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発見します。

 私たちは、喜び勇んで四角い横穴の前まで駆け寄った。中を覗くと、それなりの広さをもった空間があった。入口は1つしかなく、袋小路になっている構造。まぎれもなく部屋である。

 その部屋の中を伺う私たちの視線が奥へと吸い寄せられる。部屋の奥には一段高くなった石の台があり、その上に宝箱が乗っていたのである。


「た、宝箱だブヒ!」


 ラードが叫んで走り出そうとしたところで、首根っこを掴んで止める。ぐえっとくぐもった声を漏らしたラードが恨めしそうに私を見た。


「な、何するんだブヒ」

「落ち着け。あからさまに怪しいだろ。罠が仕掛けられているかもしれない」

「あ、確かに……そうだ、じゃあこれだ」


 そう言ってラードがバックの中に手を突っ込んで探ると、緑の液体が入った瓶を取り出した。また魔法薬のようだ。


「それは?」

デコイだブヒ。本当は魔獣を引き寄せる囮なんだけど、ちょっと僕が改良して罠も発見できるようにしたんだブヒ」


 ラードが瓶の蓋を開けて下に傾けると、ドロッとしたゼリー状の液体が床に落ちた。続いて呪文を唱える。すると、ゼリー状の液体が人の形へと変わっていき、あっという間に私の腰ぐらいあるゼリー人形が出来上がった。


「まっすぐにしか歩けないのと、あまり距離が歩けないのが難点なんだけどね。さ、行け、プルルン」

「プルルン?」

「この子の名前ブヒ」


 プルルンことゼリー人形は部屋の中に向かって歩き始めた。

 入口から宝箱へは直線上にあり、プルルンはその一本道をまっすぐ進んでいく。歩くたびに体がぷよん、ぷよんと揺れてなんともコミカルで微笑ましい。


「なるほど、囮を歩かせて罠の有無を確かめるのか。あれを作ったなんて、やっぱりラードは凄いな」

「あれじゃないブヒ、プルルンだブヒ」


 ラードが口を尖らせた。こだわりがあるらしい。


「でも、罠の類はなさそうブヒね」


 プルルンが宝箱の直前まで進んだのを見てラードが言った。私も「そうだな」と相槌を打とうとした瞬間――


 ガコンッ


 床がばかっと開いて落とし穴が出現し、プルルンを飲み込んだのである。


「ぷ……プルルーーーン!!」


 ラードの叫びが部屋に木霊す。

 やはり罠があったか……ラード、プルルンの尊い犠牲となって囮の任を全うしたんだ……

 気落ちするラードを慰めつつ、プルルンの歩いた道進んだ。落とし穴は幸い飛び越えられる大きさだったので、飛び越えて宝箱が乗っている一段高くなった台座の上に着地する。


「さて、開けるぞ……」

「うん、何か手がかりになるものがあればいいんだけど……プルルンのためにも……」

「いや、ビルのためだからな」

 

 宝箱に何か仕掛けているかもとは思ったが、それを確かめるアイテムや魔法は持ち合わせていなかった。だから思い切って開けてみることに。

 せーので私が蓋を持ち上げると、蝶番が回って宝箱が口を開けた。


「何か入っているブヒ!」


 特に何も起きないことが分かると、ラードが箱の中を覗き込んで言った。私も彼の脇から覗き込む。


「が、大地の実だブヒ!」

「え、これが!?」


 箱の底にはメダルのような平たい円柱が置いてあった。大きさは手のひら大で、半透明で中心がランプの光のような淡い光を放っている。“実”と聞いていたが、想像とだいぶ違う形状に私は戸惑った。

 そんな私をしり目に、ラードがそっとそのそれを取り出して言った。


「うん、間違いない。文献にあった特徴と一致するブヒ」

「そうか! やったな!」


 2人とも笑って顔を見合わせた。


「しかし、過去の発見場所と同じところにあるなんて、この宝箱が大地の実を生み出しているのだろうか?」

「う~ん、どうだろ。この実がどうやって作られるのかは謎なんだブヒ。でも、今はこれが手に入ったからそれでいいブヒ」

「そうだな。早速、地上に戻ろう」


 地図をみたところ、部屋を出て先に進むと別の階段があることが分かった。もと来た階段に戻るより少し距離があったが、ラードが大地の実を慎重に運びたいと言うので、スカルナイトの群れが出る広場を避けて遠い階段に向かうことにした。

 それでも途中、何体かスカルナイトに遭遇した。しかし単体だったので、私が倒して問題なく進み、第4層へと上がれる階段の前まで辿り着くことが出来た。



「ぶひ~なんとか階段まで来たブヒ。本当にメリットのおかげブヒ」

「まだ地上じゃないんだ。気を抜くなよ」

「そうだったブヒね。さ、さっさと4層に上って次の階段に向かうブヒ」


 2人で喋りながら、入って来た時にも潜ったような大きな門を潜るが、通り抜けた瞬間、突風が吹いた。その風に顔をしかめていると、ぼうっと背後で壁の松明が一斉に消える音がして、周囲が一気に暗くなる。


「うわ! 真っ暗ブヒ」

「ラード、ランプを点けてくれ」

「わ、分かってるブヒ」


 急いでランプを灯すと先ほど見えていた階段のある景色が戻って来た。


「自動で灯りが点いたり消えたり、不思議な場所ブヒね」

「ああ、ラードもそう思うか」


 どうやらここの不思議さに驚いていたのは、魔法に疎い私だけではなかったようだ。ただ、今はこの場所で起こる不思議なことの検証より地上に戻ることか優先だ。私とラードは階段を上り、第4層に入った。


「さて、第3層に上がる階段は……」


 地図を広げ、さっそくラードが階段の場所を調べ始める。その隣で、辺りを警戒していると私の目に、ランプの光を反射する者が映った。

 何だろうか。

 ラードの背後、少し離れた行き止まりになっている壁に、ランプの光が縦に等間隔で転々と反射している。


「ラード、ちょっとあっちを見てくれ」

「え? なんだブヒ」


 ラードに言ってランプを向けさせる。


「あ、梯子ブヒ」


 それは縄梯子だった。足場の部分が金属製で、それがランプの光を反射していたようだ。


「これで上に行けるんじゃないか?」

「ん~、あ、本当だブヒ! 上の階層に穴が開いてるブヒ」


 2人で見上げて目を凝らすと、縄梯子が第3階層に続いているのが見えた。梯子自体も古いものではなく十分使える。これ幸いとその梯子を上ることにした。

 誰が設置したのか分からないが、大分時間が短縮できる。


「あれ? また梯子だブヒ」


 登りきって穴から這い出ると、隣に同じようにまた縄梯子が掛かっていた。これも上の階層に続いている。

 誰かが移動時間短縮のために設置したのだろうか。ラードのもつ地図には記さされていない。管理局に黙って作った非公式なもののようだ。

 でも今はありがたく使わせてもらおう。

 結局、縄梯子は第1層まで続き、さらにその天井にも続いていて、結局、すんなりと地上に出られたわけだ。


「ここは、どこブヒか?」

「さぁ、小屋みたいだけど」


 穴を塞いでいた板を押し開けて這い出ると、そこは古びた小屋だった。スコップや芝刈り機、枝切りばさみと様々な道具が置いてある。どうやら道具小屋のようだ。

 小窓があって外の景色が見える。木々が茂っていて、どこかの森だろうか。

 それを見たラードが「もしかして……」と呟くのが聞こえた。

 私たちは、穴を塞いでいた床板を元に戻して、その道具小屋から外に出ることにした。


「あ、やっぱり学園の森だブヒ!」


 辺りを見回してラードが言った。

 私たちが地下から抜け出た先は、学園の敷地内にある森の中だったのである。


「こらっ! お前たちそこで何をしている!」


 突然、遠くから男の声がした。

 振り返ると、少し離れた木の下にマントを着た初老の男いて、厳めしい顔でこちらに怒鳴り声をあげていた。隣には男より小柄な老人がいる。


「げ! マクバーンだブヒ! メリット、逃げるブヒよ!」

「え? ああ」


 彼らの姿を見るなり、ラードが一目散に走り出した。私も訳も分からず駆けだす。

 後ろから「待て! 待たんか!」と再び怒鳴り声が聞こえたが、どうやら捕まるとまずいらしい。私たちは振り返ることなく森を駆け抜けた。

 その後、学校の正門まで逃げてきて、やっと足を止めた。門の陰から後ろを伺うラードが「ぜぇ、はぁ……撒けたみたいブヒ」と肩で息をしながら頷く。


「はぁ、はぁ……ふぅ、あの人たちは?」

「はぁ、はぁ……うぐ……はぁ、メリットは編入してばかりで、はぁ、知らないブヒか。マントの方が、魔法薬学担当のマクバーン、爺さんは用務員のメルビンだブヒ」

「先生だったのか。逃げてきてよかったのか?」

「マクバーンは風紀担当もやってて、おっかないやつなんだブヒ。森に入っている現行犯で捕まったら、ネチネチと2時間は説教を喰らっていたブヒ」

「森に入ってはいけないのか?」

「あの森には貴重な薬草が沢山生えているから、許可なく入っちゃいけないんだブヒ」

「そうだったのか……」

「しかし、タイミングが悪かったブヒね。大方、メルビンに手伝わせて研究か授業で使う薬草の採取をしてたんじゃないかブヒ」


 ラードがべっと下を出して苦い顔をする。あまり、関わりたくない先生のようだ。確かに、ぱっと見だけど、神経質な感じがしたな。


「さ、まだ寮の門限まで時間があるブヒ。病院に大地の実を届けよう」

「ソーマを作らないのか?」

「ソーマの製法は難しくて僕では無理ブヒ。でも、病院の先生なら多分作れるはずブヒ」

「そうか、では急いで向かわなければな。ビルのためにも」

「うん!」


 声を弾ませたラードの返事とそれにぴったりな満面の笑みが、一緒にいる私までも嬉しい気持ちにさせる。

 これが、感情を共有できる“友達”というものか。

 生まれて初めて感じる友情というものに私は高揚感を覚えていた。仕事や任務をこなす“仲間”とはまた違う感覚だった。

 その新鮮な感覚に酔いながら、ラードと共に軽い足取りで病院へと向かった。

ダンジョンの罠とか遠回りさせるギミックって、そこを根城にしてる敵は回避できる管理者ルートみたいなものがあるのは分かる。

でも時々、どうみても管理者ルートの筈なのに罠とかギミックがある時がある。


そういうとこを利用している住人は、普段どうしてるのかと疑問だ。

毎回、いちいち解除とかしてるんだろうか。

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