途端に肉が足元からせり上がってきて、私たちのへその辺りまですっぽりと呑み込んでしまった。

 そして、私たち4人を絡め取ったまま持ち上げると伸びていた肉を収縮させ、背中の肉と同化したのである。

 結果、ブルルンの背中から私たちの胸より上が一列に並んで生えているような状態だ。


「さ、駆け抜けるブヒ!」


 先頭のラードが手綱らしき伸びた肉をびゅんっと振ると、ブルルンは2度3度地面を足で掻いてから、一気に駆け出した。

 ぎゅうんっと思い切り加速の重力で後ろに引っ張られる。

 とんでもないスピードだ。


「きゃあぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁ!!」


 レベッカとフレイヤの甲高い悲鳴に私の悲鳴も加えて、絶叫の合唱が神殿に響き渡る。

 あっという間に十字路を抜け、通路に突入する。

 するとすぐに曲がり角が迫った。


「ぶつかるぅぅぅ!」


 あわや衝突するという直前で、ラードが手綱を引いてブルルンの向きを変えた。ぐるんと巨体が回れ右をすると、乗っている私たちの上半身も大きく揺さぶられる。

 衝突よりはましだが、これはこれできつい……


「ベッキーちゃん! 次はどっちだブヒ!」

「え!? え、えっと左です! でもすぐに右!」


 地図を見ながらレベッカが指示を出し、それに合わせてラードが手綱を捌く。

 再び猛スピードで曲がり角に差し掛かり、急速での左折からの右折。体が右に左に引っ張られた。

 その後何度か曲がるのを繰り返してやっと長い直線に入り、この激走にも慣れてきた。

 私はブルルンの足音に負けないように前のラードに大声で言った。


「ラード!! 凄いな、これ!」

「ブルルンだブヒ!」


 ここでも謎のこだわりか。


「これなら、ハピスにすぐ追いつけるブヒ!」

「なんでここに入ってすぐ使わなかったんだ?」

「メリットがどんどん進んじゃって言えなかったブヒ」

「すまない……」

「まぁいいブヒ。それに使うか迷ってたのもあるブヒ」

「どうして?」

「まだ試作段階だからブヒ」

「え?」

「……ブルルンには“ブレーキ”がないブヒ。だからぶつかって止まるブヒ」

「ええぇぇ!?」


 ハピスのもとの辿り着くまで、私たちが無事でいられるだろうか。

 真っ青になる私たちを乗せて、ブルルンは地下神殿の中を猛スピードで駆け抜けた。


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