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旧校舎に入ります。

 シャーマンスタイルのハピスに連れられてやって来たのは、薬草の森の入り口だった。

 鬱蒼とした森の中に埋もれるように旧校舎が建っているということらしい。


「森に入るのか? まずくないか?」

「大丈夫だよぉ、マクバーン先生今日は午後からどっか行って留守だからぁ」


 のほほんとハピスが言った。


「いや、そういう問題じゃ」

「まぁまぁ、ここまで来たんだからぁ」

「そうだよメリット、今さら帰るはなしブヒ」


 紅の豚ことラードに背中を押されて、渋々森の中へと足を踏み入れた。あまり規則を破るのは好ましくないが、もう腹をくくるしかないか……。

 諦めて森の奥へと歩き始めた。

 少し歩くと木々の密度が一気に増してゆく。幾重にも重なった枝の層が日の光を遮り、日中だというのに薄暗い。

 一応、手入れをしたり薬草を採取しやすくしたりするためか、草の生えていない遊歩道らしき道はあるが、この木々が入り組んで薄暗い森だと、恐らくこの道を進まなければ迷ってしまうだろう。

 前回は逃げることに必死だったからそこまで感じなかったが、なかなか不気味な雰囲気で、幽霊が出るというには十分なムードだ。


「しかし、なんでこんな森の中に校舎を建てたんだろうか」


 歩きながら気になったことをラードに聞いてみた。


「初代学園長が学園を開いたときは、森の中に開けた場所があって、森もここまで鬱蒼としていなかったんだブヒ」

「でもぉ、長い年月で森が成長してぇ、校舎をのみ込んじゃったんだよぉ。ねぇ~フレイヤちゃん」

「……は? え? そ、そうですわね!」


 森の近くに来てから無言のフレイヤだったが、急に話を振られて、何か別のことを考えていたのだろうかわたわたと体裁を取り繕った。


「森に呑まれる頃には、大分老朽化していて新校舎を建てることになっていたから、旧校舎を放棄して、取り壊すことになったんだブヒ。でも歴史ある旧校舎を壊したくないという卒業生たちの署名運動で、最低限の手入れをしながら保存されることになったんだブヒ」

「へぇ、なるほどな」

「あ、ちょっと待って」


 突然、ラードが木の陰に隠れ、同じように隠れるように皆に促した。彼の伺う先に視線を向けると小屋が見える。先日、地下から抜け出た先にあった物置小屋だ。


「ピピンの爺さんがいるブヒなぁ」


 小屋の前には用務員のピピン老人がいて、ハサミやスコップで森の手入れをしている。


「ピピン爺さんはマクバーンの手下みたいなもんだから、見つかるとマクバーンに突き出されるブヒ」と木に隠れながらラードが小声で教えてくれた。

 数いる用務員の中でも、ピピン老人はこの薬草の森の手入れを任されている唯一の存在らしい。

 暫く様子を伺っていると、仕事が一段落したのか、ピピン老人は道具を担いで立ち上がると、小屋の方へと歩き出した。


「あ、小屋に入るのかも」

「ラッキーブヒ……あ、ヤバい、勘づかれたかもブヒ」


 小屋の前で、辺りをきょろきょろと見回していたが、気のせいと納得して小屋の中に入って入いった。


「ふぅ、よかった……今のうちブヒ。ピピンは小屋の中で道具の手入れをするから、しばらく出てこないブヒ」

「手慣れているなぁ、ラード」

「メリット、今それはいいブヒ」


 ラードに従って、小屋の窓から見えないように姿勢を低くして、忍び足で小屋の脇を通り過ぎてゆく。

 真っ赤な服のラード先頭に、私、シャーマンスタイルのハピス、妙なネックレスのフレイヤが、一列になって進む。しかも、こそこそと。

 傍から見たら異様な光景だろう。

 今度は森に仮装行列の妖精が出るとか噂されるかも……。

 ともあれ、息を殺して小屋の横を通り過ぎることには成功した。


「ぶひ~、ここまでくれば大丈夫」


 ラードが額を拭って大きく息を吐いた。もう木の幹に隠れてピピン用務員のいる小屋は見えない。皆も同時にふぅっと安堵の息を吐いた。


「ラードはぁ、この森に詳しいんだねぇ、すご~い」

「え、あ、いや……ま、まあね、ぶひひ」


 ハピスのくりりとした大きな瞳がラードに向くと、ラードはきょろきょろと視線を泳がせて、彼女とは目を合わせずくねくねと不自然に身をよじった。


「え、えっとこの小屋を通りすぎれば、旧校舎まではすぐだブヒ」

「なるほど、近道だったわけだな」

「そうだブヒ。さ、進むブヒ」


 再び進み始めすぐ、ハピスが私の袖を引っ張った。


「ねぇねぇ、そおいえば地下第5層って幽霊が出るのぉ?」

「ああ、食堂でも前に話してたが、この街の地下で私とラードは甲冑を着た骸骨に遭遇している。あれも旧魔王軍の兵士だと思うから、亡霊じゃないかな。旧校舎と同じで真っ黒な姿だったぞ」

「亡霊かぁ、う~ん、どっちなんだろぉ」


 ハピスが小首を傾げて考え込む。私は何を悩んでいるのか聞いてみると、ののほほんとした口調で答えが返ってきた。


「死霊なのかぁ、幽霊なのかぁってことぉ」

「またそれですの? 同じでしょそんなの」


 横からぴしゃりと言い捨てたフレイヤが、考えたくもないと身震いをした。


「よくないよぉ! 全然ちがうんだからぁ」


 ぷりぷりと怒るハピスに、フレイヤは興味なしとそっぽを向いてしてしまった。

 しかし、私はその違いが気になった。

 死霊魔術ネクロマンスだって十分オカルトなのに、ハピスはそこまで興味がない様子だった。幽霊はオカルトで、死霊はオカルトじゃないのか? 


「どう違うんだ? 教えてくれ、ハピス」


 私がそう言うと、ハピスは一瞬意外といった顔をしてから、ぱっと目を輝かせて笑った。


「えへへ~えっとねぇ、死霊はね、魔法で召喚した魂や霊体そのものだったり、そういうのを鎧とかに定着させたものなのぉ。つまり、魔法によるものねぇ

 幽霊は、魔法によらない霊体で、どうして魔法なしで存在できる霊体がいるのか解明できてないから、未確認生物と同じ扱いなのぉ。ちなみに亡霊は、ごっちゃにした曖昧な言い方ね」


 語れるのがそんなに嬉しかったのか、ハピスは目をキラキラさせている。しかも、いつもの5割増しぐらいのスピードで喋った。

 得意分野に生き生きとする彼女だったが、ラードは苦笑いだし、フレイヤは見てもいない。どこの世界でもオカルト好きはちょっと引かれてしまうようだ。

 ただ、私は相槌を打って真剣に聞いた。それがさらに嬉しかったのか、ハピスは「メリット君には教えてあげる」と隣に寄って、私だけに聞こえるくらいの声で言った。


「私ねぇ、幽霊は見えないんだけど、霊的な力とかその流れが見えるんだぁ」

「霊的な力? 魔力とは違うのか?」

「うん。霊脈っておばあちゃんが言ってたかなぁ。魔力とは違う、まだ私たちが魔人じゃなくて人間だった頃に感じることが出来た魔力とは別の力なんだよ。それで神様と交信したり、占いをしたりしてたんだってぇ」

「ああ、シャーマンってことかな」

「シャーマン? よく分からないけどぉ、そおかも、フフフ~」


 ハピスの今の恰好は、どこからどう見てもシャーマンのそれだよ。


「でねぇ、さっき地下の話してたでしょぉ」

「ああ」

「地下にね。霊的な力が集まってる場所があるのぉ。これから行く旧校舎とは桁違いな大きな力が集まってるよぉ」

「本当か?」

 そんな特殊な場所がと一瞬驚くが、あの地下の遺跡ではないかと思い当たる。どうも普通とは異なる雰囲気でまるで神殿のようだった。そこになら霊的な力とやらが集まっている場所あるかもしれない。


「ちょっと、ハピス、何こそこそと話してますの? メリットに近すぎませんこと?」


 その時、オカルトには興味ないと前を歩いていたフレイヤが振り返って、ハピスに噛みついた。ハピスは「別にぃ」とごまかしながら私から少し離れる。

 オカルト話に付き合ってくれる相手が見つかり上機嫌なハピスは、離れ際ににこりと笑って「今度地下5層にも一緒に行こうねぇ」と囁き、話はそこで終わった。


 その後、森の中を進むと、ラードの言うとおりすぐに旧校舎の前に到着した。時間にして10分ほど。軽く上がった息を整え、目の前の荘厳な門を見上げる。

 門の向こうに見える旧校舎の外観は、私が予想していたものとは異なっていて、石のブロックで組まれた巨大な洋館、または古城のように見えた。


「これが旧校舎?」

「そうだよぉ。風情があって以下にも幽霊が出そうでしょぉ」


 確かに歴史を感じさせる建物だ。

 手入れをされているとはいえ、外壁に蔦を絡ませ薄暗い森の中に佇む様を見ていると、背筋がぞわりとする。お伽話に出てくる魔女の館にさえ見える。

 鉄格子で出来た大きな門にも蔦が絡みついていて、おまけに鎖と南京錠もされている。さあ入ろうと思ったが、正面は無理そうだ。どこから入ったものか。


「こっちだブヒ」


 見るとラードが門の横、校舎を囲う格子状の柵の一部を外していた。格子の下部が歯抜けになり、人ひとりが通れる穴が出来ている。

 私とラードはそこを這って潜り、フレイヤの番というところで彼女が二の足を踏んだ。


「こ、ここを通りますの?」


 フレイヤが這って通らなければならない穴を見て眉を寄せた。


「しょうがないよフレイヤちゃん。今日は許可取ってないんだからぁ。ほら、行ないなら置いてっちゃうよぉ」

「ちょ、ちょっと行きますわよ! 先に行かないで」


 渋々、フレイヤは抜け穴を潜り、ハピスも後に続き、全員旧校舎の敷地内に入った。

 豪華な洋館を思わせる玄関前の庭園は、流石に手入れをしているだけあって、雑草が伸び放題というわけではない。が、特に花や木々が植えてあるわけでもなく殺風景で、むき出しの土の中に、門から玄関まで伸びる石畳の道があるだけだ。

 私は、石畳の先にある玄関の方に目をやって言った。


「ラード、玄関も施錠されているんじゃないのか?」

「そうだブヒ、だからこっち」


 ラードはそう言って庭を横切り始めた。彼の後に続いて歩いてゆくと校舎の側面に回りこむ形になり、そこからは窓が等間隔に一列に並んでいるの景色が見える。どうやら1階教室のようだ。

 並ぶ窓の中で一番端にある窓にラードが近づいてゆき、バックから細長いワイヤーのようなものを取り出した。


「どうするんだ?」

「まあ、見ててブヒ」


 得意げににやっとしたラードの手が一瞬淡く光ったと思ったら、手の中のワイヤーらしきものが蛇のようにするすると動き、窓の隙間から中に入っていく。そして、留め金を持ち上げて外した。


「すごぉい、ラードってこんなこともできるんだねぇ」

「え? ま、まままあね! ブヒヒ」

「これって褒められた技かしら……」

「ま、まぁきっと凄い使い道もあるさ」


 ラピスに褒められ舞い上がっているラードには聞こえていないだろうが、一応フォローはしておいた。

 鍵が開いたので早速窓を開け、そこから中に侵入する。入った先は外から見ていた通り、教室で間違いなかったが、机や椅子は片付けられているので、がらんとした広い部屋があるだけだった。前方に残された黒板だけが教室であったことを物語っている。


「さて、連れてこられるままに旧校舎の中に入ってしまったが、校舎の中に幽霊は出るのか?」

「そおだよぉ、私たちにみたいに中に忍び込んだり、校舎の外からだったり見た人はいろいろだけどぉ、幽霊がいたのが校舎の中ってみんな同じだねぇ」

「それで具体的にはどこに?」

「まずこの1-2教室でしょぉ」


 ラピスが言った瞬間、フレイヤが「ひっ」と悲鳴を上げてすくみ上った。


「しかし、ここにはいないな」

「うん。あとはぁ、生物実験室、音楽室。美術室、2階女子トイレ、西階段、中庭ってところかなぁ」

「では、近いところから順番に回って行こう」


 私たちは教室を出て、1階にある生物実験室に向うことにした。

 魔法で光を発するランプ――ラードが持ってきた――を手に薄暗い廊下を進む。

 廊下も校舎の外観と同じで、床にブロックが敷き詰めただけの寒々しい雰囲気だ。大理石のように白いわけでもなく灰色で、床絵やタイル画のような飾りもない。


「は、ハピス、あああ明かりは点けられませんの?」

「魔力を注げば照明は点くんだけどぉ、点けると先生たちにばれちゃうからぁ」

「そ、そんな……」


 フレイヤの顔から血の気が引いた。微かに震えている。

 するとハピスが何か思いついたのか、「ちょっとメリット君」と耳を貸すように言ってきた。彼女の囁きに耳を傾ける。


 ふむふむ……致し方ないか……。

 ハピスからの“してみてほしいこと“は慣れないことなのでちょっと戸惑ったが、やってみること。


「フレイヤ、私の手に捕まるといい」

「べ、別にわたくし、怖くなんてありませんわよ!」

「そうじゃない。足元が暗くて危ないからさ。女性をエスコートするのは男の役目だろ? エスコートさせて」


 フレイヤは「え……」と一瞬固まって考えたが、「……そ、そういうことならしょうがないですわね」と言って私の手を取った。

 さすがハピス、フレイヤの性格をよく分かっている。フレイヤが私の手を取って歩くお陰で、少しだけ私たち全員の進行速度が上がった。

 物語の外では私はエスコートされる側、つまり女なので、エスコートするのは初めてだ。だから上手く出来るか分からなかったが、ぎゅっと私の腕にしがみつく今のフレイヤには上手いも下手もないようだ。




 ――腕にフレイヤちゃんの豊かな双丘の柔らか~い感触が伝わってるんじゃないかい? げへへへ


『なんだその下種な笑い方は。別に彼女の胸が当たってようが何とも思わないぞ』


 ――またまたぁ~今は男なんだから少しは嬉しいだろ? お前さんの状況は青少年の憧れなんだぜ? ん?


『なんだそれ、くだらん。それ以前に掴まれているということ以外何も感じないけどな』


 ――なんだよ、淡白だな。


『それに二の腕に、しかも制服越しで胸が当たっている感触が分かるほど感覚が鋭敏だったら、かすり傷でショック死するぞ』


 ――……お前さん、つまらないやつってよく言われるだろ。




 その後、少し進むと校舎の最奥に辿り着き、扉に掛かっているプレートを照らしてハピスが言った。


「あ、ここが生物実験室だよぉ」


 彼女の言うとおり、『生物実験室』と擦れた字で書いてある。その古びたプレートがなんとも不気味さを引き立たせていて、さすがの私も扉を開ける前にはごくりと唾を飲んだ。 

 ハピスは違う種類のものだろうが、全員緊張しながら1つ目の幽霊目撃現場の扉をゆっくりと開けた。


いつも男性向けのラブコメを見てて思ったことなんだけど、青少年の男子には悲しいお知らせになるだろう。


え~この話にもあった通り、漫画やアニメ、ラノベなどでよくある腕や背中に女性の胸が当たる描写……あれな、何にも感じないんだ。

主人公の男が「あっ……」とか「や、柔らかいものが……」とか、どぎまぎしてるけども、現実にはそんな服の上から分かるほどの感触などない。あるのはなんかくっつかれているなぁという大雑把な感触だけ。

これは胸の大小に関わらず、だ。



すまんな、青少年男子……




がっかりしてるであろう男子に、結びの言葉としてあの名言を送ろう。




『そのふざけた幻想をぶち殺す』


~とある魔術の禁書目録  上条当麻~


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