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病院に行きます。

 私たちが病院についたのは、もう空が茜色に染まりきった頃だった。病院は5階建ての学園のような近代的な建物で、この街で1番大きい病院らしい。

 この世界の医療はどんなものだか分からないが、清潔そうな白い建物の外観だけ見るに、それなりにちゃんとした医療を行っているのではと思えた。


「すみません! クリストフ先生に会いたいのですが!」

「あら、ラード君。先生ならビル君の回診じゃないかしら」

「ちょうどよかったブヒ。じゃあ、ビルとの面会をお願いします! 病室で先生に会いますから!」


 入口を入ってすぐの受付で、ラードが馴染みの看護師と話す。随分と親しげなところをみるに、よく面会に来ているのだろう。ただ、今日のラードは少し興奮気味で、看護師の方もやや気圧されていた。

 面会の手続きを済ますと、走り出しそうなラードをなだめつつ、できるだけ早足でビルのいる病室へと向かった。

 階段を上り、お目当ての305と書かれた扉を開けると、ベットの隣に立つ白衣の男性がこちらに顔を向ける。


「おや、チャールストン君。こんにちは」

「こんにちは、ハミルトン先生!」


 元気のよいラードの挨拶を受けたハミルトン先生は、にこりと微笑んだ。とても利発で優しそうな、いい先生といった印象だ。細身で白衣が似合っている。眼鏡のつるが掛かる耳は横に引っ張った様に尖っていて特徴的だ。


「おや、そちらは友達かな?」

「はい、彼はメリットっていいます。ってそれはいいんだブヒ! 先生、ビルの意識を戻せるんですよ!」


 “それ”呼ばわりか。


「え?」


 何事かとハミルトン先生の眉が上がった。その先生の眼前に、ラードはバックから急いで大地の実を取り出し、それ手に持ってずいっと突き出した。


「大地の実ですブヒ! 先生! 本物の大地の実ですよ、先生!」

「あ、ああ」

「これでソーマが作れますよね!?」


 前のめりに話すラードの豚鼻が荒い鼻息に大きく開く。期待する答えを待つ瞳は爛々と輝いているのが、横からでも分かった。私もラード程ではないにしろ、これで解決できるのだという期待感に浮かれている。

 しかし、先生の口から出た言葉は私たちの期待したものとは違った。


「大地の実は、それ1つだけかね?」

「え? えっとそうですブヒ」


 先生の顔が曇る。それを見たラードが戸惑いと共に、熱がぐっと一段階下がったが私にも分かった。期待した答えでなく、それどころか嫌な予感のする反応だった。


「先生! 大地の実があればソーマは……」

「確かにソーマは作れる。だが……」


 大地の実がどれほど貴重で、それを手に入れる為にこのラードが相当な困難を乗り越えてきたことも分かっているのだろう。先生は口淀んだ。それでもラードの「先生!」という強い促しにより、重い口を開いて真実を告げた。


「……ソーマを作るには、大地の実が最低でも10個は必要だ」


 ラードも私も耳を疑った。


「そ、そんな……だ、だったらまた探して取ってきます! メリット頼むよ。また地下に――」

「数だけの問題じゃないんだ。ソーマは熟成期間に15年を必要としている。例え今すぐ10個用意できたとしても、ソーマが出来るのは15年後なんだよ」


 突き付けられた絶望的な真実に、一瞬、時が止まったようにすら感じた。

 無言になる私たち。静かな病室に、ラードが腕をだらり垂らしてうなだれる音すらも聞こえるような気がする。

 今回は運よく大地の実を見つけることが出来た。しかし、この実があの第5層に他にもあるという保証はない。そんなものを探し求めて10個も集めるとしたら、いったいどれほどの時間が掛かるのだろうか。しかも、集めてからもソーマ完成までに15年は掛かる。


 ラードはどれほど長い時間、罪の意識を背負いながら、友が目覚めるのを待ち続けなければならないというのだろうか……

 あれほど舞い上がっていた彼が、今は失意のどん底にいる。その姿は見ていて胸が締め付けられる思いがした。

 私に何か出来ないのだろうか……何か……。


「15年……」

「ああ。15年間熟成させ、大地の実が持つ回復の力を増幅させて初めて万能の回復薬になるんだ……だから残り9個を集めようなんて考えないほうがいい。この実を取るのだって相当に危険だったのだろう? チャールストン君、君がそこまで危険な目に合う必要はないし、するべきじゃない」


 ラードの虚ろな呟き対してに、あえて先生は諭すように丁寧に答えた。年長者として、また、医師として、ひたむきな友情をもつ若者に対しての優しさと同情が籠っている。

 私はそれをラードの横で黙って聞いていた。が、その言葉が私の頭の中で一つの閃きを産んだ。



 ――回復の力を倍増させる。



「ラード、大地の実を貸りるぞ」

「……え?」


 私はラードの手から大地の実をもぎ取ると、腰に差した霊剣セレンティリオスを抜いた。そして、刃落としの状態を解除する。


「ちょ、ちょっと何をするんだ! ここは病室だぞ!」

「そうだよ、メリット!」

「ラード、これでダメだったら、10個集めるまで私も付き合うから」

「ブヒ?」


 混乱して声を上げるラードと先生を尻目に、宙に放った大地の実を一刀両断した。

 その瞬間、大地の実に宿っていた淡い光が消え、剣の柄にある宝玉が同じ色に輝いた。同時に剣を持つ手に外に出ようとする“圧力”を感じる。


 思ったとおり。

 そこから即座に大地の実を切った剣を切り返し、ベットの上に横たわるビルに向かって手に感じる“圧力”を開放しながら剣を振った。

 剣の軌道から放たれる金色の眩い光がビルを包み、その後、彼の身体に吸い込まれるようにして消えた。


「な、何するんだブヒ! メリット! どうして大地の実を! それにビルに何したブヒ!!」

「そうだぞ君! 病院の中で非常識すぎるんじゃないか!?」


 ラードは私の胸ぐらを掴むし、先生も凄い剣幕で怒鳴る。

 彼らの反応は当然ではある。


「……う、う……ん……」


 しかし、そこでビルの声がした。

 私に詰め寄る2人がそれを聞いた途端にぴたりと止まった。目を見開いて、さっとビルの方に視線を向ける。


「……ラードか? ラードが……いるのか?」


 ビルが、まだぼんやりと焦点の定まらない目を半分だけだがちゃんと開けて、天井を見ていた。

 何が起こったのか分からずに完全に静止していたラードだったが、名前を呼ばれて我に返り、枕元に駆け寄って彼の顔を覗き込んだ。


「そうだブヒ! 僕だよ、ラードだよ!! ビル、分かるかい!?」


 ラードの声は震えていた。


「はは……あいかわらず……豚顔だな、きみは……」

「……うるさいブヒ、うっ……ぐす……ぶ、豚じゃなくて……ぐすっ……オークだ……ブヒ」


 弱々しくはあるがビルは微笑んでみせる。その顔を見た途端、ラードの目からはぽろぽろと大粒の涙がこぼれだした。まるで堰を切ったように、今まで溜め込んでいた気持ちと一緒に涙があふれたのだろう。


「ビル……ぐす……ずっと謝りたかったんだ……君、が……目を覚ましたら謝りたかったんだ!」


 嗚咽を堪えながら、奮える声で必死に言葉を紡ぐ。


「僕だけ……ぐすっ……逃げて……ごめんよ……」

「きみが無事だったなら……それで……いいんだ」

「でも…でも、きみは――」

「いいんだ、友達だろ?」


 ビルのその言葉で、涙を流しつつもなんとな抑え込んでいたものが一気に暴れ出て、ラードは声を上げて泣いた。

 謝罪も悔恨も不安も安堵も感謝も、それら全てを混ぜ合わせた感情の激流が彼の慟哭となって溢れ出ていた。それは、病室の片隅に立つ私にもはっきりと伝わった。




ギルドとかあると、武器を携帯して人々が街とか村を歩き回ってるのが普通だけど、少し違和感がある。

まぁ、江戸時代の侍とかと考えればいいのかな。


でも侍も町中で鎧は着てなかったし、やっぱ変か。


時々、武器を持ち込んじゃダメって場所だったり、目立っちゃダメって状況を書くとき、登場人物に専用武器や防具があると対処に困る。

預けておいたりすると、だいたいそういう時って戦闘になったりするから……


魔法でポンって出したり、変身したりはズルいなぁ(嫉妬)って思います。

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