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教育的指導します。

 息を上げ、はやる気持ちに合わせる様に速い歩調でラードと街の中を突っ切ってゆく。学園前の大きな通りを渡り、商店の並ぶ区画を抜ける。

 はっはっと上がる息の音からも、ラードの口の端が上がっているのが分かった。それに私も嬉しくなる。


 ビルとは面識はないが、人が助かり、それで友人ラードも救われるのだから最高の結果といえるだろう。

 高まる気持ちのまま、病院を目指して裏路地を一気に突っ切ろうとした時だった。

 ラードが足を止めた。一気に表情が曇る。私も目の前に現れたものに、ラードと同じ反応を示した。

 裏路地の真ん中で立ちはだかったのは、学校でラードに金をせびっていた不良たちだった。


「よう、ラード。どこに行くんだよ」

「……マイク」


 声を掛けてきたのはリーダー格らしき男で、学校でラードの胸ぐらを掴んでいたやつだった。ラードはその男の名前を口にする。


「金は用意できたのかよ」

「もう君には払わないと言ったブヒ」

「ああ? てめぇが俺を騙して、ちょろまかして稼いでいたんだろうが。ちゃんと慰謝料払えよ」

「もう払わないブヒ。それよりそこをどいて欲しいブヒ。今は急いでいるブヒ」

「ブヒブヒ、ブヒブヒうるせえな!! てめぇ、地下でなんか金目のもの採ってきたんだろ? 分かってんだよ! それを出せよ!」

「おい、マイクといったか。お前もしつこいな。ラードは払わないと言っているし、お前に渡す者はない」

「てめぇには関係ねぇだろ」

「いや、私の友人が何も払うつもりはないと言っているし、ここを通るとも言っているんだ。君たちがそれを邪魔しようというなら武力をもって排除させてもらう」


 私の凄むと一度痛い目を見てるマイクたちは少し狼狽えたが、そこからにやりと笑って、言った。


「メリットとかいったか。てめぇが強かろうが、この人数に叶うわけねぇだろ」


 ぞろぞろと路地に柄の悪い連中が集まってきて、私たちを取り囲んだ。勝ち誇った顔になったマイクは「それに」と付け加え、自分たちの後ろに視線を送った。

 マイクたちの後ろの路地から、一際大きな男がぬっと姿を見せる。


「こいつが金の回収を邪魔するっていうガキか? マイク」

「そうです。ガープさん!」


 ガープと呼ばれた獅子のような厳めしい顔をした男が私をじっと見た。

 鬱陶しいほどのたて髪が頭から首周りにかけて茂っていて迫力のある顔ではある。それに筋肉が盛り上がったがっしりした体格だ。

 マイクたちと違って学生服を着ていないので、学生かどうかは分からないが、柄が悪いのはっきりしていた。こいつも不良、しかもその親玉だろう。


「ボケがっ!」


 突然、ガープがマイクを殴り飛ばした。マイクの体はどっと仲間を巻き込んで、地面に倒れこむ。


「こんな、もやしみたいな奴にやられたのか。俺の顔に泥塗るんじゃねえっ!」

「す、すみません! ガープさん!」


 マイクたちは倒れたところから慌てて地面に頭を垂れる。

 這いつくばるマイクたちを一瞥して「ふんっ」と鼻を鳴らしたガープは、のしのしと前に歩み出て私を見下ろした。


「うちの舎弟たちが世話になったみてぇだな。こいつらの集めてくる金はよぉ、大事な資金源なんだよ。それを邪魔されちゃ困るんだわ」

「お前が不良たちの親玉か。ラードからの金はお前に流れていた、とういうことか」

「そうだ。俺たちの金の徴収に例外があっちゃならねぇ。まして、打ち負かされて金がとれませんでしたなんて、メンツが立たねんだよっ!」


 ガープが語気を強め吠えると、マイクたちは「ひっ」と小さく悲鳴をあげた。私たちを囲む舎弟たちにも一瞬、恐怖の表情が浮かぶ。この親玉が力と恐怖で舎弟たちを縛っていることがよく分かった。

 ガープは「例外はないってことの見せしめになってもらうぜ」といって、腰に下げていた2つの斧を両手に構えた。


「そうか。奇遇だな」


 私もガープと同じことを考えていた

 暴力と恐怖で縛られた集団は瓦解させやすい。その暴力と恐怖の最上流、つまりボスを叩けばいいのだから。


「ガープ、お前には“見せしめ”になってもらおう」

「何を言って――」


 ばきっ!


 そこまで言って、斧を振り下ろしかけていたガープの体が、くの字なって宙に浮いた。そこから、ズババババっ!! と連続してぶつかる鈍い音が響き、同時に宙に浮いたままのガープの顔が上下左右に弾き飛ばされる。

 刃落とし状態のセレンティリオスで繰り出される超高速の連続打撃。私は空中に浮いたままのガープの顔を滅多打ちにした。


 最後に思い切り打ちおろして、ガープの体は地面にべでゃりと叩きつけられた。

 何が起きているのか分からないといったようで、舎弟たちは口をぽかんと開けて固まっている。そんな彼らの目の前に、私はうつ伏せで伸びているガープの首根っこを掴んで放り投げた。


「うあっ!」

「ひいっ!」


 どさっと地面にあたって転がり、仰向けになったガープの顔を見て、舎弟たちから悲鳴が上がる。

 ガープの顔は、鋭い牙はほとんどが折れ、内出血で至る所が青黒く染まって腫れ上がっている。ほんの数秒前とは別人というぐらいに無残に変わっていたのだった。

 そこで、親玉のボロボロの姿に狼狽え、怯える舎弟たちに向かって私は睨みをきかせて言い放った。


「いいか! よく聞け! お前たちがこれからもラードだけでなく、弱い者を暴力や恐怖でもって食い物にしてようとするなら、私も暴力をもってそれを叩き潰す。このガープみたいな目にあわせてな。分かったか!」


 ぎろりと辺りを鋭い目で見回すと、不良たちは目を点にしてコクコクと頷いた。

 静まりかえったその場で、不良たちと同じように固まっているラードの傍にいって「さ、病院に行こう」と告げると、彼も同じようにコクコクと黙って頷く。

 もう私たちの行く手を阻むものはないので、私は目を丸くしたままのラードを連れて、堂々とその場を後にした。


 その後、裏路地を抜ける頃になって、やっとラードが喋り出した。


「……メリット、君が友達で良かったよ」

「え? ああ、私もラードが友達で良かったさ。フフフ」


 急に嬉しいことを言ってくれる。不良たちから助け、この先恐喝されることもなくなったのだから、感謝してくれているのだろう。感謝して欲しくてやったわけじゃないけど、善行をしたことはやはり気分がいい。まして友人のためなら尚更だ。




 ――おい、お前さん。いい気分のところなんだけどよ……


『なんだ? ジン』


 ――ラード、完全に引いてるからな。


『え?』


 ――え? じゃねえよ。やり過ぎだよ。顔だけ滅多打ちって、拷問官かよお前さん。


『い、いや、ああいう暴力で支配された集団は、ボスが振るう以上の暴力でボスを叩き潰すと簡単に瓦解するんだ。それに痛そうなほど、もう手下たちも懲りて悪いこともしないだろ?』


 ――おいおい、言ってることは正義の味方だけど、やってることは悪魔の所業だぜ。

 だからラードも引いてるんだよ。『友達(敵じゃなくて)で良かった』って。


『そんな……』




 私が微笑むとラードはぎこちない笑いを返した。心なしかちょっと離れて歩いている気がする。

 私は病院までの道すがら、なんであんなにガープをぼこぼこにしたのかを必死に説明しする羽目になった。


尺の都合上、暴力で解決してしまった……

まぁ不良相手だから話通じないし、多少はね(-_-;)


※16話に挿し絵追加しました。

良かったら見てください。



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