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依頼されます。

 食堂に着くと、いつものように買った食券で定食と交換し、それをお盆に乗せて空いているテーブルについた。

 ちなみに今お盆に乗る定食で、先日メガラットを討伐して得た金が尽きた。

 また、先生からの“お小遣い”に手を付けなければならないのか……


「はぁ……ラード、またバイトに行こう」

「おや? やる気ブヒね」


 “ヒモ”は嫌なんだよ。


「いいブヒよ。メリットだったら難しい依頼もこなせるし、沢山稼げるブヒ。あ、そうだ、バイトといえば。ビルなんだけど」

「ああ、ビルがどうした?」

「この前ビルにお見舞いしたんだけど、来週からリハビリを始めるんだって。あいつは本当に強いブヒ」


 ラードが誇らしげな顔で言った。ビルを心から尊敬しているのが伝わってくる。お前だって十分強いぞ、と私は思ったが、それを口にする前にラードが話を続けた。


「それで色々話したんだけど、ビルが意識を失った日のことで意外なことが分かったブヒ」

「意外なこと?」

「それが、僕を庇って一人で魔獣と戦って意識不明になったと思っていたんだけど、彼を意識不明にしたのは魔獣ではないんだブヒ」

「では、いったい」


 ラードが、ずいと顔を前に出した。


「犯人は亡霊だったブヒ」


 亡霊? どういうことだろうか?

 ぱっと理解が出来ない私は、私はスプーンを持つ手を止めて首を傾げた。


「あの第五層に出たやつブヒよ。ビルが言うには、僕を逃がした後、傷は負いながらも魔獣とは拮抗状態になったんだって。でも突然、魔獣が怯えだして慌ててその場から逃げていって、その直後、あの黒い亡霊が現れたんだブヒ。そして、その亡霊に一撃で切り伏せられて意識不明に」

「あの亡霊が……ビルがいたのは何層なんだ?」

「第3層ブヒ。亡霊が出るのは第5層だけじゃないから、今後は気を付けた方がいいブヒね」


 スプーンに乗った野菜を口に含みながら頷いた直後、「相席よろしくって?」と隣から声を掛けられた。見れば、フレイヤ、ラヴィ、ハピスの3人がお盆を持って立っていた。


「ああ、別に構わないよ。いいよな、ラード」


 ラードは黙ってコクコクと首を縦に振った。

 急に口数が減ったラードの返事と同時に、私の隣にハピスがさっと座った。


「じゃあお邪魔しまぁ~す」

「あ、こらハピス! ずるいですわよ!」

「じゃあ、あたしは左隣いただき!」

「ああ! ラヴィまで」

「ねぇねぇ~メリットくん。さっき亡霊って単語が聞こえたんだけどぉ、幽霊とか見えちゃう人ぉ?」


 文句を垂れるフレイヤのことなど見向きもしないで、隣に座ったハピスが顔を近づけて話掛けてきた。ちょっと近い。桃のような甘い香りが鼻を掠める。 

 あまり距離とか気にしない子なのかな……。


「え、えっと。幽霊を見えるというか、この前亡霊に遭遇したんだ」

「ほんとぉ? すご~い! 引き寄せる体質なのかなぁ」


 ハピスは、大きい目をぱちくりさせて、独特の間延びした喋り方ではしゃぐ

 随分と幽霊や亡霊に食いつくな。妙に距離の近い彼女にちょっと引き気味で話をしていると、ラヴィが割り込んできた。


「にしし、ハピスわね、オカルトが大好き、オカルトマニアなんだ」

「えへへ~そうなんだぁ~」

「ちょっとハピス、メリットに近いですわよ!」

「でねぇ~メリット君にお願いがあるんだけどぉ」


「こら、無視するんじゃありませんわ」と怒るフレイヤには聞く耳を持たず、ハピスはマイペースに続ける。


「幽霊探しを手伝ってくれなぁい?」


 彼女の頼みというのは、実際に幽霊をこの目で見たいので、幽霊を引き寄せる体質の者に同行して欲しいというものだった。

 もともと、この学園の敷地にある旧校舎には幽霊が出るという怪談があり、実際に過去何名もの生徒が幽霊を見ていて証言も多い。しかし、生徒会や職員たちが何度調査を行っても幽霊を見つけることは出来なかった。

 そこで、幽霊を引き寄せうる体質――ハピスが思っているだけ――の私に同行してもらい幽霊を出現させて目撃したいということらしい。


「放課後なんだけどぉ。だめぇ?」

「ええっと……」


 バイトがぁ……

 キラキラした目が断りづらい。


「ちゃんとぉお礼も出すよぉ。食券二週間分だよぉ」


 私の頭の中の天秤が一気に幽霊探しに傾いた。


「え? 本当? その、ラードも一緒に――」

「ぼぼぼ、僕もいいいきまブ」


 ラードが突然身を乗り出した。

 しかも目が泳いでいて挙動不審だ。なんだあれ。


「うん、いいよぉ。じゃあ、きまりだねぇ、メリット君、引き受けてくれてありがとぉ」


 ラピスがにこにこと笑みを浮かべた。無邪気で可愛らしい。


「ちぇ、あたしは部活があるから行けないなぁ。フレイヤは……にしし」

「な、何ですの? 私も行きますわよ! メリットが行くんですから……」

「だいじょ~ぶ~? フレイヤ」

「お黙りなさい。ラヴィ」


 にやにやと顔を覗き込んでくるラヴィを、フレイヤはむっと睨みつける。なんとなくフレイヤの様子が妙だったが、話は纏まり明日の放課後は幽霊探しに行くことが決まった。



 ◇  ◇  ◇



 翌日の放課後、約束した時間になったが待ち合わせ場所である校舎1階のラウンジにはまだ私しかいなかった。というのも、ラードもフライヤたちも「準備があるから」と、放課後、一度寮に帰っていったので、早く着いた私は待ちぼうけを食っているわけだ。

 もうそろそろかなと思って時計に目をやったところで、後ろから声を掛けられた。


「お持たせいたしましたわ」

「いや、時間ちょうど……ん?」


 フレイヤだった。が、私は振り向いて、一瞬、固まった。


 これは……ペンダントといっていいのか……


 彼女の細い首には不釣り合いな厳つい鎖が掛かっていて、その鎖の先に目が飛び出て牙の生えたおぞましい顔チャームがついている。

 この世界のおしゃれなのかな……褒めるべきだろうか……


「フレイヤちゃん、1人で行くなんてひどいよぉ」


 私が逡巡していると、今度はハピスがやって来た。


「あ、ハピ……ス……」


 さらに上を超えてきた。

 まず目が行くのが、赤とか緑とか、ど派手な色で塗られた仮面。そして、両腕にジャラジャラとつけられた、ミミズがのたくったような文字がびっしり書かれた腕輪たち。ベースは学園の制服なのに、もはや、どこぞの部族の衣装にすら見える。


「ハピスの格好、正直、一緒に歩いてたらこっちが恥ずかしいですわ」

「え~これはれっきとした霊力を高める装備なんだよぉ。これでより幽霊が集まるという立派なものだよぉ」

「そういうこと言ってるんじゃありませんわ!」


 うん、フレイヤ、君のペンダントも大概だけどね。


「お、おまたせ!」


 最後はラードだったけど……赤っ!

 赤いジャケットに、赤いパンツ、それにサングラスって……もはや制服ですらない。

 お前はお前でどっちの方向にお洒落頑張っちゃったんだよ!

 背中にしょっているいつもの道具袋は倍ぐらいに膨らんでいる。いったい何を入れてきたのか。


「ラード……遅かったね」

「いやぁ、ごめん。万全を期そうとしたら、準備するものが多くてね。冒険はなにがあるか分からないからね」


 ほんと、何があるか分からないよ。




 ――だははは、ラードのやつ張り切り過ぎだろ。童貞臭が半端ないな!


『やっぱり女の子が一緒だからか、これ』


 ――当たり前だ。年頃の男子なんて、女慣れしてなくてだいたい空回りよ。


『そういうもんか……。フレイヤとハビスは……なんだろあれ』


 ――ハピスは霊を呼ぶシャーマンスタイル、フレイヤは魔よけ、呪い除けのお守りってところだろうな。効果が相殺してんじゃねぇか。すげぇ個性的なパーティーが誕生したな。だはははは




「じゃ、じゃあ行こうか。みんな」


 私は、もはやそれぞれの身なりに言及することはやめて、さっさとこの“おかしなパーティー”とともに森に向かうことにした。


学園ものといったら、つきものなのが“旧校舎”。

曰く付きなのもお約束です。


学校の怪談って今の小学生にも通じるのかな?

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