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回想します。(2)

 城に戻った勇者たちは、勝利を導いた英雄として妖精たちの熱狂的な歓喜をもって迎えられた。

 勇者たちも勝利の美酒に酔い、華やかな祝宴を楽しんだ後、本来の目的であった死の森を超える為に必要な“命の鈴”について妖精王に聞いてみることにした。


「確かに“命の鈴”はこの妖精の国で作ることができる。だが――」


 命の鈴は妖精だけが錬成できる金属“ミスリル”を使って作るのだが、魔王軍との戦いで“ミスリル”の原料が尽きてしまっていた。その為、勇者たちは命の鈴が出来上がるまで5日ほど妖精の国に滞在することとなったのである。




 勇者たちは一時戦いを忘れて、今までの疲れを癒すようにのんびりと妖精の国を楽しんだ。


 そんな滞在中のある日のことである。

 各自好きな場所へと遊興に行った勇者たちであったが、メリットは1人、城に残って宝物庫を見せてもらっていた。

 ガウェインとの戦闘で折れてしまった愛剣に代る剣を見繕うためである。

 妖精王は、救国の礼としてどんな武器でも持っていっていいと言ったので、宝物庫でいろいろと剣を手にとって試していた。


「これも駄目だな……はぁ」


 何十本目かの剣もしっくりこないことに嘆息していると、宝物庫にティファがやって来た。

 姫の突然の登場に、メリットの隣に控えていた案内役が慌てて頭を垂れるが、ティファは「わたくしが案内しますから」と言って、訳が分からず困惑する案内役をぐいぐいと宝物庫の外に押し出してしまった。

 扉を背中で閉めて悪戯っぽい笑みを受かべる彼女は、気品ある姫とは違うが親しみやすく可憐で可愛らしい。


「こんにちは、メリット様」

「様はやめてください。初めて会った時のように、メリットと呼び捨てください、ティファニア殿下」

「そちらこそ殿下はやめてください。ティファと呼んでください」

「ふふ、じゃあ、こんにちはティファ」

「ふふ、メリット、新しい剣は見つかりましたか?」

「いや、見つからない。どれもこれも素晴らしい逸品だが、どうもしっくりこないんだ」

「それでしたら――」


 そう言ってティファは、宝物庫の中でも一際煌びやかな棚の方へと歩いてゆき、棚の中に飾られている一振を持ち出して戻って来た。


「これをお試しになってみてください」

「え? これって王族の為に作られたものだろ? さっき案内の人が言ってた」


 妖精王は“なんでも”とは言ったが、案内の者は王族専用の剣までは恐れ多くて、さすがに与えたくなかったので、事前にメリットに王族用だと遠回しに釘を刺していた。

 一方のメリットもさすがにそれは手を付ける気にはならなかったのである。

 しかし、目の前の姫は「試すだけですでも」といって、是非にと勧めてくるので、メリットは断り切れず剣を手に取った。


「……すごいな。美しくもあり、それでいて実戦にも十分耐えうる」


 あまり乗り気でなかったが、手に取るとその剣には何か惹かれるものを感じ、一転してじっくりと刃を眺めた。

 鈍く光る銀色の刀身に細かに白銀の筋がうっすらと浮かび、見る角度を変える度にキラキラと淡く光る。軽さも手ごろで軽すぎず重すぎず、それでいて持っていて頼もしさを覚える強固な硬さを感じさせる。

 柄を持っただけで手になじむのが分かり、試しに振ってみると、長年使ってきた剣のようにしっくりときた。


「こんなに素晴らしい剣は初めてだ!」

「ふふ、メリットは剣を見るのも好きなんですね。なんか芸術家みたい」


 夢中になって剣を眺めるメリットが面白くてティファが小さく笑うが、それに反応することもなく、メリットはセレンティリオスの素晴らしさに興奮し没頭していた。

 普段それほど饒舌ではない彼も夢中で剣を眺めながら、無意識に感動を口にする。


「こういう宝剣はその持ち主をイメージして作られると聞くな。まるで雪解け水が作る春の清流のように澄んでいて清らか、そして美しい。過去にいらっしゃったどの王の宝剣かは分からないが、この持ち主だった王はきっと清らかで美しい方だったんだろう」


 ふと我に返って、1人ぺらぺらと語ったことに気恥ずかしさを覚える。「やってしまったか」などと思いながら、恐る恐るティファを見ると頬を桃色に染めて恥ずかしそうに視線を泳がせていた。


「す、すまない。剣のことになるとちょっと夢中になってしまって……あはは」


 体裁が悪いのを誤魔化すように手に持ったセレンティリオスの方に視線を戻すと、つかに彫られた刻印に目が留まる。そこには“カスミソウ”をあしらった紋章が彫ってあった。


 王家の紋章とは違う、持ち主個人の紋章だろうとすぐに想像がついたが、どこかで見たことがある紋章だとも思った。

 ちらりと再びティファに目をやると、彼女の胸についているブローチに同じ紋章が描かれている。


「あの、この剣って……もしかしてティファの?」

「え、えっと……わたくしの成人の儀にて賜ったものです……」


 消え入りそうな声でティファが言った。

 ここでやっと彼女が、先ほどから恥ずかしそうにしている理由に合点がいく。

 本人を目前に、この剣の持ち主は「春の清流のようだ」だの「清らかで美しい」だのと褒めちぎっていたのだ。

 メリットも一気に顔が赤くなっていく。


「あ、え、えっと、さっき言った“美しい”とか、そういうのは違くって!」


 歯の浮くような口説き文句にも思える自分の言動を、しどろもどろになって否定する。


「……え? 違うのですか?」


 しかし、そのぎこちない釈明にティファの顔が悲しそうに曇る。


「い、いや、違くない!」

「わたくしは、そんな清く、美しくないですか?」

「そんなことはない! ティファは、この剣のように、清らかで美しいよ!」

「……く、くくく……ふふふふ」


 悲しい顔をしていたティファだったが、堪え切れないといったふうに笑い始めた。


「ふふふ、おかしい。メリットっていつもきりっとしてる人かと思ったけど、こんなに表情をころころ変えるのね。可愛い」

「なっ!? からかったのか!?」

「ごめんなさい。でも、先に歯の浮くようなことをおっしゃったのは、あなたよ?」

「うっ……」

「でも、嬉しかったです。メリットに褒めてもらえて」


 はにかみながら見せるティファの笑顔は、一瞬、時間を忘れさせるほどに、暖かく美しいとメリットは思った。

 上手く言葉が続かない。その笑顔をただずっと見ていたいと、高鳴る鼓動を耳にしながら忘我に浸ってしまう。


「そのセレンティリオス、気に入ったようですし、あなたに差し上げます。メリット?」

「……え? い、いや、流石に王族専用の宝剣を頂くなんて出来ないよ」

「いいのですよ。どうせ宝物庫にあって使わないものなのですから。それに、あなたには“2回”も助けてもらいましたし、そのお礼です」

「2回? この前の魔王軍を撃退したのと――」

「ええ、初めて会った、エリモンの街で人攫いから私を救ってくれた」


 エリモン街で“死の森”を超えるための情報収集を手分けして行っている時、偶然、メリットが人攫いに攫われそうになっているティファを助けていた。そして、それが縁で妖精国の救援に行くことになったのである。


「あの時、とても恰好良かったです……あの時から私は……」


 メリットを見るティファの視線に熱が籠っている。その熱にメリットも気づかない訳ではなく、呼応するように真っすぐと熱を帯びた視線を返した。

 吸い寄せられるように近づく2人。自然と腕が相手の背中へと周り、吐息すら感じる距離にまで顔が近づく。


「おお! メリット! 新しい剣は見つかったか?」


 突然、宝物庫にクラインが飛び込んできた。

 慌てて、離れるメリットとティファ。


「ん? どうした? 2人とも熱でもあんのか? 顔が赤いぞ?」

「い、いや、大丈夫だ。何でもない……」

「そうか。お? それか? メリットの新しい剣は?」

「え、え~と……」

「はい。そうです。こちらの剣をメリットに」

「ティファ!?」


 ティファが何か閃いたのか、ぱっと目を見開いて言った。


「ああ、それでは、お貸しするということにしましょう。その方が、いろいろと“都合がいい”ですからね」

「ふ~ん、そうか。ま、新しい剣が見つかって良かったなメリット」

「……ああ、そうだな」


 もし妖精王にダメだと言われたら返せばいいのだし、これほど勧められて断るのも野暮なので、この場では、メリットはセレンティリオスを“借りる”ことにした。

 その後、宝物庫にある珍しい品々にはしゃぐクラインを相手することになり、メリットとティファは2人きりになることはなかったが、目が合うたびに悶々とした気持ちがぶり返してお互い赤面するのだった。


本当はもっとティファのキャラを掘り下げた方がいいんだろうけど、尺が足りぬ。

回想だからサクサク進みたいし

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