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助けにいきます。

 今日の昼食は何を食べようか。少し冒険して聞いたことのない食材に挑戦してみようかな、などと考えながら廊下を歩いていると、窓の外に見知った人影を見た。ラードだ。


 場所は校舎の裏側。彼の他にも数人の男子学生がいて、校舎の外壁を背にして立つ彼を囲んでいる。しかし、どうも遊んでいるようではないみたいだ。ラードはへらへらと笑っているが、怯えているように見えた。

 どうみても絡まれているな……囲んでいる学生たちも柄が悪い感じがする。

 私は窓を開けて様子を伺った。


「おい、ラードよぉ、~~……」

「~~~……」

「ああ?~~~……」


 学生の1人がラードに詰め寄っている。しかし、2階の窓からでは何を話しているのかまでは聞こえなかった。

 幸い人目はない。行儀は悪いが、私は窓から飛び出して物置の陰に静かに着地した。



 ――お前さん無茶するなぁ、2階だぜ?


『え? このぐらいの高さなら受け身取れば大丈夫だろ?』


 ――この主人公なら出来るだろうけど、普通、飛び降りようなんて発想にいたらないぞ。まったく普段どんな生活してるんだか。


『いや、普段はこんな非常識なことしないからな? でも、ラードが心配じゃないか』


 ――なんだよ。あの豚君のこと助けるのかい? 避けられてるのに。豚君の方が、お前さんに近づいてほしくないんじゃないのか?


『それでもだ。私には友人なんだ』



 物陰から再び様子を伺うと、空気はさらに険悪なものとなっていた。リーダー格らしき学生が、ラードの胸倉をつかんで威圧している。


「おい、慰謝料を払わわねぇって言ったのか?」

「そ、そうブヒ。もう君には十分払っただろ。それに払えるほどもう金はないんだブヒ」


 すぐに飛び出ていこうかと思ったが、へらへらしていたラードが真剣な顔になったのが見えて思いとどまった。

 覚悟を決めている顔だ。彼は今、立ち向かっている、そう思えた。


「ああ? 稼いで来いよ。この前、新しい“カモ”を引き込んだんだろ? あいつ使って」

「メリットはダメだ! 彼は巻き込んじゃいけない人間なんだブヒ!」

「うるせぇ! お前の意見なんて聞いてねぇよ!」


 男子学生が拳を振り上げた。


「やめろ!」


 私は物陰から飛び出し叫んだ。

 立ち向かうラードを見守ろうと思ったが、今まさに暴力を振られようとしているのを黙って見ていられるわけがない。

 まして、私を“庇ってくれた”友人ならなおさらだ。

 私の声に反応して、取り囲んでいた学生たちが一斉に私の方に向いた。


「なんだ? てめぇ」

「ラードから手を離せ」

「おいおい、今、ぼくたち大事なお話してるのぉ。だからあっちにいっててくれるぅ?」


 取り巻きの1人が、にやにやしながら私に近づいてきた。大柄な獣人だ。にやつきながらも威圧している。魔人でもこういうのはチンピラと変わらないみたいだ。

 毛むくじゃらの手が私の腕を掴もうと伸びてきた。

 その手を払いのけても良かったんだけれども、私はそうはせず、逆に掴んだ。

 私とて友人に危害を加えようとするやからに冷静でいるとうわけではない。


 ――怒っているんだ。


 掴んだ手を、捻ってから足を払って投げ飛ばす。獣人の体が空中で半回転して、どかっと地面に叩きつけられた。


「ぐあっ、痛てっ、痛でででで」

「さっさとうせろ」


 冷たくいい放つ。

 足元で転がる獣人の腕を倒れた後も捻り続けたが、放してやると獣人はバタバタと這って仲間たちの輪に合流し、立ち上がってこちらを睨みつけた。


「てめぇ、ふざけやがって!」

「痛い目みたいようだなっ!」


 投げ飛ばしたのは、怒りの意思表示の他に実力の差を知らしめて余計な争いをなくす目的もあったのだが、意味をなさなかったようだ。

 想像どおりというべきか。その後の言動や展開もやはりチンピラのそれと変わらない。

 不良たちが殺気立ち、真剣か刃落とし状態か判断はつかないが、斧や剣など抜き身の武器が手に握られた。ラードを掴んでいた不良も彼を放し、武器を持ってこちらを睨んでいる。


 数は4人。それが私を半分囲むように、一斉に襲い掛かってきた。

 ただ、連携も何もない雑多なだけの攻撃だ。しかも、全員、個としても強くはない。武器を持った魔人であっても、学生であり一般人ということだろう、わざわざセレンティリオスを抜くまでもなかった。


 私は、ばらばらと迫るぬるい攻撃を躱しつつ、首や腹、脚に打撃を打ち込んだ。

 一撃が決まるたびに、悶絶の声を漏らして1人、また1人と地面を転がる。そして、30秒も経たないうちに私以外は立っている者がいなくなっていた。


「うぐぁ……くそっ」


 私をこの場でどうこうできないと思い知ったのだろう、リーダー格の男が悔しそうに吠えると、痛む箇所を抑えながらその場から去っていった。

 他の取り巻きも同じような姿勢で足早にリーダーを追っていなくなり、その場には私とラードだけ残った。


「大丈夫か、ラード」


 私は校舎を背にしたまましゃがみ込んでいるラードのもとに行き、かがんで彼の顔を覗き込む。

 ラードは気まずそうに私の視線から顔を逸らすと、ぼそりと言葉を漏らした。


「……ありがとう」

「あいつらはなんなんだ? 慰謝料とか言ってたけど。昔のバイト仲間だったやつか?」


 一瞬、ラードが驚いたように眉をぴくりとさせた。


「……メリットには関係ないブヒ」


 相変わらずこっちを見ずに呟く彼の横顔は雲っている。

 助け起こそうと手を差し出すが、ラードはその手に捕まることなく立ち上がり、私の脇をすり抜けて歩き出した。


「学費やビルの医療費を稼ぐのに必死だと思ってたが、あのチンピラに払う慰謝料とやらを稼いでいたのか?」

「……」


 無言のまま、離れていく彼の背中に向かって、なおも言った。


「特に依頼もこなさず地下に潜る日があるって聞いたぞ。ラード、地下にビルを回復させる何かがあるんだろ?」


 ラードが足を止めて振り返った。


「だったらそれを捜しに行こう。私も一緒に行かせてくれ」

「……どうしてメリットは僕を助けてくれるんだブヒ? 君を騙していたのに」


 ちらりと私の顔を見てから、すぐに気まずそうに視線を逸らした。


「別にまだ何も騙されてなんかないさ。それに、私は君のことを友人だと思ってる。だから友人が困っているなら助けたいって普通は思うもんだろ?」

「……メリットは、こっぱずかしいこというブヒね。こんなやつを友達にしようってことが普通じゃないブヒ」

「ふふ、自分をこんなやつなんて言うなよ。ラードは親切だし、それに私をさっきの不良たちに売り渡さなかった。信用できるさ」

「……危なくなったら君をおいて逃げるかもしれないブヒよ?」

「危ないときは私もラードには逃げろと言うよ。友人には助かって欲しい」

「……本当になんなだブヒ。そんなことまっすぐな目をして言って。はぁ……本当に“あいつ”みたいに……」


 ため息を交えながら呟く彼の口元は少し口角があがっていた。やれやれと呆れたような、それでいて嬉しそうな妙な感情が読み取れる。

 直後、逸らしてていた視線がまっすぐと私の目と合った。


「メリット、一緒に地下に行って、ビルを助けるのを手伝って欲しいブヒ」


 その真剣なラードの申し出に、私はにっと微笑んで「もちろんだ」と返した。



 ◇  ◇  ◇  



 昼食を取ってないことを思い出した私たちは、食堂で昼食を取りながら今後のことを話すことにした。


「ラードは相変わらず凄い量だな……」

「そうブヒ? メリットが小食なんだブヒ」


 私の視線の先には、どんぶりにご飯と具材の山が築かれている。山の名前は『ジャンボ・ボルバル丼』。これまたまったく想像のつかない料理だ。

 一方、私の前には『若鳥と春野菜の蒸し焼き定食』がこじんまりと置いてある。結局、冒険する勇気はなかった……。


「それでラードの捜しているものって」

「僕が捜しているのは、 “大地の実”っていうものなんだブヒ」

「それが昏睡状態も回復する効果を持っているのか?」

「正確には、この実から生成する“ソーマ”って薬が万能の回復薬なんだブヒ」


 “大地の実”と“ソーマ”については、古い文献の中に出てくるものらしい。

 私も、材料の”大地の実”までは知らなかったが、”ソーマ”という名前には聞き覚えがあった。

 勇者と旅をしていた時、とある村で怪しげな魔術師の老婆が作っていた気がする。魔族との戦いで勇者が瀕死の重傷を負ったとき、それを飲んで一命を取り留めた。

 確かに、とんでもなく効果のある薬だったな。あれならビルも目を覚ますかもしれない。

 しかし、そんな古い薬の精製方法がちゃんと現代に残っているとは、きっとあの老婆の名前も今では偉人名鑑の中に並んでいるのだろう。


「ただ、材料である大地の実が滅多に手に入らないんだブヒ。だから作った例もほとんどないブヒ」

「希少な材料というわけか。実ってことは植物なのか?」

「地下深くで、地中の魔力を吸って成長する植物とも鉱石とも言われているけど、詳細はさっぱり分からない幻の物質ブヒ」

「滅多に手に入らないんだもんな。本当にそんな希少なものがあの地下にあるのか?」


 私の質問にラードが、スプーンを咥えながら不満げに眉を寄せた。


「ちゃんと調べたんだブヒ。60年前に1度、この街の地下で大地の実を見つけた人がいたんだブヒ」

「いや、すまない。疑ったわけじゃないんだ」


 どうやらラードは、ビルのために必死に調べたようだ。古い文献といい60年前のニュースといい、当たれるものは手当たり次第に調べたのだろう。友人のためのその努力を思うと、やはり彼は信頼に値する男だ。


「それで、その発見した人は、まだこの街にいるのか?」

「う~ん、僕もその人に話を聞きたかったんだけど、新聞にはこの街在住の“男性”としか書いてなかったからなぁ。まだ住んでいるかどうか……」

「そうか、発見した大体の場所でも分かれば良かったんだが」

「昔の出来事だからね。せめてニュース当時にここに住んでいた人でも知り合いにいればなぁ」

「昔からこの街に住んでいる人かぁ……いや、それだったらいるんじゃないか?」

「え? そんな知り合いなんていないブヒ」


 この時、私の頭にはある人物が浮かんでいた。ラードも知っている人物だ。


「本屋の主人だよ。君がずっと昔から店をやっているって教えてくれただろ」

「あ、そうか! じゃあ、放課後さっそく話を聞きに……うわ!? 昼休みが終わりそうブヒ」


 食堂の壁に掛かった時計を見てラードが叫んだ。見れば、午後の授業が始める10分前を切っていた。2人とも、掻き込む様にして昼食を胃の中に詰め込み、重い腹を抱えて教室へと急いだ。



回復アイテムって実際、飲むのかな? それとも塗るのかな?

どちらにしろ飲んだり塗ったりして、傷が塞がってくって目の当たりにしたら、気味悪いだろうな。


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